3 / 5
3.袋小路にはまる
しおりを挟む「逃がしちゃった、って……どうして?」
「いや、違くて!逃がしちゃったっていうか! その、朝早く学校に着いちゃって、散歩してたら裏手にいたあの犬に会ったんだよ」
海斗は気まずそうに指先を擦り合わせながら弁解している。
「それで、理事長さんに散歩させていいって言われて、校内を散歩させてたんだけど……、リード、離しちゃって……」
「それを逃がしちゃったと言うんですのよ」
私がぴしゃりとそう言うと、海斗はうなだれた。流石にドーベルマンを捕まえるのは一筋縄ではいかないだろう。ここが主人公の日和なら捕まえるのを手伝ってやったのかもしれないが、生憎私にはそんなことをしている暇はない。
「素直に理事長に言ったらどうなんですの? 1人では到底捕まえられませんよ 」
「そ、そうだけど……理事長に言って、もし怒られて特別クラスから外されでもしたら……」
そんなことで特別クラスから外さないと思うが、まあわからない。なんせ祖父は道端で助けてもらっただけで特別クラスへの入学を許可するような人である。つまり相当な気分屋だ。私もろくに会ったことはないが、可能性はゼロではないだろう。
「ね、お願い! 一緒に捕まえて! なんでもするからさ」
「はあ!? あなたねえ、誰が出会ったばっかりの人間にそんなことしてやる……」
そこまで言って、私ははっと口をつぐんだ。
よくないよくない。今のセリフ、ちょっと悪役令嬢っぽかった。ただでさえ顔がいかにもな高飛車お嬢様フェイスなのだから、できるだけ反抗的な態度は取らない方がいいだろう。
しかも、今なんでもすると言った。……もしかしたらここで恩を売っておいたほうがいいかもしれない。
私の知っている竜宮海斗は約束を破るような性格のキャラクターではない。むしろ恩返しは絶対にしてくれるタイプだ。
ここで助けておけば、まるで竜宮城に連れていってくれた亀のように、いつか役に立つはずだ。
めざせ浦島太郎!私は平和な学校生活を過ごし、推しとくっつくのが目標なのだ。そのために使える駒はなんでも使ってやろう。
「……わかりました。手伝いますわ」
正直ドーベルマンなんて2人で捕まえられるものだとは思わない。だが、入学式の開始まではあと30分もある。ゆとりをもって登校していてよかった。
「やったー!!いや、本当にありがとう、あー、えっと……何さんだっけ」
「西園寺玲香。あなたと同じ特別クラスの生徒ですわ」
「えっ、同じ特別クラスなの!? 俺は竜宮海斗!よろしくね」
こちらはもう名前を知っているので、改めて挨拶されるのも変な感じだ。こっちは海斗の家族構成や好きな食べ物のゲーム内で把握しているというのに。
というか、特別クラスの生徒は制服のネクタイやリボンの色が違うのですぐにわかるはずなのだが。
海斗から自己紹介を受けたところで、私は噴水のそばに座り込んでいるドーベルマンを見る。
犬なんて飼ったことすらないし、そもそもゲームの中でもジュリアは飼い主である理事長と主人公にしか懐かなかったはずだ。
だが、ジュリアと私はこれが初対面である。ゲーム内で嫌われていたのはストーリーで描写されていないところで嫌われるようなことをしたからなのかもしれないし、まずは近付いてみよう。
私は噴水ににじり寄ると、できるだけ優しい声でジュリアを呼んだ。
「……ジュリア、こちらにいらっしゃい? 早く帰らないとお爺さまが心配して……」
「ガウ……グルル……バウバウバウ!!」
「ぎゃー!! いや、無理、無理ですわよこんなの!!」
声をかけた途端ジュリアにめちゃくちゃに吠えられて、私は慌てて飛び退く。お嬢様らしからぬ言葉遣いが出た気がするが、だって怖かったのだから仕方ないだろう。
ドーベルマンは大きい。立ち上がったら私の身長と同じくらいあるんじゃないだろうか。
「よし、わかった。……あそこ見て。校舎の横、行き止まりになってる場所があるだろ?」
海斗にそう言われて見ると、確かに校舎の陰はフェンスで囲まれて行き止まりのようになっている。
かなり遠いが、行き止まりに追い込めば確かに捕まえられるかもしれない。
0
あなたにおすすめの小説
【長編版】悪役令嬢は乙女ゲームの強制力から逃れたい
椰子ふみの
恋愛
ヴィオラは『聖女は愛に囚われる』という乙女ゲームの世界に転生した。よりによって悪役令嬢だ。断罪を避けるため、色々、頑張ってきたけど、とうとうゲームの舞台、ハーモニー学園に入学することになった。
ヒロインや攻略対象者には近づかないぞ!
そう思うヴィオラだったが、ヒロインは見当たらない。攻略対象者との距離はどんどん近くなる。
ゲームの強制力?
何だか、変な方向に進んでいる気がするんだけど。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜
具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、
前世の記憶を取り戻す。
前世は日本の女子学生。
家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、
息苦しい毎日を過ごしていた。
ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。
転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。
女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。
だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、
横暴さを誇るのが「普通」だった。
けれどベアトリーチェは違う。
前世で身につけた「空気を読む力」と、
本を愛する静かな心を持っていた。
そんな彼女には二人の婚約者がいる。
――父違いの、血を分けた兄たち。
彼らは溺愛どころではなく、
「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。
ベアトリーチェは戸惑いながらも、
この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。
※表紙はAI画像です
乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが
侑子
恋愛
十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。
しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。
「どうして!? 一体どうしてなの~!?」
いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。
悪役令嬢に転生しましたが、全部諦めて弟を愛でることにしました
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に転生したものの、知識チートとかないし回避方法も思いつかないため全部諦めて弟を愛でることにしたら…何故か教養を身につけてしまったお話。
なお理由は悪役令嬢の「脳」と「身体」のスペックが前世と違いめちゃくちゃ高いため。
超ご都合主義のハッピーエンド。
誰も不幸にならない大団円です。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
小説家になろう様でも投稿しています。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
【完結】悪役令嬢の妹に転生しちゃったけど推しはお姉様だから全力で断罪破滅から守らせていただきます!
くま
恋愛
え?死ぬ間際に前世の記憶が戻った、マリア。
ここは前世でハマった乙女ゲームの世界だった。
マリアが一番好きなキャラクターは悪役令嬢のマリエ!
悪役令嬢マリエの妹として転生したマリアは、姉マリエを守ろうと空回り。王子や執事、騎士などはマリアにアプローチするものの、まったく鈍感でアホな主人公に周りは振り回されるばかり。
少しずつ成長をしていくなか、残念ヒロインちゃんが現る!!
ほんの少しシリアスもある!かもです。
気ままに書いてますので誤字脱字ありましたら、すいませんっ。
月に一回、二回ほどゆっくりペースで更新です(*≧∀≦*)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる