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第95話
***
「ああああああっ!!」
絶叫したパメラの胸から、赤い煙が吹き出した。
それは夜空に立ち上り、たちまち一匹の赤い蛇になる。
呆気にとられるレイチェルの前で、赤い蛇は悔しそうに唸り声をあげ、身を捩らせた。
「ああああ、忌々しい、忌々しい! 私を追い出すなど!! この小娘!!」
憎々しげに吠えながら、赤い蛇は炎を吐き散らした。
「レイチェル!」
ヴェンディグがレイチェルに駆け寄り、炎から彼女を庇う。
「シャリージャーラ!」
ナドガが暴れるシャリージャーラに向かっていき、その背に噛み付いた。王国中に聞こえるような恐ろしい絶叫が響き渡り、赤い蛇が黒い蛇に絡みつく。
「おのれおのれ! 死に損ないの分際で!! 殺してやる殺してやる殺してやる!!」
二匹の蛇が、夜空を背に噛み付き合い、絡み合う。
あまりにも恐ろしい光景に、王宮の周りにいた人々は身を竦ませた。国王も王妃も、王宮の窓からその光景を見て茫然とした。
「兄上!」
離宮の近くに控えていたカーライルは騎士達を連れて駆けつけた。
「兄上と侯爵令嬢を安全な場所へ! 怪我人も運べ!」
王太子の命令が飛び、騎士達は頭上で繰り広げられる死闘に怯えながらも、自らの役目を果たそうとする。だが、怪我を負っているダニエルは騎士の手を振り払って手を伸ばした。
伸ばした先には、地に倒れたパメラがいる。
「パメラ……」
ダニエルは這うようにしてパメラに近寄った。
長い間、シャリージャーラの宿主となっていたパメラの肉体は、もう指一本も動かせないほど衰弱していた。疲弊した魂は、今にも消える寸前で、それでもパメラは、ダニエルの声に応えてうっすらと目を開けた。
「ダニエル……ごめんね……」
力無い声で、パメラは謝った。
シャリージャーラの支配から解放されたパメラは、これまでの自分を思い返した。
すべてに絶望したあの日、助けてくれると囁く声に縋り付いた。それからずっと、酷いことをしていた。周りの人々を苦しめ、ダニエルさえも傷つけて。
だけど、これまでの行いを反省して心を痛めても、あの時、シャリージャーラを受け入れたことだけは、後悔できなかった。だって、あの時、パメラには他に何もできなかったから。
たとえ、騙されていると、他の人間を傷つけてしまうと知っていたとしても、きっと、パメラは受け入れてしまったと思う。
そんな自分を酷い人間だと思うし、ダニエルに申し訳なくて、パメラの目に一筋の涙が伝った。
「ごめんね、ダニエル……私、自分だけ不幸なのが嫌だったの……こんな私のこと、嫌いになっちゃうと思うけど……」
パメラは最期の力を振り絞って、ダニエルの方へ首を傾けた。
「もし……もし、今、お願いしたら……また、私と友達になってくれる?」
その言葉に、ダニエルはパメラの手を取ると、強く握り締めて笑いかけた。
「何言ってる? ずっと友達だっただろ。今までずっと」
ずっとずっと、幼い頃から、たった今まで。
ずっと。
そう伝わるように、涙をこらえて笑いかけた。
「ずっと、ずっと、俺達は友達だよ。パメラ」
パメラは涙を流しながら、嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう……」
そう言うと、パメラは静かに目を閉じた。握った手が力を失っても、ダニエルはそのままパメラの傍らで手を握り続けていた。
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