道産子令嬢は雪かき中 〜ヒロインに構っている暇がありません〜

荒瀬ヤヒロ

文字の大きさ
32 / 114

32、沖縄と和解

しおりを挟む





「すっごい盛り上がりでしたね!」

 マリヤが興奮した様子で言う。

 朗読会が終わり、生徒達が帰って、私達は講堂のお片づけ中だ。

「皆さんの協力のおかげですわ」
「なにが協力だ!ひとのこと脅しやがって!」

 制服に着替えたジェイソンが私に向かって吠える。

「こんな恥をかかせやがって!おぼえてろーっ!!」

 下っ端っぽく去っていった。

「俺、村人役で良かった……」
「なんで俺が女神だったんだ……」
「あーあ。疲れた……」
「絶対、いつか復讐してやるからな……」

 不良達がとぼとぼと帰っていく。

 なんだかんだと楽しんでいたくせに、素直じゃないなぁ。

「いやあ、こんなに楽しい朗読会は初めてだったよ。本当にありがとう」
「こちらこそ」

 フレデリカ様と笑顔で握手する。
 今日で何人の女の子がフレデリカ様のファンになったんだろうなぁ。

「皆もありがとう。私の思いつきで苦労させてしまってごめんなさいね」

 私は後かたづけをしているメンバーに声をかけた。監督生ではないのに、マリヤとデイビットとテッドも手伝ってくれている。

「いやあ、実に楽しかったですよ。あいつらもなんだかんだで結構やる気になっていたじゃありませんか」

 デイビッドがけらけらと笑う。

「まったくだ。こんなに楽しい朗読会は初めてだったよ」

 不意に、涼やかな声が響いて、私は慌てて振り向いた。この声は……

「と、トキオート様!」

 アルベルトが二、三年の監督生を従えて立っていた。

「三人とも、とても良い朗読会にしてくれたこと、礼を言う」
「ははぁ……」

 アルベルトは監督生代表として労いに来たらしい。
 彼の後ろで、ガウェインはふてくされたような顔でそっぽを向いている。その隣のナディアスが一歩進み出て私の前に立った。

「レイシール嬢。今日の朗読会はとても素晴らしかったです。恥ずかしながら、以前あなたに言われたことを今日ようやく理解することができました」

 そう言って、ナディアスは目を細めて微笑んだ。

「ただ詩を読ませるだけではなく、皆が楽しめるように心を砕いたあなたの努力に感服しました。どうぞ、以前の無礼をお許しください」
「はぁ……いえ、そんな。とんでもございません。私こそ、無礼なことを申しました。お許しください」

 どうやら、ナディアスは今日の朗読会を見て何か思うところがあったらしい。ガウェインはふくれっ面だが、ナディアスは謝罪してくれたので、私も素直に謝った。

「本当に、素晴らしい会でした」
「ナディアスの言う通り、とても素晴らしかったよ。朗読会で生徒達が皆あんなに楽しめるなんて思わなかった」

 ナディアスの言葉をアルベルトが引き取る。
 
「皆、本当によくやってくれた。君達が監督生になってくれて本当に嬉しいよ」

 アルベルトはそう言うと、監督生を引き連れて講堂から出て行った。お兄様が手を振ってくれたので振り返した。ジェンスは手を振ろうとしてお兄様にアイアンクローをかまされていた。

 私はほっと息を吐いた。

 朗読会は無事に成功した。ニチカの介入もなかった。フレデリカ様はかっこよかった。

 おおむね満足のいく出来映えに、私は皆と笑いあいながら後片づけに精を出したのだった。



しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」 伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。 ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。 「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」 推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい! 特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした! ※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。 サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

嫁ぎ先は悪役令嬢推しの転生者一家でした〜攻略対象者のはずの夫がヒロインそっちのけで溺愛してくるのですが、私が悪役令嬢って本当ですか?〜

As-me.com
恋愛
 事業の失敗により借金で没落寸前のルーゼルク侯爵家。その侯爵家の一人娘であるエトランゼは侯爵家を救うお金の為に格下のセノーデン伯爵家に嫁入りすることになってしまった。  金で買われた花嫁。政略結婚は貴族の常とはいえ、侯爵令嬢が伯爵家に買われた事実はすぐに社交界にも知れ渡ってしまう。 「きっと、辛い生活が待っているわ」  これまでルーゼルク侯爵家は周りの下位貴族にかなりの尊大な態度をとってきた。もちろん、自分たちより下であるセノーデン伯爵にもだ。そんな伯爵家がわざわざ借金の肩代わりを申し出てまでエトランゼの嫁入りを望むなんて、裏があるに決まっている。エトランゼは、覚悟を決めて伯爵家にやってきたのだが────。 義母「まぁぁあ!やっぱり本物は違うわぁ!」 義妹「素敵、素敵、素敵!!最推しが生きて動いてるなんてぇっ!美しすぎて眼福ものですわぁ!」 義父「アクスタを集めるためにコンビニをはしごしたのが昨日のことのようだ……!(感涙)」  なぜか私を大歓喜で迎え入れてくれる伯爵家の面々。混乱する私に優しく微笑んだのは夫となる人物だった。 「うちの家族は、みんな君の大ファンなんです。悪役令嬢エトランゼのね────」  実はこの世界が乙女ゲームの世界で、私が悪役令嬢ですって?!  ────えーと、まず、悪役令嬢ってなんなんですか……?

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。

倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。 でも、ヒロイン(転生者)がひどい!   彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉ シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり! 私は私の望むままに生きます!! 本編+番外編3作で、40000文字くらいです。 ⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

処理中です...