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第五話「真治の暗黒歴史 その一」
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渋谷にある高層オフィスビルの最上階、窓際に立つ神谷真治は外に広がるビル群を一人見降ろしていた。
ここは真治の一族が代々経営している会社の全てを束ねる持ち株会社のオフィスで、真治の父親が社長を務める社長室の隣の部屋、通常は役員室として利用されている一室で今は真治が使用している部屋だ。
細身の黒いスーツ、青を基調としたネクタイ、ポケットに手を突っ込みぼんやりと外を眺めているお馴染みの景色に、シンジは上の空で考え事をしていた。
「三年ぶりだったな……」
前回の異世界転移から三年近くたっていた。あの時、魔王に敗れて夢の中を退場した真治は引き籠りを止め父親と対決した。現実でのささやかな自由を獲得した真治は行動を起こす。元々成績は良かったのだが、部活、塾は一切止めて受験勉強に集中し、父の指定した進学高校に合格、二年目で大験、大学入試検定試験に通り、父と学校を説得した。
現在は高校休学中で週の数日、父親の仕事を手伝い学び、自宅で大学受験の勉強、後は毎日気ままに過ごしている。来年からは予備校に通う予定だった。
今回、転移をしたきっかけが何かは分からない、三年前、引き籠りながら夢の世界での出来事を、物語に描いてネットの小説サイトに投稿していた時、何が自分に転移を引き起こしたのか考えたが、あの時も結論らしき考えには至らなかった。
自身、戦士が魔王に敗れた時点で更新は中止したが、暫らくして驚くべき事に真治の続きを体験している小説が連載を始めた。名前は同じシンジ、まさか名前繋がりで替わりに転移させられた訳でもないのだろうが……、それとも真治の小説を読んでいた関係だろうか? 真治は書く気が無かったエピローグを追加して、数日置いてからから退会し全ての小説を消した。
もう夢の世界に行けないのに、夢を追い続けていても仕方ない、シンジには現実での戦いが待っていたからだ。
「まさかまた、あの世界に行けるとは思っていなかった、もう一人のシンジの小説は参考になったな……」
真治の後に転移したシンジと名乗る見知らぬ同級生は、戦士となって戦いを続け、今の真治にとって有益な情報をもたらしてくれた。
真治は母親と祖母から就職祝いと、プレゼントされた腕時計を見る。
「もうこんな時間か……」
出口に向かい、扉を開けると秘書室の佐伯優華が在席していた。
「遅くなって、すいませんでしたね、佐伯さん、帰ります」
「お疲れ様でした。真治さん、社長は打合せが長引くので直帰すると連絡がありました」
真治は軽く手を上げ、廊下に出て役員用エレベーターを目指す。今日は、これから訪ねる場所があった。外に出て駅までの通りを逆行し路地裏に入ってしばらく歩く、シンジは薄汚れた雑居ビルに入り階段で四階まで上がった。このオンボロビルにはエレベーターは無い、真治は特に看板や表札の掛かっていない扉を開ける。
中に入り無人の受付カウンターにある内線電話を取り、来訪の旨を伝えると、中年の男が出迎えに来て真治は打合せブースに案内された。
シンジは佐伯秘書嬢に紹介してもらった探偵社に、夢の異世界についてハッキングも含めた調査を依頼していて、探偵社から調査完了のメールが来たので出向いたのだ。
佐伯嬢の話では大学時代の同期がここの仕事を時々手伝っているとの事だった。
向かい合って座った男は何枚かの書類を差し出した。
「たいした情報はありませんでしたよ、ネットの噂やデマレベルまで集めてみましたが」
真治は項目にざっと目を通す。文字列の中に特殊自衛隊の文字が目に着き真治は以前どこかで記事を見た事を思い出した。確か陸海空に続く四番目の自衛隊として数年前に発足していた組織、宇宙とサイバー空間を専門に扱う、と記憶にあった。
「この特殊自衛隊の関与とはいったい何なのですか?」
「はい、御存じとは思いますが自衛隊の第四軍ですね、今一つ何の為の組織か見えてこないと、ハッカーの中にはライフワークのように情報を集めている人も居るのですよ、彼らの中に今回の夢の世界の話と何か関係が有るのでは? と考える者が何人か居て情報を提供してくれました」
真治がネットで見かけた都市伝説の類の話も有る。深夜の住宅街で怪物と戦う少女、巨大な人型機械と怪獣が戦った昭和情報、歌舞伎町上空の空飛ぶキャバ嬢の話、異星人と入れ替わっている人間の話。
「昭和情報は私が子供の頃も色々と噂が有りましたけどねえ、今は意図的にガセ情報が流されているようでして……、さすがに巨大ロボは荒唐無稽でしょう」
「確かに……」
「あちらでは魔人と言うのですか、こちらでは単に怪物と呼ばれている何かが、その特殊自衛隊に処理されているとの噂は多いですね、まあ、某国の工作員や国内のテロリストを摘発する話が誇張されているのだと思いますけど」
あの世界と現実が繋がっているとの話はあちらでも聞く、人間が行けるのだから魔人がやって来て、それに対処する組織が有る事は果たして荒唐無稽だろうか? あり得るかもしれないと真治は思った。
「その自衛隊の中には凄腕のハッカーが居るらしくて、ブロックされるだけではなく、こちら側のPCがハッキングされて逆に協力させられている連中もいるそうです」
「ははっ、ミイラ取りがミイラってやつですね」
次の項目には海外で公開されている夢の世界を扱ったアマチュア小説のアドレスが続く。
「小説は結構有るのですねえ」
「ええ、日本のサイトにはありませんでしたが、海外で十二本ほど」
真治は海外で公開されている夢の世界について書かれたネット小説の調査も依頼していた。内容を要約された日本語訳が数行書かれている。
「人と魔人が戦う話、ニューブリテンの秘密? 魔法ファンタジー、宗教の関与を警告、堕天使と神……か」
真治は書類を畳んで胸の内ポケット入れると、そこに入っていた札の束を取り出した。
「これ、報酬です。領収書はけっこうですから」
「いえ、最初に既定の料金は頂いていますから、これはいただけませんよ」
真治は先払いで二十万円ほど支払っていた。
「この金額分だけ継続して情報を集めてくれませんか? 海外のアマチュア小説サイトの新規作品についてと、その特殊自衛隊の話を……、そうですね半年ほどの間、一か月に一度ほどにまとめて報告をいただければ助かりますが」
「それでしたらお受けしますが、たいした情報が集まるとは思えませんが……」
探偵社の男は頭を掻いた。
「いえ、それで結構です。特殊自衛隊の話は面白かったですね、続報があれば嬉しいですが……、ハッカーの皆さんにはあまり無理なさらないようにお伝え下さい」
三年前の引き籠りの時にそれまで溜めていた小遣いで始めた株や為替の取引が莫大な金額になっていた。
最初は戸惑った貨幣が無い夢の世界と、パソコンのモニターに映る、数えるのも面倒になるくらい並ぶ0を見ると、金で買えない物を手に入れる事の価値観はあっちも、こっちも同じだと真治は思っていた。
ここは真治の一族が代々経営している会社の全てを束ねる持ち株会社のオフィスで、真治の父親が社長を務める社長室の隣の部屋、通常は役員室として利用されている一室で今は真治が使用している部屋だ。
細身の黒いスーツ、青を基調としたネクタイ、ポケットに手を突っ込みぼんやりと外を眺めているお馴染みの景色に、シンジは上の空で考え事をしていた。
「三年ぶりだったな……」
前回の異世界転移から三年近くたっていた。あの時、魔王に敗れて夢の中を退場した真治は引き籠りを止め父親と対決した。現実でのささやかな自由を獲得した真治は行動を起こす。元々成績は良かったのだが、部活、塾は一切止めて受験勉強に集中し、父の指定した進学高校に合格、二年目で大験、大学入試検定試験に通り、父と学校を説得した。
現在は高校休学中で週の数日、父親の仕事を手伝い学び、自宅で大学受験の勉強、後は毎日気ままに過ごしている。来年からは予備校に通う予定だった。
今回、転移をしたきっかけが何かは分からない、三年前、引き籠りながら夢の世界での出来事を、物語に描いてネットの小説サイトに投稿していた時、何が自分に転移を引き起こしたのか考えたが、あの時も結論らしき考えには至らなかった。
自身、戦士が魔王に敗れた時点で更新は中止したが、暫らくして驚くべき事に真治の続きを体験している小説が連載を始めた。名前は同じシンジ、まさか名前繋がりで替わりに転移させられた訳でもないのだろうが……、それとも真治の小説を読んでいた関係だろうか? 真治は書く気が無かったエピローグを追加して、数日置いてからから退会し全ての小説を消した。
もう夢の世界に行けないのに、夢を追い続けていても仕方ない、シンジには現実での戦いが待っていたからだ。
「まさかまた、あの世界に行けるとは思っていなかった、もう一人のシンジの小説は参考になったな……」
真治の後に転移したシンジと名乗る見知らぬ同級生は、戦士となって戦いを続け、今の真治にとって有益な情報をもたらしてくれた。
真治は母親と祖母から就職祝いと、プレゼントされた腕時計を見る。
「もうこんな時間か……」
出口に向かい、扉を開けると秘書室の佐伯優華が在席していた。
「遅くなって、すいませんでしたね、佐伯さん、帰ります」
「お疲れ様でした。真治さん、社長は打合せが長引くので直帰すると連絡がありました」
真治は軽く手を上げ、廊下に出て役員用エレベーターを目指す。今日は、これから訪ねる場所があった。外に出て駅までの通りを逆行し路地裏に入ってしばらく歩く、シンジは薄汚れた雑居ビルに入り階段で四階まで上がった。このオンボロビルにはエレベーターは無い、真治は特に看板や表札の掛かっていない扉を開ける。
中に入り無人の受付カウンターにある内線電話を取り、来訪の旨を伝えると、中年の男が出迎えに来て真治は打合せブースに案内された。
シンジは佐伯秘書嬢に紹介してもらった探偵社に、夢の異世界についてハッキングも含めた調査を依頼していて、探偵社から調査完了のメールが来たので出向いたのだ。
佐伯嬢の話では大学時代の同期がここの仕事を時々手伝っているとの事だった。
向かい合って座った男は何枚かの書類を差し出した。
「たいした情報はありませんでしたよ、ネットの噂やデマレベルまで集めてみましたが」
真治は項目にざっと目を通す。文字列の中に特殊自衛隊の文字が目に着き真治は以前どこかで記事を見た事を思い出した。確か陸海空に続く四番目の自衛隊として数年前に発足していた組織、宇宙とサイバー空間を専門に扱う、と記憶にあった。
「この特殊自衛隊の関与とはいったい何なのですか?」
「はい、御存じとは思いますが自衛隊の第四軍ですね、今一つ何の為の組織か見えてこないと、ハッカーの中にはライフワークのように情報を集めている人も居るのですよ、彼らの中に今回の夢の世界の話と何か関係が有るのでは? と考える者が何人か居て情報を提供してくれました」
真治がネットで見かけた都市伝説の類の話も有る。深夜の住宅街で怪物と戦う少女、巨大な人型機械と怪獣が戦った昭和情報、歌舞伎町上空の空飛ぶキャバ嬢の話、異星人と入れ替わっている人間の話。
「昭和情報は私が子供の頃も色々と噂が有りましたけどねえ、今は意図的にガセ情報が流されているようでして……、さすがに巨大ロボは荒唐無稽でしょう」
「確かに……」
「あちらでは魔人と言うのですか、こちらでは単に怪物と呼ばれている何かが、その特殊自衛隊に処理されているとの噂は多いですね、まあ、某国の工作員や国内のテロリストを摘発する話が誇張されているのだと思いますけど」
あの世界と現実が繋がっているとの話はあちらでも聞く、人間が行けるのだから魔人がやって来て、それに対処する組織が有る事は果たして荒唐無稽だろうか? あり得るかもしれないと真治は思った。
「その自衛隊の中には凄腕のハッカーが居るらしくて、ブロックされるだけではなく、こちら側のPCがハッキングされて逆に協力させられている連中もいるそうです」
「ははっ、ミイラ取りがミイラってやつですね」
次の項目には海外で公開されている夢の世界を扱ったアマチュア小説のアドレスが続く。
「小説は結構有るのですねえ」
「ええ、日本のサイトにはありませんでしたが、海外で十二本ほど」
真治は海外で公開されている夢の世界について書かれたネット小説の調査も依頼していた。内容を要約された日本語訳が数行書かれている。
「人と魔人が戦う話、ニューブリテンの秘密? 魔法ファンタジー、宗教の関与を警告、堕天使と神……か」
真治は書類を畳んで胸の内ポケット入れると、そこに入っていた札の束を取り出した。
「これ、報酬です。領収書はけっこうですから」
「いえ、最初に既定の料金は頂いていますから、これはいただけませんよ」
真治は先払いで二十万円ほど支払っていた。
「この金額分だけ継続して情報を集めてくれませんか? 海外のアマチュア小説サイトの新規作品についてと、その特殊自衛隊の話を……、そうですね半年ほどの間、一か月に一度ほどにまとめて報告をいただければ助かりますが」
「それでしたらお受けしますが、たいした情報が集まるとは思えませんが……」
探偵社の男は頭を掻いた。
「いえ、それで結構です。特殊自衛隊の話は面白かったですね、続報があれば嬉しいですが……、ハッカーの皆さんにはあまり無理なさらないようにお伝え下さい」
三年前の引き籠りの時にそれまで溜めていた小遣いで始めた株や為替の取引が莫大な金額になっていた。
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