128 / 197
回顧録
王子が私の前にやってきた(その2)
しおりを挟む
(1)王子が私の前にやってきた <続き>
自動車メーカーを退社した私は、第13穀物倉庫で働き始めた。
これといった理由は特にない。たまたま募集を見て、条件が良かったから応募しただけだ。
まず、第13穀物倉庫は国営の穀物物流会社なので、公務員並みに給料は安定している。
ノルマも無いし、各種手当も充実している。ジャービス王国では珍しいホワイト企業だ。
第13穀物倉庫では購買部に配属された。仕事はなかなか面白かった。
穀物倉庫と聞くと、物流会社や配送業者をイメージするかもしれないが、事業内容はちょっと違う。どちらかと言うと、食品専門商社の方が近いだろう。
穀物と言っても、取扱商品数が多い。小麦、米、トウモロコシ、大麦、えん麦、ライ麦、ライ小麦、キビ、ブルグル、モロコシ、それに大豆などの豆類も扱っていたので、全部で20種類あった。
ジャービス王国の農業生産は多い方だが、全ての穀物が国内生産している訳ではない。例えば、小麦は国内生産量で国内消費量をまかなえるので、調達した小麦を国内販売した後は、余剰分を外国へ輸出している。逆に、米は国内消費量を賄えないので外国から輸入して、国内で販売している。
それと、穀物の生産量や価格は、天候、自然災害、紛争に左右される。値動きも非常に粗い。過剰在庫を抱えないように注意しながら、安定的に安い価格で仕入れないといけないし、損失が出ないように販売価格を設定しないといけない。
商社ビジネスは非常にゲーム性が強いのだ。バスケットボールの選手だったせいか、私はゲーム感覚で仕事をしていたと思う。
そして、第13穀物倉庫で働き始めて3年が経った頃、私はある事件を起こした。
みんな知っているだろうから、あえてここでは説明しない。
もし知らない人がいれば、第1回活動報告を見てほしい。
***
ある日、私が第13穀物倉庫に出勤すると、ターニャが休憩室で誰かと話していた。
ターニャはとにかく噂好きだ。
他の人の情報を仕入れてきては、社内外に拡散している。ガブリエルが『パパラッチ』と陰で呼んでいるが、まさにそんな存在だ。
そして声が大きいので、聞こうとしなくても会話の内容が耳に入ってくる。
ターニャは休憩室にいた何人かに、「明日、王子が来るらしいよ」と言った。
私は耳を疑った。
“王子がやって来る?”
私の聞き間違いだろうか?
でも、ターニャは確かにそう言ったような気がする。
おみくじの『待ち人来たれり』のような、神のお告げだろうか?
明日、私の前に高身長の王子が現れるのか?
私はずっと待っている。高身長の王子を・・・
***
そして次の日、第13穀物倉庫に行くと、王子がいた。
“王子、来た~!”
きっと昨日聞いたのは、ターニャを通じた神のお告げだったのだ。
思わずテンションが上がった。
ジャービス王国には4人の王子がいる。私の前にやって来た王子は第4王子だ。
顔は知っている。家にある王族カレンダーの7月・8月に出ていた顔だ。
確か、どこかの大臣をしていたと思う。どこかは思い出せない。
でも、独身なのは覚えている。
王子は休憩室でターニャと話していた。
パパラッチに捕まった不幸な王子。そんな王子を見ている私。
遠くからだが、身長は高そうだ。
これは本当に、私の高身長の王子じゃないか?
私はたまらずに王子の後を着けて行った。
作業部屋に王子が入ると、そこにはミゲルと綺麗な女性がいた。
女性は見たことがない顔だから、外部の人間だろう。王子は女性と話をしているが、女性は王子を邪魔そうに扱っている。王子には興味がなさそうだ。
王子だし、身長は高いし、ライバルはいなさそうだ。
この王子だったら何とかなるんじゃないか?
さっきまで王子はターニャと話していたから、私はターニャに王子と何の話をしていたか聞きにいった。情報収集は重要だ。
ターニャは私に『小麦の在庫数量を調べているらしい』と教えてくれた。
これは困った。どうやら、私がやってしまった件を調べているようだ。
ああ、神よ。私たちの仲を引き裂こうとされるのですか?
それにしても、王子はどこまで調べたのだろう?
まだ、私が犯人とは気付いていないだろう。
もし気付いていたら、私に会いに来ているはずだ・・・。
<続く>
自動車メーカーを退社した私は、第13穀物倉庫で働き始めた。
これといった理由は特にない。たまたま募集を見て、条件が良かったから応募しただけだ。
まず、第13穀物倉庫は国営の穀物物流会社なので、公務員並みに給料は安定している。
ノルマも無いし、各種手当も充実している。ジャービス王国では珍しいホワイト企業だ。
第13穀物倉庫では購買部に配属された。仕事はなかなか面白かった。
穀物倉庫と聞くと、物流会社や配送業者をイメージするかもしれないが、事業内容はちょっと違う。どちらかと言うと、食品専門商社の方が近いだろう。
穀物と言っても、取扱商品数が多い。小麦、米、トウモロコシ、大麦、えん麦、ライ麦、ライ小麦、キビ、ブルグル、モロコシ、それに大豆などの豆類も扱っていたので、全部で20種類あった。
ジャービス王国の農業生産は多い方だが、全ての穀物が国内生産している訳ではない。例えば、小麦は国内生産量で国内消費量をまかなえるので、調達した小麦を国内販売した後は、余剰分を外国へ輸出している。逆に、米は国内消費量を賄えないので外国から輸入して、国内で販売している。
それと、穀物の生産量や価格は、天候、自然災害、紛争に左右される。値動きも非常に粗い。過剰在庫を抱えないように注意しながら、安定的に安い価格で仕入れないといけないし、損失が出ないように販売価格を設定しないといけない。
商社ビジネスは非常にゲーム性が強いのだ。バスケットボールの選手だったせいか、私はゲーム感覚で仕事をしていたと思う。
そして、第13穀物倉庫で働き始めて3年が経った頃、私はある事件を起こした。
みんな知っているだろうから、あえてここでは説明しない。
もし知らない人がいれば、第1回活動報告を見てほしい。
***
ある日、私が第13穀物倉庫に出勤すると、ターニャが休憩室で誰かと話していた。
ターニャはとにかく噂好きだ。
他の人の情報を仕入れてきては、社内外に拡散している。ガブリエルが『パパラッチ』と陰で呼んでいるが、まさにそんな存在だ。
そして声が大きいので、聞こうとしなくても会話の内容が耳に入ってくる。
ターニャは休憩室にいた何人かに、「明日、王子が来るらしいよ」と言った。
私は耳を疑った。
“王子がやって来る?”
私の聞き間違いだろうか?
でも、ターニャは確かにそう言ったような気がする。
おみくじの『待ち人来たれり』のような、神のお告げだろうか?
明日、私の前に高身長の王子が現れるのか?
私はずっと待っている。高身長の王子を・・・
***
そして次の日、第13穀物倉庫に行くと、王子がいた。
“王子、来た~!”
きっと昨日聞いたのは、ターニャを通じた神のお告げだったのだ。
思わずテンションが上がった。
ジャービス王国には4人の王子がいる。私の前にやって来た王子は第4王子だ。
顔は知っている。家にある王族カレンダーの7月・8月に出ていた顔だ。
確か、どこかの大臣をしていたと思う。どこかは思い出せない。
でも、独身なのは覚えている。
王子は休憩室でターニャと話していた。
パパラッチに捕まった不幸な王子。そんな王子を見ている私。
遠くからだが、身長は高そうだ。
これは本当に、私の高身長の王子じゃないか?
私はたまらずに王子の後を着けて行った。
作業部屋に王子が入ると、そこにはミゲルと綺麗な女性がいた。
女性は見たことがない顔だから、外部の人間だろう。王子は女性と話をしているが、女性は王子を邪魔そうに扱っている。王子には興味がなさそうだ。
王子だし、身長は高いし、ライバルはいなさそうだ。
この王子だったら何とかなるんじゃないか?
さっきまで王子はターニャと話していたから、私はターニャに王子と何の話をしていたか聞きにいった。情報収集は重要だ。
ターニャは私に『小麦の在庫数量を調べているらしい』と教えてくれた。
これは困った。どうやら、私がやってしまった件を調べているようだ。
ああ、神よ。私たちの仲を引き裂こうとされるのですか?
それにしても、王子はどこまで調べたのだろう?
まだ、私が犯人とは気付いていないだろう。
もし気付いていたら、私に会いに来ているはずだ・・・。
<続く>
0
あなたにおすすめの小説
王宮メイドは今日も夫を「観察」する
kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」
王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。
ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。
だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……?
※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。
婚約破棄を本当にありがとう
あんど もあ
ファンタジー
ラブラブな婚約者のパトリシアとラルフ。そんなパトリシアに、隣国の王立高等学院に留学しないかとのお誘いが。「私、もうこの国の王立学園を卒業してますよ?」「高等学園にはブライト博士がいるわよ」「行きます!」
当然、ラルフも付いて行くのだが、そこでパトリシアは王太子の婚約者と思われて……。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
【第一部完結】科学で興す異世界国家 ~理不尽に殺された技術者は第三王子に転生し、科学で王座に至る~
Lihito
ファンタジー
正しいデータを揃えた。論理も完璧だった。
それでも、組織の理不尽には勝てなかった。
——そして、使い潰されて死んだ。
目を覚ますとそこは、十年後に魔王軍による滅亡が確定している異世界。
強国の第三王子として転生した彼に与えられたのは、
因果をねじ曲げる有限の力——「運命点」だけ。
武力と経済を握る兄たちの陰で、継承権最下位。後ろ盾も発言力もない。
だが、邪魔する上司も腐った組織もない。
今度こそ証明する。科学と運命点を武器に、俺のやり方が正しいことを。
石炭と化学による国力強化。
情報と大義名分を積み重ねた対外戦略。
準備を重ね、機が熟した瞬間に運命点で押し切る。
これは、理不尽に敗れた科学者が、選択と代償を重ねる中で、
「正しさ」だけでは国は守れないと知りながら、
滅びの未来を書き換えようとする建国譚。
※1話から読んでも大丈夫。ただ、0話を読むと「あのシーン」の意味が変わります。
辺境追放された「植物魔導師」の領地開拓 ~枯れ果てた死の大地は、俺の魔力で聖域(楽園)へと変貌する~
リーフレット
ファンタジー
「植物魔法? ああ、農作業にしか使えないあの地味な魔法か」
帝国騎士団の専属魔導師だったアルトは、無能な二世皇太子レオンによって、一方的に追放を言い渡された。
アルトがどれほど魔導植物を駆使し、帝国の食糧難を裏から支えていたかを知らぬまま、彼は「戦闘に役立たない役立たず」という烙印を押されたのだ。
帝国を出て行き着いた先は、魔物が跋扈し、草一本生えないと言われる最果ての荒野。
死を待つだけの地。しかし、アルトは絶望するどころか、晴れやかな顔で笑っていた。
「やっと、気兼ねなく『植物』を愛でられる。……よし、ここを世界一の庭(楽園)にしよう」
崖からポイ捨てされた不運令嬢ですが、銀髪イケメン竜王に『最愛の伴侶』としてスカウトされました!
有賀冬馬
恋愛
不作も天災も、全部わたしのせい!?
「不運な女」と虐げられ、生贄として崖から捨てられたわたし、ミラ。
でも、落ちた先で待っていたのは、まぶしいほど綺麗な銀髪の竜王・アルベルト様でした!
「君がいたから、この国は守られていたんだよ」
えっ、わたしって実はすごい聖女だったの!?
竜宮城で贅沢三昧&溺愛生活スタート!
そんな中、わたしを捨てて大ピンチになった元婚約者が「ミラ、戻ってきて!」と泣きついてきて……。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる