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朝
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彼にとってはなんてことない部屋が、空気が、私にとってはきらきらぴかぴか、光ってみえた。カーテンではなくてブラインドをつけて、夜日が沈んでいくのを感じ、朝は眩しい光で目を覚ます。強い光の刺激で目は細まる。少しずつ光に慣れて瞼をゆっくりと離し、起き上がると私がいるベッドの横で仕事の支度をしている彼の姿。きらきらぴかぴか、強い光は彼かもしれない。そんなことを思いながら立ちあがると彼が振り向き「あ、起きた?おはよう、」と優しい、そう、焼きたてのサブレクッキーみたいにほろっとした口調でそう言った。「おはよ、今日は何時に家出るの?」「あと10分後には。」「そっか、」そう言うと私は浮腫んだ脚を動かして洗面所に向かった。鏡の前にはブリーチして傷んだぼさぼさの髪の毛とまたも浮腫みまくっている目やにの付いたまだ眠くて目もまともにひらかれていない冴えない顔。できれば髪の毛もさらさらに梳かして、せめて洗顔した最小限の清潔感を保った上で彼とは話したいものだが、そうもいかないのが私だ。トイレを済まし、水で顔を洗い歯ブラシに歯磨き粉をつけ部屋に戻った。またベッドに腰かけ歯を磨きながら仕事の支度をしている彼をぼんやりとみる。化粧水を塗って日焼け止めとBBクリームを塗ってパウダーぽんぽんして…大変だなぁと思う。彼は美意識が高く、男性にしてはスキンケアや服装にこだわりをもっている。私にはよく分からない成分配合について長々と語る時があるが、私はそれを楽しそうに話している彼をずっと見ている。話は全く入ってこない。あ、トラムキサムサン、は覚えた。虎向きサムさん、誰だろう。虎に強いひと?そんなことを考えていたら彼がケアグッズを片付けていた。急いで洗面所に向かい口の中の泡を吐き出す。すると後ろから彼がやってきて某整髪料を巧みに使いこなし、最後の仕上げをはじめた。「今日は遅くなるかも、帰ってきたらTSUTAYAでも行く?」「いいね、行こ。」彼の飼い犬のぷぅちゃんを撫でながらそんな会話をする。彼が髪を整え終え、キッチンに行ってサプリを飲んでいる間に私は口をゆすぎ髪を梳かして纏める。2人玄関に向かい靴を履いた彼と抱きしめ合いキスをする。たった半日でも彼がいない時間はとても長く感じてしまうから半日分のハグとキス。彼は笑いながら毎回受け入れてくれる。そろそろ行かなきゃね、と言って遅刻するわけにもいかないので私も観念して彼から離れる。「早く帰ってきてね」「がんばる笑行ってくるね」「気をつけて、行ってらっしゃい」鍵をかけ、水を飲みにキッチンへ行く。ぷぅちゃんはそそくさと自分の定位置に戻り丸まっていた。水を片手に部屋に戻ると彼の部屋着や私がぐちゃぐちゃにしたベッドの布団、昨日したカードゲームが散らばっている。少しだけ片付けてテレビとPS4の電源をつけ、前TSUTAYAで借りたまだ見ていなかったDVDをみる。綺麗で、でもどこかが削がれるような作品だった。私は語彙力も表現力もないからそれとしか言いようがないのが悲しい。気分を変えようとネトフリで好きな俳優Tが出ている映画をみた。めんどくさい役柄が多いけれどそれが似合う。俳優Tを好きになったのは彼と付き合いだしてから。理由は彼とTがそれとなく似ている気がするから。よく見たら多分似てないし友達に言っても???という反応しかされないからもう言わないけれど。でも彼の働いているカフェのお客様からTに似てるね!と言われたこともあるらしいので多分ちょっと似ているのだろう。本人は嫌がってるけれど私は好きだよ。
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