幼少期に相思相愛だった相手に婚約を申し込んだら袖にされた。 十二年疎遠だったから無理もない? 私たちは毎夜語らっていたのになぜ……。

川嶋マサヒロ

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11「魔窟の激闘・後編」

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「我々は少し先に行こうか」
 後方にいて、ただ見えているだけでは怪しまれる。横に広いホールの端を抜けて四人は先へと進んだ。それに――。
「複数が接近中ですね。分かりましたか?」
「うむ。スキルとやらを思い出してきたよ」
 それは魔獣を探査する能力だ。一頭の犬が現れその後方に何頭かが続く。
 シルヴェリオはスラリと剣を抜いた。
「私が先頭で突っ込むから援護を頼むぞ」
「了解だぜ~」
 進むシルヴェリオの後方から矢が飛んだ。カールラの援護だ。それは先頭の犬に突き刺さり、爆発した光が放射状に伸びた。そして全てを串刺しにする。脅威はあっけなく消滅する。
「……」
 これでは見せ場など全くなかった。大失敗だ。
「おおっ、すげえな。あれ……」
 シルヴェリオの成果は剣を抜いてただ走っただけだった。
「ああ、一撃であんなに倒すなんて」
「すごいスキルだ。噂で聞いたことがある」
「あれってシルヴェリオ様じゃないかしら?」
「きゃ~」

「まずいな……」
 女子生徒の中には当然シルヴェリオを知っている者も多いだろう。あまり目立ちたくはなかった。
「私たちはもう少し下に降りましょう。シルヴを戦わせるとの約束なのですよ。頂ける報酬の三分の二の仕事です」
「余計なことを」
 しかしろくな戦いもないのに、学生集団に張り付いては怪しいことこの上ない。ここは少々別行動するのも得策であろう。
「分かった。戦いとやらもやるか」
「学生さんたちもこの階層にいる分には安全ですから。すぐに逃げられますし、脱出は容易です」

 さら下に降り人のいない長い回廊を奥へ奥へと進む。
「多くの冒険者は一つ下で戦っております。獲物が多いですから」
「この先に何があるのだ?」
「見てのお楽しみですわ」
 カールラとチェレステはニヤニヤしている。
 鎖で何重にも閉ざされた開口がぽっかりと空いていた。立ち入り禁止の看板がぶら下がっている。
「ただの鎖に見えますが魔法がかけられています。ギルドに解錠の許可をもらっておきました」
 手をかざすと鎖が光る。
「この先には魔人、いわゆるボスキャラがいるのですよ。それとの戦いには許可が必要なのです」
「倒せないのか?」
「王政と冒険者ギルドの力を結集すれば倒せます。しかしそうすればさら奥から魔獣が溢れます。それを避けたいのですよ」
「つまりわざと生かしているんだな」
「腕試しに使っているんだニャー」
 それをシルヴェリオにやらせようというのだ。
(なるほど。腕試しか)
「いいだろう――」
 デメトリアが剣をかざすと鎖は光ってから外れた。四人は先へと進む。

 薄暗い巨大洞窟が光り輝き始めた。ボスキャラは頭部にまがまがしい角が生える巨人だ。魔人ミノタウロス。
 顔は猛獣であり、長い尾は爬虫類である。大きな口には牙がのぞき、よだれがボタボタと流れ落ちる。こちらを食える獲物などと思っているようだ。
(なるほど……)
 忘れていたスキルが身体の中で動き初める。人の本能だ。シルヴェリオは思い出した。
「――面白そうだな」
 聖剣を抜いたシルヴェリオは一歩前に出る。合わせるようにミノタウロスも一歩を踏み出す。壁、床、天井。四方から魔力が湧き出してくるのが分かった。
 噂に聞く魔導空間。魔界の底にある奈落の擬似空間。周囲からの圧力に体の芯が反発しブルリと震える。
 デメトリアは微笑し、カールラはニヤリと笑い、チェレステは上唇を舌で拭う。
「おまえの記憶を食ってストークしてやる」
 飛び出したシルヴェリオは自身の魔力を魔導空間に反発させた。少しだけ浮き上がり、魔力の衝撃を使い自らの体を機動させる。リフティング・アクション浮遊突撃だ。
 ミノタウロスは右手に巨大な剣を作り出す。シルヴェリオは下段で聖剣を引く。そのまま両者は激突した。
 一気に後退し再び突撃するシルヴェリオ。攻撃を繰り出すミノタウロス。両者は二度三度と打ち合いを続けた。
「そすがにケタ違いの強さだな。ならば――」
 シルヴェリオは聖剣を両手に持ち変えた。
「――私のスキルちからを見せてやるっ!」
 スキル、ストーク捕食を使い再度飛び込む。再び刃が交わった。

 そこは魔導空間とはまた違う記憶の次元。燃える街、そびえる城、狂気に染まった群衆。周囲は人への憎悪に彩られていた。女子供が吊るされている地獄の映像。ここはミノタウロスの核に潜む人間の記憶だ。

 その光景には見覚えがあった。歴史書と古い絵画により伝えられている過去だ。
(ここは五百年前の、この地かっ!)
 燃えるかがり火に照らされる処刑場。痛めつけられ拘束された男たちが引き出され次々に首をはねられた。そのたびに絞首台の底が抜ける。
 群衆も処刑される男も女子供たちも涙を流し悲鳴を押し殺していた。
(……ここが地上の奈落か)
 離れた場所に立つシルヴェリオはピタリとした黒い装束にマント、腰にさや、右手には抜身の聖剣。周囲からこの姿は見えない、剣以外はこの時間の誰かのようだ。
 シルヴェリオは疑問を持つ。
(ここにスキル持ちは大勢いたはずだ。動けないのか?)
 巻き上げられる火の粉にさらされる城のバルコニー。そこに数人の姿が見えた。端には白いドレスの女性がうつむいている。レディセイント聖女が結界を張っているのだ。
(いったいなぜ?)
 刹那、シルヴェリオの時間は現実で動き出した。剣で弾かれ後退、そして前進。魔人ミノタウロスとの戦いは、互いの持つ力のぶつけ合いだった。
 さら剣を数度合わせるだけとしシルヴェリオは引く。倒す必用はない、これはあくまで腕試し程度の戦いだ。見守る三人の元に帰る。
「なんだあ。やるニャン」
「当然です。何もしなくても子供の頃から成長しているのですから。さすがですね」
「もっと真面目に戦えばいいになあ。もったいないなあ~」
「真面目だよ。実戦とはかくも有用なのだな。スキルとやらもかなり思い出した。目覚めた分もあるかな?」
 昔を思い出す戦いだ。まずはこの程度でよいだろと、四人はボスキャラの住処すみかをあとにした。

「まずいニャン」
 外はにぎやかになっていた。犬魔獣の群れが発生し上層階を伺っている。
「あの数は学生さんには荷が重いなー」
「適度に間引くぞ。総取りはいかん」
「分かってるって」
 カールラはすかさず弓を引き放つ。見事先頭の魔獣を仕留めた。
 続いて疾風はやてのようにシルヴェリオが前に出る。まだミノタウロス戦を引きずっていた。デメトリア、チェレステも続く。
「もういいだろう」
「はい、これぐらいにしておきましょう」
 数頭を残して戦闘を停止。残敵は上層へと逃れて行った。
「あとは上に任せよう。やりがい作りだ」
「シルヴは苦労人だよなあ。ヘンな貴族だぜ」
「そうかな?」
父親おやじにうまく乗せられたな……)
 親が戦いにいざなぐのは、戦いもまた貴族の生業なりわいだからだ。
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