4 / 10
003
しおりを挟む
ギリギリ昼過ぎと言えなくも無い時間帯。
これから風呂に入って洗濯した物は気持ち良く乾いてくれるだろうか?日が陰る前に取り込まないと余計に湿気るし、乾く前に取り込んで部屋干しして乾いても生乾き臭が残る事に成ったら嫌だなぁ~と思いながら、中が気軽に覗けない様に高く、乗り越えが難しい様な木製で薄く脆い設計の塀で囲った小さな我が家の庭へ、家を迂回して直接向かう。見上げた空には黒い雲が多く、出掛ける時に先行で干した布団の様子が気に成ったのだ。
幸い、掛け布団も毛布も敷いて寝ている毛皮も、にわか雨にさらされる事無く、御日様の匂いを感じられる程に気持ちが良いくらいしっかり乾ききっていた。雨が降って濡れたら嫌だし先に取り込んでおこう。
私は急いで家の裏口を開け、荷物を室内に置いて、そのまま置きっぱなしにしていた踏み台に上って布団を持ち上げた。
そこで唐突に、家と塀の間のスペースから「もしかして君、レヨン君の弟さん?」と、商人ギルドにてレヨンとして御世話に成っていた見目の良い受付のオネエさんに声を掛けられたのである。
私は心底驚き、持ち帰ろうとしていた大きな布団と一緒に後ろへと転倒し掛け、受付のオネエさんと一緒に来ていた商人ギルドの背の高いオニイさんに布団諸共助けて貰う事と成った。
家の敷地に入って来た侵入者を教えてすらしてくれなかったブランは…、背の高いオニイさんに布団と一緒に抱えられた私を…右往左往しながら上目使いで見上げている……。子犬の頃から可愛がってくれてた2人相手だからって吠えなかったのな?ある意味では賢いけど、番犬としては駄目だ!!ブランよ!仕事を放棄してんじゃねぇぞ?
この時、現行犯扱いでブランに色々と言いたい事はあったけれど諦め、遠くから雷鳴が聞こえて来たので、私は何よりも先に空模様の確認する。
見目の良い受付のオネエさんも「レヨン君の…」と何か言い掛けていたけど、背の高いオニイさんに「それは後で!」と制止され…、私は助けて貰った御礼を言わせて貰う事も出来ずに一旦…布団と一緒にポイッと家の中に放り込まれ…、それ切っ掛けで必然的に布団を取り込むのを手伝って貰う事と成ってしまい…問答無用で訪問者を受け入れざる得なくなってしまっていた……。
布団は無事だったが、私の無事は保証されていない現実に、私は肩を落とす。本日2度目、身分証の偽造は何処の世界でも犯罪なのです案件である。今度こそヤバイかも?誤魔化さなくては事案だ。
私は俯き、必死に声色を高くする様に意識して「手伝って…助けてくれてありがとうございます……」と、何はともあれ御礼を言い。「御茶出します」と湯を大きなフラスコで沸かし、そのフラスコに茶葉を入れ、ロートにガーゼをセットして小さめなビーカーに漉し入れた茶と、御茶請けとして出涸らしの茶葉を塩漬けにして練り込んだ塩味のクラッカーをシャーレに盛って出した。
これが食器やカトラリー等の生活道具を呪い屋が軌道に乗るまでの間の生活費や税金として売り飛ばしてしまった我が家で出来る精一杯のオモテナシなのだが、御茶の準備の段階で、商人ギルドから来た御客様が何か言いた気な雰囲気を醸し出していたので、心象は良くないかもしれない。外も、通り雨であろうが雷雨が吹き荒れていた。幸先悪過ぎて辛い。が、用件を聞かなきゃ始まらないし終わらない。
私は、自らの緊張を和らげる為に残った御茶をビーカーに注ぎ入れて一口飲み、商人ギルドにて受注し終わらせ忘れた仕事があったりとか、提出した依頼品に不備があったりとかしたのか?と思案しながら「えっと、レヨンが何かシデカシマシタデショウカ?」と2人に質問する。
すると少し長めの沈黙の後に、オニイさんの方が「レヨンは何処です?」としか言ってくれなかった。それだけでは、何故に商人ギルドの人が我が家に来たのか?が分からなかった私は、雰囲気的に怖く成って、心底半泣き状態。若しかしたら自分では自覚が無かったけど、本当に涙目に成っていたかもしれない。
えぇ~?ヤバイ?マズイ?私ってばレヨンとしてホント、何をヤラカシタ?と、真剣に思い悩んでいる所に、私が演じる以外で他に存在する筈の無い人物、架空の存在である筈のレヨンが姿を現した。一瞬、背筋が凍る程にゾッとしたのは言うまでも無いだろう。
但し、私の見間違いで無ければ、その場所、商人ギルドの2人が座る背後、そこには毛足長めで真っ白い毛並みの普通の犬にしては凄く大きいブランが居た筈の場所だった。
そして、そのレヨンは、髪を切る前に私が演じていたレヨンに足りなかった成人男性に向かって成長する16歳から17歳の特徴を追加した感じの…、私がそうだったら気兼ね無く男装を続けれていたであろう姿をしている気がするのは気の所為ではなさそうだ…、ここがあ~なら…そこがこ~なら等…、ブランに愚痴っていた事柄が全部修正された状態の私が理想とするレヨンの姿がそこに存在していた……。
私がそんなレヨンの姿に呆然としていると、私の視線の先を辿り、商人ギルドの人も(偽物の)レヨンに気が付き、「今まで何処で何をしていたんだ」と椅子から立ち上がり(偽物の)レヨンに駆け寄ろうとした。の、だけど…それから逃げる様に…(偽物の)レヨンは私の方に走り寄り…、勢い良く体当たりしつつ私を抱き締め「サン…レヨン…いもーと……」以外の言葉を発さず…、商人ギルドの2人を困惑させてくれた……。正直に言って、私も本気で困惑している。
一先ず。商人ギルドの2人の雰囲気から、レヨンがギルドに暫く顔を出さなく成っていた為にレヨンの安否を心配して来てくれていたみたいだったので一安心?
でも、はてさて如何しよう。いや、本当に如何したら良いんだ?
「この状態は何時から?」と商人ギルドのオニイさんに質問されて、何て言って良いかに困って、半分くらい途方に暮れて迷いながら「気が付いた時には既にもう」とだけ答えたけど、コレが正解だったか如何かは不明である。誰に聞くも確認するも出来ない上で答えが無いかも知れない。
商人ギルドの2人は何かしら勘違いしてくれたみたいで、私を他所に2人だけで話し合い。勝手に何年か前からそうなのだろうと納得して「お大事に…」と言い残して、雨上がりの空の下、渋い顔をしたまま帰って行った。
その後の出来事。
レヨンな我が家のワンコは私が「レヨン」と呼ぶと、子供みたいに微笑んで「…サン…いもーと……」と言いながらワンコのよぉ~に擦り寄って来てくれる。但し、このレヨン、やっぱり仄かに犬臭い。と言うか、外見は兎も角、ブランだ。ブラン以外の何モノでもない。「ブラン」と呼んだら、ポンッとレヨンに真っ白い犬の耳と尻尾が生え、もう一度「ブ~ラン」と呼んだら何時ものモッフモフの犬に戻ってくれたのである。
然も、何故だか不明だが、この日を境に我が家のワンコを「レヨン」と呼ぶと、ブランはレヨンの姿に上手に化け、「ブラン」と呼ぶと犬に戻ってくれる様に成った。
って、そう言えば、あら、やだ、このワンコって、シェイプシフターって種類の魔物じゃね?と、言う事は…、ブラン…犬でもなくて…、ブランは…人間へと変化できるウェアウルフって種類の狼だ…、最近、犬にしては大きいなぁ~って思ってはいたんだけど…狼な上に魔物かぁ~…、狼や魔物って…支配や従魔契約していない状態で飼ってて良いんだっけか?と悩んでいたら…、ブランは真っ白い獣の姿のまま素敵な笑顔で私に微笑み掛け…可愛くワンっと鳴いてくれた……。狼だとしても私に取ってブランは犬だな、今までと可愛さと愛らしさは変わらない。
普通の犬だと私が勝手に思い込んでいたブランが、レヨンの振りをして私を助けようとしてくれた事実も変わらない現実だし、何故に存在しない筈の人物に化けれてるの?嘘でしょ?空気読んでくれたのかもしれないけど、この後の事を私は如何したら良いの?と、今後も色々と思い悩む事があるだろうけど、ブランが私に取って家族である事は変わらない。
心底驚いたけど、受け入れて誤魔化してしまった事柄も、どうしようもないくらい、今更変える事の出来ない物事である事なので、仕方が無い。
もう、腹を括るしかないだろう。本気で誤魔化そう。自分自身も誤魔化しきって、気付かなかった事にしてしまおう。きっと、自分自身が思い込んでしまえば大丈夫だ!と、ここから先は、本気の完全たる現実逃避である。
私に兄と言うのが存在してて、何時の間にか存在しなく成ってて、何時の間にかブランが兄に化けてたのに私は気付かなくて、これからも暫く、私は気付かないのだ!
第三者の前でブランが兄に化けるのを私が見るのを見られるか、第三者の前で兄に化けたブランがブランに戻るのを私が見てしまうのを見られるかするまで気付かなかった事にし続けやる!コレは決定事項だ!!
これが良かったのか、悪かったのかは、今でも近い未来でも遠い未来でも分からないかもしれない。世の中、分からない事ばかりだから大丈夫だって、思う事にしておこう。
そう思う事で、私は色々と失敗をした。
「おや、まぁ~、最近見掛けてないと思ってたけど戻って来てたんだねぇ~…確か…レヨンだっけ?」
商人ギルドの2人が店としての扉から出て行った後…、締め忘れたその表の扉をノックする事無く…、近所のドワーフがやっている鍛冶屋の…ドワーフな奥さんが入って来て…、早速に中途半端にレヨンに化けたブランと遭遇してしまう…と言う珍事をやらかしてしまったのである……。
真っ白い犬の耳と尻尾が生えた偽物のレヨンな我が家のワンコは「いらっしゃいませ」とでも言おうとしたのか?元気に「らしゃい」と耳をピンッと立て尻尾を振ってドワーフの奥さんを笑顔で御出迎えしてくれた。私は、想定していなかった出来事に放心してしまい。暫く、言葉を失ってしまって、自動的に作り上げられて行く勝手な設定に、ホント如何して良いか分からなく成ってしまった。
「レヨン、獣人の血を引いていたんだねぇ~…、サンとは如何言う関係なんだい?」
「サン、いもーと……」
親し気な笑顔で少し首を傾げながら、何故に聞かれたのか?が理解できなかったっぽく不思議そうに答えるレヨンな姿のブラン。
ドワーフの奥さんは、その対応に対して何故か頬を染め「あらやだ、そうだったんだね」と朗らかに笑い「そう言えば、サンティも魔道具を外したら金髪碧眼で似た顔立ちだわねぇ」と言う。私は少しだとしても会話が成り立っていると言う事実に驚いた。先程、商人ギルドの2人が居た時には、全くと言って良い程に会話が成り立っていなかったからである。
「それにしてもレヨン、男の子だったんだね、暫く前に見掛けた時よりシッカリお兄さんに育っちゃってまぁ~」とドワーフの奥さんに言われ、レヨンな姿のブランも満更でも無い態度で「レー、おにさん!」と誇らし気だった。…の…だけど……。
「……?……?!」
ドワーフの奥さんも、そこでやっと違和感を感じ取ったらしい。少し悩み、思い当る事があったらしくポンッと手を打ち、勝手に独自解釈して「もしかして、幼児退行?レヨンって最近、唐突に先祖返りしちゃったのかい?」と私の所に来て耳打ち、私がやっとの事で「そう言う事があると…幼児退行とかするものなんですか?」と言うと、その事を私が肯定したかの様な態度で「サンティ!大変だったねぇ~…」と何故だか目尻に滲んだ涙をハンカチで拭い「そう言う事なら任せときな!皆に注意するよう言っといてあげるから!」と、今日も料理にも使える薬草や野草、私が森から持ち帰った肉等を仕入れに来たのだろうに、何も仕入れず、そのまま急ぎ足で、これまた近所にある酒場の方へと走って行ってしまった。と、言う事で、彼女に事情を話して味方に成って貰う事が出来なくなったっぽい事が確定。母親とブランを除いて彼女が唯一、私がサンティエとして魔道具で顔の印象を誤魔化し髪と目の色を茶色くしている事を知っている相手だったので悔やまれてならない。と、ドワーフの奥さんの会話術に流されて思った今日この頃の今、けど、それは一旦置いて置いて正気に戻り「しまった!」と私は違う意味で新たに焦り出す。
周囲にそう言うネタが広まり過ぎると、後から情報を修正する事が難しく成るのだ。
その為に後を追い、情報の発信を止めようとしたのだけど、時すでに遅し、私がドワーフの奥さんを追い掛けて近所の酒場に辿り着いた時には、レヨン=中身が幼児退行してしまった獣人と言う新常識が、顔なじみの皆様に話されてしまっていたっぽい感じである。
これから風呂に入って洗濯した物は気持ち良く乾いてくれるだろうか?日が陰る前に取り込まないと余計に湿気るし、乾く前に取り込んで部屋干しして乾いても生乾き臭が残る事に成ったら嫌だなぁ~と思いながら、中が気軽に覗けない様に高く、乗り越えが難しい様な木製で薄く脆い設計の塀で囲った小さな我が家の庭へ、家を迂回して直接向かう。見上げた空には黒い雲が多く、出掛ける時に先行で干した布団の様子が気に成ったのだ。
幸い、掛け布団も毛布も敷いて寝ている毛皮も、にわか雨にさらされる事無く、御日様の匂いを感じられる程に気持ちが良いくらいしっかり乾ききっていた。雨が降って濡れたら嫌だし先に取り込んでおこう。
私は急いで家の裏口を開け、荷物を室内に置いて、そのまま置きっぱなしにしていた踏み台に上って布団を持ち上げた。
そこで唐突に、家と塀の間のスペースから「もしかして君、レヨン君の弟さん?」と、商人ギルドにてレヨンとして御世話に成っていた見目の良い受付のオネエさんに声を掛けられたのである。
私は心底驚き、持ち帰ろうとしていた大きな布団と一緒に後ろへと転倒し掛け、受付のオネエさんと一緒に来ていた商人ギルドの背の高いオニイさんに布団諸共助けて貰う事と成った。
家の敷地に入って来た侵入者を教えてすらしてくれなかったブランは…、背の高いオニイさんに布団と一緒に抱えられた私を…右往左往しながら上目使いで見上げている……。子犬の頃から可愛がってくれてた2人相手だからって吠えなかったのな?ある意味では賢いけど、番犬としては駄目だ!!ブランよ!仕事を放棄してんじゃねぇぞ?
この時、現行犯扱いでブランに色々と言いたい事はあったけれど諦め、遠くから雷鳴が聞こえて来たので、私は何よりも先に空模様の確認する。
見目の良い受付のオネエさんも「レヨン君の…」と何か言い掛けていたけど、背の高いオニイさんに「それは後で!」と制止され…、私は助けて貰った御礼を言わせて貰う事も出来ずに一旦…布団と一緒にポイッと家の中に放り込まれ…、それ切っ掛けで必然的に布団を取り込むのを手伝って貰う事と成ってしまい…問答無用で訪問者を受け入れざる得なくなってしまっていた……。
布団は無事だったが、私の無事は保証されていない現実に、私は肩を落とす。本日2度目、身分証の偽造は何処の世界でも犯罪なのです案件である。今度こそヤバイかも?誤魔化さなくては事案だ。
私は俯き、必死に声色を高くする様に意識して「手伝って…助けてくれてありがとうございます……」と、何はともあれ御礼を言い。「御茶出します」と湯を大きなフラスコで沸かし、そのフラスコに茶葉を入れ、ロートにガーゼをセットして小さめなビーカーに漉し入れた茶と、御茶請けとして出涸らしの茶葉を塩漬けにして練り込んだ塩味のクラッカーをシャーレに盛って出した。
これが食器やカトラリー等の生活道具を呪い屋が軌道に乗るまでの間の生活費や税金として売り飛ばしてしまった我が家で出来る精一杯のオモテナシなのだが、御茶の準備の段階で、商人ギルドから来た御客様が何か言いた気な雰囲気を醸し出していたので、心象は良くないかもしれない。外も、通り雨であろうが雷雨が吹き荒れていた。幸先悪過ぎて辛い。が、用件を聞かなきゃ始まらないし終わらない。
私は、自らの緊張を和らげる為に残った御茶をビーカーに注ぎ入れて一口飲み、商人ギルドにて受注し終わらせ忘れた仕事があったりとか、提出した依頼品に不備があったりとかしたのか?と思案しながら「えっと、レヨンが何かシデカシマシタデショウカ?」と2人に質問する。
すると少し長めの沈黙の後に、オニイさんの方が「レヨンは何処です?」としか言ってくれなかった。それだけでは、何故に商人ギルドの人が我が家に来たのか?が分からなかった私は、雰囲気的に怖く成って、心底半泣き状態。若しかしたら自分では自覚が無かったけど、本当に涙目に成っていたかもしれない。
えぇ~?ヤバイ?マズイ?私ってばレヨンとしてホント、何をヤラカシタ?と、真剣に思い悩んでいる所に、私が演じる以外で他に存在する筈の無い人物、架空の存在である筈のレヨンが姿を現した。一瞬、背筋が凍る程にゾッとしたのは言うまでも無いだろう。
但し、私の見間違いで無ければ、その場所、商人ギルドの2人が座る背後、そこには毛足長めで真っ白い毛並みの普通の犬にしては凄く大きいブランが居た筈の場所だった。
そして、そのレヨンは、髪を切る前に私が演じていたレヨンに足りなかった成人男性に向かって成長する16歳から17歳の特徴を追加した感じの…、私がそうだったら気兼ね無く男装を続けれていたであろう姿をしている気がするのは気の所為ではなさそうだ…、ここがあ~なら…そこがこ~なら等…、ブランに愚痴っていた事柄が全部修正された状態の私が理想とするレヨンの姿がそこに存在していた……。
私がそんなレヨンの姿に呆然としていると、私の視線の先を辿り、商人ギルドの人も(偽物の)レヨンに気が付き、「今まで何処で何をしていたんだ」と椅子から立ち上がり(偽物の)レヨンに駆け寄ろうとした。の、だけど…それから逃げる様に…(偽物の)レヨンは私の方に走り寄り…、勢い良く体当たりしつつ私を抱き締め「サン…レヨン…いもーと……」以外の言葉を発さず…、商人ギルドの2人を困惑させてくれた……。正直に言って、私も本気で困惑している。
一先ず。商人ギルドの2人の雰囲気から、レヨンがギルドに暫く顔を出さなく成っていた為にレヨンの安否を心配して来てくれていたみたいだったので一安心?
でも、はてさて如何しよう。いや、本当に如何したら良いんだ?
「この状態は何時から?」と商人ギルドのオニイさんに質問されて、何て言って良いかに困って、半分くらい途方に暮れて迷いながら「気が付いた時には既にもう」とだけ答えたけど、コレが正解だったか如何かは不明である。誰に聞くも確認するも出来ない上で答えが無いかも知れない。
商人ギルドの2人は何かしら勘違いしてくれたみたいで、私を他所に2人だけで話し合い。勝手に何年か前からそうなのだろうと納得して「お大事に…」と言い残して、雨上がりの空の下、渋い顔をしたまま帰って行った。
その後の出来事。
レヨンな我が家のワンコは私が「レヨン」と呼ぶと、子供みたいに微笑んで「…サン…いもーと……」と言いながらワンコのよぉ~に擦り寄って来てくれる。但し、このレヨン、やっぱり仄かに犬臭い。と言うか、外見は兎も角、ブランだ。ブラン以外の何モノでもない。「ブラン」と呼んだら、ポンッとレヨンに真っ白い犬の耳と尻尾が生え、もう一度「ブ~ラン」と呼んだら何時ものモッフモフの犬に戻ってくれたのである。
然も、何故だか不明だが、この日を境に我が家のワンコを「レヨン」と呼ぶと、ブランはレヨンの姿に上手に化け、「ブラン」と呼ぶと犬に戻ってくれる様に成った。
って、そう言えば、あら、やだ、このワンコって、シェイプシフターって種類の魔物じゃね?と、言う事は…、ブラン…犬でもなくて…、ブランは…人間へと変化できるウェアウルフって種類の狼だ…、最近、犬にしては大きいなぁ~って思ってはいたんだけど…狼な上に魔物かぁ~…、狼や魔物って…支配や従魔契約していない状態で飼ってて良いんだっけか?と悩んでいたら…、ブランは真っ白い獣の姿のまま素敵な笑顔で私に微笑み掛け…可愛くワンっと鳴いてくれた……。狼だとしても私に取ってブランは犬だな、今までと可愛さと愛らしさは変わらない。
普通の犬だと私が勝手に思い込んでいたブランが、レヨンの振りをして私を助けようとしてくれた事実も変わらない現実だし、何故に存在しない筈の人物に化けれてるの?嘘でしょ?空気読んでくれたのかもしれないけど、この後の事を私は如何したら良いの?と、今後も色々と思い悩む事があるだろうけど、ブランが私に取って家族である事は変わらない。
心底驚いたけど、受け入れて誤魔化してしまった事柄も、どうしようもないくらい、今更変える事の出来ない物事である事なので、仕方が無い。
もう、腹を括るしかないだろう。本気で誤魔化そう。自分自身も誤魔化しきって、気付かなかった事にしてしまおう。きっと、自分自身が思い込んでしまえば大丈夫だ!と、ここから先は、本気の完全たる現実逃避である。
私に兄と言うのが存在してて、何時の間にか存在しなく成ってて、何時の間にかブランが兄に化けてたのに私は気付かなくて、これからも暫く、私は気付かないのだ!
第三者の前でブランが兄に化けるのを私が見るのを見られるか、第三者の前で兄に化けたブランがブランに戻るのを私が見てしまうのを見られるかするまで気付かなかった事にし続けやる!コレは決定事項だ!!
これが良かったのか、悪かったのかは、今でも近い未来でも遠い未来でも分からないかもしれない。世の中、分からない事ばかりだから大丈夫だって、思う事にしておこう。
そう思う事で、私は色々と失敗をした。
「おや、まぁ~、最近見掛けてないと思ってたけど戻って来てたんだねぇ~…確か…レヨンだっけ?」
商人ギルドの2人が店としての扉から出て行った後…、締め忘れたその表の扉をノックする事無く…、近所のドワーフがやっている鍛冶屋の…ドワーフな奥さんが入って来て…、早速に中途半端にレヨンに化けたブランと遭遇してしまう…と言う珍事をやらかしてしまったのである……。
真っ白い犬の耳と尻尾が生えた偽物のレヨンな我が家のワンコは「いらっしゃいませ」とでも言おうとしたのか?元気に「らしゃい」と耳をピンッと立て尻尾を振ってドワーフの奥さんを笑顔で御出迎えしてくれた。私は、想定していなかった出来事に放心してしまい。暫く、言葉を失ってしまって、自動的に作り上げられて行く勝手な設定に、ホント如何して良いか分からなく成ってしまった。
「レヨン、獣人の血を引いていたんだねぇ~…、サンとは如何言う関係なんだい?」
「サン、いもーと……」
親し気な笑顔で少し首を傾げながら、何故に聞かれたのか?が理解できなかったっぽく不思議そうに答えるレヨンな姿のブラン。
ドワーフの奥さんは、その対応に対して何故か頬を染め「あらやだ、そうだったんだね」と朗らかに笑い「そう言えば、サンティも魔道具を外したら金髪碧眼で似た顔立ちだわねぇ」と言う。私は少しだとしても会話が成り立っていると言う事実に驚いた。先程、商人ギルドの2人が居た時には、全くと言って良い程に会話が成り立っていなかったからである。
「それにしてもレヨン、男の子だったんだね、暫く前に見掛けた時よりシッカリお兄さんに育っちゃってまぁ~」とドワーフの奥さんに言われ、レヨンな姿のブランも満更でも無い態度で「レー、おにさん!」と誇らし気だった。…の…だけど……。
「……?……?!」
ドワーフの奥さんも、そこでやっと違和感を感じ取ったらしい。少し悩み、思い当る事があったらしくポンッと手を打ち、勝手に独自解釈して「もしかして、幼児退行?レヨンって最近、唐突に先祖返りしちゃったのかい?」と私の所に来て耳打ち、私がやっとの事で「そう言う事があると…幼児退行とかするものなんですか?」と言うと、その事を私が肯定したかの様な態度で「サンティ!大変だったねぇ~…」と何故だか目尻に滲んだ涙をハンカチで拭い「そう言う事なら任せときな!皆に注意するよう言っといてあげるから!」と、今日も料理にも使える薬草や野草、私が森から持ち帰った肉等を仕入れに来たのだろうに、何も仕入れず、そのまま急ぎ足で、これまた近所にある酒場の方へと走って行ってしまった。と、言う事で、彼女に事情を話して味方に成って貰う事が出来なくなったっぽい事が確定。母親とブランを除いて彼女が唯一、私がサンティエとして魔道具で顔の印象を誤魔化し髪と目の色を茶色くしている事を知っている相手だったので悔やまれてならない。と、ドワーフの奥さんの会話術に流されて思った今日この頃の今、けど、それは一旦置いて置いて正気に戻り「しまった!」と私は違う意味で新たに焦り出す。
周囲にそう言うネタが広まり過ぎると、後から情報を修正する事が難しく成るのだ。
その為に後を追い、情報の発信を止めようとしたのだけど、時すでに遅し、私がドワーフの奥さんを追い掛けて近所の酒場に辿り着いた時には、レヨン=中身が幼児退行してしまった獣人と言う新常識が、顔なじみの皆様に話されてしまっていたっぽい感じである。
0
あなたにおすすめの小説
【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!
月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、
花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。
姻族全員大騒ぎとなった
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
親友面した女の巻き添えで死に、転生先は親友?が希望した乙女ゲーム世界!?転生してまでヒロイン(お前)の親友なんかやってられるかっ!!
音無砂月
ファンタジー
親友面してくる金持ちの令嬢マヤに巻き込まれて死んだミキ
生まれ変わった世界はマヤがはまっていた乙女ゲーム『王女アイルはヤンデレ男に溺愛される』の世界
ミキはそこで親友である王女の親友ポジション、レイファ・ミラノ公爵令嬢に転生
一緒に死んだマヤは王女アイルに転生
「また一緒だねミキちゃん♡」
ふざけるなーと絶叫したいミキだけど立ちはだかる身分の差
アイルに転生したマヤに振り回せながら自分の幸せを掴む為にレイファ。極力、乙女ゲームに関わりたくないが、なぜか攻略対象者たちはヒロインであるアイルではなくレイファに好意を寄せてくる。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
当然だったのかもしれない~問わず語り~
章槻雅希
ファンタジー
学院でダニエーレ第一王子は平民の下働きの少女アンジェリカと運命の出会いをし、恋に落ちた。真実の愛を主張し、二人は結ばれた。そして、数年後、二人は毒をあおり心中した。
そんな二人を見てきた第二王子妃ベアトリーチェの回想録というか、問わず語り。ほぼ地の文で細かなエピソード描写などはなし。ベアトリーチェはあくまで語り部で、かといってアンジェリカやダニエーレが主人公というほど描写されてるわけでもないので、群像劇?
『小説家になろう』(以下、敬称略)・『アルファポリス』・『Pixiv』・自サイトに重複投稿。
主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから
渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。
朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。
「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」
「いや、理不尽!」
初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。
「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」
※※※
専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり)
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる