学園乙女ゲーの悪役令嬢に転生したので、お助けキャラだった推しとくっつくことにする

しがないみかん

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3.袋小路にはまる

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「逃がしちゃった、って……どうして?」
「いや、違くて!逃がしちゃったっていうか! その、朝早く学校に着いちゃって、散歩してたら裏手にいたあの犬に会ったんだよ」

海斗は気まずそうに指先を擦り合わせながら弁解している。

「それで、理事長さんに散歩させていいって言われて、校内を散歩させてたんだけど……、リード、離しちゃって……」
「それを逃がしちゃったと言うんですのよ」

私がぴしゃりとそう言うと、海斗はうなだれた。流石にドーベルマンを捕まえるのは一筋縄ではいかないだろう。ここが主人公の日和なら捕まえるのを手伝ってやったのかもしれないが、生憎私にはそんなことをしている暇はない。

「素直に理事長に言ったらどうなんですの? 1人では到底捕まえられませんよ 」
「そ、そうだけど……理事長に言って、もし怒られて特別クラスから外されでもしたら……」

そんなことで特別クラスから外さないと思うが、まあわからない。なんせ祖父は道端で助けてもらっただけで特別クラスへの入学を許可するような人である。つまり相当な気分屋だ。私もろくに会ったことはないが、可能性はゼロではないだろう。

「ね、お願い! 一緒に捕まえて! なんでもするからさ」
「はあ!? あなたねえ、誰が出会ったばっかりの人間にそんなことしてやる……」

そこまで言って、私ははっと口をつぐんだ。
よくないよくない。今のセリフ、ちょっと悪役令嬢っぽかった。ただでさえ顔がいかにもな高飛車お嬢様フェイスなのだから、できるだけ反抗的な態度は取らない方がいいだろう。
しかも、今なんでもすると言った。……もしかしたらここで恩を売っておいたほうがいいかもしれない。
私の知っている竜宮海斗は約束を破るような性格のキャラクターではない。むしろ恩返しは絶対にしてくれるタイプだ。
ここで助けておけば、まるで竜宮城に連れていってくれた亀のように、いつか役に立つはずだ。

めざせ浦島太郎!私は平和な学校生活を過ごし、推しとくっつくのが目標なのだ。そのために使える駒はなんでも使ってやろう。

「……わかりました。手伝いますわ」

正直ドーベルマンなんて2人で捕まえられるものだとは思わない。だが、入学式の開始まではあと30分もある。ゆとりをもって登校していてよかった。

「やったー!!いや、本当にありがとう、あー、えっと……何さんだっけ」
「西園寺玲香。あなたと同じ特別クラスの生徒ですわ」
「えっ、同じ特別クラスなの!? 俺は竜宮海斗!よろしくね」

こちらはもう名前を知っているので、改めて挨拶されるのも変な感じだ。こっちは海斗の家族構成や好きな食べ物のゲーム内で把握しているというのに。
というか、特別クラスの生徒は制服のネクタイやリボンの色が違うのですぐにわかるはずなのだが。

海斗から自己紹介を受けたところで、私は噴水のそばに座り込んでいるドーベルマンを見る。
犬なんて飼ったことすらないし、そもそもゲームの中でもジュリアは飼い主である理事長と主人公にしか懐かなかったはずだ。
だが、ジュリアと私はこれが初対面である。ゲーム内で嫌われていたのはストーリーで描写されていないところで嫌われるようなことをしたからなのかもしれないし、まずは近付いてみよう。

私は噴水ににじり寄ると、できるだけ優しい声でジュリアを呼んだ。

「……ジュリア、こちらにいらっしゃい? 早く帰らないとお爺さまが心配して……」
「ガウ……グルル……バウバウバウ!!」
「ぎゃー!! いや、無理、無理ですわよこんなの!!」

声をかけた途端ジュリアにめちゃくちゃに吠えられて、私は慌てて飛び退く。お嬢様らしからぬ言葉遣いが出た気がするが、だって怖かったのだから仕方ないだろう。
ドーベルマンは大きい。立ち上がったら私の身長と同じくらいあるんじゃないだろうか。

「よし、わかった。……あそこ見て。校舎の横、行き止まりになってる場所があるだろ?」

海斗にそう言われて見ると、確かに校舎の陰はフェンスで囲まれて行き止まりのようになっている。
かなり遠いが、行き止まりに追い込めば確かに捕まえられるかもしれない。
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