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4.その手に掴むのは毛
しおりを挟む「なるほど、行き止まりに追い込むんですのね! じゃあ私があそこで」
「俺があそこで待ち構えてるから、西園寺さんがどうにかこいつ追い込んでくれない……? 俺、実はそんなに犬好きじゃなくて……」
「いや嘘でしょう!? 竜宮くんが行きなさいよ、元はと言えばあなたの責任なんですからね!?」
海斗の背中をばしばし叩く。ゲーム内での海斗はもう少し勇敢だったはずなのだが、もしかしてあれは主人公にだけ見せる一面だったのか!?
流石に女子に危険な役目を任せるのは気が引けたのか、海斗は役目を変わってくれた。しかし、こんなにヘタレだとは思わなかった。
噴水のそばで優雅に毛繕いをしているジュリアを見ながら、私は後者の陰の行き止まりに入る。入学式まであと15分もない。早く掴まえてしまわないと、入学式から遅刻することになってしまうだろう。
ただでさえ私は理事長の孫として新入生代表スピーチを任されているのだ。遅れるわけにはいかない。
「よーしジュリア、あっち行けー! ほらほら!」
海斗がジュリアに向かって思い切り走り出すと、ジュリアは驚いて立ち上がり、海斗に捕まるまいと反対方向に走り出す。
よしよし、うまく行きそうだ。
私は行き止まりの奥で腕を広げて、ジュリアが飛び込んできたらすぐさま捕まえられるように立っていた。流石ドーベルマンだ、ジュリアの足は早い。
猛スピードでジュリアが突っ込んでくる。まるでバイクか何かを相手にしているみたいだ。そこで、ふと疑問が浮かぶ。
この速度で向かってくる大型犬を、私は捕まえられるのだろうか。
リードが繋がったままだからそれを掴むとしても、その後噛みつかれたり、最悪の場合そのまま引きずられたりしないだろうか? それに気付いた途端、有り得ないくらい怖くなってきた。ジュリアはもう私の目の前にいるというのに!
「ええい!」
意を決して、私はジュリアの首輪かリードを掴もうと飛びかかった。
あちこち探っているうちに紐状のものが手に触れた気がして、それを思い切り掴む。きっとこれがリードだろう。
とりあえず一安心だ。
私は立ち上がろうとするが、そのリードらしきものが突っ張って立ち上がれない。
なぜだろう。思ったより短いのだろうかと思ったが、そんなに短いリードがあるわけがない。なんだか変だ。
それにやけに短いし、なにやらもふもふしているような気が……
私は慌ててジュリアを見る。そして、私がリードだと思っていたものの正体に気付いてぞっと鳥肌を立てる。まずいことになった。
「ガル……グルルルル……」
ジュリアが恐ろしいほど怖い顔で私に向かって唸る。遠くで海斗がこちらに慌てて駆け寄ってくるのが見えた。そんなに慌てているのは、ジュリアが今にも私に噛みつきそうだからだろう。
だが、ジュリアが怒るのも仕方ない。
私が掴んでいたのはリードではなく、ジュリアの尻尾だったのだから。
ど、どうしよう!?ドーベルマンはメスでも大きい。上にのしかかられたら、すぐに退かすことは難しいだろう。
慌てている間に、ジュリアは私に向かって飛びかかってきた。
噛まれる! 逃げることなんて思いつかずに、せめて身を屈めて目を閉じる。だが、いつまで経っても予想した衝撃はやってこなかった。
目を閉じたせいで真っ暗闇の視界に、沈黙だけが響いている。
あれ? 流石に不審に思って、こわごわと目を開ける。
「……全く、どういう状況だ」
朗々と響くテノールの声。褐色の肌をした男子が、私の目の前に立ちはだかるように立っている。
目の前の男子――『ラブネス・ハイスクール』の攻略対象の一人、羽集院一季は、呆れたような顔でジュリアのリードを握っていた。
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