幼少期に相思相愛だった相手に婚約を申し込んだら袖にされた。 十二年疎遠だったから無理もない? 私たちは毎夜語らっていたのになぜ……。

川嶋マサヒロ

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48「美・守護します」

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 学院紛争はクライマックスを迎えつつあった。ついにラヴキュア親衛隊が姿を現したのだ。総勢二十数名、全員頭部をすっぽりと包む白い三角マスクを被り、目口鼻だけが露出している。その不気味な姿に下校時の学院は騒然となった。
「「「アールデルス・バイエンス・バーイエンス・ボースマブラッケ・テン・ボスケ・ゼンデーン。ベントラー、ベントラー……」」」
 隊列を組み、不気味な呪文のような言葉を吐き出しながら進む。
 例の巨大掲示板の横に陣取り、例のチラシを配り始める。そして演説を始めた。
『我々は美・【ガーディアンズ守護者たち】。世界の美しきものを守る者たちだ』
 魔導具のメガホンを使い変調された声はいっそう不気味である。それは低く野太く、大勢が振り向き注目した。
【美・ガーディアンズ守護者たち】。新たな勢力が姿を現したのだ。
 その強烈なインパクトに誘われ、学生たちはまるで蜜に群がる蟻のように集まって来た。
『この学院には美へ反逆を企てる者がいるようだな? 失望したぞ……』
「「「ベントラー……」」」
『私はウマーノ・ガース。女性の敵に女神の鉄槌を下す男だ』
 男子たちはほとんどが野次馬気分で聞いている。しかし女子たちは不快を隠そうとしない。
「誰のことだ?」
「とぼけんなよ。あの・・人のことだって」
「ああ、反逆なんて大袈裟な。【ラヴキュア】に興味ないヤツらだっているだろう――」
「「「ベントラーッ!」」」
「ひっ!」
 言葉を遮り、集団は数の理論で威嚇する。しかし総数は圧倒的に学生が多い。この場でどれほど味方に付けられるかがアジテーションの勝負だ。
『特別な一人を曖昧にして複数を狙うなど、卑怯を芸術絵画にしたような男』
「あはは、確かにあの・・人は存在自体が芸術だ」
 男子たちは失笑した。
『笑っている場合かな? この学院は言わばヤツのハーレム』
「なるほど。そうかもなあ」
「俺たちって影薄いぜ……」
 一方女子たちは多くが怒りにプルプルと震えている。今や隠れファンとなっていた、貴公子ラヴ女子たちだ。簡単に迎合するバカ男子たちを睨む。
『あの男は学院に巣くう淫魔獣。どれほどの女学生が、餌食となったことか――。我々はその極秘ファイルを入手した……』
「デマに決まってますわ。証拠はあるのですかっ!」
「そうです」
「だいたい、あなたたちは学院生なのですか?」
「許可もなしに、こんなの許されません。生徒会に確認します」
 勇気ある女学生が声をあげ、続々と反【美・ガーディアンズ守護者たち】の狼煙が上がる。
『ふふっ、続報は掲示板に貼り出す。その後が見物だな。実名をスクープする……』
 爆弾発言で女子たちは顔色がんしょくを失う。まさか! と疑心暗鬼になった。もしかしたら、誰かしら秘密裏にハーレム要員になっているのか――、と。
『震えて眠れ。淫魔獣死すべし』
「「「ベントラーッ!」」」

  ◆

「なっ、なんだ。あれは?」
 シルヴェリオは教授の部屋を訪ねていた。
 今後の対応をどうするかなど話している最中、おかしな声が聞こえ窓の外を見たイラーリアは声をあげる。
 シルヴェリオも傍らに寄り外を見た。
「なんと珍妙な。何者ですかね?」
「お前の糾弾にしても、度が過ぎる。本当に学院生か?」
「学生たちだけで、あそこまではやりますまい」
「何やらわけの分からんことを言っているが……。まさか、悪魔召喚の儀式!」
「神話語から派生した方言の組合わせです。偶像、崇拝、愛、美、応援などの単語を羅列しているだけですな」
「脅かすな……」
「ベントラー=応援求む、です。流行らせたいのでは?」
「遊びかあ?」
 野次馬がどんどん集まってきた。スキャンダルとしては大人気の案件だ。
「お前って、意外に人望がないのだな」
「あれば苦労しておりません」
 しばし二人は窓の外のやりとりを聞いた。謎の男ウマーノ・ガースに生徒たちも反論しているが、どうも分が悪いようだ。
「これは、やはりアイドルがらみなのか?」
「切っ掛けはそうでしょう。しかし、もはやこれは私への個人攻撃ですな。ネタは何でもよいのでしょう」
「とにかく理事会に問題提起する。あのような輩が自由にできる学院ではないぞ!」
「貴族の影響力もあるのでしょうし、理事会は使えませんよ」
「他人事みたいに言うな!」
 そう言われても全くの事実無根に対して、シルヴェリオは今一つ当事者意識が持てなかった。騒いでいるのは他人ばかりだ。
「そうですね。さて……」
(フランチェスカの耳に入るのは耐えられんか)
「先に学院独自の調査委員会を開くか――。動いてみるからな」
「よろしくお願いします」
「そうだ。話は変わるが正式な婚約が決まった。行政には届けたよ」
「! それはおめでとうございます」
「ああ。まっ、落ち着くところに落ち着いた、という感じだな」
 イラーリアは少女のような満面の笑みをうかべた。
「まったく、おめでたい話ですな。うらやましい……」
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