少年プリズン

まさみ

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百九話

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 「で、なんでおまえは俺の隣歩いてるんだよ」
 「自意識過剰だな。目的地が同じなら必然的に一緒の方向になるだろう、好悪の判断はおいといて」
 相変わらず一言多いメガネだ。
 本人いわく偶然俺と一緒に歩くことになった鍵屋崎の横顔を見てこっそりため息をつく。東京プリズンに来てからの半年で多少は背も伸びて心身ともに逞しくなったらしいが俺に言わせりゃまだまだ甘さが抜けきってない。もっとも身長に関してはひとのことは言えないが俺の場合まだまだ伸び盛りで将来的有望性が見こめる、と主張しときたい。
 ポケットに手を突っ込んで中央棟へと続く渡り廊下を歩きながら隣を歩く鍵屋崎をなにげなく観察。銀縁メガネがよく似合う清潔で無機質な容姿にひんやりと拒絶的な雰囲気を漂わせてるのは相変わらずだが、東京プリズンに来た当初より人当たりは幾分柔らかくなった、気がするが考えすぎかもしれない。
 もっとも鍵屋崎の場合人当たりがよくなったという好意的な評価の根拠は「他人が半径50センチ範囲内に接近しても露骨に不快感を表さなくなった」とか「汚い物でも払うように手を振らなくなった」とかでしかないのだが。半面、ひとのプライドをぎたぎたに切り裂くことにかけては天才的な毒舌にはますます磨きがかかっている。
 下心を抱いて無防備に接近しようものなら寸鉄人を刺す毒舌で手酷く釘をさされるのは必至、実際好き好んでコイツとダチになりたいと思う物好きはいないだろう。
 サムライはどうだか知らないが。
 半年前、食堂ではじめて会った時は成長期途上で脆弱な印象を拭えなかった細身の体躯も連日の肉体労働の成果か骨格がしっかりしてきたらしい。発育不良のモヤシが発育良好なモヤシぐらいには成長した。それでも同年代平均と比べて華奢なことに変わりない、筋肉が付きにくい体質らしく囚人服につつまれた四肢は軟弱に細っこいまんまだ。
 なんとなく、タジマや凱やその他の囚人がコイツを目の敵にしたくなる気持ちも察しがつく。 
 いつでも泰然自若、冷静沈着に落ち着き払って取り澄ました表情をくずさない鍵屋崎を見てると劣等感を刺激されるのだろう。眼鏡越しにひとを観察するような奢り高ぶった視線が気に食わないとか、どんなに陰湿な嫌がらせを仕掛けても泣きもしなけりゃ怒りもしない可愛げない態度が癇にさわるとか奴らにも手前勝手な言い分があるんだろうが、凱やタジマがどんなに鍵屋崎に目を付けていたぶったところでてんで相手にしない鍵屋崎のが一枚も二枚も上手だ。
 次元が違う微生物でも見下すような氷点下のまなざしで突き刺されるたびに奴らの劣等感は積もりに積もり負のエネルギーが蓄積されてくのだろう。
 悪循環だ、本当に。
 「ロン」
 突然名前を呼ばれ、不躾に横顔を見つめていたのがばれたのかと内心焦った俺に向き直り、鍵屋崎がひどく真剣な顔で口を開く。
 「聞いてもいいか?」
 「俺に?」
 鍵屋崎が俺に聞きたいことなんて想像もつかない。というか、コイツが疑問に思うことなんて難解すぎて俺に答えられそうにない。おそるおそる問い返した俺の脳天からつま先まで視線を上下させた鍵屋崎が生真面目な表情はくずさずに質問する。
 「これは他意のない仮定だが、身内に手紙を書くとき君なら何を書く?」
 ……喧嘩を売ってるのだろうか?
 一瞬かなり本気で皮肉と受け取って気分を害したが、鍵屋崎の表情をすみずみまで観察して考え直す。俺にだれからも手紙が来ないことを承知の上でこんな婉曲な質問をしたとはおもえない、おそらく鍵屋崎は本心から疑問を述べたんだろう。なんでいきなりこんなことを聞いてきたんだかわからないが冗談を言ってるような感じでもないし、愚直に思い詰めたような目の光に情をほだされて考えこむ。
 「身内に手紙書いたことなんかねえからわかんねえけど元気してます?風邪ひいてませんか?とか、自分の近況とか……」
 「発想が貧困だな」
 「待て、自分から聞いといてその言い草はなんだ」
 嘆かわしげにかぶりを振った鍵屋崎を張り倒したい衝動を拳を握り締めておさえこむ。コイツ、だれかに手紙でも書こうとしてんのか?だったら素直にアドバイスを乞えばいいのにとことんひねくれてやがる、まあ素直な鍵屋崎なんて気持ち悪いだけだが。鍵屋崎の澄ました面を殴り飛ばそうとしたこぶしを開閉、視線を天井にむけて考えこむ。
 「お前本好きだろ。だったら最近読んだ本のことでも書けばいいんじゃね?」
 頭を働かせるのに嫌気がさし、なげやりに言い放った俺の顔を虚を衝かれたように見つめていた鍵屋崎の目に「その手があったか」という理解の色がともる。頭のいい奴に称賛のまなざしを注がれるのは気分がいい、自分まで頭がよくなったような錯覚をおぼえるから。頭の後ろで手を組んで上機嫌に鼻歌をかなでていたら渡り廊下の終点に辿り着く。
 ここからさきは中央棟だ。
 鼻歌を止め、若干気を引き締める。ここからさきは東西南北四つの棟の囚人が集結する無法地帯だ、いつだれにどこから襲われても対処できるように周囲に隙なく目を配っといて損はない。一歩中央棟に踏み込んで周囲の空気が俄かに殺気立ったのを肌で感じ取ったのだろう
鍵屋崎が不審げに眉をひそめる。中央棟の廊下をふたり並んで歩いてると東棟では殆ど見かけない黒い肌や白い肌の囚人とすれちがう。廊下の上空をかまびすしく飛び交うのは韓国語中国語英語ヒンドゥー語がごっちゃになった混沌の雑音。俺の耳で聞き分けられたのは以上四つが限界だが他にもさまざまな言語が混ざってるらしい、試しに鍵屋崎を振り仰ぎたずねる。
 「何ヶ国語わかった?」
 「十三ヶ国語」
 さして自慢げでもなく、それ位聞き分けられて当然だといわんばかりにさらりと答えた鍵屋崎に閉口する。東京プリズンは無国籍化した二十一世紀日本の悪しき象徴、退廃と冒涜がはびこる人種の坩堝だと再認識する。かって知ったる廊下を歩いて視聴覚ホールに到着。先着の囚人が黒山の人だかりを築いた最後列から背伸びして室内の様子を窺えば正面の巨大スクリーンが目に入った。
 「行くぞ」
 人ごみに揉みくちゃにされて身動きとれなくなってる鍵屋崎に無造作に顎をしゃくり、頭を屈めて押し合いへし合いしてる囚人の脇をくぐりぬける。囚人に通せんぼされて立ち往生してる鍵屋崎なんかに構ってられない、いくら俺がお人よしでも面倒見切れないことはある。鍵屋崎を見捨てて視聴覚ホールに足を踏み入れた俺は所在なげにあたりを見回す。悠に二百畳の面積はあろうかというだだっ広い部屋だ。 四囲の壁は一点の染み汚れもない白い壁紙で統一されていている。衛生的といえば聞こえはいいが清潔なだけが取り得の殺風景な部屋だ。天井がプラネタリウムのように開放的に高いせいか、房の低い天井を見慣れた身には妙に落ち着かない。月一恒例の映画鑑賞会には正面のスクリーンに政府の検閲を無難にパスした退屈な映画が上映されだだっ広いホール全体にぎっしりとパイプ椅子が並べられる。
 だが、現在パイプ椅子はない。在るのは空虚な面積を誇る無菌のホールだけ。
 「おれの名前あった?」
 「自分でさがせよ」
 「やった、レッドワークに昇格っ」
 「くそっ、レッドワーク落ちか!なにが悪かったんだよ畜生、ブルーワークの便所掃除サボったからか?」
 「便所ブラシでちゃんばらごっこしてたのバレたんじゃねえの」
 「畜生っ、イエローワーク落ちかよ!!」
 「いい気味だ、いちから出直してこい」
 「砂漠で干からびて死ぬんじゃねえぞ」
 「タマまで萎れたら悲惨だよな」
 下卑た哄笑、世を呪う悪態と我が身の悪運を喜ぶ歓声、それに被さるのは野次と揶揄。視聴覚ホールの前方に殺到した囚人の後列からつま先立ってスクリーンの掲示に目を馳せたがこの距離からじゃどこに俺の名前があるかわからない。右から「ブルーワーク」「レッドワーク」「イエローワーク」の順で各囚人の振り分け部署が発表されてるが生憎と東京プリズンの収容人数は半端じゃない、芥子粒大の字がずらっと並んだ中、一体どこら辺に自分の名前が埋まってるか見当もつかずに途方に暮れる。
 もうちょっと近寄らなければ名前を探すこともできないと果敢に人ごみをかきわけて前進、「押すなんじゃねえガキっ殺すぞっ」という脅迫の文句を聞き流して最前列に転がり出る。
 さて、俺の名前はどこだろう。
 わざわざ捜すまでもなくイエローワークには違いないとあたりをつけて左端を重点的に捜すが一向に見当たらない。おかしい。新規部署発表は囚人番号→名前の順番で掲示されるはずなのに、目を皿にしてイエローワーク配属の囚人の名前を確認してっても俺の名前どころか囚人番号も見当たらない。
 まさか、レッドワークに昇格できたのか?
 入所一年半の苦労が報われて、砂漠での働きと井戸を掘り当てた功労が認められて、晴れてレッドワークに上がることができたのか?
 まさかそんなと冷静に自戒する気持ちとついにやったと早合点した高揚感とがせめぎあい心臓の鼓動が高鳴る。緊張と期待で乾いた喉を唾で湿らし、頭の芯が甘美に痺れてくるような鼓動を耳裏に聞きながらレッドワークの囚人名へと視線を移す。
 上から下へと視線をすべらせてくにつれ高鳴る一方だった鼓動が沈静化し、頭の奥で急激に膨張した不安感が期待感を駆逐してゆく。 
 俺の名前はない。
 レッドワークにも見当たらない、ということは残るひとつ、ブルーワークだろうか?まさか。昨日班の連中が噂してたようにイエローワークから一足とびにブルーワークに昇格するなんてのは異例中の異例の事態で東京プリズンじゃ滅多に起こらない。サムライは長年勤勉に勤め上げた功績を認められてブルーワークへの大出世を成し遂げたが俺の場合そんなことはありえない、そりゃ俺だって私語を慎んで真面目に働いてきたが、でも……
 待てよ。あながちそうとも言い切れない。
 俺は昨日イエローワークで偉業を成し遂げた、草一本生えず、水一滴沸いてない不毛の砂漠でオアシスを掘り当てるという前代未聞の偉業を達成したのだ。その功績を認められて一挙にブルーワークに昇格、という奇跡みたいな幸運が俺の身にふりかからないとどうして断言できる?
 汗ばんだ手でズボンの生地を握り締め、生唾を飲み下す。  
 しゃちほこばった体にかすかな震えが走る。悪寒ではない、武者震いだ。まさか、ひょっとしたら。そんなことはありえないと頭の片隅で全力で理性が叫ぶのに、俺はそれを信じたがってる。
 俺が今までやってきたことは無駄じゃなかったんだと、決して無意味じゃなかったんだと。
 ようやく、本当にようやく俺がやってきたことがだれかに認められたんじゃないかって。
 「………よし」
 肩を上下させ大きく深呼吸、上着の胸を掴んで喝を入れる。長いこと確認する決心がつかずに固く閉じていた目をこじ開け、殆ど狂わんばかりに一途に祈るような気持ちで正面のスクリーンを仰ぐ。
 上から順に囚人の名前を確認。
 囚人番号11927柳、12816ケビン、12906パク、12978……
 「………やった、ブルーワーク昇格だ!!」
 天に高々と拳を突き上げて快哉を叫ぶ。
 その声で現実に引き戻されて横を向けばブルーワーク昇格が確定した囚人が歓喜の涙に咽んで万歳三唱していた。やっかみ半分称賛半分、「よかったな」「この野郎」と仲間に小突かれながら歓喜の絶頂で笑み崩れてる囚人から大画面のスクリーンへと顔を戻し、呟く。
 「ない」
 
 ない。ブルーワークにも名前がない。
 その事実が四肢に染み渡って思考野に達するまでに、俺は石になった。

 手足がスッと冷えてゆく。
 五感が閉じ、視野が狭窄してゆく。心臓の鼓動が銅鑼のように頭蓋裏で響き渡り耳小骨を震動させる。内耳の平衡感覚が狂い足がよろけて二歩後退、背後に突っ立ってた囚人と接触して「邪魔だよ」と突き飛ばされる。危うく尻餅をつきそうになり、寸でのところで立て直す。萎えて崩れ落ちそうな膝に手を付いて上体を支え、悪夢の色彩をおびた眩暈に耐える。
 心臓の動悸が不整脈を生じたように異常に速まり呼吸するのも苦しくなる。絶望で暗く翳った視界を占めるのは大画面のスクリーンだ。
 俺の名前がどこにもないスクリーン。
 そんなことはない、とよわよわしく否定する声がどこからか聞こえてくる。まさかそんな、そんなことがあるわけない。俺の名前がどこにもないなんてそんなこと。目に映る現実を全否定した繰り言が無意味な言葉の羅列となって頭の中で増殖していく。自己欺瞞の現実逃避。底なしの絶望をさらに掘り下げる行為。
 スクリーンに名前が無い。その事実が意味するところはちゃんとわかっていた。
 わかっていたが、認めたくない。認めたくない。だって、ありえないじゃないか?俺はこの一年半一生懸命やってきた、手にマメを作ってマメが潰れても弱音を吐かずに地道に穴掘りを続けてきてようやく昨日その苦労が報われたばかりだというのに。
 スクリーンに公表されてる囚人名はブルーワーク、レッドワーク、イエローワークの三部署に限定される。そうだ。部署が一つ欠けているのだ。東京プリズンの汚辱にまみれた暗部を一手に担うあの部署が。
 「僕の名前がない」
 「!」
 鞭打たれたように隣を見ればいつのまにか鍵屋崎が来ていた。囚人の人だかりを半ば強引に突破してきたのだろう、格闘の痕跡を残した囚人服は皺くちゃに乱れて額には薄く汗が浮いていた。イエローワークからレッドワーク、レッドワークからブルーワークへと俺と同じ順番で名前を確認していた鍵屋崎が純粋な疑問の色に染め上げられたまなざしをむけてくる。
 「おかしい。全部の名前を確認したが、囚人番号も名前も見当たらない」

 笑いたくなった。
 いっそ本当に笑えたらどんなによかったろう。
   
 「鍵屋崎」
 顔が不自然に強張り、悲痛なひきつり笑いが浮かぶ。傍から見た俺は泣き笑いとしか形容しがたいこっけいな顔をしてることだろう。いまだ状況が飲み込めずに眉間に皺をよせてる鍵屋崎の肩を両手で掴んで振り向かせれば、本人は至極迷惑そうな顔をした。が、いつもそうするように即座に手を振り払おうとしなかったのは俺の顔を直視してしまったからだろう。
 俺の顔。希望を根こそぎ取り上げられて涙も枯れてもう笑うしかない状況なのに、肝心の笑顔がどうしても浮かべられない。 
 出来損ないの笑顔。
 鍵屋崎の肩に指を食い込ませる。強く強く、もっと強く。鍵屋崎が苦痛に顔をしかめるのを無視して、気付かないふりをして。そうでもしなければ支えを失った俺自身がその場に崩れ落ちてしまいそうだったから、底なしの泥沼に沈みこんで二度と這い上がってこれない危機感に襲われたから。
 
 足もとには地獄が口をあけて待ち構えてる。
 もっと早く気付けばよかったのに。

 「いいか、よく聞けよ」
 自分の声を自分の声じゃないように聞く。実際俺の声じゃないみたいだ、こんなみっともなくかすれた声、女々しく震えた情けない声、俺が知ってる俺の声じゃない。
 本当はこんなこと言いたくない、鍵屋崎にだって聞かせたくない。
 でも、知らせておかなければ。コイツに覚悟させておかなければ。
 「これから房に帰ってしばらくしたら看守がやってくる。何分何十分、ひょっとしたら何時間後かわからないが必ず今日中にやってくる。そいつが持ってるのは黒い紙だ、妙に薄っぺらくてたよりない手応えの四角い紙。その紙を手渡されたら、」
 事態の推移と俺の豹変に全くついていけてない鍵屋崎が理解不能といった顔をするのに胸が締め付けられる。
 言いたくない。
 言いたくない。
 でも、言わないわけにはいかない。逃れることはできないのだから、どのみち知らずに済ますことはできないのだから。
 もう、手遅れだ。後戻りなんかできっこない。
 「……その紙を手渡されたら、中を開けろ。たぶん数字が書いてあるはずだ。1か2か3かそれはわからない、わからないけど……」
 「一体全体どうしたんだ、きみは少しおかしいぞ」
 当惑を極めた鍵屋崎の肩を砕けそうなほど力をこめて握り締め、切羽詰った口調で念を押す。
 「どの数字が書いてあっても、絶対に首を吊るなよ」
 俺を残して首を吊るなよ。
 言外にそう脅迫して鍵屋崎の肩を乱暴に突き放す。よろけて二歩後退した鍵屋崎が俺に抗議するのも忘れて目を見張ってる。自分がおかれた悲惨きわまりない状況なんかこれっぽっちもわかってない平和な面を見るに耐えかね、物問いたげな視線を断ち切るように踵を返してその場を走り去る。
 群れた囚人を突き飛ばし突き飛ばし肘打ちを食らわせ脛を蹴り上げる。
 背中に浴びせられる罵声も罵倒もなんら意味を成さない、俺には関係ない世界のことだ。無茶苦茶に暴れて人ごみを突っきったせいで視聴覚ホールの外に転げ出たときにはひどい有り様だった、髪はぐちゃぐちゃにかきまわされて揉みくちゃにされた服は盛大に乱れ、のびきった襟刳りから鎖骨が覗いている。
 茫然自失の状態から夢遊病者のような二足歩行で人ごみをかきわけ廊下を進むが、半ばで力尽きた。いまだ喧騒止まない廊下の半ば、壁の表面に背中を密着させ、膝の関節が抜けたようにあっけなくずりおちる。
 頭蓋裏を満たしてるのは不規則に弾む呼吸音と荒く乱れた動悸。
 「…………………………なんでだよ」
 壁に縋るようにへたりこみ、呟く。
 
 今日は昨日よりマシな一日になるはずだったのに。
 なんでいつもこうなっちまうんだよ。

 壁際で頭を抱えて蹲った俺を不審顔の囚人が遠巻きに迂回していく。無関心に遠ざかる足音に巻かれ、膝と膝の間に頭を垂れる。
 
 俺は今日、人生何度目かの最悪のくじを引いてしまった。
 今日より最悪な明日があるなんて知りたくなかったのに、畜生。
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