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GIANT KILLING+α
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「スワロー君は鳩が好きなんですね。理由をうかがっても」
「ほっとけ」
「やはりお兄さんにちなんで?」
「真っ白くて汚し甲斐あんじゃん、頭のてっぺんから尾っぽまで俺の色に染めたくなる」
「それはそれは……素直じゃありませんね」
「知ったかぶんなクソ神父。そーゆーテメエはどうなんだ、蛇が嫌いな理由は?股間噛まれて腫れたかよ」
「言うに憚る場所を噛まれた経験ならありますがね。旧約聖書において蛇はイブを唆して知恵の実を齧らせた人類の天敵、原罪の導き手。忌み嫌うに足る理由は十分かと存じますが」
「博愛主義で売ってるお優しい神父サマが偏見ふりかざすのかよ?嫌われもんもひとしなみに愛してやれよ」
「自分に噛み付く者を愛するには修行が要ります。牙に毒ある蛇は警戒しないと、悪徳が回って身を腐らせますしね」
「もとから汚れてんじゃねえ?」
「カソックでも隠せませんか」
「偽善者のフリよせよ、糸目の半笑い疲れんだろ。ピジョンの前じゃ理想の師とやらを演じてんの?先生先生懐かれていい気分?」
「なんのことやら」
「俺の足躱したろ、素人の身ごなしじゃねえ。ピジョンのフカシを疑ってたが、元賞金稼ぎってのはマジみてえだな」
「君の動きは大振りで読みやすいんですよ。僭越ながら隙だらけです」
「挑発?」
「心配無用とおっしゃいましたが、その調子では早晩仕事に支障をきたすのではありませんか。ナイフ一本で切り開けるほど業界は甘くないですよ」
「俺の活躍見てねェの?」
「雑誌で毎月拝見していますよ」
「ゴシップ雑誌にぞっこんか、娑婆っけぬけねー神父サマだな」
「教会に隠居してると世相に疎くなっていけませんので、情報収集も大事です」
「ならわかんだろ、ナイフさえありゃ絶好調。向かうところ敵なしの快進撃、じきキマイライーターのジジイを下してトップに躍り出らァ」
「勇ましいのは良いことです。挑戦と蛮勇を履き違えない限りは」
「いちいち突っかかる言い方すんじゃねーよ」
「ピジョン君が心配します」
「駄バトの心臓に配慮してたら成り上がりなんて夢のまた夢」
「コヨーテ・ダドリー氏を覚えておいでですか。あの時のピジョン君の顔を見せたかったですよ、無茶し放題の弟に気を揉んで夜も眠れずにいました。たった二人きりの兄弟でしょうに、もう少し優しくできませんか」
「優しくする?具体的に?毎日ただいまとおかえりのキスしてやりゃ満足か、お姫様みてーにベッドに運んでやるか。涙をすくって慰める?スワローどうした何やらかしたがアイツの口癖だ、ちっと甘やかしゃすぐ付け上がる、酷い位がちょうどいい。べそかく顔が一番そそる」
「小鳩の涙が燕の好物とはね」
「涙なんざしょっぱくてまずいだけ、腹の足しにもなりゃしねえ」
「それでも啜るのをやめられない、一滴残さず飲み干さずにいられない。呪いのように」
「決まってる。アイツの全部が俺の物、涙一滴血の一粒だって無駄にゃしねえよ。アンタはどうなんだ先生、ピジョンをどう思ってる?稚児にするにゃ年食いすぎか」
「可愛い弟子です。こと伸びしろに至っては私をこえます」
「本気で言ってんの?世辞?」
「恥ずかしいから本人には内緒ですよ、慢心は身を滅ぼしますので」
「神父の後継者なんてぞっとしねェな」
「彼は優秀な狙撃手です。臆病で自信がないのが玉に瑕ですが、土壇場での度胸には目を見張るものがあります」
「忍耐力だけが取り柄だかんな」
「昔の自分を見ているような既視感が襲うときすらあります」
「アイツのが可愛げあんね」
「手厳しいですね……昔の私なんて知らないでしょうに」
「筋金入りの神様嫌い」
「……何故ですか」
「経歴。賞金稼ぎが神父に鞍替えなんてさんざん神様に盾突いて地獄に落ちんのが怖くなったからに決まってる、手元が狂って天使でも撃ち落としたか?」
「当たらずも遠からずとだけ言っておきます」
「アンタを夢中にさせた天使ってなァさぞかしべっぴんだったんだろうな」
「ええ。美しい人でしたよ」
「のろけか。否定しろよ」
「他人事じゃありませんよスワロー君、君が常日頃馬鹿にしている愚鈍な小鳩こそツキを運ぶ天使かもしれないのに。雑に扱えばバチがあたります」
「天使なんかじゃねえ、グズでノロマなただの駄バト。賞金稼ぎに悪運運ぶのが天使であってたまっか、地獄の迎えの悪魔の所業だろ。テメェが天使にフラれたからってやっかむんじゃねーよ、アイツのめでてえオツムの上に輪っかが見えんなら眼鏡の度の調整おすすめするね、ドーナツと見間違えてんじゃねェの」
「ドーナツですか……うまいこと言いますね。なるほど、君の天使サマは神々しい光の輪より食べればなくなるドーナツの輪が気に入りそうだ」
「たわけた寝言にのってやる。もしアイツが天の御使いなら雲の上から滑って落っこちた挙句ドーナツの輪っかをテメェで食っちまって、戻るに戻れず地べた這いずってんのさ。ンな間抜け野郎中身はどうあれ駄バトで十分」
「随分とひねくれた愛情表現ですね」
「アンタの二の舞にゃなんねーから安心しな神父サマ。俺の駄バトはお為ごかしの天使よかよっぽど上物、天国なんかメじゃねぇ位に飛べんのさ」
「やれやれ、主に賜りし聖なるドーナツをたいらげて地上に繋ぎ止める気満々ですか君は」
「アンタの十字架地面にぶっ刺して輪投げしてやる、ど真ん中にはめたら拍手頼むぜ」
「ほっとけ」
「やはりお兄さんにちなんで?」
「真っ白くて汚し甲斐あんじゃん、頭のてっぺんから尾っぽまで俺の色に染めたくなる」
「それはそれは……素直じゃありませんね」
「知ったかぶんなクソ神父。そーゆーテメエはどうなんだ、蛇が嫌いな理由は?股間噛まれて腫れたかよ」
「言うに憚る場所を噛まれた経験ならありますがね。旧約聖書において蛇はイブを唆して知恵の実を齧らせた人類の天敵、原罪の導き手。忌み嫌うに足る理由は十分かと存じますが」
「博愛主義で売ってるお優しい神父サマが偏見ふりかざすのかよ?嫌われもんもひとしなみに愛してやれよ」
「自分に噛み付く者を愛するには修行が要ります。牙に毒ある蛇は警戒しないと、悪徳が回って身を腐らせますしね」
「もとから汚れてんじゃねえ?」
「カソックでも隠せませんか」
「偽善者のフリよせよ、糸目の半笑い疲れんだろ。ピジョンの前じゃ理想の師とやらを演じてんの?先生先生懐かれていい気分?」
「なんのことやら」
「俺の足躱したろ、素人の身ごなしじゃねえ。ピジョンのフカシを疑ってたが、元賞金稼ぎってのはマジみてえだな」
「君の動きは大振りで読みやすいんですよ。僭越ながら隙だらけです」
「挑発?」
「心配無用とおっしゃいましたが、その調子では早晩仕事に支障をきたすのではありませんか。ナイフ一本で切り開けるほど業界は甘くないですよ」
「俺の活躍見てねェの?」
「雑誌で毎月拝見していますよ」
「ゴシップ雑誌にぞっこんか、娑婆っけぬけねー神父サマだな」
「教会に隠居してると世相に疎くなっていけませんので、情報収集も大事です」
「ならわかんだろ、ナイフさえありゃ絶好調。向かうところ敵なしの快進撃、じきキマイライーターのジジイを下してトップに躍り出らァ」
「勇ましいのは良いことです。挑戦と蛮勇を履き違えない限りは」
「いちいち突っかかる言い方すんじゃねーよ」
「ピジョン君が心配します」
「駄バトの心臓に配慮してたら成り上がりなんて夢のまた夢」
「コヨーテ・ダドリー氏を覚えておいでですか。あの時のピジョン君の顔を見せたかったですよ、無茶し放題の弟に気を揉んで夜も眠れずにいました。たった二人きりの兄弟でしょうに、もう少し優しくできませんか」
「優しくする?具体的に?毎日ただいまとおかえりのキスしてやりゃ満足か、お姫様みてーにベッドに運んでやるか。涙をすくって慰める?スワローどうした何やらかしたがアイツの口癖だ、ちっと甘やかしゃすぐ付け上がる、酷い位がちょうどいい。べそかく顔が一番そそる」
「小鳩の涙が燕の好物とはね」
「涙なんざしょっぱくてまずいだけ、腹の足しにもなりゃしねえ」
「それでも啜るのをやめられない、一滴残さず飲み干さずにいられない。呪いのように」
「決まってる。アイツの全部が俺の物、涙一滴血の一粒だって無駄にゃしねえよ。アンタはどうなんだ先生、ピジョンをどう思ってる?稚児にするにゃ年食いすぎか」
「可愛い弟子です。こと伸びしろに至っては私をこえます」
「本気で言ってんの?世辞?」
「恥ずかしいから本人には内緒ですよ、慢心は身を滅ぼしますので」
「神父の後継者なんてぞっとしねェな」
「彼は優秀な狙撃手です。臆病で自信がないのが玉に瑕ですが、土壇場での度胸には目を見張るものがあります」
「忍耐力だけが取り柄だかんな」
「昔の自分を見ているような既視感が襲うときすらあります」
「アイツのが可愛げあんね」
「手厳しいですね……昔の私なんて知らないでしょうに」
「筋金入りの神様嫌い」
「……何故ですか」
「経歴。賞金稼ぎが神父に鞍替えなんてさんざん神様に盾突いて地獄に落ちんのが怖くなったからに決まってる、手元が狂って天使でも撃ち落としたか?」
「当たらずも遠からずとだけ言っておきます」
「アンタを夢中にさせた天使ってなァさぞかしべっぴんだったんだろうな」
「ええ。美しい人でしたよ」
「のろけか。否定しろよ」
「他人事じゃありませんよスワロー君、君が常日頃馬鹿にしている愚鈍な小鳩こそツキを運ぶ天使かもしれないのに。雑に扱えばバチがあたります」
「天使なんかじゃねえ、グズでノロマなただの駄バト。賞金稼ぎに悪運運ぶのが天使であってたまっか、地獄の迎えの悪魔の所業だろ。テメェが天使にフラれたからってやっかむんじゃねーよ、アイツのめでてえオツムの上に輪っかが見えんなら眼鏡の度の調整おすすめするね、ドーナツと見間違えてんじゃねェの」
「ドーナツですか……うまいこと言いますね。なるほど、君の天使サマは神々しい光の輪より食べればなくなるドーナツの輪が気に入りそうだ」
「たわけた寝言にのってやる。もしアイツが天の御使いなら雲の上から滑って落っこちた挙句ドーナツの輪っかをテメェで食っちまって、戻るに戻れず地べた這いずってんのさ。ンな間抜け野郎中身はどうあれ駄バトで十分」
「随分とひねくれた愛情表現ですね」
「アンタの二の舞にゃなんねーから安心しな神父サマ。俺の駄バトはお為ごかしの天使よかよっぽど上物、天国なんかメじゃねぇ位に飛べんのさ」
「やれやれ、主に賜りし聖なるドーナツをたいらげて地上に繋ぎ止める気満々ですか君は」
「アンタの十字架地面にぶっ刺して輪投げしてやる、ど真ん中にはめたら拍手頼むぜ」
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