新創生戦記「休学ニートのチートでハーレムな異世界ファンタジー」

川嶋マサヒロ

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第三十三話「北の夫婦 その一」

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「シンジ、御指名の依頼よ」

 戦士組合の事務所で掲示板に向かう途中、シンジはお馴染みの受付嬢、クレアに声をかけられた。

「なんだい? 御指名って」
「以前、北の農地で魔雑魚退治をしてもらった件、覚えている?」

 シンジは受付の席に座る。

「勿論。あそこの主はずいぶん戦いに詳しかったな」
「そう、あの二人はこの街の戦士と聖女だったのよ。それでシンジの事を気に入ったみたいね」
「なるほどね」

 シンジは頷けた。魔雑魚を倒す時間から、魔人を倒す時間を換算するなどただの人の発想ではない。

「何で俺の事を?」
「何度かあの辺りに剣士を派遣したんだけどね。魔雑魚をただ刺すだけで退治するのはけしからん、とかクレームがすごいのよ。街の英雄だし、聞き役の私は結構大変なのよねえ……。あの人は魔雑魚ぐらいなら自分で処理出来るのに」

 クレアは呆れたといった表情だ。確かに魔雑魚退治のやり方までいちいち指摘されては、受付としては業務が増える一方だ。

 魔雑魚退治は戦士の基本。シンジはあの主の言葉を思い出した。

「ああ、その話か。魔雑魚退治は普通、ただ刺すだけだよ。俺が普通じゃないの。依頼の内容は?」
「森の奥で魔人一体を発見、聖女同伴で来てほしい。少し話したい事もあり、よ」
「魔人は近くに出たの?」
「いえ、近くではないわ。かなりの奥。御婦人が結界を張って見つけたようね。ここへの依頼も結界よ。クレームもね」
「そうか、レイチェルが明日、休みだから連れて行くよ。話って何かなあ?」

 シンジは首を傾げた。


「ところで、話は変わるけどちょっと新しい動きがあってね……」

 クレアの表情は真剣で、シンジもそれにつられて表情を引き締める。

「過去に魔人たちに制圧された街を、奪還しようって動きがあるのよ」
「うーーん、純粋に戦力の問題だなあ。後、その街を維持できるかだよね。それにしてもなんでまた急に……」
「装甲魔人の件よ、皇都周辺に何体か出て戦闘になっているの」
「ああ、知り合いから聞いているけど。それで防御の為にこちらから打って出ようって訳なのか……」
「そのようね、この街の近場にある街で候補を探しているの」
「候補ねえ……」

 この世界には、かつて人が住んでいたが魔人の襲来によって放棄された街がいくつかある事は、シンジも知っていた。

「どの程度の戦いになるのかは分からないけど、もちろん手伝うよ」
「ええ、たぶん最初は完全な開放を目指すより、強行偵察のように形になると思うわ」
「分かった」

 話は終わり、シンジは適当な案件を掲示板から選び、いつものように魔雑魚退治の仕事をこなした。


 シンジとレイチェルは翌朝、組合で馬を借り、北へと向かった。


「悪いね、呼び出したみたいで、まあ中に入って」

 農家の扉をノックすると、先日対応してくれた老紳士と婦人が現れた。シンジたちは中に通され、お互いに自己紹介をしてからソファーを進められる。

 主の名はロバートで、夫人はアメリアと名乗った。

 暖炉の上の壁には何本かの剣が飾られている。

「ああ、見ての通りそれは普通の剣ばかりだね。分かると思うが……」
「はい……」
「私が現役の時に使っていた魔法剣は、引退した時に組合の預かりとした。今もこの街にあるのか、それとも皇都にでも行っているのか……」

 使い手が引退すれば剣は新たな戦士に受け継がれる。使用しない人間が持っていると戦力全体が低下するからだ。

 シンジが使っている三聖母の剣も、何らかの理由で戦いを止めた戦士と聖母たちが、次に託すために道具屋に預けたのだ。そして百年もの時を経てシンジの手に渡った。

「先日、結界で私の中に少しだけ繋がったのはお嬢さんかしら?」

 老婦人、アメリアがお茶をテーブルに乗せながらレイチェルに話しかける。

「いっ、いえ、別の娘です。初心者なのでシンジを見るつもりが、近くの人が見えてしまったみたいで……」

 レイチェルはシンジとアメリアの両方を交互に見ながら、言い訳するように答えた。

「ああ、この間、俺が仕事でここに来ていた時の話か。エミリーが見たと言ってたね」
「それは別にかまわないのよ。ブロックしようと思えばできるのだし……」
「そう言えば、聖女見習いが三人いると言っていたね」
「はい、このレイチェルとエミリー、リリィというのですが、才能はあるのですが力はまだ見習いレベルです」
「すぐに一流になりますよ」

 ロバートの問いにシンジは三人の実力を説明した。

 アメリアは三人を評価している。この婦人も魔法封印剣を使っていた戦士の聖女だったのだ。ここでお世辞などは言わないだろう。


「さてと、そろそろ仕事に取り掛かろうか? 若き戦士のお手並みを拝見しよう」

 ロバートはそう言って立ち上がり、壁に掛かっている普通の剣を取る。腰のベルトに取り付け上着を着た。

「あなた。シンジに任せるのですよ……」
「分かった、分かった」

 アメリアはレイチェルと同調してサポートするとの事だ。


 シンジたち二人は屋敷を出て森へ入り、小道を奥へと歩いた。

「一昔前なら二人で魔人も倒したんだけどね。この年になってもと、妻が不安がるんだよ。だから今日は君たちを呼ばせてもらったんだ」
「いつでも声を掛けて下さい」
「うん」

 レイチェルたちの結界が繋がるのが分かった。アメリアと同調しているのでいつものより強力だ。

「アメリアはなかなかの聖女だったんだ。レイチェルを上手に導いてくれると思う。ああ、捕まえたね……」
「ええ、俺にも見えます……」

 シンジも魔人の気配を察知する。この感じだと二メートル程度の相手と予測できた。

「昨日より。ずいぶんと近くまで来ているな……」


 暫く歩くと前方に魔人の背中が見え、二人は立ち止まる。予想通りの大きさの黒い体がこちらを振り向く。
シンジは数歩前に出て剣を抜いた。

「任せるよ」
「はい」

 魔人は猛然と走り出しこちらに向かって来る。シンジは剣を両手で持って大上段に構えた。標的との距離を測りながら、三聖母の力が宿った剣を振り下ろす。

 放たれた三つの剣圧が黒い体を縦に真っ二つにし、両腕が切断された。それぞれの部位は勢いのまま広がり白く光って消える。

 念の為、シンジは魔雑魚が残っているか確認をするが、この三つの一撃は二メートル程度の魔人を完全に消滅させていた。

「この剣の力は魔法なのでしょうか?」
「うむ……」

 シンジの問いにロバートは少し考える。

「確かに我々なら普通の剣を使っても剣圧を操れるし、切っ先を増やす事もできる」
「ええ」
「戻ろうか……」

 二人は帰りの道を歩き、ロバートは話を続けた。

「しかし、これだけの力は魔法だよ。最初に使っていた時より力が増しているだろ?」
「はい……」
「少しずつ封印されていた魔法が解放されつつある。シュン、君と三人の聖女見習の力によってね」

 シュンはそのレリーフ、三聖母を改めて見てから剣を鞘に戻した。

「君たちの力だよ……」


 家に戻った二人は、二人の聖女に出迎えられる。

「無事に終わって良かったです」
「相手は普通よりちょっと大きな魔人だよ。大丈夫だって」

 シンジとレイチェルはお茶のお替わりを御馳走になり、四人は色々な雑談を交わした。

 ロバートとアメリアの二人は、昔この街に転移して出会い、それから今までずっとこの街、アーディーに留まり戦っていたそうだ。

 若き日の白銀の騎士、ロレンツと銀髪の聖女が旅の途中に、この街に立ち寄り共に戦った事があると話す。

「ロレンツはそれからもこの世界を旅しながら、様々な街を救った。皇都であんな事があってからは、ずっとそちらにいるけどね」

 ロバートはあんな事と言うが、それは皇都壊滅の事を指すのか、何か別の事なのか、シンジには分からない。アメリアの表情が少しだけ曇った。

 シンジはレイチェルたちには、自分が知る過去の様々な出来事を話しはしていた。

 奴隷商人の活動について、聞いてみようかと思ったが、それは止めた。ここで二人に聞くのは場違いと感じたからだ。


 帰りがけシンジたちはアメリアから、前回と同じくスイーツの大オ〇オ、ウーピーパイをいくつも貰った。
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