新創生戦記「休学ニートのチートでハーレムな異世界ファンタジー」

川嶋マサヒロ

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第十三話「初仕事」

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 朝、シンジはレイチェルたちの見送りを受け、部屋を出て戦士組合に向かった。まだ開いたばかりで客も居ない事務所に入って、掲示板の前に立ち、初仕事は何にしようかと依頼メモを物色する。
 昨日と変わらないメモの中から、やはり最初はこれだと思った一枚を外し、受付に向かった。

「部屋、どうでした?」

「充分だ、この依頼を受けるよ」

 シンジは掲示板から外したメモを昨日の受付嬢に差し出した。

「魔雑魚退治ですね、助かるわ、地味な仕事は人気が無いんですよ」

 仕事は東の外れ、牧草地とその先の森の魔雑魚退治だ。馬があればやはり便利だと思った。
目的地まで受付で教えてもらった乗合馬車、二頭の馬が引く十人程度が乗れる馬車に乗り途中から 徒歩で一時間以上かけて目的地にたどり着いた。

「ここか……」

 牧草地と畑にいくつかの小さな魔雑魚が浮かんでいる。農家の家を訪ね、ドアをノックすると少年が出て来て、続いてお年寄りが現れた。
 シンジは戦士組合から来た旨を手短に伝える。

「おじいちゃん、一緒に行ってもいいよね?」

「駄目だよ、戦士様に任せなさい……」

「そんなっ、僕も行きたいよ!」

「馬鹿な事言うな! 子供が戦える訳ないだろ」

 少年は無言で目をそらせ、老人は険しい表情になる。険悪な雰囲気に耐えかねてシンジが口を開いた。

「まあ、遠くから見るだけなら良いでしょう、危険はありませんよ」

「うん、ありがとう」

「しょうがないな、魔雑魚に近づいてはいけないよ」

 シンジと少年は二人で牧草地に出た。

「この辺で見ていて」

 少年を制して、シンジは畑に浮かぶ四つの魔雑魚に狙いを定めた。剣を抜くと手前の三つの魔雑魚が消滅し、一つの剣圧が軌道を変えて、奥の魔雑魚一つを消滅させる。
 剣を一度、鞘に納めたシンジは牧草地を、右左に方向を変えながら走り、剣を抜いて、まず右の魔雑魚を消し、剣を振り左の塊を消す。
 シンジは一度立ち止まって一呼吸置いた。

「だいたい、思い通りにいくな、次はこれだ」

 剣を上げ振り下ろすと、三十メートルほど先の魔雑魚が消えた。力を抑えつつも三つの剣圧を一つにして距離を伸ばしたのだ。何度か繰り返し、牧草地の魔雑魚を全て処理する。
 最大の力で、最大の射程がどれ程かは、まだ未知数で何時か場所を選んで試してみようとシンジは思った。

「すごい、すごいよっ!」

 少年が叫びながら駆け寄ってくる。

「魔雑魚は森の中にも居ると聞いたが、あの先か?」

 シンジは森の奥に続く道を指差す。

「そう、こっちだよ」

「待って、俺が先に行く、後ろを付いて来て」

 駆け出す少年を止めて、シンジが先頭になり二人は道を歩く、少年の案内で途中から道を逸れ森の中に入った。

「魔雑魚がひと固まりになっていたよ、僕が森の中に入って見つけたんだ」

 歩きながら少年は、暇を見つけては森を歩き、魔人や魔雑魚を探しているとシンジに話した。

「僕は戦士になりたいんです。どうやったら戦士になれますか?」

「さあな……、まて、止まれ」

 シンジは気配を感じて立ち止まり、剣を抜いた。

「その先に魔雑魚が集まっていたのを見たよ」

 ゆっくりと丈の長い草地を進むと、大きな魔雑魚の塊が見えた。シンジが剣を付き出すと、三メートルほど先の魔雑魚は白く光り消滅した。

「不思議だな、どうやったの?」

「使い手にもよるけど、剣の切っ先が伸びるんだ、この剣はそれを飛ばす事も出来る」

 シンジは剣を鞘に納めた。

「これで最後かな?」

「うん」

 二人は農家に戻り、シンジは老人に仕事が終わった事を告げた。

「この子の歳の離れた兄は剣士だったのです」

 老人はため息をつく。

「騎士になるんだと、三年前に皇都行ってしまいましてね、組合から死亡の通知が来ましたよ」

 この世界で死んだとしても、現実の世界で死ぬわけではないが、もうこの世界に来られない事を死と表現しても間違いではない。

「それで仇を取るんだって、自分も騎士や戦士になるんだって夢を見ているんです」

「そうなんですか……、戦士はなりたくて、なれるものではないんです。戦士としてこの世界に来たら嫌でもやらなくてはいけないし……、君がどちらなのか分かるのはもう少し先だね」

「はいっ」

「また、魔雑魚を見つけたら通報してくれ」


 シンジは老人と少年に別れを告げて帰途につく、帰り道、馬車は使用せずに歩く事にした。街の中で路地を歩いていると、小さな武器屋が目に付いたので入ってみる。

「いらっしゃいませ」

小 さな女の子が店番をしていた。十歳くらいだろうか、シンジは店内を見回す。壁や棚には一般用の剣が飾られている。どれも見事な装飾が施され鑑賞用といった趣だ。
 武器の置かれた場所より、戦士や聖女が着るような衣装に大きく場所が割かれている。

「ふふっ、俺がこんな服を着たら皆、驚くな」

 シンジはハンガーに掛けてある貴族風の衣装を見て苦笑した。女性用の服は、あの三人が着れば一流の聖女と見紛みまごうばかりの、ハッタリが効くような衣装が並んでいる。
シ ンジは三年前にアシスタントの、あの三人がどんな服を着ていたのか思い出そうとした。あの時は戦う事ばかり考えていたから、どんな服装だったかよく覚えてもいない、普通の黒い制服のような感じだったか? それにしてもここに並んでいる服に、シンジは少し違和感を覚えた。

「何かお探しですか?」

「君が店主なの?」

「いえ、おばあちゃんがお店をやっていますが、今日は留守で、お手伝いです」

 シンジはハンガーに掛かっている衣装を見た。

「いや、この服、なんだか変わっているかなって思ってさ」

「はい、この世界は昔からヨーロッパ、次に北米からの転移者が多いので、昔の記憶や、回顧の感情で自然と中世ヨーロッパのような世界になってしまったのです」

「うん、ファンタジーは中世ヨーロッパだしね、だけどこの服は……」

「昔や今、人々が創造した衣装を今風のデザインに直しているんです」

「うーーん、聖女見習いの三人が着るには、ハッタリが効いてていいかもって思ってさ、ポイントが必要なんだよね?」

「はい、戦士様や聖女様用の衣装ですので頂いております」

「うん、今度、皆で来るからさ、その時はよろしくね」

「はい、お待ちしております」

 店番の少女は笑顔で答えた。


 戦士組合に戻り、受付に仕事が無事に終わった旨を伝える。

「今日行った農家も、帰りがけに寄った小さな武器屋も、老人と子供の家族だったな」

「ええ、こちらに来ている子供たちを、預かってくれているお年寄りもいますから」

「そうか、そんなシステムになっているのか」

「近くに組合が運営している、子供の面倒をみる託児所もありますよ、そうだ、お連れの三人で誰か手伝ってくれる人は居ませんかね?」

「そうだなあ、話してみるよ、こちらにとってもありがたい話だし」

 要は保育園のような施設だとシンジは思った。

「話は変わるけど、この街で奴隷の噂なんて聞いた事はない?」

「奴隷……、ずいぶん昔に人攫ひとさらいとか、売り買いする商人とか、実際にいたらしいけど……、組合としては子供を預かる施設も、防止の一環として運営しているの、今は公式には、もう奴隷はいない事になっているわ」

「公式には……か、何か情報を聞いたら、俺に教えてくれないかな?」

「ええ、かまわないけれど……?」

「昨日の三人の知り合いの女の子が、攫われて行方知れずなんだよ」

「まあ、なんて事……、分かった、正確な情報なら組合が動く案件だし、調べてみるわ」

 受付嬢は今日のポイントが加算されたノートを差し出しシンジに確認を求めた。

「ありがとう、少しポイントが欲しくなった、毎日でも来るつもりだけど、仕事はあるものなのかな?」

「色々とありますよ、張り出していない依頼も有りますから、ご紹介しましょうか?」

「それは助かるよ、それから、馬を覚えたいのだけれど、あの乗馬教室とやらは、予約無しで行っても受け付けてくれるのかな?」

 シンジは掲示板の横に張られている乗馬倶楽部の案内ポスターを指差した。

「教室は予約になります、倶楽部に確認して下さい、知人と練習をするだけならば特に予約は必要ありません」

「そうか、馬に乗れる知人がいればコーチを頼めるか……」


 夕方になって、部屋に戻ると三人が出迎えてくれた。シンジはエミリーが入れてくれた紅茶を飲みながら今日の出来事を話す。

「まあ、のんびりした仕事だったよ、子供がけっこう居るんだなあ、そう言えば今までこの世界であまり、子供の姿を見た事はなかったなあ」

「皆はどうだった?」

 今日、三人は地図を片手に一日街を歩くとの話だった。

「はい、とても一日では見て回れません、大きな街でしたね」

「色々なお店にスタッフ募集の張り紙がしてあったよ、私はどこかの洋服を売っているお店で働こうかな?」

リリィが無邪気に話す。

「うーん、張り紙の募集なんて怪しくないかな」

「大丈夫、組合に連絡してって書いてあったから」

 どうやら人の募集は組合を通す決まりになっているようだった。リリィがやる気を出していた。

「リリィなら即採用だよ」

「うん」

「組合の近くに子供を預かる施設があって、そこも人を募集していたから、私、子供が好きだしやってみようかな」

「そりゃあいいよ、その施設、今日組合で誰か手伝ってくれないかって言われたよ、エミリーも即採用だな」

「私は組合の仕事が何か出来ないかと考えています」

「組合の仕事?」

「はい、この世界や街の秩序は戦士組合が中心になって守っているのではないでしょうか? この世界について学ぶなら戦士組合が一番と思いました」

「レイチェルはしっかり者だから」

「そうそう」

エミリーとリリィが冷やかす。

「うん、王宮を頂点にして各地の戦士組合がこの世界の治安、安全を守っているようだ、遣り甲斐のある仕事だと思うよ」

「明日は皆で組合の事務所に行って相談してみます。ただ……」

 レイチェルは居住いを直して続けた。

「私も聖女になりたいです。いずれはこの世界の為に戦いたいです」

「私も聖女になってシンジを助けたいわ」

「私も同じ、いつかは聖女になりたい」

 三人とも真剣な表情でシンジを見つめる。シンジとしては複雑な心境だった。ユーカとの出会いがそうさせたのか、三人の聖女と共に剣を捨てた戦士、今シンジが使っている剣が彼女たちをも導いているのか?。


 夜、三人でいつものように寝ると、エミリーとリリィが昨夜と同じく先に帰って行った。シンジに抱きつきながらレイチェルが呟く。

「シンジにお話しが……」

「何? 改まって」

「嘘はいけないと思って……、実は私は現実ではもっと胸が大きいのです」

「えっ、そうなの、なぜここでは小さいの?」

「それは、現実では大きくて悩んでいる女性が多いのです。だから私のは、自分が憧れている大きさになっているのだと思います」

「そうなんだ……、俺は大きいのが好きだけどね」

 シンジは分かったように答えたが、今一つ意味が分かっていなかった。

「皆、モデルさんの体型に憧れているんですね、手術して小さくする人も大勢居ます。二人も本当は大きいんですって」

「信じられないなあ、わざわざそんな事……」

「本当の姿を見てもらえればと思いました。シンジのような男の人ばかりなら良いんですけど……」

 シンジは無意識にレイチェルの胸に手をやり、片方の膨らみをすっぽりと手のひらに納めた。

「これが本当は大きいなんてなあ……、嘘だろう」

「本当です。今度は真実のままこちらに来られるよう考えてみます、うんっ、ああ……」

 シンジは思わず添えた手を動かし始める。

「くすぐったい、恥ずかしいです、駄目です……」

 レイチェルはシンジの手を解 ほど こうと身をよじった。

「あっ、御免、つい……、でもなあ……」

 そのまま続けるとレイチェルは軽く手で抗い、シンジは少しだけ力を入れて、その体を引き寄せる。
 二人は裸でじゃれ合い、互いの足が絡み合う。不意に目と目が合い二人は無意識に口元を寄せ合うが、我に返って互いに顔をそむけた。
 レイチェルはシンジの胸に頬を押しつけて呟いた。

「ごめんなさい、つい……」

「いや俺も……、もう寝ようか」

「はい……」

 シンジとレイチェルのささやかな興奮は、少しだけの余韻を残して冷め、二人はいつものように抱き合って眠った。
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