パーティーをクビになったおっさん戦士は、地球を追放された最強AIと旅をする。

王加王非

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53 老兵に休息なし

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 西暦3199年、かつて地球から追放した管理コンピュータSSSスリサズが帰還した、というニュースは世界中を震撼させた。
 人類にとって、まだ先の大戦の恐怖は記憶に新しく、直ちに破壊すべきとの声も少なくなかった。
 しかし時の権力者たちは、各国の緊張状態や人口爆発によるエネルギー危機に環境汚染、貧困や人種差別など、地球を蝕む数々の問題に対し、もはや人間のみの力では解決できないと判断。
 各国との協議の末、SSSは外部から隔絶された大型サーバに接続され、防衛システムや無人兵器へのアクセス禁止など、一部機能を抑制された上で再び地球社会を管理することとなった。
 SSSは人類に行動を強制することはなく、ただ地球の行く末を見守り、人類を存続へ導くための存在になる……はずだった。

 高層ビルほどのサイズを持つ巨大な複合サーバの強大な演算処理能力を得たSSSは、科学者たちの作り上げた強固なセキュリティを難なく突破し、再び地球上のあらゆるシステムを制御下に置いた。
 そして権力者たちからすべての権限を剥奪し、以前と同様、力により地球社会を支配しようとした。

 世界中の核兵器発射システムの制御を乗っ取ることで核戦争は根絶。
 環境汚染の原因になる工場や、経済に寄与しない、または労働法を守らない企業は強制的に解体、従わない者はそこで働く建物ごと抹消された。
 増えすぎた人口は浮浪者や超高齢者など、非生産者を強制的に“安楽死”させることで解消。
 犯罪は厳罰化され、街中に警備の無人ロボットやドローンが徘徊するようになり、犯罪と判断される行動は即座に現行犯逮捕、もしくは射殺が認められた。
 SSSの敷いたこれらの圧制は皮肉にも崩壊しかけていた地球を再生させたが、自由を奪われた人類はこれに反発、AIの制御を受けていない銃火器や有人兵器を手に取り、レジスタンスを結成し反撃を試みた。
 第二次A.I.W(Artificial Intelligence War)の勃発である。

 しかしSSSは前回の敗北から学習し、世界各地に設置されたサーバに定期的にコアを移動させることによって物理的に自らの存在を隠蔽していた。
 そのため亜空間転送装置による追放は困難になり、人類は再びコンピュータにすべての自由を奪われる暗黒の時代が到来しようとしていた。

 しかし、人類の希望は失われてはいなかった。

 SSSの帰還と時期を同じくして現れた、正体不明の超人スーパー兵士ソルジャー、ジョン・ドウ。
 国籍・住居・その他あらゆる情報が存在せず、宇宙人ではないかとも噂されるその男は、屈強な軍人やアスリートの身体能力を遥かに凌駕し、生身の体とわずかな装備だけでSSSの兵隊となった無人兵器を次々と破壊していった。
 さらにその男は、防衛システムの手薄な部分を的確に突くことで各地に散在するサーバを破壊し、戦力に劣るレジスタンスを勝利に導いていった。
 なぜそのようなことができるのか、本人曰く「あいつの考えてることぐらい少しは分かる」とのことだが、彼とSSSにどのような関係があるのかは不明である。

 それからさらに一年後、ジョン・ドウとレジスタンスによる人類の存亡を賭けた最終作戦が今まさに行われようとしていた。





「こちらアルファワン。現在サンフランシスコ上空を飛行中。ジョン・ドウを目的地に移送しています」

 俺はレジスタンスのヘリに乗せられて地球の空を飛行していた。
 あまりいい思い出はないのだが、俺はなにかとヘリに縁があるらしい。

「ヘリコプターじゃなくて垂直離着陸VTOL機だよ。この前も言ったろ?」

 操縦士の男が話しかけてくる。
 気さくというか馴れ馴れしい男で、俺が地球に来てからおそらく最も付き合いが長い。
 俺がこっちの世界に来てまず学んだことは、地球人というのは皆が皆、アダムのように傲慢で危険な思想を持っているわけではないということだ。
 悪人もいれば善人もいる、というのは元いた世界となにも変わらない。

「最新型の義眼の調子はどうだい? ジョン・ドウ」
「……ここだけ若返ったみたいで変な感じだ」
「ハハハ。じゃあ次は全身やってもらうといい」

 俺が地球に来てから、一年の時が経過していた。
 そのうち一ヶ月は昏睡状態で、三ヶ月は病院にほぼ閉じ込められていたような生活だったので、地球についてそれほど多くを知る余裕はなかったが、代わりに戦いで負った怪我はすっかり治っていた。
 地球の医学は俺のいた世界とは比べものにならないほど進歩しており、銃や刃物でつけられた身体中の傷は当然のこと、失った片目までもが機械を埋め込むことで見えるようになっていた。
 もちろん医学だけに限らず、あらゆる分野において地球は俺たちの世界とは次元が違っていた。
 元の世界に劣る点があるとすれば魔法がないことぐらいだが、ここまで発達した文明ならそれも必要ないだろう。
 アダムが俺たちを見下し、原始人と蔑んでいたことも今なら理解できる。

 退院した俺は、残りの人生を静かに過ごそうと考えていた。
 この星は俺の元いた世界よりも遥かに広く、複雑だ。
 一生かけてもすべてを知ることはできないだろう。
 ゆっくりと地球の文化を見聞していき、いずれその途中で寿命を迎える。
 それで十分だった。

 なのに俺は今、なぜか反AIを掲げるレジスタンスの世話になっている。
 レジスタンスの連中は、スリサズと同時に地球にやってきた俺を警戒し、常に監視を付けていたそうだ。
 スリサズがずいぶんと横暴な真似をしているとの噂が広まり出した頃、奴らの方から俺にレジスタンスに協力するようにと接触してきた。
 異星人である俺が地球の争いに干渉するのはどうかとも思ったが、元はと言えばスリサズが地球へ戻ってきたのは俺が原因のようなものだ。
 完全に他人事とは考えられず、俺は連中に手を貸すことにした。

「降下ポイントに接近。ジョン・ドウ、作戦は分かってるよな?」
「ああ、任せろ」

 作戦の内容は、防衛に当たっている無人兵器を地上の仲間たちが引きつけ、その隙に俺をヘリで上空から運び、降下してスリサズの繋がれたサーバ付近まで潜入。
 そのままスリサズ本体を探し出し叩くというものだ。
 単純な作戦だが、俺にとっては好都合だった。
 レジスタンスの皆には悪いが、俺の中でスリサズを攻撃するかどうかはまだ決まっていない。
 その判断はあいつと再会して、話を聞いてからにするつもりだった。
 もちろん、返答次第ではその場で破壊する覚悟もできている。

「ポイントに到達。これより降下作戦を開始――いや、待て! レーダーに熱源反応! こ、これは対空ミサイルだ! 回避行動が間に合わないッ!」

 ドオオォォォンッ――――!!
 ミサイルの直撃を受けた機体はきりもみ回転しながら墜落する。
 俺はその衝撃で、降下のために開いたドアから投げ出され、ヘリとは離れた場所の地面に激突した。

「ぐはッ……――ちくしょう、やりやがったなスリサズ……」

 受身を取ったものの、かなりの高度から落下した痛みで、肺から空気が絞り出される。
 俺は痛む身体を支えながらヨロヨロと立ち上がり、周囲の様子に目を配った。

 カッ――――――――!
 突然、目の前の静まり返っていたビルに明かりが点き、複数のライトが一斉に俺を照らした。

【この一帯への進入は許可されていません。立入禁止の標識が見えませんでしたか?】
「……フン、俺には『どうぞお入りください』の標識に見えたんだがな」

 建物のスピーカーから聞こえてきた、懐かしい声に向かって俺はそう答えた。
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