写りたがりの幽霊なんて、写真部員の敵でしかない!

ものうちしのぎ

文字の大きさ
16 / 17

第16話 消えた幽霊

しおりを挟む
 駅員さんから小一時間ほどお説教された後、私たちは解放された。
 駅前の広場で、真也さんが私の足下に土下座している。

「申し訳ありませんでした……」
「……もういいよ、人が見てるし」
「見られたってかまわない」
「私がかまうの……自分のことしか考えてないんだね」
「そ、そうか……すまない」
「動画とか撮られてて恥ずかしいし、私もう行くからね」
「……わかった」

 私が歩く後を、うなだれた真也さんが付いてくる。

「どうして付いてくるの?」
「美里にオレの気持ちを知って欲しいんだ」
「……知りたくない」
「きっかけはあいつらの言うとおりだった……売り言葉に買い言葉。悪いなとおもいつつ、チャンスだとも思ったから、やつらの賭けに乗ったんだ」
「聞きたくないって言ってるのに……」
「あのプリントのとき――あのときオレが言ったこと、覚えてる?」
「……いままでのこと、ぜんぶ忘れたい」
「初めて見たときから美里のこと可愛いって思ってた、って言ったよね」
「……どうせ嘘でしょ」
「信じてもらえないかもしれないけど、本当なんだ。初めて見たときから、ずっと美里に片思いしてた」
「……嘘」
「それまでに付き合ったは多かったけど、ぜんぶゲームみたいなものだった」
「……自慢か」
「事実を言ってるだけだよ……美里に会ってわかったんだ。本気で好きになった娘に対しては、自分は臆病になるんだって」
「…………」
「賭がオレの背中を押してくれたんだよ……あれがきっかけで、美里にアプローチする勇気が出たんだ……でも、だからといって許される行為じゃないことは、わかってるけど」
「……だけど、私に告白させて、その賭けに勝とうとしたよね。結局、私のこともゲームのひとつだったんでしょ」
「それは違う。オレの方こそ、早く自分の気持ちを伝えたかった。自分から告白したかった……だけど、振られたらどうしようって思って、言い出せなかった。いままでオレ、本気で誰かを好きになったことなかったし……怖かったんだよ、美里から拒絶されるのが」
「……苦しかった?」
「美里の前では余裕のあるフリしてたけど、正直つらかった。何かにつけて美里のことが頭に浮かぶしさ……ため息ばかりついてたし……メシは食えなくなるし……あんな風になったのは、初めてだった」
「ふぅん……」
「さっきみたいなことになるまで、美里を傷つけてしまって……本当に申し訳ない……ごめんなさい、ごめんなさい……ごめんなさい……」

 また、土下座が始まる。
 今度は商店街の真ん中で……。

「だからもういいって……言ったでしょ、さっき」
「ごめん……どうにかしてお詫びの気持ちを伝えたくて……つい」
「結果的に死なずに済んだんだし、もう謝らなくていいから」
「許してくれる?」
「許さない」
「……だよな」
「真也さんに聞いておきたいんだけど、あのとき駅のホームで、私の腕をつかみ損ねたよね」
「もう少しだったんだ」
「でも私は真也さんじゃない誰かの手で引き戻された……私を助けてくれた人、見た?」
「いや……美里が助かって良かったって、頭の中はそのことでいっぱいだったから……」
「駅の防犯カメラを見れば、誰が私を助けてくれたかわかるかも」
「どうだろう……でもたぶん、見せてくれないよ」
「警察の要請とかないと無理かな……」
「オレも知りたいけどさ……個人情報とかで無理だろうな」
「なんで真也さんが?」
「だって、お礼とか言いたいじゃん」
「だからなんで?」
「美里の命の恩人だから」
「関係ないでしょ、真也さんには」
「大ありだよ」
「だからなんで?」

「美里のことを愛してるからだよ!」

 とんでもない大声。
 商店街の真ん中で、愛を叫ばれた!

「あ、あ、あい……し……」

 道行く人が、私たちを見てヒソヒソ、くすくす……。
 野次馬がどんどん集まってくる。
 何故いま、何故この場所、何故その声量!?

 真也さんは、やおらひざまづいて私の手を取ると――

「自分、椿真也は、三代川美里さんのことを愛しています! 美里さん、オレと結婚して下さい!」



「え……けっ……こ……@おp;いfjうぇrf」

 この人、いったい何を言ってるの?
 わけがわからない……世界がぐるんぐるん回っている……

「結婚、してください!」
「え……あの……わわわたしまだその……早生まれだからいま16歳だし……法律がかわったから年齢的なものが――」
「18歳になってからで結構です」
「ふ……ふぇ……」
「美里さん、オレと結婚してください!」
「う……ぅ……」

 駅での土下座の時と同じ……ばんばん写真とか動画を撮られてる。
 がんばれ~、とか早くおっけ~しろ~っ、とかギャラリーが勝手なことを言ってる。
 なんなの、これ……逃げ出さなきゃ……こんな恥ずかしい状況から、早く逃げ出さなきゃ——

「ほ、保留ッ!」

 言うが早いか、ダッシュでその場を離脱する。
 真也さんが追いかけてくるが、今度は追いつけない。
 普段から鍛えている私とは、持久力が違うもん。


   ◇   ◇   ◇


 20分後、私はワカギカメラでアイスコーヒーをごちそうになっていた。
 今日の出来事を若城さんに話す。

「――ははっ、保留はよかったな」
「笑い事じゃありませんて」
「いやごめん……でも、プロポーズの返事が保留とはね……ムフッ」
「私まだ16歳ですよ? 断るのが普通だと思うんです」
「でも断らなかった?」
「そこのところが、自分でもよくわからないんですよね……断るつもりだったのに、口を突いて出たのは――」
「〈保留〉だった。真也くんのことがまだ好きなんだね」
「……わかりません」
「そうだ……預かってたものを返すよ」

 若城さんがカウンターの下から取り出したカメラとフィルムが、私の前に置かれる。
 カメラはぴかぴか。
 フィルムは、ワカギカメラの印が押されたプリント袋の中。

「ついでにカメラとレンズ、オーバーホールしておいたから」
「え……私、お金が――」
「僕が好きでやったことだから、お代は結構」
「ホントですか……ありがとうございます」
「それで、幽霊が写ったフィルムなんだけどね……」
「どうでした?」
「……ま、自分でもう一度見てくれないか」

 プリント袋から、スリーブに入ったフィルムを取り出す。

「あっ!」

 一目見て気づいた。
 ユウの姿が写ってない!

「こ、これ……」
「まだ幽霊が写ってる?」

 上目遣いに私をじっと見つめる若城さん。
 心配してるような、探るような……そんな目つき。

「う、写ってません……でもどうして……」
「最初に見せてもらった時から、幽霊なんて写ってなかったんだ」
「そんな……私には確かにユウの姿が見えて――」
「僕に見せる前に、誰かにこのフィルムを見せたことある?」
「……若城さんが初めてです」
「ふむ……これはどう考えたもんかな……」

 あらためて、1コマ1コマじっくりとフィルムを見返す。
 ネガフィルムなので黒白が反転しているけど、画面いっぱいに写っていたはずのユウの姿は見落としようがない。
 なのにどのコマを見ても、ユウの姿が写っていない……。

「言っておくけど、僕はフィルムになにもしていないからね。カメラも特に問題なかった」
「はい……写っているのは、私が撮った覚えのある被写体と構図ばかり……ユウの姿だけが消えちゃってるんです」
「どうしてなのか、ユウくんに聞いてみたら?」
「で、でも……ユウは自分が写り込んでしまう理由すらわかってなかったんです……消えた理由だってきっと――」
「聞くだけ、聞いてみればいい」
「そうですね……」


   ◇   ◇   ◇


 ユウにわけを聞こうとしたのだが、あの日以来、ユウが私の前に姿をみせることはなかった。
 ついに成仏してしまったのだろうか……。

 それよりも合理的な説明がある。
 ユウやユウの写った心霊写真が、私の脳が作り出した妄想という説だ。

 主観的に見れば、世界は認識によって成り立っている。
 幽霊が見えると思い込んでいたら、その人にとってそれは真実なのだ。

 見えるから見えている……ユウもユウの写っていた写真も、私が見えると感じていたから、見えていたということだ。
 私にとって、それは真実だった――少なくともあの日、死にかけるまでは。

 死にかけたショックで、脳の中の何かが変わってしまったのだろうか。
 そのせいで、ユウが見えなくなったのかも……。

 幽霊は私の脳が作り出した幻だったのかもしれない。
 でも、私を助けてくれた手……あの手は確かにお父さんの手だった。
 どうやったのかは分からないけど、お父さんが私を死の淵から救ってくれたんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』

まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。 朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。 「ご主人様の笑顔が見たいんです」 その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。 全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!? 甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...