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第12話 けもの道のあるマンション
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紗友さんに教えられた住所には、オートロック付きの立派なマンションが建っていた。
紗友さんの部屋は最上階。
「いらっしゃい、美里ちゃん!」
「……お邪魔します」
玄関にはたくさんの靴が散乱。
廊下にも部屋にも、膨大な量のモノがあふれている。
「……ひ、広いおうちですね」
「4LDKなんだけど、いくら部屋があっても足りないの」
「ひとりで住んでるんですか」
「そ、ひとりぐらし」
「はへぇ……」
リビングに案内されるが、そこにもたくさんのモノ、モノ、モノ。
本が多いけど、木彫りのお面とか、かぎ爪のついた杖とか……怪しげなアイテムも、そこら中に転がっている。
「いま、お茶入れるから。そのへんに座っててよ」
「はぁ……」
足の踏み場もないような部屋の一角に、ダイニングテーブルと椅子を発見した。
何かを踏んづけたりしないように気をつけながら何とかそこまで移動し、椅子に腰掛ける。
ジャー、ゴポゴポ……
トイレの水が流れる音。
紗友さんはキッチンに居るはずなのに何故――。
「あれ……美里じゃん」
「みっこセンパイ!」
みっこセンパイは、引退した写真部の先輩だ。
紗友さんと同じ3年生。
長身。
ショートカットの髪の毛は、鳥の巣のよう……寝癖だろうか。
上はTシャツ一枚、下はショーツのみという格好。
「みっこセンパイが何で紗友さんの家に――」
「昨日はここに泊まったから……歯、磨いてくる」
床に散らばるモノをすいすいと避けながら、みっこセンパイは洗面所へと消えてゆく。
もしかして、ここにはけもの道的なものがあって、みっこセンパイや紗友さんには、それが見えているのかもしれない……。
「美里ちゃん、お茶どうぞ」
「ありがとうございます」
紗友さんがコーヒーの入った紙コップを手渡してくれる。
「カップはたくさんあるはずなんだけど、どこかに埋もれちゃってるんだよね」
「はぁ……」
「砂糖とかミルクとかも、どこかにあるはずなんだけど……使うなら探そうか?」
「い、いえ……大丈夫です……」
キッチンも混沌を極めていた。
そこから何かを探し出すのは不可能に思えるし、たとえ見つかったとしても賞味期限というものがある。
砂糖はともかく、ミルクは危ない。
ふぅふぅしながら熱いコーヒーをすすっていると、みっこセンパイが戻ってきた。
寝癖が少しだけマシになっている。
「久しぶりだな、美里」
「ご無沙汰してます」
「写真部は相変わらず?」
「……はい」
「このまま新入部員が入らないと、廃部だな」
「スミマセン……」
「美里が謝ることないさ。写真っていえば、今はスマホだしな」
「だけど銀塩カメラだって、触ってみれば面白がる人は多いと思うんですよね……機械としての魅力とか、所有する喜びとかもありますし」
「それに共感するヤツが少ないってことだろうよ」
「もっと銀塩写真の魅力をアピールできればいいんですけど……」
「美里って、そういうの向いてないもんなぁ」
「……スミマセン」
「謝んなって。ところで今日はどうした?」
「掃除をお願いしたんだ」と、紗友さん。
「美里に?」
「そう。バイト代5千円だから、みっこも半分出してね」
「なんでオレが……」
「ここに住んでるみたいなものじゃない」
「そりゃまぁ……さいきん、入り浸ってはいるけどさ……だからって――」
「美里ちゃんもそう思うよね?」
「え……それは……ま、まぁ……」
「美里、おまえ先輩を裏切る気か」
「スポンサーの意向には逆らえませんから……」
「てめぇ――」
「みっこセンパイって、紗友さんと仲良しなんですね」
「ん……まぁ、な」
「そりゃ仲良しだよ。だって、私たち付き合ってるんだもの」
「え……つ、つ……つきあって……るん、です……か……」
「1年生の時に、みっこから告白されてね」
「はへぇ……ぜんぜん知りませんでした」
「……そんなこと美里に教えなくてもいいのに」
「美里ちゃんも、好きな人がいるんだったら後悔しないようにね」
「わ、私はべつに……好きな人なんて――」
「この前のタロット……恋愛に関することだったんでしょ?」
「…………」
「前にも言ったけど、占いなんて参考程度のものだから。大事なのは気持ちと行動」
「……はい」
「じゃ、私たち掃除の邪魔にならないように、外へ出てくるから」
「えぇ……今日は一日ダラダラしようと思ってたんだけど……」みっこセンパイがぼやく。
「ダラダラっていうか、イチャイチャしたかったんでしょ?」
「別にオレはそんなつもりじゃ――」
「明日も休みなんだから、今日は私の買い物に付き合ってよ」
「またガラクタが増えるのかよ……せっかく美里に掃除してもらっても、意味ないだろ」
「大丈夫。見るだけだよ、見るだけ」
「嘘つけ……」
連れだって出かける2人を玄関まで見送る。
やはり2人とも、けもの道が見えているらしい。
廊下を通って玄関まで、足下に何も存在しないかのごとく歩いてゆく。
私の方は、何かにつまづいて転ばないようにするのが精一杯なのに……。
「美里ちゃん、適当に出来る範囲でいいから」
「こんなガラクタ、全部捨てちゃってかまわないぞ。ここは24時間ゴミ出し可能だから」
「とりあえず壁際にでも寄せておいて……じゃ、行ってきま~す」
「……行ってらっしゃい」
ぱたん……。
ドアが閉まる。
振り返ればゴミ……いやそのお宝の山。
これを全部片付けるのか……5千円じゃ割に合わないような気がしてきた……。
紗友さんの部屋は最上階。
「いらっしゃい、美里ちゃん!」
「……お邪魔します」
玄関にはたくさんの靴が散乱。
廊下にも部屋にも、膨大な量のモノがあふれている。
「……ひ、広いおうちですね」
「4LDKなんだけど、いくら部屋があっても足りないの」
「ひとりで住んでるんですか」
「そ、ひとりぐらし」
「はへぇ……」
リビングに案内されるが、そこにもたくさんのモノ、モノ、モノ。
本が多いけど、木彫りのお面とか、かぎ爪のついた杖とか……怪しげなアイテムも、そこら中に転がっている。
「いま、お茶入れるから。そのへんに座っててよ」
「はぁ……」
足の踏み場もないような部屋の一角に、ダイニングテーブルと椅子を発見した。
何かを踏んづけたりしないように気をつけながら何とかそこまで移動し、椅子に腰掛ける。
ジャー、ゴポゴポ……
トイレの水が流れる音。
紗友さんはキッチンに居るはずなのに何故――。
「あれ……美里じゃん」
「みっこセンパイ!」
みっこセンパイは、引退した写真部の先輩だ。
紗友さんと同じ3年生。
長身。
ショートカットの髪の毛は、鳥の巣のよう……寝癖だろうか。
上はTシャツ一枚、下はショーツのみという格好。
「みっこセンパイが何で紗友さんの家に――」
「昨日はここに泊まったから……歯、磨いてくる」
床に散らばるモノをすいすいと避けながら、みっこセンパイは洗面所へと消えてゆく。
もしかして、ここにはけもの道的なものがあって、みっこセンパイや紗友さんには、それが見えているのかもしれない……。
「美里ちゃん、お茶どうぞ」
「ありがとうございます」
紗友さんがコーヒーの入った紙コップを手渡してくれる。
「カップはたくさんあるはずなんだけど、どこかに埋もれちゃってるんだよね」
「はぁ……」
「砂糖とかミルクとかも、どこかにあるはずなんだけど……使うなら探そうか?」
「い、いえ……大丈夫です……」
キッチンも混沌を極めていた。
そこから何かを探し出すのは不可能に思えるし、たとえ見つかったとしても賞味期限というものがある。
砂糖はともかく、ミルクは危ない。
ふぅふぅしながら熱いコーヒーをすすっていると、みっこセンパイが戻ってきた。
寝癖が少しだけマシになっている。
「久しぶりだな、美里」
「ご無沙汰してます」
「写真部は相変わらず?」
「……はい」
「このまま新入部員が入らないと、廃部だな」
「スミマセン……」
「美里が謝ることないさ。写真っていえば、今はスマホだしな」
「だけど銀塩カメラだって、触ってみれば面白がる人は多いと思うんですよね……機械としての魅力とか、所有する喜びとかもありますし」
「それに共感するヤツが少ないってことだろうよ」
「もっと銀塩写真の魅力をアピールできればいいんですけど……」
「美里って、そういうの向いてないもんなぁ」
「……スミマセン」
「謝んなって。ところで今日はどうした?」
「掃除をお願いしたんだ」と、紗友さん。
「美里に?」
「そう。バイト代5千円だから、みっこも半分出してね」
「なんでオレが……」
「ここに住んでるみたいなものじゃない」
「そりゃまぁ……さいきん、入り浸ってはいるけどさ……だからって――」
「美里ちゃんもそう思うよね?」
「え……それは……ま、まぁ……」
「美里、おまえ先輩を裏切る気か」
「スポンサーの意向には逆らえませんから……」
「てめぇ――」
「みっこセンパイって、紗友さんと仲良しなんですね」
「ん……まぁ、な」
「そりゃ仲良しだよ。だって、私たち付き合ってるんだもの」
「え……つ、つ……つきあって……るん、です……か……」
「1年生の時に、みっこから告白されてね」
「はへぇ……ぜんぜん知りませんでした」
「……そんなこと美里に教えなくてもいいのに」
「美里ちゃんも、好きな人がいるんだったら後悔しないようにね」
「わ、私はべつに……好きな人なんて――」
「この前のタロット……恋愛に関することだったんでしょ?」
「…………」
「前にも言ったけど、占いなんて参考程度のものだから。大事なのは気持ちと行動」
「……はい」
「じゃ、私たち掃除の邪魔にならないように、外へ出てくるから」
「えぇ……今日は一日ダラダラしようと思ってたんだけど……」みっこセンパイがぼやく。
「ダラダラっていうか、イチャイチャしたかったんでしょ?」
「別にオレはそんなつもりじゃ――」
「明日も休みなんだから、今日は私の買い物に付き合ってよ」
「またガラクタが増えるのかよ……せっかく美里に掃除してもらっても、意味ないだろ」
「大丈夫。見るだけだよ、見るだけ」
「嘘つけ……」
連れだって出かける2人を玄関まで見送る。
やはり2人とも、けもの道が見えているらしい。
廊下を通って玄関まで、足下に何も存在しないかのごとく歩いてゆく。
私の方は、何かにつまづいて転ばないようにするのが精一杯なのに……。
「美里ちゃん、適当に出来る範囲でいいから」
「こんなガラクタ、全部捨てちゃってかまわないぞ。ここは24時間ゴミ出し可能だから」
「とりあえず壁際にでも寄せておいて……じゃ、行ってきま~す」
「……行ってらっしゃい」
ぱたん……。
ドアが閉まる。
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