新創生戦記「休学ニートのチートでハーレムな異世界ファンタジー」

川嶋マサヒロ

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第三十一話「レイチェルの仕事」

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 その日のレイチェルはアランと共に馬を駆って、西地区にある森のへの入口を回っていた。

 例の怪物騒ぎ以来計画されていた、廃棄された屋敷や山荘の調査の為だった。

 人々の記憶や証言から、過去に使用されていた森の中の古い建物をリストアップし、東西南北の組合出張事務所が、それぞれの担当地区を調査する。

 最初から問題ありと考えられた場所や、調査の結果魔人が目撃された場合、封印された地下室が発見された場合などは、中央の組合と合同で事の処理に当たる事になっている。

「入口はこの辺りだと思うけれど、ありませんねえ……」
アランが手綱を引き、馬を止めてレイチェルに話しかける。
「そうねえ。随分古い小道みたいだし、もう森になっちゃったのかしら?」

 地図にチェックされていた場所はここから十キロメートルほど先にある、昔の領主が使用していた屋敷とされていた。

「ちょっと待ってね。結界で調べてみるわ」

 レイチェルは意識を森の中に集中して馬をゆっくりと歩かせる。

「あったわ、ここが入口ね。行ってみましょうか」

 木が密集した草藪に強引に馬を進め、アランもそれに続く。十メートルほど進むと下草もなくなり薄っすらと道らしき地面が見えた。

「ありましたね。剣士の僕が言うのもなんだけど聖女って凄いですよね。シンジさんは聖女が三人も傍にいて、助けてくれるなんて羨ましいですよ」
「まだ三人共見習いよ~~」

 レイチェルは笑って答える。三人は元々才能があったとはいえ、能力が急速に高まっているのはシンジと同調して彼の力を学んでいるからだ。

 かつてはシンジも、あの皇都の聖母と同調して強くなったのだと、レイチェルは想像していた。

 アランは単に聖女だけの力を見て凄いと言っているようだが、その力の高まりは同調している戦士の力にも大きく左右される。

 森が少し開けて来て、草原に変わり始めた。

「この辺りで一度止まりましょう」

 レイチェルが後ろのアランに向かって言う。ここで一度、屋敷を探ってみるつもりだった。

 基本は封印された怪物の探査が目的ではあったが、魔人がいるかもしれないし、悪意を持った人間の集団がいるかもしれなかった。

 対策会議でレイチェルは、人里離れた場所にいるそんな集団も探索すべきと進言していて、その意見は採用されていた。

 但し、レイチェルはシンジが気にしている、聖女の奴隷を集めている謎の計画については黙っていた。

「大丈夫ね、人も魔人もいない。中を調べましょう」

 二人が馬を走らせると、ほどなくして草原の中に古びた屋敷が見えた。

「意外と綺麗なのね」
「僕が先に行きますから、レイチェルは後に続いて下さい」
「はい、アラン気をつけて」

 屋敷の手前で馬を降り手近な木に手綱をつなぐ。アランが屋敷の中に入りレイチェルが後に続いた。

 玄関を入ると小さな吹き抜けのホールがあり、二階に上がる階段といくつかの扉が見えた。暖炉から煉瓦造りの煙突が上に伸びている。

 二人で目に付く扉を全て開けて、地下に続く階段があるかどうかを調べる。奥の扉を開けその階段を見つけた。

 調査の手順は対策会議で厳密に決められていた。最初に地下室、次に一階、そして二階。必ず二人一組で調査するとの決まりになっていた。

「大丈夫。まちがいなく中には何もいないわ」
「はい……」

 アランはゆっくりと扉を開けて中に入りレイチェルも続く、地下室は狭く天井付近には明り取り用の横長の窓があった。何もない棚が置かれ、床に板切れが何枚か転がっている。

「ただの倉庫ですね」

 レイチェルが念の為に床に置かれていた板切れをめくりり上げる。

「床下収納や入口みたいな物もないようね」
「そうか、その辺も要チェックですね」

 二人は一階に上がり他の部屋も調べる。ダイニング、キッチン、応接室、バス、寝室、クーローゼットも全て開けて調べた。

 二階に上がり同じ事を繰り返す。

「問題なしでしたね」
「ええ、そうそう封印された地下なんてないのかもね」

 外に出て組合から持ってきた、危険、立ち入り禁止、と書かれた小さな板切れを、アランが扉に打ち付けた。

 最後に建物の周囲を二人で歩く。先ほど地下室で見た小さな窓があった。地下と言うより半地下のような構造だ。

「近くに魔雑魚もいなし何事もなくてよかったわ」
「ちょっと拍子抜けです」

 アランは血気盛んな若い剣士だけに、何も起こらないのは少々不満のようだ。

 同じ様に、他に二カ所を回ったが結果は同様だった。もう時間は夕方近くになっている。

 二人は西の組合出張事務所に戻り馬を返却する。

「そうだ、アラン。これからみんなで酒場に行くけどよかったら来ない?」
「皆って……」
「シンジ、それとアランは会った事がない娘だけど、一緒に暮らしているエミリーとリリィ。アランより少し年上ね、二人とも可愛いわよ」
「僕が行ってもいいんですか?」
「もちんよ、書類を作るから受付に来てね」

 レイチェルは今日の仕事の書類を作って、アランと共にサインをする。それぞれの名義のノートにポイントを加算し、上司に決済を貰って受付に戻った。

「さあ、今日のお仕事はおしまいよ。帰りましょうか」

 二人は街の中心まで歩いた。徒歩で二十分ほどの距離だ。

「自転車でもあれば便利なのだけどね。アラン、見た事はある?」
「いえ、ないですね。中世風のこの世界に自転車があったらびっくりですよ」
「ふふっ、そうね。皆この雰囲気を大事にしているのかもね」

 まばらだった人も中心部に近づくと賑やかになってきた。

「あの、レイチェル。シンジって強いんですよね?」

「そうね、強いわねえ。私ったら最初はあの人が普通だと思っていたのよ。男の人は皆、剣を振り回して戦ってばかりだと思って、この世界が怖くなったわ」
「そうですか。普通じゃないくらい強いですか……」

 少し会話が噛み合っていないがレイチェルは指摘しない。アランはとにかく強いかどうかだけで頭が一杯のようだ。

「私にはよく分からないけど、強い人は沢山いるんでしょ? 聖女だって物凄く強い人もいるし、上を見たらきりがないわね」

 レイチェルはユーカの中に見えた爆炎を思い出していた。

「この間、皇都から来た聖母様に会ったのよ。三年前にシンジを助けて一緒に戦っていた人なんだって」
「えっ? 皇都の聖母様? まさか? それって騎士クラスって事じゃ……」
「何か事情があって一緒だったらしいけど、詳しい事は私も知らないのよ。シンジが騎士だったって事ではないから」
「そうですか……」
「シンジと一緒にいた時って、田舎の小さな街での話よ。皇都ではないの」

 二人はいつもの酒場の前に到着した。
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