次期君主は山猫を飼い慣らしたいらしい

mitokami

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No03 次期君主は山猫を飼い慣らしたい

020 山猫の住処

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 何時も月経の間、寝泊まりに行っている妓楼の者達を人質にされ、後宮に商品を持って行って2泊3日、後宮から逃げ出したシャンマオが、馴染みの妓楼のある花街に戻ると[花街で有名な妓楼の老板娘を指名する客、パルスィー系の行商人山猫シャンマオと言う名の青年]への『後宮での仕事を準備して御待ちしています』メッセージが、指名手配犯さながらの似顔絵付きで、掲示板に貼り出されていた。のだが…、何時も適当に軽く巻いているターバンをストールの様に巻き…、不揃いな髪を纏めず、そのまま靡かせ…、売り物の化粧品で妓楼の老板娘おかみ仕込みの化粧をしただけで…、誰にも気付かれる事無く…、妓楼に来て、普通に滞在できてしまっていた……。

「何でバレないのかしら?シャンちゃん…何時もの様に妓女や禿を侍らせて琵琶弾いてるのに…」と今日、月の物の為、御茶挽きに来ていた妓楼の姫が、琵琶を奏でるシャンマオの髪を綺麗に結い上げながら不思議そうに茶飲み客を眺めている。
「ホントにな…、私も老板娘おかみに琵琶を弾けって言われた時は、バレんじゃね?って思ってたよw」
「おや?私の言う事を疑ってたのかい?シャンちゃんwま、世の中、そんなモンなのさww私が言った通りに成ったろ?見目を変えて堂々としてたら分かんないモノなんだよw」
シャンマオは妓楼に滞在した、この3日間、琵琶を弾く事で茶屋部門の売り上げに貢献し、ジエンの弟、面識がある筈のドウンは勿論、長く付き合いのある2人、ドウンの部下であり、シャンマオに取っての剣と体術の師匠であるハオシュン&ハオユーの目も誤魔化して妓楼を後にする。

 シャンマオは何時もの様に、薔薇水と香油の香りを強めに身に纏い。今回は、購入時に身元がバレる事を恐れ、何時もと別のルートで鳥達への土産の[肉]を何時もより少なくしか購入する事しか出来ず。女の格好をしたシャンマオを狙う不届き者を山へと導き、土産と一緒に鳥の餌にしてしまう事にする。幼鳥を抱えた鳥達は御馳走に喜び、シャンマオを何時も通り歓迎して、シャンマオが廃村の家に安全に帰れる様に護衛を務めてくれた。

 その道程で…、禁止されたとは言え、鳥葬で誰かを天に送りたかったのであろう…乗車していた者達が襲われ食われた痕跡のある葬儀用の馬車を何台か見掛ける……。
シャンマオ以外の人間が住まなくなって15年経過した山は自然に帰り行き、今では廃村も、そこまでの道程も、神殿も沈黙の塔も大分と朽ち果て、地味に森に飲まれ、山の獣の気配を強く感じる場所へと成り代わっていた。後、数年もすれば…、その地へシャンマオが帰る事も難しく成る事であろうし…、その前に、古くなった石造りのシャンマオの家が崩れ去り…、帰る場所の方が先に無くなる可能性も少なくない。

 だから、帰るなり…シャンマオは一人で、何時、最後に成るか分からない作業を開始し、愛惜しむ様に庭の薔薇の花弁だけを丁寧に摘み、摘み立ての花弁で、この場所でしか作れない薔薇水と香油作りに精を出す。妓楼の場所の水や、妓楼に持って行った苗で咲かせた花では、同じ物が作れないからだ。それに、ココに存在するガラス製の機材の寿命も長くはなさそうだった。もう少し早い段階で買い換えられたなら良かったのだが…、買えるだけの収入を得る事が出来る様に成った頃には…、重く大きく割れやすい硝子の機材を運んで廃村まで来る手段が失われていた……。それでも、持って来れる物は買い換え、駄目にならない様に気を配っている。

 作業が一段落し、後は時を待つだけと成るとシャンマオは、中庭で水浴びと洗濯をし、今度は弱めに薔薇水と香油の香りを身に纏い、離れにある雨漏りがする様になって使わなくなった自室へと足を向ける。そこは嘗て、双子の兄シーツーと一緒に寝起きしていた部屋だった。今では、屋根も壁も一部が崩れ落ち、中庭から伸びた薔薇が枝葉を伸ばし、大輪の花を咲き誇らせている。
そこだけは他の場所よりも囲われている為、薔薇そのままの香りが、その場を満たしていた。シャンマオは臭気を逃さぬ様に扉の開け閉めを最小限に止めて部屋に入り、その場で深呼吸し、一瞬、追憶の中に心を飛ばす。今は違うのだが…、幼き日…一緒に育った双子の兄であるシーツーは…、自分と同じ物を身に付けているのに、シャンマオとは違って、コレに近い香りを纏っていたからだ……。戻らぬ幸せな日程ひほど、恋しくなり、その欠片でも求めてみたくなるモノだ。
シャンマオは嘆息し、過去を振り切る様に花弁を摘み取り、後は待つだけの抽出作業続行中の母屋へと戻って、新たに摘んだ花弁を水の入った瓶に詰め、鍋の湯へ放り込み、家にある本を読みながら残された有限の時に身を任せるのだった。
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