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GIANT KILLING
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ピジョンがジャイアントキリングを見たいと言いだしたのは偏に彼のミーハー根性に由来する。
「ジャイアントキリングなんてご大層な名前」
「強そうでかっこいい」
「ヴァイキングの異名かよ」
そもそも最初から気乗りしなかった。あまのじゃくを地で行くスワローは、兄の発案にはとりあえず反抗を気取るスタイルだ。
ポーズだけの時もあれば本気で嫌がる時もありケースバイケース、比率は三対七ほどか。
「仲良くお手て繋いで動物園にレリゴー?ガキか」
スワローは馬鹿にしきって嘲笑する。
ジャイアントキリングを見に行こうと兄に誘われても、十代後半で難しい年頃の弟は素直に肯わない。
17歳といえば遊びたい盛り、動物園生まれのけったいな珍獣を見物するより楽しい事が山ほどある。
特にスワローは刺激に飢えている。
夜はクラブに踊りに行っては女をひっかけ浴びるように飲み、カジノ通いの挙句にスロットで派手にスるのが悪しき習慣だ。
間違っても動物園で癒しのひとときを過ごすようなキャラじゃない。
「頭ン中がお花畑通り越してハレルヤだなテメェ。娑婆じゃ毎日ケダモノ狩って週末はケモノとふれあいか、アニマルセラピーに用ねェよ、一昨日きやがれ」
「ジャイアントキリングの実物見たくないのかよ、自慢できるぞ」
「誰にだよ」
「サシャやスイートに?」
「交友範囲狭ェな」
「うるさい」
「珍獣見たってふかしてオンナにちやほやされてえのかよ、安っぽいモテたがり根性」
だらけてソファーに寝そべり、相も変わらずツレない弟を、肘掛を掴んで乗り出したピジョンは粘り強く説得する。
片手に握り締めているのはジャイアントキリングの記事が報じられたタブロイド。
「動物園まだ行ったことないだろ?アンデッドエンドの観光名所はマーダーミュージアムだけじゃない、悪趣味の謗りを受けない、殺伐としてない場所で心の洗濯しようよ。可愛い動物いっぱい、子供の笑い声絶えなくて楽しいぞ」
「女子供のキンキン甲高ェ声は大ッ嫌えだね、孤児院でクソガキ慣れした兄貴は麻痺してっけど」
「孤児院の子たちはクソガキじゃない、みんな素直でいい子だ。ヴィクがいるの忘れたのか?」
「立派にクソガキだよ」
さも心外そうに撤回を要求するピジョン。頭の後ろで手を組み寝転がったまま、スワローは鼻を鳴らす。
両脚は行儀悪く反対側の肘掛に乗り上げて、くたびれたスニーカーをひっかけた爪先がぶら付く。
「寝言は寝てぬかせ。巨人殺しなんて名前倒れもいいトコだ、ただの図体でけえ無駄飯食いじゃねえか、餌代ばかになんねーぞ」
「やけに詳しいな。実は興味津々なんじゃ」
「あちこちで特集組まれてっからいやでも目に入る。行き付けの店でも寄るとさわると巨人殺しの話題で持ちきりよ、すげー行列なんだって?俺が稼ぎになんねー立ちんぼ嫌ェなの知ってんだろ」
「寝たばこはやめろ火事の元だ、ソファーが焼ける」
「あにすんだ」
弟の口から煙草をもぎとり、馬鹿丁寧に灰皿で揉み消すピジョン。
さらに手中の新聞を広げれば、そこにはでかでかとジャイアントキリングの特集が組まれていた。
序でにぼやけた写真も載っている。紙面の写真を一瞥、すぐ関心をなくしたらしいスワローが憎たらしげに嘯く。
「そうだな、ソファーが焼けちまったらもうここで可愛がってやれねえもんな」
「ソファーでヤるのは好きじゃない、狭いし腰痛めるし」
「トレーラーハウスのベッド思い出すだろ。初めて剥いてやった夜覚えてるか、毛布にくるまってひんひんべそかいてたっけ」
「どのみちどこでも盛るだろお前、風呂場や玄関マットの上だってお構いなしだ」
「発情期なんだ。見逃せ」
「一年中じゃないか、少しはフェロモンの垂れ流しを慎めよ」
ピジョンは腕を組んでお冠だ。カルシウム不足だろうか。
スワローは億劫げに上体を起こし、兄の手から新聞紙を奪い取る。
「すげーピンぼけ。よく載ったな」
「返せ」
「俺なら別のカメラマン雇うね」
「動きが激しくて残像しか撮れなかったんじゃないか」
「ジャイアントキリングってンなすばしっこいの」
「よく知らない。だから見に行こうって誘ってるんだ」
「やけに熱心じゃん」
「一目生で拝めれば母さんにいい土産話ができる」
「おのぼりさん丸出しでこっぱずかしい、こっち来て三年になんだからちったァ落ち着け」
「砂漠でウサギやプレーリードッグ狩るのとは違うんだぞ。お前は興味ないのか生ジャイアン、本来この大陸に生息してない、繁殖例も超レアな珍獣中の珍獣」
スワローが胡乱な寄り目で凝視する先、新聞の一面には白と黒の巨体が掲載されているが、印刷が粗くて細部の視認は困難だ。
カメラマンの腕が悪いのかピジョンの甚だ怪しい言い分を信じるなら被写体の動きが存外素早いのか、判断は保留する。
アンデッドエンドに来て三年ほど経過するが、世間ずれしたスワローと対照的に、母譲りのピジョンのミーハー体質は一向に治らない。
この三年で稼業は軌道に乗った……と言えるほどではないが、スワローの名前と顔は良い意味でも悪い意味でも爆売れし、ピジョンもおまけの狙撃手としてそこそこ知られる程度にはなった。
コツコツ三年かけて手柄を上げて地ならしをし、最近はわずかばかり経済的な余裕も生まれた。
以上の経緯を踏まえ、暇さえできればスワローをアンデッドエンドの観光名所に連れ出そうとするピジョン。
二日酔いを抜くために家でゴロ寝したいスワローにとってはいい迷惑だ。
「いやしんぼの兄貴が食い物屋以外に行きたがるなんて珍しいじゃん」
ピジョンのおめあては絶品のホットドッグを提供する店とか、顎が外れるほど具沢山のハンバーガー店とか食い物関係で占められていた。
「俺がいやしいのは今関係ないだろ」
「ポーズでも一応否定しとけ」
「常にいやらしいお前よりマシだね」
「床のピクルス拾い食いしてたなァどん引き。そのへんに豆でも撒いときゃ安泰だな」
「弟の暴言で荒んだ心をふわもこに癒されたい」
「俺の世話係じゃ満足できねーわけ?」
「お前の飼育係は無給じゃないか、やりがい搾取のただ働きだ」
「ヤられ甲斐は存分にあんだろ、こちとら身体でご奉仕してんだ」
「頼んでない」
「尻拭いにかまけてろくに息抜きできねーか」
「そうだよ」
「一人で行け」
横柄に顎をしゃくれば、ピジョンが困った顔をする。
「劉が言ってたんだ。ジャイアントキリングは耳と手足が黒くて、目のまわりも黒塗りで、あとは真っ白のずんぐりむっくりだって」
「マシュマロマンのできそこないか?顔は白塗りで耳は黒いって、むかし流行ったマスコットのパクリか。ミッギィ・マウスとか言ったっけ、相方はミディ・マウス。高周波みてーな気色悪ィ声で笑うんだよな、ハハッ」
「絵も描いてみた」
「テメェが?」
ピジョンがいそいそとチラシの裏に描いたらくがきを披露する。興味本位で覗き込んだスワローは閉口する。
スーパーマーケットのチラシ裏にピジョンが得意げに描いて見せびらかしたのは、斑にカビが生えたマシュマロのような、二段重ねの球体だ。
上の丸は小さくて下の丸は大きい。頭部と胴体を表現したものらしい。両目は真っ黒で虚無い。
「やっぱ絵心ねえ。レイヴンに弟子入りしなくて正解」
「可愛いじゃないか」
「本気で言ってんなら美的センス死んでんぞ、どう贔屓目に見積もったって賞味期限切れでかびたマシュマロだろ」
毒舌全開の酷評にピジョンが素で傷付く。
「上手く描けたと思ったのに……」
「酷すぎ。冒涜」
「言い過ぎ」
「イケると自惚れたのが驚き。テレビニュース見てんならもっとマシに描けんだろ」
「見るのと描くのは別物。劉は二段重ねの蒸し饅頭に似てるって言ってた」
本気で落ち込んで肩を落とす兄にスワローは大いに鼻白む。
「劉の入れ知恵かよ。どうせそんなこったろーと思った、チャイニーズかぶれめ」
「チャイニーズはおいしいだろ」
「テイクアウトしか食ったことねーだろ」
「パンダエクスプレスはおすすめ。特にオレンジチキン」
「耳タコだぜ」
「劉がもってきてくれた胡麻団子もおいしかった」
「は?聞いてねえぞ」
「事務所の下の店の新作だって。こないだ遊びにきたとき手土産に……言ってなかったっけ、留守だったもんなお前」
「俺の分は?」
「食べた」
「死ね」
「甘い物嫌いだろ」
「弟の取り分に手ェ付ける根性が卑しいんだよ」
「ごめんよスワロー、うますぎて止まらなかった。表面にまぶした胡麻の香ばしさと中のこしあんの相性が絶品で……一口サイズだからぱくぱくイケる」
「餌付けされてんじゃねー」
「反省はする。後悔はしてない」
露骨に舌を打ち寝返りをきめこめば、スワローの憤慨の理由を誤解したピジョンが、ソファーの傍らに跪きかきくどく。
「どうしてもっていうなら一人で行くけど、あとでごねるなよ」
「あーあーどこへなりとも行っちまえ、俺は俺でそのへんのオンナひっかけて楽しむからよ。てめェはカビはえたマシュマロと握手してこい」
手の甲でそっけなく追い立てるスワローにじれたピジョンは、特大のため息を吐いて腰を浮かすや、わざわざ聞こえよがしに声を張り上げる。
「劉とスイートとサシャと大家さんにみやげ買ってこよっと」
「いらねーだろ」
「耳付カチューシャはどうかな?色々種類あるらしいし」
「どんな公開羞恥プレイだ」
「ジャイアンじるしの缶入りクッキーはどうかな」
「略すな」
ピジョンが他の男の話をしているとイライラするのがスワローの性分だ。
それが馴染みだろうと師だろうと関係ない、即ち独占欲のかたまり。
ピジョンも弟の嫉妬深さを十分理解した上でわざと煽る。
一旦部屋に引っ込んでリビングに戻ってきた時、ピジョンは年代物のポラロイドカメラを抱えていた。母の馴染みのおさがりだ。
「母さんへの手紙に写真入れたら喜ぶぞ、きっと」
「はっ」
「せっかくだからジャイアンの前で2ショット撮りたかった。俺たちが元気でやってるか、母さん心配してるんだよ。お前は写真嫌いだからめったに撮らせてくれないけど、ジャイアントキリングを挟んでハイチーズなら」
ピジョンがカメラを構えてスワローの正面に回り込み、シャッターを切るまねをする。
「撮影禁止。どうしてもってんならギャラ払え、1枚5万ヘル」
「ボリすぎだろ」
うざったげに顔を背けるスワローにピジョンが突っ込むものの、遂に諦めて方針転換。
「代わりに先生誘うか」
「は??なんで」
「行きたがってたから」
「ジャイアントキリングを見に?」
「孤児院の子供たちを遠足に連れてく下見をかねて」
話は予想外の方向に転がっていく。スワローの全く歓迎しない方向にだ。
「お前がいなくてちょうどいいや、どうせひっかき回すだろうし」
「待てよオイ」
「久しぶりにゆっくり話したかったんだ」
ピジョンは勝手に話を決めて計画を進めている。
もはやスワローなど完全においてけぼり、大好きな師との遊興に思いを馳せては饒舌にくっちゃべるおめでたさに我慢ならず、手中で握り潰した新聞紙を床に投げ付ける。
「させねえよ」
結論から言えば、ピジョンの作戦勝ちだ。
アンデッドエンドの動物園前は老若男女たくさんの人出で賑わっていた。
パラソルを広げた売店で二段三段重ねのアイスやチュロスを買ったカップルや親子連れが、入口ゲートへ吸い込まれていくのを微笑ましげに見送るピジョンが、隣から一筋吹き流れてきた煙に顔をしかめる。
「喫煙やめろ。ポイ捨ても」
「人マネザルの檻に投げ込んでみるか?食ったらおもしれー」
「全然面白くないしやったら絶交だからな」
動物を愛する心優しい兄が大変に不愉快がる。冗談が通じない小鳩だ。
「お前が捨てた吸殻まちがえて食べて病気になったら莫大な治療費かかる、死にでもしたらさらに賠償金上乗せだ、経営者と訴訟沙汰になっても頼るなよ、身から出た錆で縁を切るから」
「吸殻啄む駄バトの分際でお説教か、うざってェ」
正攻法は通じないと悟ったピジョンのシビアな指摘に興ざめし、半ばでへし折った煙草を捨てるや、スニーカーの靴裏で念入りに踏みにじる。
「で?先生はどこだよ」
「入口で待ち合わせてるんだけど……」
ピジョンが小手をかざして見回すと同時、向こうから場違いなカソックの聖職者がやってくる。鮮やかな赤毛をオールバックに撫で付け、分厚い瓶底メガネをかけた年齢不詳の優男だ。
胸に揺れるロザリオはピジョンとおそろいの美しい銀色。
見せ付けやがって。今すぐひったくってライオンに食わせてやろうか。
「あ」
ピジョンが元気に片手を振りまくる。尾羽ぴょこぴょこ鳩の求愛ダンス。スワローはふてくされ、口寂しさをごまかすために火の付いてない煙草を咥える。
「こっちです先生」
「お待たせいたしましたピジョン君。スワロー君も、お会いできて嬉しいです。きちんと顔をあわせるのはヴィク君を送り届けにきた日以来でしょうか、その節はご足労いただきまことに感謝を」
「神父って暇なの?」
「スワロー!」
不敵に笑んで喧嘩を売れば、慌てたピジョンが小声で叱る。
スワローは大股に前に出るや、兄の尊敬と信頼を勝ち得た神父への敵愾心を放ち、右と左から顔をかしげてねめ付ける。
「募金箱はどうしたよ、忘れてきたのか?動物園に群がるおのぼり連中から小銭せしめる魂胆じゃねえのかよ、ミュータントのガキどもが腹ぁ空かせて待ってんだろ」
「これは手厳しい。教会および孤児院の仕事は有能なシスターたちに任せて参りました、本日は誠心誠意遠足の下見に務める所存です。信頼をおく助手もいますし」
「もともと人こねーしょぼい教会だし関係ねェか、っで!?」
ピジョンに足を踏まれ、スワローが怒気に尖った抗議を上げる。
「遊びにきたんじゃないんだぞ、これも立派に仕事のうちだ。ですよね先生、いでっ!?」
「媚びんな駄バト」
神父に同意を求めるピジョンの足を仕返しに蹴飛ばす。
「おっしゃるとおりです。はたしてジャイアントキリングが噂通りの巨体で凶暴なのか、威圧された子供たちが怯えて泣きださないか、本日はこの目でしっかり確かめにきたのですよ」
胡散臭い。
忌々しい。
スワローの勘が騒いでる、コイツには裏があると、とんでもなく物騒な本性を秘めてると。
神父に警戒心を解かないのはピジョンになれなれしいからだけじゃない。
鈍感な兄と対照的に修羅場をくぐった本能は研ぎ澄まされ、禁欲的なカソックの下から漂い出すきな臭さを感じとる。
どっこい目が節穴で定評あるピジョンは、神父の本性に今に至るまで気付きもせず、先生先生と懐き倒しているのだから始末に負えない。
スワローが不承不承同行を決めたのは、ピジョンと神父をペアで送り出すのに抵抗を感じたからにほかならない。
スワローの複雑な胸の内を察した神父が阿る。
「おっかない顔で睨まないでくださいなスワロー君、仲良くしたいのに」
「吸血性のヒルとキスしてな、唇腫れ上がって笑えるご面相におなり遊ばされるぜ」
「スワローあのな……」
ピジョンがこめかみを摘まんでぼやく。知ったことかと無視する。
神父と合流を済ませたあと、早速順路に添って園内を回りだす。
「今日はお会いできてうれしいです、先生」
「こちらこそ、君とゆっくり動物園を見て回れるなんて光栄の至りです」
「チッ」
「動物園は初めてですか」
「何年か前にやっぱり遠足で来ましたよ」
「そうなんですか?なら下見なんて必要ないんじゃ」
「あの頃とは配置が変わりましたし動物も増えたのでね。迷子を危ぶむ心配性と笑ってください」
「とんでもない、慎重さを見習いたいです」
「チッ」
正確な舌打ちでいちいち会話を寸断され、業を煮やしたピジョンが振り返る。
「舌打ちの合いの手やめろ、普通にまざればいいだろ」
「誰がのけ者だって?死ね」
「また煙草咥えて……」
「火ィ付けてねーからセーフ」
渋面を作るピジョンを腐してそっぽを向けば、神父が「まあまあ」と腑抜けた笑顔で仲裁に入る。
「スワロー君が好きな動物はなんですか」
「人間のメス。たまにオス。駄バトはポッポポッポうるせーし餌代嵩むのが難点だな」
「訂正しろ、そんなに食わないだろ。お前が無駄遣いするから最近は控えてるのに」
「ピジョン君は?」
「なんでも好きですよ、犬も猫も鳥も……虫はちょっと苦手ですけど」
「ドブネズミに爪先かじられてべそかいてたろ」
「子供の頃の話だろいい加減忘れろ。先生は?」
「蛇以外ですかね」
「あっそうだ、前話しましたよね鶏飼ってるって」
「よく覚えていますよ、キャサリンさんですよね」
「よその農場から脱走してきたところを拾、もとい保護したんです。俺に懐いてすっかり居着いちゃって……今は大家さんに質にとられてるんですけど。滞納したら羽をむしって丸焼きだって脅されてます」
「恐ろしいですね」
「冗談だと思いたいけどやりかねないのが怖いんだよな」
神父とピジョンの話は弾む。胸元にはおそろいのロザリオが誇らしげに輝く。二人ともごく自然に歩調を合わせている。距離が近い。
近付くなと牽制し、間に割り込みたいのを辛うじて我慢する。この俺が神父ごときに妬くとかありえねー。
悪い、手が滑った。そうとぼけて煙草をカソックの背中に投げ付けてやればどんな顔するか、ピジョンとのお喋りを打ち切って振り向くか、その顔面に唾を吐きかけたら……
堂々巡りの妄想で溜飲をさげても虚しいだけだ。小刻みに舌打ちする元気も失せる。
神父と歩くピジョンはとても楽しそうで、数歩遅れて付いてくる弟にまるで注意を払わない。
「スワロー君ももっと近くにいらしたらいかがですか」
「おままごとにまざれってか」
「アイツはほっといていいです、反抗期なんですよ」
「悪目立ちカソック野郎と歩ってたら胡散臭ェのが伝染る」
指一本でも俺の小鳩に触れてみろ、たたっ切ってやる。
スタジャンのポケットに手を突っ込んで睨みを利かすスワローをピジョンが仕方なさそうに呼ぶ。
「笑顔を前面にだせ、せっかくみんなで遊びにきたんじゃないか」
「楽しいのはテメェらだけだ、早く帰りてェ」
神父はピジョンと同レベルなのか、片足立ちでバランスをとるフラミンゴに拍手をし、オレンジの皮を器用に剥く猿に二人並んで感心する。脳内ハレルヤコンビめ。
「先生も写真撮りません?」
「お気遣いは嬉しいですがご遠慮しておきます、カメラは得意じゃないので」
「母さんも喜ぶと思ったんだけど」
「好みド外れ」
「お世話になってる人紹介しちゃいけないか、俺の先生だぞ」
ポラロイドがストロボフラッシュを焚く。
「どうですか」
檻のむこうでじゃれる動物をパシャパシャやっては、素人くさいピンぼけ写真を神父に見せてご満悦のピジョン。
神父は神父で「よく撮れてますね」「表情がいい」「ウィンクの瞬間ですか」と手放しでおだてるものだから、「新聞に投稿しようかな」とかアホが勘違いして調子にのりくさる。
もどきごときが俺様さしおいて彼氏面かよ、いけすかねえ。
動物園を満喫するピジョンと神父をよそに、やや離れた檻の前に移動したスワローは、吊りタイヤのブランコを揺らすオラウータンに中指を立てる。オラウータンがダイナミックなドラミングでこたえ、スワローに中指を立て返す。
「何やってんだ」
「ファックサイン仕込んでやった」
「ろくなことしないな」
「芸のレパートリーが増えて結構じゃないですか、子供たちも喜びますよ」
「いい子がまねしちゃだめですよ」
険悪ムードのスワローとピジョンの間に挟まり、やんわり宥めすかす神父。すっかり仲裁役が板に付いてしまってる。
いよいよ本日の目玉、ジャイアントキリングのコーナーの前にやってきた。
「さすがにこんでいますね。離れないでくださいよピジョンくんスワローくん」
「保護者ぶんなくそったれ」
「なにぶん引率が仕事なので」
「楽しみだなあ」
ピジョンはうきうき浮かれ騒いでカメラを両手に構える。後続の人ごみに押されて神父の隣に立ったスワローは、のほほんと弛んだ横顔を眼光鋭く一瞥、続いてカソックの胸元の十字架に目を移す。
兄とペアのロザリオ。
「目障りだな」
「ご不快ですか」
「存在自体がね」
「ツンケンなさらないでください、大事なお兄さんをとったりしませんよ」
「誰が横取りムカツイてるって?」
「違うのですか?」
涼しい顔ですっとぼけるのが癪で、カソックが包む脛を蹴飛ばそうと狙えばあざやかに躱される。
夜闇に同化する梟のごとし、衣擦れすら立てない俊敏さ。
「こンの……」
再びスニーカーの靴裏で脚を踏みに行けば、殆ど動いてるように見えないのにまたぞろ空振りで恥をかく。
分厚いレンズの奥で僅かに開くパープルアイが、児戯を愛でる愉悦の光を帯びる。
無難たれ無害たれを課題とし、特筆に値しない平凡な造作の中でそこだけ一際澄んで美しい瞳の色。昼に飛ぶ梟の擬態。
「愛くるしいヤキモチですね」
ぶっ殺す。
たちどころに殺意と怒りが沸点を突破、スタジャンの懐からナイフを抜きかければ、穏やかに制される。
「子供の前です。刃物はお控えなさい」
スワローと神父の後ろにはアイスクリームを持った親子連れが並んでいる。鼻を鳴らしてナイフを手放すスワローを、神父がにっこり褒める。
「よくできました」
「煽ってんの?」
「流血沙汰をおこせばピジョンくんが哀しみますので」
険を含んだ一瞥を飄々と受け流し、悠揚迫らざる神父が柵に片手をおく。
「ゆっくり話したかったのは本当です。露骨に避けられておりましたので」
「顔も見たくねー」
「仕事は順調ですか」
「心配無用。口出しはいらねーよ」
「ピジョン君もなかなかどうして大概ですが、君もお兄さん離れできていませんね」
「離れる必要ねェし」
「精神的な自立を促したい所です」
「駄バトに依存してるって?」
「教会に居候されては?シスター一同歓迎しますよ、君に必要なのは禁欲尊ぶ精神修練です。まず飲酒喫煙夜遊びの生活態度を改めななさい、自堕落な振る舞いは身を滅ぼします」
「上等」
静かに火花が散る。緊張感が漲る。
スワローは神父の隣に立ち、闘志の滾った雄々しい横顔で宣戦布告。
「道ならとっくに踏み外してらァ、こうなりゃとことん堕ちきってやる」
ピジョンを道連れにどこまでも。
「先生スワロー、こっちきて!」
ピジョンが両手を振って呼ぶ。神父と顔を見合わせて移動すれば、人だかりの最前列に陣取り、柵を掴んで身を乗り出す。
「アレがジャイアントキリングです」
ピジョンが得意げに指さす先には、白と黒の毛皮で覆われた巨体がもっさり笹を噛んでいる。
デカケツでお座りしたジャイアントキリングに目を輝かせ、ピジョンが豆知識を披露する。
「劉が言ってた。漢字じゃ熊猫って書くんだって」
「ネコ成分どこやった」
眠たくなるような動作で笹を咀嚼するジャイアントキリングを、三人並んで見物する。
「ジャイアントキリング略してジャイアン。噂に違わぬ恰幅のよさですね」
「肺活量多そうだな」
「動きのろいのに写真ブレブレの謎が深まる」
「カメラマンクビにしろよ」
「どんな声で吠えるのでしょうか、リサイタルが楽しみです」
「『ぼえ~~』じゃね」
神父がとぼけてスワローが気のない素振りで茶化し、ピジョンが微笑む。
「ね?孤児院の子供たちも大喜びですよ」
続いてスワローに向き直り、最高に晴れがましい笑顔で宣言。
「な?来てよかったろ」
「……まあな」
大はしゃぎで写真を撮りまくるピジョンにほだされ、スワローはそっけなく肩を竦める。
たしかに、実物を見にくる価値はあった。
「もっふもふだなあ。こっち向いてジャイアン」
ピジョンがしきりに手を振って注意を引こうとするが、巨体に応じて食欲旺盛なジャイアントキリングは笹の咀嚼と反芻に夢中で、不憫な鳩に目もくれない。
求愛ダンスが見事に空振り、周囲の忍び笑いをものともせず見世物に成り下がる兄にあきれる。
「なに食うの?雑食?」
「笹が主食なら草食じゃないか」
「タレ目に見せかけて意外と眼光鋭いし肉食でも納得ですが」
「転がる方が得意そうな見た目だよな」
「パンスト被ってでんぐり返りか」
子供返りした兄を横目に、だるそうに柵にもたれて頬杖を付く。神父がピジョンを挟んで反対側に来る。赤の他人と川の字の再現だ。
「おい」
「いたっ蹴るなよ」
「こっちの方が笹食ってるトコよく見えるぜ」
「ホントか?」
「キメ顔キメ角度だ」
ピジョンの隣は譲らねェ。相手がだれだろうと。
蹴られた脛を痛そうにさすりさすり、ピジョンがスワローを回り込んで右側にくる。
代わりに隣りあったスワローが流し目で勝ち誇れば、神父が苦笑いで降参を認める。
「そういうところですよ」
「だましたな背中しか見えないぞ!」
「猫背で可愛いだろ」
即座に帰ろうとするピジョンの肘を掴んで引き止め、マイペースに笹を貪るジャイアントキリングをただ眺める。
「なにがしたいんだよお前……」
見せ付けてェのさ、とスワローは心の中で呟くのであった。
「ジャイアントキリングなんてご大層な名前」
「強そうでかっこいい」
「ヴァイキングの異名かよ」
そもそも最初から気乗りしなかった。あまのじゃくを地で行くスワローは、兄の発案にはとりあえず反抗を気取るスタイルだ。
ポーズだけの時もあれば本気で嫌がる時もありケースバイケース、比率は三対七ほどか。
「仲良くお手て繋いで動物園にレリゴー?ガキか」
スワローは馬鹿にしきって嘲笑する。
ジャイアントキリングを見に行こうと兄に誘われても、十代後半で難しい年頃の弟は素直に肯わない。
17歳といえば遊びたい盛り、動物園生まれのけったいな珍獣を見物するより楽しい事が山ほどある。
特にスワローは刺激に飢えている。
夜はクラブに踊りに行っては女をひっかけ浴びるように飲み、カジノ通いの挙句にスロットで派手にスるのが悪しき習慣だ。
間違っても動物園で癒しのひとときを過ごすようなキャラじゃない。
「頭ン中がお花畑通り越してハレルヤだなテメェ。娑婆じゃ毎日ケダモノ狩って週末はケモノとふれあいか、アニマルセラピーに用ねェよ、一昨日きやがれ」
「ジャイアントキリングの実物見たくないのかよ、自慢できるぞ」
「誰にだよ」
「サシャやスイートに?」
「交友範囲狭ェな」
「うるさい」
「珍獣見たってふかしてオンナにちやほやされてえのかよ、安っぽいモテたがり根性」
だらけてソファーに寝そべり、相も変わらずツレない弟を、肘掛を掴んで乗り出したピジョンは粘り強く説得する。
片手に握り締めているのはジャイアントキリングの記事が報じられたタブロイド。
「動物園まだ行ったことないだろ?アンデッドエンドの観光名所はマーダーミュージアムだけじゃない、悪趣味の謗りを受けない、殺伐としてない場所で心の洗濯しようよ。可愛い動物いっぱい、子供の笑い声絶えなくて楽しいぞ」
「女子供のキンキン甲高ェ声は大ッ嫌えだね、孤児院でクソガキ慣れした兄貴は麻痺してっけど」
「孤児院の子たちはクソガキじゃない、みんな素直でいい子だ。ヴィクがいるの忘れたのか?」
「立派にクソガキだよ」
さも心外そうに撤回を要求するピジョン。頭の後ろで手を組み寝転がったまま、スワローは鼻を鳴らす。
両脚は行儀悪く反対側の肘掛に乗り上げて、くたびれたスニーカーをひっかけた爪先がぶら付く。
「寝言は寝てぬかせ。巨人殺しなんて名前倒れもいいトコだ、ただの図体でけえ無駄飯食いじゃねえか、餌代ばかになんねーぞ」
「やけに詳しいな。実は興味津々なんじゃ」
「あちこちで特集組まれてっからいやでも目に入る。行き付けの店でも寄るとさわると巨人殺しの話題で持ちきりよ、すげー行列なんだって?俺が稼ぎになんねー立ちんぼ嫌ェなの知ってんだろ」
「寝たばこはやめろ火事の元だ、ソファーが焼ける」
「あにすんだ」
弟の口から煙草をもぎとり、馬鹿丁寧に灰皿で揉み消すピジョン。
さらに手中の新聞を広げれば、そこにはでかでかとジャイアントキリングの特集が組まれていた。
序でにぼやけた写真も載っている。紙面の写真を一瞥、すぐ関心をなくしたらしいスワローが憎たらしげに嘯く。
「そうだな、ソファーが焼けちまったらもうここで可愛がってやれねえもんな」
「ソファーでヤるのは好きじゃない、狭いし腰痛めるし」
「トレーラーハウスのベッド思い出すだろ。初めて剥いてやった夜覚えてるか、毛布にくるまってひんひんべそかいてたっけ」
「どのみちどこでも盛るだろお前、風呂場や玄関マットの上だってお構いなしだ」
「発情期なんだ。見逃せ」
「一年中じゃないか、少しはフェロモンの垂れ流しを慎めよ」
ピジョンは腕を組んでお冠だ。カルシウム不足だろうか。
スワローは億劫げに上体を起こし、兄の手から新聞紙を奪い取る。
「すげーピンぼけ。よく載ったな」
「返せ」
「俺なら別のカメラマン雇うね」
「動きが激しくて残像しか撮れなかったんじゃないか」
「ジャイアントキリングってンなすばしっこいの」
「よく知らない。だから見に行こうって誘ってるんだ」
「やけに熱心じゃん」
「一目生で拝めれば母さんにいい土産話ができる」
「おのぼりさん丸出しでこっぱずかしい、こっち来て三年になんだからちったァ落ち着け」
「砂漠でウサギやプレーリードッグ狩るのとは違うんだぞ。お前は興味ないのか生ジャイアン、本来この大陸に生息してない、繁殖例も超レアな珍獣中の珍獣」
スワローが胡乱な寄り目で凝視する先、新聞の一面には白と黒の巨体が掲載されているが、印刷が粗くて細部の視認は困難だ。
カメラマンの腕が悪いのかピジョンの甚だ怪しい言い分を信じるなら被写体の動きが存外素早いのか、判断は保留する。
アンデッドエンドに来て三年ほど経過するが、世間ずれしたスワローと対照的に、母譲りのピジョンのミーハー体質は一向に治らない。
この三年で稼業は軌道に乗った……と言えるほどではないが、スワローの名前と顔は良い意味でも悪い意味でも爆売れし、ピジョンもおまけの狙撃手としてそこそこ知られる程度にはなった。
コツコツ三年かけて手柄を上げて地ならしをし、最近はわずかばかり経済的な余裕も生まれた。
以上の経緯を踏まえ、暇さえできればスワローをアンデッドエンドの観光名所に連れ出そうとするピジョン。
二日酔いを抜くために家でゴロ寝したいスワローにとってはいい迷惑だ。
「いやしんぼの兄貴が食い物屋以外に行きたがるなんて珍しいじゃん」
ピジョンのおめあては絶品のホットドッグを提供する店とか、顎が外れるほど具沢山のハンバーガー店とか食い物関係で占められていた。
「俺がいやしいのは今関係ないだろ」
「ポーズでも一応否定しとけ」
「常にいやらしいお前よりマシだね」
「床のピクルス拾い食いしてたなァどん引き。そのへんに豆でも撒いときゃ安泰だな」
「弟の暴言で荒んだ心をふわもこに癒されたい」
「俺の世話係じゃ満足できねーわけ?」
「お前の飼育係は無給じゃないか、やりがい搾取のただ働きだ」
「ヤられ甲斐は存分にあんだろ、こちとら身体でご奉仕してんだ」
「頼んでない」
「尻拭いにかまけてろくに息抜きできねーか」
「そうだよ」
「一人で行け」
横柄に顎をしゃくれば、ピジョンが困った顔をする。
「劉が言ってたんだ。ジャイアントキリングは耳と手足が黒くて、目のまわりも黒塗りで、あとは真っ白のずんぐりむっくりだって」
「マシュマロマンのできそこないか?顔は白塗りで耳は黒いって、むかし流行ったマスコットのパクリか。ミッギィ・マウスとか言ったっけ、相方はミディ・マウス。高周波みてーな気色悪ィ声で笑うんだよな、ハハッ」
「絵も描いてみた」
「テメェが?」
ピジョンがいそいそとチラシの裏に描いたらくがきを披露する。興味本位で覗き込んだスワローは閉口する。
スーパーマーケットのチラシ裏にピジョンが得意げに描いて見せびらかしたのは、斑にカビが生えたマシュマロのような、二段重ねの球体だ。
上の丸は小さくて下の丸は大きい。頭部と胴体を表現したものらしい。両目は真っ黒で虚無い。
「やっぱ絵心ねえ。レイヴンに弟子入りしなくて正解」
「可愛いじゃないか」
「本気で言ってんなら美的センス死んでんぞ、どう贔屓目に見積もったって賞味期限切れでかびたマシュマロだろ」
毒舌全開の酷評にピジョンが素で傷付く。
「上手く描けたと思ったのに……」
「酷すぎ。冒涜」
「言い過ぎ」
「イケると自惚れたのが驚き。テレビニュース見てんならもっとマシに描けんだろ」
「見るのと描くのは別物。劉は二段重ねの蒸し饅頭に似てるって言ってた」
本気で落ち込んで肩を落とす兄にスワローは大いに鼻白む。
「劉の入れ知恵かよ。どうせそんなこったろーと思った、チャイニーズかぶれめ」
「チャイニーズはおいしいだろ」
「テイクアウトしか食ったことねーだろ」
「パンダエクスプレスはおすすめ。特にオレンジチキン」
「耳タコだぜ」
「劉がもってきてくれた胡麻団子もおいしかった」
「は?聞いてねえぞ」
「事務所の下の店の新作だって。こないだ遊びにきたとき手土産に……言ってなかったっけ、留守だったもんなお前」
「俺の分は?」
「食べた」
「死ね」
「甘い物嫌いだろ」
「弟の取り分に手ェ付ける根性が卑しいんだよ」
「ごめんよスワロー、うますぎて止まらなかった。表面にまぶした胡麻の香ばしさと中のこしあんの相性が絶品で……一口サイズだからぱくぱくイケる」
「餌付けされてんじゃねー」
「反省はする。後悔はしてない」
露骨に舌を打ち寝返りをきめこめば、スワローの憤慨の理由を誤解したピジョンが、ソファーの傍らに跪きかきくどく。
「どうしてもっていうなら一人で行くけど、あとでごねるなよ」
「あーあーどこへなりとも行っちまえ、俺は俺でそのへんのオンナひっかけて楽しむからよ。てめェはカビはえたマシュマロと握手してこい」
手の甲でそっけなく追い立てるスワローにじれたピジョンは、特大のため息を吐いて腰を浮かすや、わざわざ聞こえよがしに声を張り上げる。
「劉とスイートとサシャと大家さんにみやげ買ってこよっと」
「いらねーだろ」
「耳付カチューシャはどうかな?色々種類あるらしいし」
「どんな公開羞恥プレイだ」
「ジャイアンじるしの缶入りクッキーはどうかな」
「略すな」
ピジョンが他の男の話をしているとイライラするのがスワローの性分だ。
それが馴染みだろうと師だろうと関係ない、即ち独占欲のかたまり。
ピジョンも弟の嫉妬深さを十分理解した上でわざと煽る。
一旦部屋に引っ込んでリビングに戻ってきた時、ピジョンは年代物のポラロイドカメラを抱えていた。母の馴染みのおさがりだ。
「母さんへの手紙に写真入れたら喜ぶぞ、きっと」
「はっ」
「せっかくだからジャイアンの前で2ショット撮りたかった。俺たちが元気でやってるか、母さん心配してるんだよ。お前は写真嫌いだからめったに撮らせてくれないけど、ジャイアントキリングを挟んでハイチーズなら」
ピジョンがカメラを構えてスワローの正面に回り込み、シャッターを切るまねをする。
「撮影禁止。どうしてもってんならギャラ払え、1枚5万ヘル」
「ボリすぎだろ」
うざったげに顔を背けるスワローにピジョンが突っ込むものの、遂に諦めて方針転換。
「代わりに先生誘うか」
「は??なんで」
「行きたがってたから」
「ジャイアントキリングを見に?」
「孤児院の子供たちを遠足に連れてく下見をかねて」
話は予想外の方向に転がっていく。スワローの全く歓迎しない方向にだ。
「お前がいなくてちょうどいいや、どうせひっかき回すだろうし」
「待てよオイ」
「久しぶりにゆっくり話したかったんだ」
ピジョンは勝手に話を決めて計画を進めている。
もはやスワローなど完全においてけぼり、大好きな師との遊興に思いを馳せては饒舌にくっちゃべるおめでたさに我慢ならず、手中で握り潰した新聞紙を床に投げ付ける。
「させねえよ」
結論から言えば、ピジョンの作戦勝ちだ。
アンデッドエンドの動物園前は老若男女たくさんの人出で賑わっていた。
パラソルを広げた売店で二段三段重ねのアイスやチュロスを買ったカップルや親子連れが、入口ゲートへ吸い込まれていくのを微笑ましげに見送るピジョンが、隣から一筋吹き流れてきた煙に顔をしかめる。
「喫煙やめろ。ポイ捨ても」
「人マネザルの檻に投げ込んでみるか?食ったらおもしれー」
「全然面白くないしやったら絶交だからな」
動物を愛する心優しい兄が大変に不愉快がる。冗談が通じない小鳩だ。
「お前が捨てた吸殻まちがえて食べて病気になったら莫大な治療費かかる、死にでもしたらさらに賠償金上乗せだ、経営者と訴訟沙汰になっても頼るなよ、身から出た錆で縁を切るから」
「吸殻啄む駄バトの分際でお説教か、うざってェ」
正攻法は通じないと悟ったピジョンのシビアな指摘に興ざめし、半ばでへし折った煙草を捨てるや、スニーカーの靴裏で念入りに踏みにじる。
「で?先生はどこだよ」
「入口で待ち合わせてるんだけど……」
ピジョンが小手をかざして見回すと同時、向こうから場違いなカソックの聖職者がやってくる。鮮やかな赤毛をオールバックに撫で付け、分厚い瓶底メガネをかけた年齢不詳の優男だ。
胸に揺れるロザリオはピジョンとおそろいの美しい銀色。
見せ付けやがって。今すぐひったくってライオンに食わせてやろうか。
「あ」
ピジョンが元気に片手を振りまくる。尾羽ぴょこぴょこ鳩の求愛ダンス。スワローはふてくされ、口寂しさをごまかすために火の付いてない煙草を咥える。
「こっちです先生」
「お待たせいたしましたピジョン君。スワロー君も、お会いできて嬉しいです。きちんと顔をあわせるのはヴィク君を送り届けにきた日以来でしょうか、その節はご足労いただきまことに感謝を」
「神父って暇なの?」
「スワロー!」
不敵に笑んで喧嘩を売れば、慌てたピジョンが小声で叱る。
スワローは大股に前に出るや、兄の尊敬と信頼を勝ち得た神父への敵愾心を放ち、右と左から顔をかしげてねめ付ける。
「募金箱はどうしたよ、忘れてきたのか?動物園に群がるおのぼり連中から小銭せしめる魂胆じゃねえのかよ、ミュータントのガキどもが腹ぁ空かせて待ってんだろ」
「これは手厳しい。教会および孤児院の仕事は有能なシスターたちに任せて参りました、本日は誠心誠意遠足の下見に務める所存です。信頼をおく助手もいますし」
「もともと人こねーしょぼい教会だし関係ねェか、っで!?」
ピジョンに足を踏まれ、スワローが怒気に尖った抗議を上げる。
「遊びにきたんじゃないんだぞ、これも立派に仕事のうちだ。ですよね先生、いでっ!?」
「媚びんな駄バト」
神父に同意を求めるピジョンの足を仕返しに蹴飛ばす。
「おっしゃるとおりです。はたしてジャイアントキリングが噂通りの巨体で凶暴なのか、威圧された子供たちが怯えて泣きださないか、本日はこの目でしっかり確かめにきたのですよ」
胡散臭い。
忌々しい。
スワローの勘が騒いでる、コイツには裏があると、とんでもなく物騒な本性を秘めてると。
神父に警戒心を解かないのはピジョンになれなれしいからだけじゃない。
鈍感な兄と対照的に修羅場をくぐった本能は研ぎ澄まされ、禁欲的なカソックの下から漂い出すきな臭さを感じとる。
どっこい目が節穴で定評あるピジョンは、神父の本性に今に至るまで気付きもせず、先生先生と懐き倒しているのだから始末に負えない。
スワローが不承不承同行を決めたのは、ピジョンと神父をペアで送り出すのに抵抗を感じたからにほかならない。
スワローの複雑な胸の内を察した神父が阿る。
「おっかない顔で睨まないでくださいなスワロー君、仲良くしたいのに」
「吸血性のヒルとキスしてな、唇腫れ上がって笑えるご面相におなり遊ばされるぜ」
「スワローあのな……」
ピジョンがこめかみを摘まんでぼやく。知ったことかと無視する。
神父と合流を済ませたあと、早速順路に添って園内を回りだす。
「今日はお会いできてうれしいです、先生」
「こちらこそ、君とゆっくり動物園を見て回れるなんて光栄の至りです」
「チッ」
「動物園は初めてですか」
「何年か前にやっぱり遠足で来ましたよ」
「そうなんですか?なら下見なんて必要ないんじゃ」
「あの頃とは配置が変わりましたし動物も増えたのでね。迷子を危ぶむ心配性と笑ってください」
「とんでもない、慎重さを見習いたいです」
「チッ」
正確な舌打ちでいちいち会話を寸断され、業を煮やしたピジョンが振り返る。
「舌打ちの合いの手やめろ、普通にまざればいいだろ」
「誰がのけ者だって?死ね」
「また煙草咥えて……」
「火ィ付けてねーからセーフ」
渋面を作るピジョンを腐してそっぽを向けば、神父が「まあまあ」と腑抜けた笑顔で仲裁に入る。
「スワロー君が好きな動物はなんですか」
「人間のメス。たまにオス。駄バトはポッポポッポうるせーし餌代嵩むのが難点だな」
「訂正しろ、そんなに食わないだろ。お前が無駄遣いするから最近は控えてるのに」
「ピジョン君は?」
「なんでも好きですよ、犬も猫も鳥も……虫はちょっと苦手ですけど」
「ドブネズミに爪先かじられてべそかいてたろ」
「子供の頃の話だろいい加減忘れろ。先生は?」
「蛇以外ですかね」
「あっそうだ、前話しましたよね鶏飼ってるって」
「よく覚えていますよ、キャサリンさんですよね」
「よその農場から脱走してきたところを拾、もとい保護したんです。俺に懐いてすっかり居着いちゃって……今は大家さんに質にとられてるんですけど。滞納したら羽をむしって丸焼きだって脅されてます」
「恐ろしいですね」
「冗談だと思いたいけどやりかねないのが怖いんだよな」
神父とピジョンの話は弾む。胸元にはおそろいのロザリオが誇らしげに輝く。二人ともごく自然に歩調を合わせている。距離が近い。
近付くなと牽制し、間に割り込みたいのを辛うじて我慢する。この俺が神父ごときに妬くとかありえねー。
悪い、手が滑った。そうとぼけて煙草をカソックの背中に投げ付けてやればどんな顔するか、ピジョンとのお喋りを打ち切って振り向くか、その顔面に唾を吐きかけたら……
堂々巡りの妄想で溜飲をさげても虚しいだけだ。小刻みに舌打ちする元気も失せる。
神父と歩くピジョンはとても楽しそうで、数歩遅れて付いてくる弟にまるで注意を払わない。
「スワロー君ももっと近くにいらしたらいかがですか」
「おままごとにまざれってか」
「アイツはほっといていいです、反抗期なんですよ」
「悪目立ちカソック野郎と歩ってたら胡散臭ェのが伝染る」
指一本でも俺の小鳩に触れてみろ、たたっ切ってやる。
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「笑顔を前面にだせ、せっかくみんなで遊びにきたんじゃないか」
「楽しいのはテメェらだけだ、早く帰りてェ」
神父はピジョンと同レベルなのか、片足立ちでバランスをとるフラミンゴに拍手をし、オレンジの皮を器用に剥く猿に二人並んで感心する。脳内ハレルヤコンビめ。
「先生も写真撮りません?」
「お気遣いは嬉しいですがご遠慮しておきます、カメラは得意じゃないので」
「母さんも喜ぶと思ったんだけど」
「好みド外れ」
「お世話になってる人紹介しちゃいけないか、俺の先生だぞ」
ポラロイドがストロボフラッシュを焚く。
「どうですか」
檻のむこうでじゃれる動物をパシャパシャやっては、素人くさいピンぼけ写真を神父に見せてご満悦のピジョン。
神父は神父で「よく撮れてますね」「表情がいい」「ウィンクの瞬間ですか」と手放しでおだてるものだから、「新聞に投稿しようかな」とかアホが勘違いして調子にのりくさる。
もどきごときが俺様さしおいて彼氏面かよ、いけすかねえ。
動物園を満喫するピジョンと神父をよそに、やや離れた檻の前に移動したスワローは、吊りタイヤのブランコを揺らすオラウータンに中指を立てる。オラウータンがダイナミックなドラミングでこたえ、スワローに中指を立て返す。
「何やってんだ」
「ファックサイン仕込んでやった」
「ろくなことしないな」
「芸のレパートリーが増えて結構じゃないですか、子供たちも喜びますよ」
「いい子がまねしちゃだめですよ」
険悪ムードのスワローとピジョンの間に挟まり、やんわり宥めすかす神父。すっかり仲裁役が板に付いてしまってる。
いよいよ本日の目玉、ジャイアントキリングのコーナーの前にやってきた。
「さすがにこんでいますね。離れないでくださいよピジョンくんスワローくん」
「保護者ぶんなくそったれ」
「なにぶん引率が仕事なので」
「楽しみだなあ」
ピジョンはうきうき浮かれ騒いでカメラを両手に構える。後続の人ごみに押されて神父の隣に立ったスワローは、のほほんと弛んだ横顔を眼光鋭く一瞥、続いてカソックの胸元の十字架に目を移す。
兄とペアのロザリオ。
「目障りだな」
「ご不快ですか」
「存在自体がね」
「ツンケンなさらないでください、大事なお兄さんをとったりしませんよ」
「誰が横取りムカツイてるって?」
「違うのですか?」
涼しい顔ですっとぼけるのが癪で、カソックが包む脛を蹴飛ばそうと狙えばあざやかに躱される。
夜闇に同化する梟のごとし、衣擦れすら立てない俊敏さ。
「こンの……」
再びスニーカーの靴裏で脚を踏みに行けば、殆ど動いてるように見えないのにまたぞろ空振りで恥をかく。
分厚いレンズの奥で僅かに開くパープルアイが、児戯を愛でる愉悦の光を帯びる。
無難たれ無害たれを課題とし、特筆に値しない平凡な造作の中でそこだけ一際澄んで美しい瞳の色。昼に飛ぶ梟の擬態。
「愛くるしいヤキモチですね」
ぶっ殺す。
たちどころに殺意と怒りが沸点を突破、スタジャンの懐からナイフを抜きかければ、穏やかに制される。
「子供の前です。刃物はお控えなさい」
スワローと神父の後ろにはアイスクリームを持った親子連れが並んでいる。鼻を鳴らしてナイフを手放すスワローを、神父がにっこり褒める。
「よくできました」
「煽ってんの?」
「流血沙汰をおこせばピジョンくんが哀しみますので」
険を含んだ一瞥を飄々と受け流し、悠揚迫らざる神父が柵に片手をおく。
「ゆっくり話したかったのは本当です。露骨に避けられておりましたので」
「顔も見たくねー」
「仕事は順調ですか」
「心配無用。口出しはいらねーよ」
「ピジョン君もなかなかどうして大概ですが、君もお兄さん離れできていませんね」
「離れる必要ねェし」
「精神的な自立を促したい所です」
「駄バトに依存してるって?」
「教会に居候されては?シスター一同歓迎しますよ、君に必要なのは禁欲尊ぶ精神修練です。まず飲酒喫煙夜遊びの生活態度を改めななさい、自堕落な振る舞いは身を滅ぼします」
「上等」
静かに火花が散る。緊張感が漲る。
スワローは神父の隣に立ち、闘志の滾った雄々しい横顔で宣戦布告。
「道ならとっくに踏み外してらァ、こうなりゃとことん堕ちきってやる」
ピジョンを道連れにどこまでも。
「先生スワロー、こっちきて!」
ピジョンが両手を振って呼ぶ。神父と顔を見合わせて移動すれば、人だかりの最前列に陣取り、柵を掴んで身を乗り出す。
「アレがジャイアントキリングです」
ピジョンが得意げに指さす先には、白と黒の毛皮で覆われた巨体がもっさり笹を噛んでいる。
デカケツでお座りしたジャイアントキリングに目を輝かせ、ピジョンが豆知識を披露する。
「劉が言ってた。漢字じゃ熊猫って書くんだって」
「ネコ成分どこやった」
眠たくなるような動作で笹を咀嚼するジャイアントキリングを、三人並んで見物する。
「ジャイアントキリング略してジャイアン。噂に違わぬ恰幅のよさですね」
「肺活量多そうだな」
「動きのろいのに写真ブレブレの謎が深まる」
「カメラマンクビにしろよ」
「どんな声で吠えるのでしょうか、リサイタルが楽しみです」
「『ぼえ~~』じゃね」
神父がとぼけてスワローが気のない素振りで茶化し、ピジョンが微笑む。
「ね?孤児院の子供たちも大喜びですよ」
続いてスワローに向き直り、最高に晴れがましい笑顔で宣言。
「な?来てよかったろ」
「……まあな」
大はしゃぎで写真を撮りまくるピジョンにほだされ、スワローはそっけなく肩を竦める。
たしかに、実物を見にくる価値はあった。
「もっふもふだなあ。こっち向いてジャイアン」
ピジョンがしきりに手を振って注意を引こうとするが、巨体に応じて食欲旺盛なジャイアントキリングは笹の咀嚼と反芻に夢中で、不憫な鳩に目もくれない。
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「いたっ蹴るなよ」
「こっちの方が笹食ってるトコよく見えるぜ」
「ホントか?」
「キメ顔キメ角度だ」
ピジョンの隣は譲らねェ。相手がだれだろうと。
蹴られた脛を痛そうにさすりさすり、ピジョンがスワローを回り込んで右側にくる。
代わりに隣りあったスワローが流し目で勝ち誇れば、神父が苦笑いで降参を認める。
「そういうところですよ」
「だましたな背中しか見えないぞ!」
「猫背で可愛いだろ」
即座に帰ろうとするピジョンの肘を掴んで引き止め、マイペースに笹を貪るジャイアントキリングをただ眺める。
「なにがしたいんだよお前……」
見せ付けてェのさ、とスワローは心の中で呟くのであった。
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