パーティーをクビになったおっさん戦士は、地球を追放された最強AIと旅をする。

王加王非

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32 おっさんと昔話

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 ウーズの襲撃を退けた俺たちは、出口に向かって再び薄暗い洞窟を進んでいた。
 狭い通路をしばらく歩いていくと、たいまつの火で明るく照らされた大きな広間に出る。

「ん? ここは……」

 広間は洞窟内の他の場所に比べると、明らかに人の手が加えられていた。
 壁の中心には討伐軍のシンボルと思わしき紋章が入った旗が垂れ下がり、壁には武器が立て掛けられている。
 ウーズとの戦いで、剣が爆発に巻き込まれて失った俺には好都合だった。悪いが一本もらっていこう。
 他にも、積み上げられた木箱や樽には食料や飲み水、医療品など様々な物資が入っており、地面には簡易的な寝床が敷かれ、使い古された毛布がそのままになっている。
 おそらく、補給部隊が前線に物資を運ぶための中継地点にしていた場所だろう。

 ここを普段使っているはずの人間の姿はなく、気配も今は感じない。
 物資を本隊に届けに出かけているのか、先ほどのウーズのようなモンスターにやられてしまったのかは分からないが、今のところここは安全のようだった。

【幸運にも物資はすべて無事のようです。先ほどのアメーバには容器の中を探すほどの知能は無かったということでしょうか】
「ちょうどいい。無断になるがここで少し休んでいくぞ。地上に出たらそんな暇はもうないだろうからな」
「本当か!? やった!」

 疲労困憊という感じだったマルは大喜びで物資を漁り、干し肉や果物を両手一杯に抱えて座り込み、片っ端からそれらを食い始めた。

「ったく、少しは遠慮しろ」

 そう言いながら、俺も積まれた木箱の中から軽く食べられる物を探す。
 乾燥したパンに燻製された肉や魚、チーズなども入っていた。
 樽の中には飲み水の他に、質は悪いが酒が入ったものもあった。

「調達班はなかなか気が利く連中みたいだな」

 俺は迷いなく近くにあった木製のコップを手に取り、樽から酒を汲み出す。

【疲労時の飲酒は控えてください。十分な休養が取れるなら問題ありませんが、現在の状況では二日酔いで戦闘を行うことになる可能性が極めて高いと予測されます】
「チッうるさい奴だ」

 しぶしぶ酒を戻すふりをしながら、俺はスリサズに見えないように別のコップを使って汲み出した。
 俺も戦闘時に酔いを残すほど馬鹿ではない。要は飲む量さえ管理できていれば良いのだ。



「ほほひへは、ほほはひひはほはへほひひはひはふぉふほはっはは」
「食い終わってから喋れ」

 マルが口の中一杯に、リスのように食料を頬張りながらなにか言っているが、案の定なにを言っているのかさっぱり分からない。
 
「そういえば、この先にはお前の知り合いがおるのだったな。フィノが前に言っておったが」

 食っている物をひとしきり飲み込んだ後、あらためてそう言い直した。
 俺は説明した覚えはなかったが、まあ隠すようなことでもあるまい。

「ああ、例の勇者様さ。以前は一緒に旅をしていた」
「人間のことはよく分からんが、勇者とは偉い身分なのであろう? なぜそいつらから離れたのだ?」
「……まあ、それこそ人間の事情ってやつだ」
「ふ~ん、どんな事情なのだ?」
「なんだ、やけに食い下がってくるな?」
「決まっておろう! 他人の不幸で今日も飯がうまいと言うではないか! 群れから一人孤独に離れた者にろくな理由などあるわけがないからな!」
「自分で言ってて悲しくならんか」

 マルがふんぞり返りながらゲスなことを自信満々に言ってくるのを、俺は乾いて硬くなったパンを酒に浸しながら聞き流す。
 時折あまりの人間臭さに、こいつは本当にドラゴンなのかと疑いたくなる。

【マル、このようなデリケートな問題で軽率な質問はするべきではありません】

 なんとスリサズが間に入って制止した。
 こいつがそんな空気を読んだ行動を取るとは、洞窟を出たら雪でも降ってるんじゃないだろうか?

【高齢に伴う多弁化や説明能力の低下を甘く見てはいけません。似たような話を繰り返し繰り返し聞かされることになり、永遠に終わらないネバーエンディングストーリーが始まってしまいますよ】

 やっぱり空気読めてなかった。
 少しはこのポンコツを見直そうとした数秒前の俺を殴ってやりたい。

「でも気になるではないか。こやつがどんな失敗をしたのか是非とも聞いてみたい」
「お前も相当性格が悪いな」

 しかしこの先であいつら――勇者たちと会うことを考えれば、事前にどんな奴らだったか情報共有しておくのも悪くない。
 それに、あんまり頑なに昔話を嫌がるのも、いつまでも傷心を抱えているようで格好が悪い。
 ここは大人の余裕を持って話してやるべきだろう。
 そう判断した俺は、コップに中身を一気にあおった。
 こういう話は少しぐらい酒が入っていた方がやり易い。

「まあいい。話してやるが、あんまり面白い話じゃないぞ。俺にとっても、お前らにとってもな」
【あ、ストップウォッチをセットしますので少々お待ちください。15分経過するごとに警報を鳴らしますので出来るだけ簡潔に要点をまとめた上でお願いします】
「始める前から話の腰を折るな」
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