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第十一話「姫の憂鬱」
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翌日の朝、シンジたち四人は戦士組合の裏庭に居た。ユーカを見送るためだ。
「ユーカ、また会えるよな、この世界で」
「ええ、私はアーディーを中心に活動しているし、シンジもアーディーでしょ」
「ああ、そこで仕事を探すよ」
「仕事に限って言えばここは狭い世界よ、すぐに会えるわ」
「この街とアーディーは馬があれば半日の距離ですしね、大きな案件があれば呼ばせて頂くかもしれませんよ」
シンジの相手をしてくれた組合の男性スタッフは、隣街のシンジにまで依頼を出すつもりのようだ。
「はい、馬も覚えますよ」
街道で馬に乗って移動している人を多く見かけた。この世界では、馬はごく一般的な移動手段のようだ。
「じゃあ行くわね」
竜騎兵が羽ばたき始め、シンジたちがその場から離れると、竜騎兵は垂直に上昇し、アーディーと思われる方向へあっと言う間に飛び去って行った。
「さてと、俺たちはのんびり足を使って、歩いて行くか」
街道を四人で歩いていると、時々馬に出くわした。乗り手を注意して見ていると、普通の街の人の格好であったり、戦士風の出で立ちの人間もいた。
「あの、シンジ……」
「ん?」
リリィが喋るのは今まで一度しか見ていないが、もう普通に話せるのかとシンジは驚いた。
「助けてもらったのに、今までお話もしないでごめんなさい」
「いや、事情が事情だし、仕方ないよ、三人の時、少しは話してるって、レイチェルから聞いていたしから、無理に俺と話す事も無いと思ってたし」
「もうほとんど普通に話せると思います」
「シンジのお陰です。エミリーも大丈夫よね」
「はい、昨夜はありがとうございました。でも何を話せばいいのか……」
「ははは、無理に話題を作ってまで、話をする必要はないよ」
本当はシンジ様とヨイショして欲しかったが、こんなバカな事は口に出せないと、シンジは自重する。それにしても昨夜だけで、ずいぶんと二人は回復したようだった。
目的地の手前の村に到着した。アーディーには今日中には着けないので、今晩はここで一泊する予定だ。
地図には村となっているが、他の村とは少し趣が違っていた。街道から村への道を曲がると、綺麗な石畳の道が真っ直ぐに伸び、その先には門と豪華な屋敷が見えた。
幾つかの家屋と、農地や牧草地が屋敷の奥に広がっているようだ。領主の経営地に人が集まり、自然と村になったような感じだった。
「大きな街の隣だし、宿場街って感じじゃないね、宿は有るかなあ?」
道の両脇には幾つかの商店、酒場、民家が並んでいた。人の往来もそれなりに多い、宿屋が一軒あったので、四人は中に入った。
「お客様は、戦士様と聖女様なのですか?」
中に入るなり受付の男性にそう言われ、シンジは答えに詰まる。
「いや、元戦士と聖女見習い以下の四人です」
受付はおかしな自己紹介に首を傾げたが、質問の訳を話し始めた。この地に代々続く領地の何カ所かで魔雑魚が発生し、困っているので処理を頼めないか、との事だった。
「アーディーの戦士組合に依頼しても、いつになるやら分からないので、宿に来た戦士様にお願い 出来ないものかと、ここの領主様がおっしゃっていまして……」
「そんな事でしたら、お安い御用ですよ」
シンジは安請け合いする。宿として屋敷の部屋を提供してくれるらしい、案内されて門を抜け、宿屋の受付が屋敷のドアノッカーを三度鳴らした。
中から執事とおぼしき老人が出て来て、シンジたちは中に通される。
「宿の人間に聞かれたと思いますが、領地内で幾つか魔雑魚が発生いたしまして、処理をお願いしたいのです。どうぞこちらへ」
「はい、大丈夫です。慣れたものですから」
執事は最初、提供される寝室に案内してくれた。そして五人は屋敷の裏口から外に出る。働いている人間に声を掛け、問題の場所まで案内するよう伝えた。
「さほど離れていない場所ですから、夕刻までには充分に終わると思います。それで、これは勝手なお願いなのですが、本日の晩餐に御出席いただけないでしょうか?」
夕食のお誘いを断る理由も無いし、こちらにとっても願ったりだった。
「ええ、そちらもお安い御用ですよ」
シンジは三人の方へ向き直った。
「魔雑魚退治は俺とレイチェルだけで出来るけど、二人はどうする?」
「行くわ」
「行く!」
二人は即答した。
魔雑魚の発生は三カ所との事だ。
農地の外れ、森に入ってすぐの場所に魔雑魚が幾つか浮かんでいる。シンジは剣を突き立て消滅させた。
「なんだか簡単ね~~」
リリィが間の抜けた声を上げた。
「俺がこの剣を使っているから簡単に見えるんだ、普通の人ならそう簡単ではないようだよ」
「リリィ、シンジが強いのは私たち、知ってるでしょう」
「それはもちろん知ってるわよ」
エミリーとリリィは魔雑魚処理を見るのは初めてだが、シンジとの出会いは紛れもない戦場だった。強い事はもちろん知っている。
次に案内された場所に、魔雑魚は見あたらなかった。
「この近くにいると思うけど、誰か場所は分かるかな?」
「あっちに居るみたい」
エミリーが森の右側を指差す。少し離れた場所に魔雑魚を見つけ処理した。
「凄い、どうして分かったの?」
「実はレイチェルが教えてくれたの」
「結界を通じて教えられるか試してみましたが上手く行きました」
三カ所目の魔雑魚も処理し、屋敷に戻ると執事が出迎えてくれた。使用人の男が報告をする。
「探索に時間がかかる場合が多いのですが、お見事でした。晩餐まで寝室でお休み下さい」
執事はメイドにお茶の用意を命じて、シンジたちをもう一度、寝室まで案内し扉を開けた。
「晩餐の支度が整いましたらお迎えに上がります。実は当家の主人はまだ若い女性でして、毎日退屈しております。少々お話し相手をしていただければ、と思ったしだいでして……」
「かまいませんよ、俺も女の子三人を相手で間が持たないので、かえって助かります」
シンジは頭を掻いた。メイドがやって来てお茶のワゴンを部屋の中まで押す。
「それでは後ほど」
執事とメイドは一礼して引き取った。
部屋にはベッドが四つあり、洗面とバスルーム、ソファーにテーブルが有り、スイートの仕様だ。
「すっ、ごーい! 領主ってお金持ちなのねーー」
リリィがベッドの上に寝そべってはしゃぐ、シンジは剣を外して火の入っていない暖炉の上に置いた。レイチェルとリリィはテーブルにカップを並べお茶を注ぐ。
「安宿泊まりのはずが、今夜は大出世だなあ」
四人でふかふかのソファーに座ってお茶を飲んだ。
「若い女性の領主なんて、何歳ぐらいの人なのかしら? 私かエミリーとリリィと同じくらいなら話もしやすいのですが……、代々続く領主様なんて人もこの世界にいるのねえ」
「この世界って、親子でやって来るものなの?」
「俺がこの剣を手に入れた道具屋の親父さんは三代目だったよ、以外とそんな人間は多いのかもね」
しばらく話をしていると、メイドが晩餐の支度が出来たと呼びに来た。ダイニングに通され円形のテーブル席に着く、暖炉の上にはこの家の紋章とおぼしきレリーフが飾られていた。
しばらくすると、水色のワンピースを着た若い女性、と言うより少女が入って来て、テーブルの中央、シンジとレイチェルの間の席に座った。
少女はエレーナと名乗り、シンジたちも順に自己紹介をする。
「皆さん、本日は御無理を言って申し訳ございませんでした、正式の晩餐ではありませんが、どうぞ御寛ぎ下さい」
シンジは高飛車、上から目線、気が強い少女当主が現れて我儘放題かます、と予想していたが良い意味で期待を裏切られた感じだ。
若き当主とシンジたちは、最初は運ばれた料理を黙々と食べていたが、リリィが良い感じで潤滑材となって話が盛り上がってきた。
「シンジは三年前から魔人を沢山倒してきたんだよね」
「まあ、この領地では魔雑魚が出ただけで大騒ぎです。どれくらいの数の魔人を倒したのですか?」
「さあ、数えていません、魔人は普通サイズとかが合体して一つになりますから、数はあまり問題ではないんですよ、合体して空を飛ぶやつもいますしね」
「そうですか、私はまだ魔人を見た事がありません、大きいとはどの程度なのですか?」
「身長が二メートルとか、三メートルとかです、一番大きいのは、二十メートルはありました」
「まあ、二十メートル! よく御無事で……」
エレーナは口に手を当てて驚く。
「いえ、その時俺は倒されました。最近三年ぶりに、この世界に戻って来たのです」
シンジの頭に魔王に敗北した三年前の記憶が甦る。
「そうですか、戦いは嫌です。この周辺を守ってくれていた戦士も三年前に皇都に行き、亡くなったと聞いています。せめて現実に戻ってくれていれば良いのですが……」
エレーナは一度うつむいてから顔を上げた。
「しかし、人の世界を守る為には、戦いが必要な事も理解しています。私は皆様のような方々を尊敬いたします」
三人は神妙な顔でエレーナの話を聞く、シンジはこの若き領主に感心していた。
「シンジ様は旅の途中ですね、どちらまで行かれるのですか?」
執事が話題を変えた。
「旅は大袈裟です。すぐ隣のアーディーに行きます」
「戦士組合に登録するのですか?」
「はい、向こうに知り合いが居る訳でもないですし、組合が頼りです」
「それは良かった。依頼を出せば皆様が来てくれるかもしれません、お嬢様」
「はい、心強いです」
「エレーナさん、シンジは強いですが私たち三人はこの世界に来たばかりで、聖女見習いの、さらに手前ですから」
レイチェルが慌てて弁解する。
「いえ、以前お付き合いした聖女様や聖母様と、御三人は雰囲気がよく似ております」
単なる御世辞ではなく、この老執事は経験から本当にそう感じているのだろう、あの剣は俺ではなく、もしかしてこの三人を呼び寄せたのではないか、とシンジは思った。
晩餐が終わり、リリィが寝る前に遊びに来ればと誘う、エレーナが執事を見ると彼は微笑んで頷いた。
シャワーを使いシンジは備え付けのバスローブに着替え、娘たちはパジャマ替わりのフリルの付いたワンピースに着替える。エミリーとリリィはベッドに横たわり、シンジとレイチェルはソファーに隣り合って座り、これからの事など話し合っていた。
部屋がノックされ、リリィが飛び起き扉を開けた。
「来てしまいました。よろしかったですか?」
「うん、大丈夫、平気よ、入って」
エレーナは恐る恐る、といった感じで部屋に入って来る。
「他の寝室に入るのは何年ぶりです」
「こちらに座って下さい、エレーナさんは幾つぐらいからこの世界に来ているのですか?」
レイチェルがソファーを進め、エミリーとリリィも座った。
「私は三歳くらいから来ていたそうです。小さい頃の事はよく憶えていません」
「それは凄い、珍しいと言うか、あまり聞かない話だな」
「はい」
シンジは一瞬この少女の力を計りたいと考えたが止めた。この少女は当主としての運命と戦っている。それで良いではないか、力は関係無い事と考えた。
娘たちが女子トークでひとしきり盛り上がった後、エレーナは、そろそろと言って自室に戻った。
シンジたちも一度はそれぞれのベッドに横になったが、エミリーとリリィがワンピース脱いでシンジのベッドに潜り込む。
昨夜と同じようにシンジに抱きつき現実に戻って行く二人を見届けて、レイチェルがシンジの元にやって来た。
「ご迷惑ですか?」
「いちいち遠慮するなって」
「はい……」
「しかし、あんな人生もあるんだなあ、せめて夢の中ぐらい好き勝手に生きたいと思うけど、勝手に外出も出来ない感じだった、そう言う俺も戦うのが運命みたいだ……、人生そんなもんか」
「彼女、凄い力でした」
「読んだの?」
シンジが上体を起こしてレイチェルを覗きこむ。
「いえ、感じました。ユーカさんとは違う、別の凄い力でした」
「そうか、案外、彼女が無意識に結界を張ってアーディーって街を守っているのかもな」
「この世界には、その人なりの役割があるのですね……」
「そう、望むと望まないとに、かかわらずだ」
「ユーカ、また会えるよな、この世界で」
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「この街とアーディーは馬があれば半日の距離ですしね、大きな案件があれば呼ばせて頂くかもしれませんよ」
シンジの相手をしてくれた組合の男性スタッフは、隣街のシンジにまで依頼を出すつもりのようだ。
「はい、馬も覚えますよ」
街道で馬に乗って移動している人を多く見かけた。この世界では、馬はごく一般的な移動手段のようだ。
「じゃあ行くわね」
竜騎兵が羽ばたき始め、シンジたちがその場から離れると、竜騎兵は垂直に上昇し、アーディーと思われる方向へあっと言う間に飛び去って行った。
「さてと、俺たちはのんびり足を使って、歩いて行くか」
街道を四人で歩いていると、時々馬に出くわした。乗り手を注意して見ていると、普通の街の人の格好であったり、戦士風の出で立ちの人間もいた。
「あの、シンジ……」
「ん?」
リリィが喋るのは今まで一度しか見ていないが、もう普通に話せるのかとシンジは驚いた。
「助けてもらったのに、今までお話もしないでごめんなさい」
「いや、事情が事情だし、仕方ないよ、三人の時、少しは話してるって、レイチェルから聞いていたしから、無理に俺と話す事も無いと思ってたし」
「もうほとんど普通に話せると思います」
「シンジのお陰です。エミリーも大丈夫よね」
「はい、昨夜はありがとうございました。でも何を話せばいいのか……」
「ははは、無理に話題を作ってまで、話をする必要はないよ」
本当はシンジ様とヨイショして欲しかったが、こんなバカな事は口に出せないと、シンジは自重する。それにしても昨夜だけで、ずいぶんと二人は回復したようだった。
目的地の手前の村に到着した。アーディーには今日中には着けないので、今晩はここで一泊する予定だ。
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幾つかの家屋と、農地や牧草地が屋敷の奥に広がっているようだ。領主の経営地に人が集まり、自然と村になったような感じだった。
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「お客様は、戦士様と聖女様なのですか?」
中に入るなり受付の男性にそう言われ、シンジは答えに詰まる。
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受付はおかしな自己紹介に首を傾げたが、質問の訳を話し始めた。この地に代々続く領地の何カ所かで魔雑魚が発生し、困っているので処理を頼めないか、との事だった。
「アーディーの戦士組合に依頼しても、いつになるやら分からないので、宿に来た戦士様にお願い 出来ないものかと、ここの領主様がおっしゃっていまして……」
「そんな事でしたら、お安い御用ですよ」
シンジは安請け合いする。宿として屋敷の部屋を提供してくれるらしい、案内されて門を抜け、宿屋の受付が屋敷のドアノッカーを三度鳴らした。
中から執事とおぼしき老人が出て来て、シンジたちは中に通される。
「宿の人間に聞かれたと思いますが、領地内で幾つか魔雑魚が発生いたしまして、処理をお願いしたいのです。どうぞこちらへ」
「はい、大丈夫です。慣れたものですから」
執事は最初、提供される寝室に案内してくれた。そして五人は屋敷の裏口から外に出る。働いている人間に声を掛け、問題の場所まで案内するよう伝えた。
「さほど離れていない場所ですから、夕刻までには充分に終わると思います。それで、これは勝手なお願いなのですが、本日の晩餐に御出席いただけないでしょうか?」
夕食のお誘いを断る理由も無いし、こちらにとっても願ったりだった。
「ええ、そちらもお安い御用ですよ」
シンジは三人の方へ向き直った。
「魔雑魚退治は俺とレイチェルだけで出来るけど、二人はどうする?」
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執事はメイドにお茶の用意を命じて、シンジたちをもう一度、寝室まで案内し扉を開けた。
「晩餐の支度が整いましたらお迎えに上がります。実は当家の主人はまだ若い女性でして、毎日退屈しております。少々お話し相手をしていただければ、と思ったしだいでして……」
「かまいませんよ、俺も女の子三人を相手で間が持たないので、かえって助かります」
シンジは頭を掻いた。メイドがやって来てお茶のワゴンを部屋の中まで押す。
「それでは後ほど」
執事とメイドは一礼して引き取った。
部屋にはベッドが四つあり、洗面とバスルーム、ソファーにテーブルが有り、スイートの仕様だ。
「すっ、ごーい! 領主ってお金持ちなのねーー」
リリィがベッドの上に寝そべってはしゃぐ、シンジは剣を外して火の入っていない暖炉の上に置いた。レイチェルとリリィはテーブルにカップを並べお茶を注ぐ。
「安宿泊まりのはずが、今夜は大出世だなあ」
四人でふかふかのソファーに座ってお茶を飲んだ。
「若い女性の領主なんて、何歳ぐらいの人なのかしら? 私かエミリーとリリィと同じくらいなら話もしやすいのですが……、代々続く領主様なんて人もこの世界にいるのねえ」
「この世界って、親子でやって来るものなの?」
「俺がこの剣を手に入れた道具屋の親父さんは三代目だったよ、以外とそんな人間は多いのかもね」
しばらく話をしていると、メイドが晩餐の支度が出来たと呼びに来た。ダイニングに通され円形のテーブル席に着く、暖炉の上にはこの家の紋章とおぼしきレリーフが飾られていた。
しばらくすると、水色のワンピースを着た若い女性、と言うより少女が入って来て、テーブルの中央、シンジとレイチェルの間の席に座った。
少女はエレーナと名乗り、シンジたちも順に自己紹介をする。
「皆さん、本日は御無理を言って申し訳ございませんでした、正式の晩餐ではありませんが、どうぞ御寛ぎ下さい」
シンジは高飛車、上から目線、気が強い少女当主が現れて我儘放題かます、と予想していたが良い意味で期待を裏切られた感じだ。
若き当主とシンジたちは、最初は運ばれた料理を黙々と食べていたが、リリィが良い感じで潤滑材となって話が盛り上がってきた。
「シンジは三年前から魔人を沢山倒してきたんだよね」
「まあ、この領地では魔雑魚が出ただけで大騒ぎです。どれくらいの数の魔人を倒したのですか?」
「さあ、数えていません、魔人は普通サイズとかが合体して一つになりますから、数はあまり問題ではないんですよ、合体して空を飛ぶやつもいますしね」
「そうですか、私はまだ魔人を見た事がありません、大きいとはどの程度なのですか?」
「身長が二メートルとか、三メートルとかです、一番大きいのは、二十メートルはありました」
「まあ、二十メートル! よく御無事で……」
エレーナは口に手を当てて驚く。
「いえ、その時俺は倒されました。最近三年ぶりに、この世界に戻って来たのです」
シンジの頭に魔王に敗北した三年前の記憶が甦る。
「そうですか、戦いは嫌です。この周辺を守ってくれていた戦士も三年前に皇都に行き、亡くなったと聞いています。せめて現実に戻ってくれていれば良いのですが……」
エレーナは一度うつむいてから顔を上げた。
「しかし、人の世界を守る為には、戦いが必要な事も理解しています。私は皆様のような方々を尊敬いたします」
三人は神妙な顔でエレーナの話を聞く、シンジはこの若き領主に感心していた。
「シンジ様は旅の途中ですね、どちらまで行かれるのですか?」
執事が話題を変えた。
「旅は大袈裟です。すぐ隣のアーディーに行きます」
「戦士組合に登録するのですか?」
「はい、向こうに知り合いが居る訳でもないですし、組合が頼りです」
「それは良かった。依頼を出せば皆様が来てくれるかもしれません、お嬢様」
「はい、心強いです」
「エレーナさん、シンジは強いですが私たち三人はこの世界に来たばかりで、聖女見習いの、さらに手前ですから」
レイチェルが慌てて弁解する。
「いえ、以前お付き合いした聖女様や聖母様と、御三人は雰囲気がよく似ております」
単なる御世辞ではなく、この老執事は経験から本当にそう感じているのだろう、あの剣は俺ではなく、もしかしてこの三人を呼び寄せたのではないか、とシンジは思った。
晩餐が終わり、リリィが寝る前に遊びに来ればと誘う、エレーナが執事を見ると彼は微笑んで頷いた。
シャワーを使いシンジは備え付けのバスローブに着替え、娘たちはパジャマ替わりのフリルの付いたワンピースに着替える。エミリーとリリィはベッドに横たわり、シンジとレイチェルはソファーに隣り合って座り、これからの事など話し合っていた。
部屋がノックされ、リリィが飛び起き扉を開けた。
「来てしまいました。よろしかったですか?」
「うん、大丈夫、平気よ、入って」
エレーナは恐る恐る、といった感じで部屋に入って来る。
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「こちらに座って下さい、エレーナさんは幾つぐらいからこの世界に来ているのですか?」
レイチェルがソファーを進め、エミリーとリリィも座った。
「私は三歳くらいから来ていたそうです。小さい頃の事はよく憶えていません」
「それは凄い、珍しいと言うか、あまり聞かない話だな」
「はい」
シンジは一瞬この少女の力を計りたいと考えたが止めた。この少女は当主としての運命と戦っている。それで良いではないか、力は関係無い事と考えた。
娘たちが女子トークでひとしきり盛り上がった後、エレーナは、そろそろと言って自室に戻った。
シンジたちも一度はそれぞれのベッドに横になったが、エミリーとリリィがワンピース脱いでシンジのベッドに潜り込む。
昨夜と同じようにシンジに抱きつき現実に戻って行く二人を見届けて、レイチェルがシンジの元にやって来た。
「ご迷惑ですか?」
「いちいち遠慮するなって」
「はい……」
「しかし、あんな人生もあるんだなあ、せめて夢の中ぐらい好き勝手に生きたいと思うけど、勝手に外出も出来ない感じだった、そう言う俺も戦うのが運命みたいだ……、人生そんなもんか」
「彼女、凄い力でした」
「読んだの?」
シンジが上体を起こしてレイチェルを覗きこむ。
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「そうか、案外、彼女が無意識に結界を張ってアーディーって街を守っているのかもな」
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