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「へえ、じゃあ、オーボエは経験者の子が入部希望なんだ。いいじゃん」
「いいかどうかしらないよ。おれはどんな子か見てないし」
「かわいい女の子だったよ。小動物みたいな」
高井凌久が明るく言い、瀬尾裕翔は興味なさそうに目を逸らしながらパンを齧った。平田奈摘がにこにこしながらその肘をつつく。
大学のカフェにはテラス席がある。高井と瀬尾は隣りあい、奈摘は二人の向かいに座って昼食をとっていた。
三人はオーケストラ部の二回生だ。今日はそろって午後から講義のない日で、柔らかな陽射しの下のんびりと過ごしている。
「うちなんか、見学は来たけど、入部に繋がりそうな子はいなかったなぁ。やっぱりラッパやんなら吹奏のほうがいいのかなぁ」
早々に食事を終えていた高井が、頬杖をついてため息をついた。瀬尾は視線を向けることなく適当に応じる。
「さあ、そうなんじゃないの。それでなくともうちは部じゃなくてサークルで弱小だし」
「おまけに部室は狭いし古いもんねえ」
パックのリンゴジュースのストローをくわえながら、奈摘が笑う。
「そうそう! 部室見て引いた人は絶対いると思うよオレ」
「じゃあ掃除したら」
「あれはちょっと掃除したらいいってもんでもないよねえ」
「そうそう、むしろ伝統と埃だとか言って掃除させない先輩とかいそう」
「それはむしろOBとかじゃないの」
「ああ、いそう。チェロのおじさま方に、いそう」
奈摘はチェロ、高井はトランペットをやっていた。二人共高校や中学から楽器を続けている経験者だ。瀬尾は、大学に入ってから音楽をはじめた。義務教育の音楽の授業以外、何の経験もない。
劣等感や引け目を、感じないわけではなかった。それでも、高井と奈摘は、瀬尾にとっては気兼ねなく付き合える数少ないオケ部員だった。
「チェロってなんか、キャラ濃いよな。なっちゃんもそうだけど」
高井がチェロのOBの面々を思い出してか苦笑する。奈摘は何か言いたそうにそれを見たが、言葉を発する前に瀬尾が息をついた。
「キャラが濃いっていうか、オヤジキャラなんだよ」
「ちょっとひろぽん、それ、わたしは入ってないよね」
さすがに聞き捨てならない、と言わんばかりに今度は間髪入れず奈摘が瀬尾の腕を掴むと、高井が声を上げて笑った。
「むしろ、なっちゃん以外は本物のオヤジだろ」
「いや、なっちゃんも中身はオヤジだし」
掴まれた腕は意に介さない瀬尾に、奈摘は「え、ひろぽんひどい」と、さして思っていない口調で軽く言った後、ぱっと手を離した。流れるような動作で、そのまま腕時計を見て立ち上がる。
「ごめん、わたし今日バイト入れてるんだった。そろそろ行くね」
高井は意外な顔をして奈摘を見上げる。
「なっちゃんバイトとかしてたっけ」
「実は最近始めたんだ。弓、自分の買いたいから」
奈摘はそう言ってVサインを突き出して見せた。太陽を背に立つその姿に、瀬尾は目を細める。
「どこでバイトしてるの」
「秘密」
小さく舌を出して笑う奈摘に、瀬尾が「なんで」と食い下がると、彼女は少し困ったような弱い笑みを見せ「だってなんか恥ずかしいんだもん」と答えた。そして、いたずらを仕掛けた子どもが逃げるように、手を振って「じゃあね」と去って行く。高井と瀬尾は軽く手を上げて応じた。
「いいかどうかしらないよ。おれはどんな子か見てないし」
「かわいい女の子だったよ。小動物みたいな」
高井凌久が明るく言い、瀬尾裕翔は興味なさそうに目を逸らしながらパンを齧った。平田奈摘がにこにこしながらその肘をつつく。
大学のカフェにはテラス席がある。高井と瀬尾は隣りあい、奈摘は二人の向かいに座って昼食をとっていた。
三人はオーケストラ部の二回生だ。今日はそろって午後から講義のない日で、柔らかな陽射しの下のんびりと過ごしている。
「うちなんか、見学は来たけど、入部に繋がりそうな子はいなかったなぁ。やっぱりラッパやんなら吹奏のほうがいいのかなぁ」
早々に食事を終えていた高井が、頬杖をついてため息をついた。瀬尾は視線を向けることなく適当に応じる。
「さあ、そうなんじゃないの。それでなくともうちは部じゃなくてサークルで弱小だし」
「おまけに部室は狭いし古いもんねえ」
パックのリンゴジュースのストローをくわえながら、奈摘が笑う。
「そうそう! 部室見て引いた人は絶対いると思うよオレ」
「じゃあ掃除したら」
「あれはちょっと掃除したらいいってもんでもないよねえ」
「そうそう、むしろ伝統と埃だとか言って掃除させない先輩とかいそう」
「それはむしろOBとかじゃないの」
「ああ、いそう。チェロのおじさま方に、いそう」
奈摘はチェロ、高井はトランペットをやっていた。二人共高校や中学から楽器を続けている経験者だ。瀬尾は、大学に入ってから音楽をはじめた。義務教育の音楽の授業以外、何の経験もない。
劣等感や引け目を、感じないわけではなかった。それでも、高井と奈摘は、瀬尾にとっては気兼ねなく付き合える数少ないオケ部員だった。
「チェロってなんか、キャラ濃いよな。なっちゃんもそうだけど」
高井がチェロのOBの面々を思い出してか苦笑する。奈摘は何か言いたそうにそれを見たが、言葉を発する前に瀬尾が息をついた。
「キャラが濃いっていうか、オヤジキャラなんだよ」
「ちょっとひろぽん、それ、わたしは入ってないよね」
さすがに聞き捨てならない、と言わんばかりに今度は間髪入れず奈摘が瀬尾の腕を掴むと、高井が声を上げて笑った。
「むしろ、なっちゃん以外は本物のオヤジだろ」
「いや、なっちゃんも中身はオヤジだし」
掴まれた腕は意に介さない瀬尾に、奈摘は「え、ひろぽんひどい」と、さして思っていない口調で軽く言った後、ぱっと手を離した。流れるような動作で、そのまま腕時計を見て立ち上がる。
「ごめん、わたし今日バイト入れてるんだった。そろそろ行くね」
高井は意外な顔をして奈摘を見上げる。
「なっちゃんバイトとかしてたっけ」
「実は最近始めたんだ。弓、自分の買いたいから」
奈摘はそう言ってVサインを突き出して見せた。太陽を背に立つその姿に、瀬尾は目を細める。
「どこでバイトしてるの」
「秘密」
小さく舌を出して笑う奈摘に、瀬尾が「なんで」と食い下がると、彼女は少し困ったような弱い笑みを見せ「だってなんか恥ずかしいんだもん」と答えた。そして、いたずらを仕掛けた子どもが逃げるように、手を振って「じゃあね」と去って行く。高井と瀬尾は軽く手を上げて応じた。
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