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六十五、
しおりを挟む広隆と秘色は再びぐえるげるの森へ向かっていた。
「でも、ときわがまだぐえるげるの森にいるとは限らないじゃない」
秘色は前を歩く広隆に声をかけた。広隆は足元の石を転がしながら答えた。
「いないかもしれないけれどな。でも、ときわが俺と同じことに気付けば、必ずぐえるげるの森に戻ってくるさ」
「どうしてなの?」
秘色は広隆の背中をみつめ目を細めた。秘色の目には広隆から明るい光が放たれているように見えてまぶしかった。かきわだった少年が広隆という少年に変わった。それが秘色には不思議だった。
「広隆はどうしてかきわではなくなってしまったの?かきわはどこへ行ってしまったの?」
秘色は不安そうに尋ねた。広隆は笑いながら振り返った。
「どこにも行ってないよ。かきわはまだ俺の中にいる。トハノスメラミコトをみつけられれば、かきわを返してやれるんだけどな」
秘色は広隆の言うことが理解出来ないと表情で訴えた。広隆はうまく説明出来ないことを歯がゆく思った。秘色を納得させられる言葉を探しながら歩いていると、後ろに付いてきていた秘色が突然立ち止まった。
「どうした?」
振り返って広隆はぎょっとした。秘色はぼろぼろ泣いていた。気丈な彼女には似つかわしくなく、不安そうに眉をひそめ幼子がするように唇を震わせて泣いていた。嗚咽の合間に小さく何かを訴えようとしているのに気付き、広隆はそばに寄って耳を近付けた。途切れ途切れに聞こえる言葉は不明瞭で聞き取り難かったが、広隆は辛抱強く秘色が繰り返す言葉に耳を傾けた。
「ときわが………ときわが、ときわも……そうだったらどうしよう」
秘色は涙に濡れた目ですがるように広隆を見た。
「そうだったらって?」
広隆は秘色の肩に手をかけて彼女の顔を覗き込んだ。秘色は堪えきれないというように広隆に抱きついた。広隆は一瞬戸惑ったが、震える背中に腕をまわして秘色を抱き締めた。秘色はしばらくの間広隆にしがみついて泣きじゃくった。広隆はその泣き声を聞きながら真っ赤になった秘色の耳を見ていた。
「ときわが、広隆みたいに、ときわじゃなくなってたら、どうしよう」
しばらくたってから、秘色はようやくそれだけ言った。
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