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01 吉原と、とある出来事
006 傾き者に御目通り
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私の目の前で、勝手に商談が進む。私的に食事と、紅い肌が割れない様にする為の軟膏が手に入るのは嬉しいが…、茜様は私の意見を聞く事無く、私を貸し出す積もりらしい…、正直、傾奇者と関わるのは面倒臭いので、勘弁して欲しい所存…、だが、茶屋の店主は私に対して興味を持ったらしい……。
茶屋の店主は、揚屋と妓楼から届いた揚屋入りの予定を確認し「今日、茜様の妓楼に揚屋差紙が来てますよね?」と確認。茜様は「丁度えぇ~やろ?」と微笑み「そうそう、最近、男物やけど…、揚屋町の方の質屋に赤富士と夕焼け雲が刺繍された白い着流し出てたなぁ~…、中に白い腹掛け着せさせて、ニシキちゃんが着流しの上半身脱いで舞ったら…、良い感じに成るて思わへん?着せてみな合うか分からんけどw」と相変わらず突拍子も無い発想を口にしてくれる。茶屋の店主も「着流しと腹掛けですか…買って来させましょうw」と乗り気に成って、私の貸し出し契約が成立したらしい。
こうして私は、家に帰る事も出来ず。そのまま茜様と引手茶屋の主人、幇間役の男芸者の太夫に、揚屋へと連行された。
何時も商品を納品しに行く揚屋町には存在し無い揚屋に辿り着くと、そこには何故か、ユメ姐さんの姿があった。私も驚いたが、ユメ姐さんの方がもっと驚いていた。まぁ~そりゃそうだろう…、塗りの職人が、揚屋と言う場所…、直接、娼家に行く事が憚られる貴人や上流階級の客…、格子太夫以上の上流遊女を指名する者が利用する場所に…、茜様や引手茶屋の店主に連れられてでも、正面から来る事自体が、有り得ない事なのだから……。勿論、揚屋の主人も驚いていた。
茜様は、そんな事を気にする事無く「ユメちゃんも居たんやw丁度ええわww」と笑い「太夫と一緒に、ニシキちゃんに揚屋の立ち回り教えたってやw」と、ユメ姐さんと今回の席の幇間役の男芸者に私を託す事を宣言し、揚屋の主人には「多分やけど、江戸城の池の鯉を見た事ある御仁やったら、観賞用の色物に対する粋な対応が出来る筈やw」と含みのある言葉。どうやら茜様は、揚屋の主人に[博打を打て]と言っているのだろう。
揚屋の主人は、その無茶振りに苦笑いしながら「商う物は草の種。商売は道によって賢し。新町遊郭で色物を扱う見世から来た内儀の提案、今回も頂きましょう。」と言った。どうやら賭る御様子だ。
後の事は、流れ作業。私はユメ姐さんに服を剥かれ、糠で洗われ、良い匂いのする軟膏の様な物を紅い肌に塗られ、他の女性陣が島田髷等の日本髪を結う中、私だけ髪を後頭部で一本に縛られ「支度の仕方を覚えなんし」と、眉の形を整える為に毛抜きで抜かれて涙を滲ませ、[花の露]なる化粧水や[江戸の水]なる物を顔や首に塗られ、色物では無い姐さん達に「気味悪い程に白いんに、いるんやろか?」と言われながら薄く白い胡粉を塗られて、茜様が提案する姿へと仕立て上げられた。
その直後、取り敢えずで白い岡足袋まで履かされて実演させられた舞の方は、親の大きな仕事が終わる度に他の職人の前で舞って見せていたから、少し仕草の手直しを受けて合格。その合格を得て一安心。ちょっとした油断で腹を鳴らし、茜様に「着てるもん汚したらアカンよ」と忠告され緊張しながらも、「何年振りだろう…」と呟きながら、白い御飯と具の入った味噌汁を食べさせて貰った。
そうして[傾奇者]と言われている御客様が来る時間まで、色物部隊と呼ばれる金髪やら青目の姐さん達に預けられ…、簡単な所作を更に習う……。ぶっちゃけ、姐さん達、同じ日本語を喋ってる筈なのに、所々で何を言ってるのか意味不明。姐さん達が言う。綺麗な動作も、何が綺麗なのか?訳が分からなくなってきた。…が、しかし……。取り敢えず、姐さん達のを真似る事で事無きを得る方向で、ぶっつけ本番。花魁道中が到着するまで持て成すのが仕事だ。
店の前で待機す者達の声が聞こえて来て、私は宴会場に設えられた舞台の上で、紅白の錦鯉が描かれた扇子を前に置き正座させられ、失礼がない様にする為に俯く様に指示される。御客様が[いらっしゃった]のだろう。
階段を上る音。揚屋の主人の声が宴会場に近付き、襖が開いて、暫く間を置き太鼓の音を合図に「ようこそ、おこしやす」と頭を下げ周囲に合わせ頭を上げ、俯いたまま次の合図を待っていたら、ドカドカと足音を立て、誰かが私の横までやって来た。末席に居た為に相手が来たのは、紅い皮膚が広がる私の左側、背筋が凍る程に、その場の空気が凍り付いていた気しかしない。
茶屋の店主は、揚屋と妓楼から届いた揚屋入りの予定を確認し「今日、茜様の妓楼に揚屋差紙が来てますよね?」と確認。茜様は「丁度えぇ~やろ?」と微笑み「そうそう、最近、男物やけど…、揚屋町の方の質屋に赤富士と夕焼け雲が刺繍された白い着流し出てたなぁ~…、中に白い腹掛け着せさせて、ニシキちゃんが着流しの上半身脱いで舞ったら…、良い感じに成るて思わへん?着せてみな合うか分からんけどw」と相変わらず突拍子も無い発想を口にしてくれる。茶屋の店主も「着流しと腹掛けですか…買って来させましょうw」と乗り気に成って、私の貸し出し契約が成立したらしい。
こうして私は、家に帰る事も出来ず。そのまま茜様と引手茶屋の主人、幇間役の男芸者の太夫に、揚屋へと連行された。
何時も商品を納品しに行く揚屋町には存在し無い揚屋に辿り着くと、そこには何故か、ユメ姐さんの姿があった。私も驚いたが、ユメ姐さんの方がもっと驚いていた。まぁ~そりゃそうだろう…、塗りの職人が、揚屋と言う場所…、直接、娼家に行く事が憚られる貴人や上流階級の客…、格子太夫以上の上流遊女を指名する者が利用する場所に…、茜様や引手茶屋の店主に連れられてでも、正面から来る事自体が、有り得ない事なのだから……。勿論、揚屋の主人も驚いていた。
茜様は、そんな事を気にする事無く「ユメちゃんも居たんやw丁度ええわww」と笑い「太夫と一緒に、ニシキちゃんに揚屋の立ち回り教えたってやw」と、ユメ姐さんと今回の席の幇間役の男芸者に私を託す事を宣言し、揚屋の主人には「多分やけど、江戸城の池の鯉を見た事ある御仁やったら、観賞用の色物に対する粋な対応が出来る筈やw」と含みのある言葉。どうやら茜様は、揚屋の主人に[博打を打て]と言っているのだろう。
揚屋の主人は、その無茶振りに苦笑いしながら「商う物は草の種。商売は道によって賢し。新町遊郭で色物を扱う見世から来た内儀の提案、今回も頂きましょう。」と言った。どうやら賭る御様子だ。
後の事は、流れ作業。私はユメ姐さんに服を剥かれ、糠で洗われ、良い匂いのする軟膏の様な物を紅い肌に塗られ、他の女性陣が島田髷等の日本髪を結う中、私だけ髪を後頭部で一本に縛られ「支度の仕方を覚えなんし」と、眉の形を整える為に毛抜きで抜かれて涙を滲ませ、[花の露]なる化粧水や[江戸の水]なる物を顔や首に塗られ、色物では無い姐さん達に「気味悪い程に白いんに、いるんやろか?」と言われながら薄く白い胡粉を塗られて、茜様が提案する姿へと仕立て上げられた。
その直後、取り敢えずで白い岡足袋まで履かされて実演させられた舞の方は、親の大きな仕事が終わる度に他の職人の前で舞って見せていたから、少し仕草の手直しを受けて合格。その合格を得て一安心。ちょっとした油断で腹を鳴らし、茜様に「着てるもん汚したらアカンよ」と忠告され緊張しながらも、「何年振りだろう…」と呟きながら、白い御飯と具の入った味噌汁を食べさせて貰った。
そうして[傾奇者]と言われている御客様が来る時間まで、色物部隊と呼ばれる金髪やら青目の姐さん達に預けられ…、簡単な所作を更に習う……。ぶっちゃけ、姐さん達、同じ日本語を喋ってる筈なのに、所々で何を言ってるのか意味不明。姐さん達が言う。綺麗な動作も、何が綺麗なのか?訳が分からなくなってきた。…が、しかし……。取り敢えず、姐さん達のを真似る事で事無きを得る方向で、ぶっつけ本番。花魁道中が到着するまで持て成すのが仕事だ。
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