嘘から出た実?って、いや、それ寧ろ本当の事が嘘に成ってて…

mitokami

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 肖像画を見せられ、顔と名前を覚えさせられていたのだが、しかし、肖像画とは見るからに別人なヤツが多過ぎるんですけど?特に女性全般!続いてナルシスト系の野郎共!!オッサンとか美化し過ぎてて本物と出会って誰か区別できないんですけど!覚えさせられた過半数がそれって如何なの?ワザとなの?故意なの?嫌がらせだったの?と憤っても、態度や表情に出せない現場で我慢しなければイケナイ現実。鬱憤堪りまくって、本気でストレス溜まってます。

 既にサンティエとして、去年から何の規制も無い年齢と言う訂で生きてきた為、制限のある年齢扱いが苦痛な、とある日。
(本当は飼い犬だけど)父親違い設定の兄、近衛騎士のレヨンと言う保護者に連れられ、来年16歳に成るリュエール・デ・ゼトワール・…後…何て言ったっけか?の(本物だけど)偽物として出席させられた昼間に行われる異国の王族様歓迎のティーパーティーと言う名の御見合い立食パーティーの席にて、私は虚構と現実の誤差にこっそり悪態を吐き、今朝、近衛隊長から「実は、今日が見合いの本番なので頑張って欲しい」と伝えられてからはずっと小声で「帰りたい」と繰り返している。

 会場には、リュエール・デ・ゼトワールと見合いするつもりで来ている異国の王族は勿論、ワンチャン偽物と認識されているリュエール・デ・ゼトワール以外の誰かが選ばれる事を期待し、まだ独身の自国の他の姫君を前面に押し出してアピール。保険として、伯爵以上の高位貴族の独身で結婚適齢期な御令嬢を呼び寄せ、他の誰かを選んで欲しいって事をカモフラージュする為に、異国の王族と友好関係を結べるかもしれないと言う期待を込めた友人候補枠で、高位貴族の令息達もに参加している。
但し、情報あれども、私にはどれが誰なのか見分けがつかない。何とか【デ】何とか、何とか【ド】何とか、何とか【デュ】何とか、とか、何か、なげ~名前に更になげぇ~家名が付いて、名前の最後に国名が付いてるのが王族の名前って事しか分からない。が、それも似た名前が多過ぎて、メモを見ても覚えられる気がしなかった。既に自分の名前もリュエール・デ・ゼトワールって部分までしか覚えていない。まぁ、それでさえ最近やっと覚えた所で、フルネームを名乗れと言われたらヤバイのである。正直、カンニングペーパーはあれど噛まずに読む自身は無い。

 そこで、ほんと「「帰りたい」」と呟いたら、その声がブランレヨンの呟きの声と重なった。ブランレヨンの方は御令嬢達の香水の臭いでヤラレているのであろう。何と言っても彼はウェアウルフ、嗅覚が特に鋭い犬系の魔獣である。私でも臭く感じるのだから、ブランレヨンにしてみれば地獄かもしれない。
オマジナイ料理の店でも、ブランレヨンは香水の香りを嫌い。イケメンから来る傲慢さではなく、切実な理由からだが、誰が相手であろうとも「僕と話したかったら、その臭いを洗い流してから来い」とか堂々と言っていた気がする。

 私とブランレヨンは互いの「帰りたい」に同意し合い。御互いの顔を見合わせ同じ苦笑いを浮かべた。すると、何処からともなくクスクス笑いながら「そっくりぃ~」とか「似てるぅ~」とか言う声が聞こえて来る。先程からチラッチラッと、こちらの様子を…と言うか…、レヨンにシェイプシフトしたブランを盗み見ていた年長のを含む御令嬢達の声かもしれない……。ブランは私より美人だが、私を見本に化けてるので似てない訳が無いのだけど、時々、イヤな微妙な気持ちに成る。
それと、彼女等もオマジナイ料理の店の女性客みたいにブランレヨンを紹介してくれ!とか言ってきたりするのではないだろうか?って複雑な気持ちにも成る。一夜でも継続的な御遊びでも普通の意味で言われても、ちょっと訳あり故、困るので勘弁して欲しい案件だ。ブランは人間でも獣人でも無くウェアウルフだから駄目なんじゃないかな?って思うのだ。それに、私も強過ぎる香水の臭いは苦手である。近付かれ過ぎると吐くかもしれない。と言うか絶対に今なら吐く!って、あ、令嬢達が近付いて来ようとしてる?うまく逃げられるだろうか?

 そんな感じの事を思案している所にリュミエール・デュ・ソレイユ…なんとかかんとか(←間長すぎて忘れた)…隣国の国名(←今日は8つの隣国の内の4つが来てたけどどれだっけ?)…(確か記憶に間違いが無ければ→)第三王子(だったような気がしないでもない?)が…、この国の姫達(私の腹違いの姉妹達)、貴族の御令嬢達を押し退け…、今は危険な嘗ての安全地帯…私とブランレヨンが退避していた場所…女性陣がドレスに肉の焼けるにおいが付くのを嫌がり近付かない男性向けの肉料理がメインで置かれたテーブルの方まで…、初見の挨拶は宴の最初にした筈なのに貴族社会のルール…目上からの自己紹介ってヤツをしてから「君の名前を聞きたい」と言って来やがりました……。正直、自分の名前も覚えきれていないので、今、それを聞かれても困る。

 私とブランレヨンは肉が口に入っていた為、言葉も返答できず。一人と一匹、同時に顔を見合わせると、隣国の王子は様子を察してか?一方的に「確か今日は、見合い相手との初顔合わせだった筈なのに、その相手と挨拶していない気がするから捜しているのだ」(←いやいや、ちゃんと挨拶したよ!)と溜息交じりに説明してくれる。そう言えば、既に互いのファーストネーム、リュエールとリュミエールって似ててややこしいし、他にも似た名前の人、同じで家名違いの人とかもいる。その上で、何とかゼトワールって名前も多いし、類似品でなんちゃらエトワールも結構いるから、立て続けに挨拶されて分からなくなったのだろうと思われる。が、私の知った事ではない!って言うか、挨拶終わったからもう良いって思って適当に管理してたら、カンニングペーパーが行方不明に成ってしまって、今は名乗れない。

 取り敢えず。今、まだ食べるし、カンペも探してるから返事は待って欲しい。と思いながら、私とブランレヨンがゆっくり時間を掛け稼ぎ味わいながら口の中の肉を咀嚼していると、何故か私達が選り好みして取り置いた料理の山を見詰め「これ、全部食べる気か?」と言ってきた。
確かに、一般的に考えると取り過ぎなのだが、ソーセージを初め、塊の各種ハムやローストビーフもステーキも骨付き肉だってブランレヨンが上品に食べやすく取り分けてくれるし、殆どは一見上品にブランレヨンが超高速で食べ尽くしてくれるので問題は無い。
私は口の中の肉を飲み下し、これ幸いと余所行き口調で「殆どはレヨン御兄様が食べますので問題ありません」と笑顔で答え、ブランレヨンが料理人に言って自分達好みの味付けに注文して追加で焼いて貰い、私用にブランレヨンが取り分けてくれた肉を私は再びパクリッと頬張る。これは、この場でしか口に出来ない最高級の熟成肉である。然もまだ焼きたての熱々である。食事マナーには気を付けているモノの頬の緩みは隠しきれていないかもしれない。のだけど、何か、隣国の王子にじっと見詰められてしまっている。まだ名前を言ってないからかもだが、正直、恥ずかしく成るので見詰めるのはやめて欲しい。

 そんな隣国の王子の態度がブランレヨンも気になったのか?ブランレヨンが「食べるか?」と隣国の王子に肉の刺さったフォークを差し出した。この時、王族がそんなに気軽に差し出された物を食べたりしないだろうと思ったのだが、隣国の王子ってば側近であろう御付きの男がしゃしゃり出て断ろうとしたのに、フォークを受け取るどころかソレをそのままパクリっと躊躇無く食べなすった。御蔭で一瞬、周囲が静かに成り、どよめいた。
然も、ブランレヨンに食べさせて貰った肉が美味しかったのだろう。表情が肉への味の感想を物語っている。
その結果、それがまた面白かったのだろう。ブランレヨンは絶妙なタイミングで隣国の王子に肉を差し出し、楽し気に食べさせ始めた。餌付けかな?って、珍しいな!ブランレヨンは基本、私や懐いて来た小さい子にしか…そんな事しないのに……。

 周囲では、一部の婦女子達からであろう歓声(?)上がっている。何故か楽し気ではある。理由は分からないが、コチラに近付く気配が無くなったので良しとしよう。私は思考の合間にブランレヨンが切り分けてくれた肉を新たに口に入れている。うん、やっぱり柔らかくて肉の油も甘く解ける。やはり、高級な美味しい良い肉だ!食べられる内に食べておこう。
但し、隣国の王子の側近であろう御付きの男は顔を真っ青にしたり真っ赤にしたりして怒り「王子!はしたない事はおやめください!」と言っている。ん~…あれ?これって…、後で私…巻き添えで怒られるパターンなのではなかろうか?別に私が呼び寄せた訳でも、この場に私が足止めさせてる訳でも無いのに後で怒られるのは嫌だなぁ~って思うけど…、対処の仕方が分からん…一旦放置しよう……。この後、自国の后妃が出張って来るまで放置した。ら、事態は悪化しかしなかった。

 后妃が「後ろ盾も無い流民上がりの死んだ妾妃の娘と交流しても、国益に成る事はございません」「互いの国の国益に成る姫と、役に立つ貴族の令息令嬢を紹介しましょう」と言った事で、異国の王子に何かしらの意図を読まれ「…成程…と…言う事は…、コレが…かの有名な踊り子エクレールの…か……」と結論付けられたっぽい。コレとは失礼な!ってのは置いて置いて、記憶に薄いがエクレールは母の御本名である。后妃のあからさまな態度の御蔭でバレたっぽい。
「私が知らないとでも思ったか!本物が死んだから、エクレールの姪を身代わりにして体面を保ち、他の姫や令嬢をあてがうつもりだった事は御見通しだ!」って、御国事情が筒抜けだなぁ~、でも、本当は本物なんだけどなぁ~、本物って証明できないから仕方が無い。

 私は本物だし、本当は騙してないけど、結果的に偽物として自己紹介させられた結果のコレに成す統べ無く、気にせず肉を食う事にした。これ以上、悪い状態になる事は無いだろう。腹が減っては戦は出来ぬ。逃げる為の英気を養う為に食べられる内に食べておこう。ってのが本音だった。
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