パーティーをクビになったおっさん戦士は、地球を追放された最強AIと旅をする。

王加王非

文字の大きさ
40 / 59

38 満身創痍

しおりを挟む
「なあ親父、正義ってなんだ?」

 小さい頃――もう数十年前の話だが――親父にこんな質問をしたことがある。
 今となっては恥ずかしい思い出だが、誰しもこのような哲学的な疑問を抱く年頃はあるものだろう。

「知らん」

 親父は一言そう返した。
 本当に知らなくたって、息子に説明するための回答ぐらい親として用意しとくべきではないだろうか。

「まあ、真面目な話するとだな。そういうことはお前ぐらい若い奴らの方がよく知ってるもんだ。逆に歳取っていくと他の雑念が入りすぎて、正しいと思ってたことが分からなくなってくる。見方次第で悪になることもあるし、悪いことだと分かっててもやらなきゃならんことが出来たりする。だから俺みたいな年寄りに聞いたって良い答えは聞けねえよ。逆にそれを聞いてスパッと答えられるような大人は信用すんな。そういうのは若者の無知につけこんで、悪いことを正義だって吹き込んでくるような奴らさ」
「へえ、そんなもんかね」
「一つだけ、これは絶対正しいってことを教えといてやる。お前が俺ぐらい歳を取ったら、お前より若い奴らを助けてやるんだ。どうだ、分かりやすいだろ」
「なんだか今思いついたみたいな話だな」
「そりゃ今思いついたからな。要はそれぐらい簡単に思いつくことが自分の正義ってことよ。下手に悩んでこの世に一つしかない答えみたいなもんを探そうとするからみんな分からなくなるのさ。特に俺たちみたいな学のねえ奴らはな」
「その若いのがとんでもない悪人だったらどうすんだ?」
「そん時はそいつを懲らしめるか、言い聞かせて道を正すか、それとも逃げちまうかは好きにしな。だが、決してそいつを恨んだり、復讐してやろうだなんて思ったりするなよ。若者を憎む老人なんてのはこの世で最悪の生き物だからな」

 親父からそんな話を聞かされて、当時の俺は歳だけは取りたくないものだと思った。
 しかし人間に寄る年波から逃れるすべはなく、今や俺も立派な年寄りになってしまった。
 それでも腐らずにここまで生きてこれたのは、この時の親父の言葉のおかげだったのかもしれない。


――――――
――――
――


「――――――……ハッ!?」

 俺は突如として意識を取り戻した。
 ずいぶん昔の夢を見ていたような気がする。
 いや、それよりも頭を撃たれたはずだが、なぜ俺はまだ生きてるんだ?

「ジョン! よ、よかった……」
「う……リュートか……何がどうなってる?」

 俺は仰向けに倒れ、リュートに抱き起こされるような体勢になっていた。
 立ち上がろうとしたが体に力が入らない。
 気絶してたせいか視界がボヤけ、特に左側が真っ暗で何も見えなかった。
 顔の半分が痺れるような感覚に支配され、自分が今どんな状態か分からない。

 視界が徐々に鮮明になってくると、俺が倒れている真下が血の海になっているのが見えた。
 どうやら撃たれたのは間違いないらしい。
 周囲をゆっくりと見渡すと、モンスターの軍団が俺たちを中心に銃を一斉に向けている。

「いつの間にか囲まれていたのか。奴らはなぜ撃ってこない?」
「分からない。僕たちを取り囲んだと思ったらずっとあのままなんだ。まるで何かを待ってるみたいだ」
「ム゛~~~!ム゛~~~!」

 妙なうめき声がしたと思ったら、マルがロープでグルグル巻きに縛られていた。
 ご丁寧に猿ぐつわまで噛まされている。

「なんだありゃ……?」
【マルはあなたが撃たれたのを見て取り乱し、自分だけ逃げようとしたので取り押さえられました。暴れるのであのように簀巻きにされています。おかげで地下の入口も見つかって塞がれてしまいました】
「まったくこの馬鹿は……俺はどれぐらい気絶してたんだ?」
【ほんの二、三分程度です。あなたは側頭部をスナイパーライフルで銃撃されましたが、命中した箇所が比較的前方だったことと、斜めに着弾したことから弾は脳に到達せず、皮膚と頭蓋骨の一部を削り取って左後方から前方に貫通していきました。それでもショック死してもおかしくはない衝撃と出血でしたので今あなたが生きているのは奇跡的と言えます】

 長々と説明されて頭の痛みが増したような気がしたが、なんにしろ致命傷は避けられたということか。
 しかし意識が戻り、視界もはっきりしてきたというのに、左側は相変わらず真っ暗なままだった。

「ん? あれは……」

 俺が倒れていた血溜まりの中に、丸く白い物体を見つけた。
 全体にガラスのような透明な膜が張り、赤い筋が何本も走っている。
 拾い上げてひっくり返してみると、白い球体の中にさらに黒い円形の模様があり、こちらを

「おい、これはまさか……」
「――すまない、ジョン。僕のためにこんなことに……」

 リュートが震えた声で言いながら俯き、目を背ける。
 俺は今だ麻痺した顔の左半分に触れた。
 血でぬめった顔面を撫でながら、傷口を確かめる。

「ハハッ……無くなってやがる」

 道理で何も見えないわけだ。
 落ちていたのは、撃たれて吹き飛ばされた俺の眼球だった。





「――フン。まだ生きているとはな。私も狙撃の腕が鈍ったか?」

 遠くの方から突然、人間の声が聞こえてきた。
 俺たちの誰でもない、老人のようにしわがれていながらも堂々とした威厳のある声だった。

「誰だ!」

 リュートが声のした方に向かって聖剣を構え、叫ぶ。

「おい、開けろ」

 声の主が命ずると、密集していたモンスターたちは素早く正確な動きで左右に別れる。
 割れたモンスターの海の中から、一人の男がこちらに歩み寄ってきた。

「ふむ」

 年老いては見えるが、威圧感のある筋骨隆々の大男だ。
 土の茶色や草木の緑色を混ぜたような、奇妙な柄の外套がいとうを身に纏っている。
 そして分厚い外套から覗く顔や手の肌は、それこそ絵具をぶちまけたように濃い青色に染まっていた。
 男はこちらをジロジロと物色するように観察している。

「我が軍が少数にてこずっているからどんな化け物が現れたのかと思ったが……何のことはない、ただの現地の異星人ではないか」
「……誰か知らんが、化け物はそっちの方だろ」
「フッフッフ、まあそういうことになるか……」

 何がおかしかったのか、俺の言葉を聞いて男は笑いだす。

「全隊、気をつけぃッ!」
「な、なんだ!?」

 ザザッ!
 男のかけ声でモンスターの軍団は銃を構えたまま、一斉に直立不動の姿勢となった。

「司令官に捧げー……つつッ!」

 ガシャガシャガシャガシャッ――
 さらに男のかけ声に合わせ、モンスターたちは構えた銃を垂直に掲げ、男に向かって敬礼する。
 理性のないモンスターではあり得ない、あまりにも統率の取れた動きだ。

「うむ、下等生物共もこうすれば少しは格好がつくというものだ」

 今度は一人で満足したようにうんうんと頷いている。
 何がしたいのか分からないが、モンスターに命令できるということを誇示しているようだ。

「魔物を意のままに操る力……まさか、お前が魔王か!」

 リュートが聖剣を突きつけながら、男に詰め寄る。
 しかし取り囲んだモンスターが即座に銃口を向け、近づこうとするリュートを牽制する。

「くっ……!」
「これだから未開の原始人は困る。ホールドアップされてもなかなか状況を理解しない。その美術品のような剣で何ができるというのだね?」

 銃を向けられ後ずさるリュートに、男は呆れたように見下した台詞を吐く。
 俺はこの男の言動の端々に、なぜか妙な既視感を覚えていた。

「だが質問には答えてやろう。そう、貴様らの表現を使うのなら、私がその『魔王』だ。ハハハ、これで満足かな?」
【アダム・クリストフ・マッカートン】

 今まで黙っていたスリサズが唐突に謎の言葉を発した。
 こいつが意味不明なことを言うのはいつものことだが、どうやら人の名前のようだ。

「な、なんだと……?」

 その名を聞いた途端、魔王と名乗ったその男は今までの余裕の態度が消え、目に見えて狼狽し始めた。

【アダム・C・マッカートン、元人類連合軍上級大佐。私の人物データベースにある顔認識データと声紋データに照合した結果、99.6%特徴が一致しました。肌の色だけは違うようですが】
「貴様……まさかSSSスリサズか!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!

花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】 《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》  天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。  キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。  一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。  キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。  辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。  辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。  国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。  リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。 ※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作    

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...