僕の獅子舞日記ー番外編ーとある健人の一年

池爾波師

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第十二話 傷痕

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今年の買い出しは品数が多い。

まずは今日の宴会のための食品、飲料、酒。

それに加えて、獅子方が衣装の下に着るインナー、ほかにも作業道具などがある。

それらがいっぺんに揃うのは大型のショッピングモールだ。

県内に一個所だけ、でかでかと建っているその場所へと俺らは車で向かった。

「じゃあ僕は、一階の食品売り場で買い物したあとに、サービスカウンターで頼んでたオードブルを引き取ってくるよ。健人たちは二階で獅子方の服とか買ってきて」

「了解。じゃ、叶絵と行ってくるわ」

エスカレーターで二階に上がり、まずは雑貨類が置いてある店で作業道具を揃えた。

それから衣料品売り場に行こうとしたところで、叶絵がトイレに行くと言った。

「じゃあテキトーにここらへんで見てるわ」

「うん」

それから無事に獅子方の白い半袖シャツのインナーを買い終えたのだが、叶絵はまだ戻って来なかった。

遅いな。

腹壊してんのか?

でもアイツ、腹壊すほど飯食わねえしな。

他の店でも見ているのかも。

しかしながら、森くんが一階で自分たちを待っているから、早くそこへ行かなければならない。

俺はトイレがある方向へと早足で歩いた。

途中でゲームセンターの前を通るのだが、その前に置かれているベンチに、制服姿の男女が何人かがいて、その群れの中に叶絵はいた。

なるほど。

たまたま知り合いか同級生とかにそこで出会って、話が盛り上がっていたのかもしれない。

邪魔するのも悪いけれど、そろそろここを出る時間だ。

俺はその群れへと歩を進めた。

「てかさー、アレ。伊丹のインスタたまに見とるよ。フォロワーの数すごいねか」

制服を着た、派手な髪色とメイクの女の子が叶絵にそう言った。

「中学の時からめっちゃ変わったやん?どうやってそこまで痩せたが?まじで知りたいんやけど」

もう一人の同じような派手な見た目の女子が、続けて言った。

「脂肪吸引レベルやもんに。逆に怖すぎてひくわ。どこでやったが?タカスけ?韓国け?うちらにも紹介くれんけ?」

「あはは!やっば!それな!」

あれ?

これ、なんとなくやばくないか?

会話の内容からして、叶絵とこいつらは友達ではない気がする。

「でもあれ。たまに吐きダコ見えてる写真あるからさ、消した方いいがじゃない?ああいうが萎えるよ」

「そこまで痩せたらさ、体中の肉割れとかヤバくないけ?うち三キロ痩せた時でさえ足にできたもん」

叶絵はその場にはいるけど、何の反応もしていなかった。

顔も体も微動だにせず、その場の流れるような会話をただ立ちすくんで聞いている。

「てかさあ、伊丹って中学のときレンのこと好きやったよね?ねえ、レン。なんか中二の時に伊丹に告白されたの話題になっとったやん」

片方の女子が、ベンチの上で足を組んで座り、ひたすらスマホをいじっている男子に話しかけた。

「あ?」

レンと呼ばれた男子は、整った顔立ちはしているが、長い前髪から覗く目つきがあからさまに悪かった。

「は?いたっけこんなやつ」

叶絵を一瞥して、派手な女の子に訊いた。

「え~レンが一番伊丹にかまっとったやん。それを伊丹が好かれてるって勘違いして告白される羽目になったがいろ?」

「ああ。いたわ。俺が黒豚チャーシューってからかってたやつだわ」

その男の言葉で、場は大きな笑いの渦に包まれた。

「やばいよね!あのあだ名さあ、当時の担任に怒られてやめたけど、クラスでめっちゃ流行ったよね。まじ逸脱すぎんがいけど」

「でも今の伊丹ならさー、レンも結構タイプなんじゃないけ?最近、ヒナちゃんと別れたって言っとったやんか」

「はあ」

目つきの悪い男子は、動けなくなっている叶絵を下から上へと目線を動かして見て、そしてこう言った。

「いやないわ。黒豚からミイラになっただけっしょ。ミイラって黒いし。なんとなく汚なくね」

「うっわ!まじできっついがいけど~」

「ひどくないけ?普通そんなん女子に言うけ~?」

「お取込み中すんません。用事あるんで、この子連れ出しますねー」

俺は群れに割って入り、叶絵の腕を引いた。

「あれ?彼氏け?」

「へー伊丹やるやん。彼氏できたんやー。年上?」

「ほんじゃ」

俺は片手をあげてそのグループに軽く挨拶をし、そのまま彼女を引っ張っていった。

そのまま互いに無言でエスカレーターを降りて歩き、食品売り場に着いた。

俺は叶絵の細い手首を掴んだままで、彼女の方を一切見なかった。

「あ!!健人!遅かったねえ!二階に探しに行こうかと思ったよ!」

オードブルが入った大きな袋を右手に下げ、左手にパンパンになったエコバックを持った森くんが、前から近づいてきた。

「じゃ。帰りますか」

「うん。そうだね」

森くんは俺の後ろにいる叶絵のほうをさっとだけ見て、特に何も言わずに出口へ向かった。

勘が良くて優しい彼のことだ。

たぶん、なにかを察したのだろう。
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