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第二十二話「暗殺者」
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シンジはネオゴッデス社長室でサヴェリオと会っていた。今は店に来たら、まずは顔を出すように指示を受けていたからだ。
「ここでの仕事には慣れましたか? シンジ」
「はい、慣れるも何も、たいして仕事はしていません、ガラの悪い客を追い出す事も時々有るだけですし……、それに……」
「それに?」
「だいたい対峙するだけで、なぜ皆引きさがってくれるのですかね? 用心棒と言えば、実際に相手を叩きのめすとか想像していましたが……」
「そうですね、この世界では持っている剣で相手の値踏みをしますから、シンジの剣が素晴らしく、自分の剣が鉄屑に毛が生えた程度に思えたのでしょう」
今までの迷惑客はシンジが出て行くとおとなしく帰って行った。時には表に出て一戦交える場合があると聞いてはいたが、幸い今までそれは無かった。
剣を抜いて切り合うのだが、お互い急所は避けて痛めつける程度の戦い、致命傷は負わせず、翌日、またこの世界に戻って来られる程度の戦い。
実際、この夢の世界での怪我はよほど重症で無い限り、翌日転移して来た時には全快している。魔が入りこんだ時は別だ。
客も多少は争いを期待しているとサヴェリオは言っていたが……。
「そんな事より、奴隷を狩り集めている連中の情報が入りましたよ、昔この街にあった組織の残党ではないですね、シンジの言っていた集団かもしれません」
「そこまで分かるのですか?」
「ええ、結界で調べましたから間違いありません」
「俺が行きますよ……」
「いえ、私も行きます、今夜、聖女としてアリーチャともう一人連れて行きます」
「アリーチャを? 彼女は聖女なのですか?」
「はい、なかなか才能がありますよ、彼女と組んで下さい、私はもう一人と組みます。子供の保護に聖女は必要です」
「そうですか、アリーチャには聖女の才能が……」
「私は今もですが夜の街を、剣を下げて時々歩いているのですよ、その時に……、二年ほど前ですが、アリーチャが小さな子供の手を引いて夜の街を歩いていたのです。もちろん二人に血のつながりはありません、アリーチャもその男の子も離れたくないと……」
組合の託児施設に預かってもらっている弟とは、その子供の事のようだった。
「こちらに転移して偶然出会った男の子と三日三晩、私が潰した組織の残党たちから逃げ回っていたそうです。ボロボロになっていたのに眼だけは美しく光っていましてね、それでこの店に保護したのです。誤解しないで頂きたいが、あの娘からここで働きたいと言い始めたのです」
「そんな事があったんですか……」
「今回の件、何か物的な手掛かりでも見つかれば良いのですがね」
シンジは廃山荘で野盗を全員始末した時の事を思い出した。
「一人ぐらいは生かして情報を聞き出しますか?」
「いえ、結界で記憶まで調べましたが大した情報になりませんでした。彼らは末端の下っ端で、大きな組織の下で仕事をしているとの自覚すらありません」
西地区の怪物騒ぎの時はベテラン聖女がレイチェルの中から、シンジが魔王と戦った時の記憶すら読み取っていた。
閉店したネオゴッデスから、フードを深くかぶった四人が静まりかえる夜の街に滑り出る。四人は押し黙ったまま足音も立てずに道を進み、ある路地裏の薄汚れた建物の前で止まった。
「ここですね……、アリーチャ」
「はい、一階に人は居ません、全員二階で二部屋に三人ずつ、子供はそれぞれの部屋に一人です」
アリーチャが建物の中を読む。
「じゃあ俺が……」
シンジが玄関扉の前に歩み出た。
「何をするつもりなのですか?」
「いや、ドアを蹴破ろうかと……」
サヴェリオはため息をついた。
「マフィアの抗争じゃないんですよ、今夜の我々は暗殺者なのです。私がやりますから」
サヴェリオは剣を抜きシンジと交代した。切っ先をドアノブの根元に音も無く突き刺し、捻ると解錠の音が聞こえた。
シンジも剣を抜き、四人は中に入って階段を二階に上がった。
「シンジとアリーチャは右の部屋に、私たちは左をやりますから」
「部屋の中を読んであなたに見せるから配置を確認して、子供を巻き込まないように、鍵は掛かっていないから静かにドアを開けて……」
アリーチャは声を押し殺し、シンジにささやく。
「分かった……」
アリーチャの結界に同調して部屋の中が見えた時、シンジは髪の毛が逆立つような感覚に襲われた。改めて落着くように自分に言い聞かせ、ゆっくりとドアを開ける。
中に居た男たちは三名、シンジは剣の一振りで三つの首を飛ばした。ベッドで男に組み伏せられていた子供に流れ出た血が降り注ぐ、アリーチャは素早く子供に近づき、持ってきたハンカチで顔の血を拭って抱きしめた。女の子だった。
シンジは脱ぎ散らされた男たちの服のポケットを探る。続いてクローゼットの中と下の引き出しを開けた。何枚かのメモを見つけてポケットに押し込み、続いて男たちの剣を確認する。ごく普通の剣だった。
サヴェリオたちが入った部屋に移動すると、こちらはもっと凄惨だった。縦に真っ二つに割られた裸の死体が床に三つ転がっていた。
「メモが幾つかありました」
「この部屋も調べましょうか……」
シンジは男たちの服を調べる。剣はやはり普通の剣だ、この程度の人間が戦士用の剣を使うはずはない、サヴェリオはクローゼットの中を調べる。
アリーチャがやって来た。
「サヴェリオ、こちらの子供は現実に帰ったわ」
「そうですか、こちらももうすぐでしょう……」
ベッドの上でもう一人聖女に抱かれた子供が消えて行った。男の子だった。
「ここには手掛かりはなしですか、さて、一階も調べましょうか」
四人は下に降りて、手分けして家具を調べる。
アリーチャが机の引き出しから書類のような紙を見つけてサヴェリオに渡す。シンジも先ほど見つけた何枚かのメモを渡した。
「終わりですね、帰りましょう。シンジはいつものようにアリーチャを送ってあげて下さい」
外に出て四人は通りを無言で歩いた。サヴェリオと聖女は店への道を曲がり、シンジとアリーチャは託児所の方角へ進んだ。
「随分と手慣れているな、こんな事よくやるのか?」
「時々ね、昔、私が来る前はあの二人でいくつもの組織を壊滅させたそうよ」
「暗殺者か……」
「悪さをする人は最近この街には近づかないみたいね、ここは死の街って呼ばれているんですって、お店で時々噂を聞くわ」
二人は託児所前で別れ、アリーチャは二階の部屋に上がって行った。
「ここでの仕事には慣れましたか? シンジ」
「はい、慣れるも何も、たいして仕事はしていません、ガラの悪い客を追い出す事も時々有るだけですし……、それに……」
「それに?」
「だいたい対峙するだけで、なぜ皆引きさがってくれるのですかね? 用心棒と言えば、実際に相手を叩きのめすとか想像していましたが……」
「そうですね、この世界では持っている剣で相手の値踏みをしますから、シンジの剣が素晴らしく、自分の剣が鉄屑に毛が生えた程度に思えたのでしょう」
今までの迷惑客はシンジが出て行くとおとなしく帰って行った。時には表に出て一戦交える場合があると聞いてはいたが、幸い今までそれは無かった。
剣を抜いて切り合うのだが、お互い急所は避けて痛めつける程度の戦い、致命傷は負わせず、翌日、またこの世界に戻って来られる程度の戦い。
実際、この夢の世界での怪我はよほど重症で無い限り、翌日転移して来た時には全快している。魔が入りこんだ時は別だ。
客も多少は争いを期待しているとサヴェリオは言っていたが……。
「そんな事より、奴隷を狩り集めている連中の情報が入りましたよ、昔この街にあった組織の残党ではないですね、シンジの言っていた集団かもしれません」
「そこまで分かるのですか?」
「ええ、結界で調べましたから間違いありません」
「俺が行きますよ……」
「いえ、私も行きます、今夜、聖女としてアリーチャともう一人連れて行きます」
「アリーチャを? 彼女は聖女なのですか?」
「はい、なかなか才能がありますよ、彼女と組んで下さい、私はもう一人と組みます。子供の保護に聖女は必要です」
「そうですか、アリーチャには聖女の才能が……」
「私は今もですが夜の街を、剣を下げて時々歩いているのですよ、その時に……、二年ほど前ですが、アリーチャが小さな子供の手を引いて夜の街を歩いていたのです。もちろん二人に血のつながりはありません、アリーチャもその男の子も離れたくないと……」
組合の託児施設に預かってもらっている弟とは、その子供の事のようだった。
「こちらに転移して偶然出会った男の子と三日三晩、私が潰した組織の残党たちから逃げ回っていたそうです。ボロボロになっていたのに眼だけは美しく光っていましてね、それでこの店に保護したのです。誤解しないで頂きたいが、あの娘からここで働きたいと言い始めたのです」
「そんな事があったんですか……」
「今回の件、何か物的な手掛かりでも見つかれば良いのですがね」
シンジは廃山荘で野盗を全員始末した時の事を思い出した。
「一人ぐらいは生かして情報を聞き出しますか?」
「いえ、結界で記憶まで調べましたが大した情報になりませんでした。彼らは末端の下っ端で、大きな組織の下で仕事をしているとの自覚すらありません」
西地区の怪物騒ぎの時はベテラン聖女がレイチェルの中から、シンジが魔王と戦った時の記憶すら読み取っていた。
閉店したネオゴッデスから、フードを深くかぶった四人が静まりかえる夜の街に滑り出る。四人は押し黙ったまま足音も立てずに道を進み、ある路地裏の薄汚れた建物の前で止まった。
「ここですね……、アリーチャ」
「はい、一階に人は居ません、全員二階で二部屋に三人ずつ、子供はそれぞれの部屋に一人です」
アリーチャが建物の中を読む。
「じゃあ俺が……」
シンジが玄関扉の前に歩み出た。
「何をするつもりなのですか?」
「いや、ドアを蹴破ろうかと……」
サヴェリオはため息をついた。
「マフィアの抗争じゃないんですよ、今夜の我々は暗殺者なのです。私がやりますから」
サヴェリオは剣を抜きシンジと交代した。切っ先をドアノブの根元に音も無く突き刺し、捻ると解錠の音が聞こえた。
シンジも剣を抜き、四人は中に入って階段を二階に上がった。
「シンジとアリーチャは右の部屋に、私たちは左をやりますから」
「部屋の中を読んであなたに見せるから配置を確認して、子供を巻き込まないように、鍵は掛かっていないから静かにドアを開けて……」
アリーチャは声を押し殺し、シンジにささやく。
「分かった……」
アリーチャの結界に同調して部屋の中が見えた時、シンジは髪の毛が逆立つような感覚に襲われた。改めて落着くように自分に言い聞かせ、ゆっくりとドアを開ける。
中に居た男たちは三名、シンジは剣の一振りで三つの首を飛ばした。ベッドで男に組み伏せられていた子供に流れ出た血が降り注ぐ、アリーチャは素早く子供に近づき、持ってきたハンカチで顔の血を拭って抱きしめた。女の子だった。
シンジは脱ぎ散らされた男たちの服のポケットを探る。続いてクローゼットの中と下の引き出しを開けた。何枚かのメモを見つけてポケットに押し込み、続いて男たちの剣を確認する。ごく普通の剣だった。
サヴェリオたちが入った部屋に移動すると、こちらはもっと凄惨だった。縦に真っ二つに割られた裸の死体が床に三つ転がっていた。
「メモが幾つかありました」
「この部屋も調べましょうか……」
シンジは男たちの服を調べる。剣はやはり普通の剣だ、この程度の人間が戦士用の剣を使うはずはない、サヴェリオはクローゼットの中を調べる。
アリーチャがやって来た。
「サヴェリオ、こちらの子供は現実に帰ったわ」
「そうですか、こちらももうすぐでしょう……」
ベッドの上でもう一人聖女に抱かれた子供が消えて行った。男の子だった。
「ここには手掛かりはなしですか、さて、一階も調べましょうか」
四人は下に降りて、手分けして家具を調べる。
アリーチャが机の引き出しから書類のような紙を見つけてサヴェリオに渡す。シンジも先ほど見つけた何枚かのメモを渡した。
「終わりですね、帰りましょう。シンジはいつものようにアリーチャを送ってあげて下さい」
外に出て四人は通りを無言で歩いた。サヴェリオと聖女は店への道を曲がり、シンジとアリーチャは託児所の方角へ進んだ。
「随分と手慣れているな、こんな事よくやるのか?」
「時々ね、昔、私が来る前はあの二人でいくつもの組織を壊滅させたそうよ」
「暗殺者か……」
「悪さをする人は最近この街には近づかないみたいね、ここは死の街って呼ばれているんですって、お店で時々噂を聞くわ」
二人は託児所前で別れ、アリーチャは二階の部屋に上がって行った。
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