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本編
虚妄6
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仕事を終わらせて鞄を持ち、小学校から出て近くの駐車場へ向かうと時雨が待ってくれていた。幸平が駆け寄ると、彼は三人の女性に囲まれていた。時雨に絡んでいるのは恋鞠と彼女の母親と、幸平の元母親。父親達は桜子の相手をしているらしく、本当に一人で大丈夫なんだろうかと不安に思ったが「彼女なら大丈夫ですよ。強い女性ですから」と時雨は答えていた。
「余計なことをしないでよ! あと少しで上手くいくところだったのに!」
「幸平さんを、あの変態どもに襲わせる計画が、ですか?」
「え?」
よく見ると、時雨の足元には複数の柄の悪そうな体格のいい男達が倒れていた。暗くてよく見えないが、一人だけ高そうなスーツを着ている。
「幸平さん。お疲れさまです。何もありませんでしたか?」
「七瀬さん? あの、これは、一体……」
「幸平さんが知る必要はありませんよ。彼女達の悪巧みは潰しましたから」
「悪巧みって……まさか、また峯滝くんに危害を!?」
「いいえ。彼女達が狙ったのは貴方です。幸平さん」
「え?」
「どうして邪魔するのよ! 幸平が身体を売ってくれたら、沢山のお金を手に入れることができたのに!」
恋鞠の発言で、幸平は全てを理解してしまった。思い通りにならない腹いせに、恋鞠は幸平を売ろうと企んでいたのだ。時雨の足元に転がっていた男達は、幸平を襲う筈だった恋鞠の取引相手。スーツ姿の中年男性は何処かの会社の社長で、若い男性教師を組み敷いて痛みと快楽を教え込むのが趣味の変態らしい。無理矢理でも、教師がそんなことをされれば生徒も保護者も幻滅する。教師を辞めさせ、男が飽きるまで性奴隷として働いてもらうつもりだったのだと。そうすれば恋鞠達の元に毎月決まった金額が支払われるという。しかし、その計画は時雨によって潰された。
「これは立派な犯罪ですよ」
「私は化身の伴侶なのよ! 何をしても許されるわ!」
「貴方が伴侶? それ、本気で言ってるんですか?」
「は?」
「何を言っているの! 恋鞠ちゃんは正真正銘、化身の伴侶よ!」
「そうよ! この子は峯滝氷雨と結婚するんだから!」
彼女は社長夫人になるのよ! と、友美と恋鞠の母、華恋が自慢する。ボロアパートに住んでいる貧乏人は黙っていろ! と。でも、顔だけはいいから愛人としてなら傍に置いてあげてもいいと、恋鞠が宣う。時雨に対して失礼な発言を繰り返す三人に、幸平は我慢の限界に達して言い返そうとした。
「知っていますか? 伴侶は化身に愛されれば愛されるほど美しくなるんですよ」
「は?」
「神の寵愛を受けているのは化身だけではありません。伴侶も神から加護を受けていて、幸運を呼ぶと言われています」
化身の伴侶は例えるなら座敷童のような存在らしい。伴侶を大切にしていた人達には幸運が訪れ、逆に虐げていた者達には不幸が訪れる。もし、恋鞠が化身の伴侶なら自ずと周囲が助けてくれる筈だが、彼女の側にいるのは華恋と友美だけ。
「居るんですよねえ。少し容姿が整っているだけで『私は伴侶だ』と信じてしまう残念な人が……」
言葉は濁しているが、恋鞠に「お前は伴侶ではない」と断言したも同然だった。彼女は時雨に何か言おうとしたが、懐中電灯の明かりがこちらに向けられる。時雨は「こっちです! 私の伴侶を襲おうとした不届き者を早く逮捕してください!」と叫び、近付いてきた男性達が警察だと知ると慌ててその場から逃げ出した。
「お前の伴侶を狙うなんて命知らずだな」
「逃げた奴らは捕まえなくていいのか?」
「えぇ。神罰からは逃げられませんから」
彼らは倒れていた男達を次々と起こしてパトカーに乗せる。時雨と知り合いのようで冗談交じりに何度か言葉を交わした後、彼らはパトカーに乗って去って行った。
「もう大丈夫です。私達も帰りましょう。幸平さん」
「は、はい」
そっと背中に手を添えられ、幸平は力なく頷くことしかできない。時雨に聞きたいことは沢山あるが、頭が混乱して何から聞けばいいのか分からない。時雨が傍にいると心が落ち着いて、幸平は安堵の息を零した。
「余計なことをしないでよ! あと少しで上手くいくところだったのに!」
「幸平さんを、あの変態どもに襲わせる計画が、ですか?」
「え?」
よく見ると、時雨の足元には複数の柄の悪そうな体格のいい男達が倒れていた。暗くてよく見えないが、一人だけ高そうなスーツを着ている。
「幸平さん。お疲れさまです。何もありませんでしたか?」
「七瀬さん? あの、これは、一体……」
「幸平さんが知る必要はありませんよ。彼女達の悪巧みは潰しましたから」
「悪巧みって……まさか、また峯滝くんに危害を!?」
「いいえ。彼女達が狙ったのは貴方です。幸平さん」
「え?」
「どうして邪魔するのよ! 幸平が身体を売ってくれたら、沢山のお金を手に入れることができたのに!」
恋鞠の発言で、幸平は全てを理解してしまった。思い通りにならない腹いせに、恋鞠は幸平を売ろうと企んでいたのだ。時雨の足元に転がっていた男達は、幸平を襲う筈だった恋鞠の取引相手。スーツ姿の中年男性は何処かの会社の社長で、若い男性教師を組み敷いて痛みと快楽を教え込むのが趣味の変態らしい。無理矢理でも、教師がそんなことをされれば生徒も保護者も幻滅する。教師を辞めさせ、男が飽きるまで性奴隷として働いてもらうつもりだったのだと。そうすれば恋鞠達の元に毎月決まった金額が支払われるという。しかし、その計画は時雨によって潰された。
「これは立派な犯罪ですよ」
「私は化身の伴侶なのよ! 何をしても許されるわ!」
「貴方が伴侶? それ、本気で言ってるんですか?」
「は?」
「何を言っているの! 恋鞠ちゃんは正真正銘、化身の伴侶よ!」
「そうよ! この子は峯滝氷雨と結婚するんだから!」
彼女は社長夫人になるのよ! と、友美と恋鞠の母、華恋が自慢する。ボロアパートに住んでいる貧乏人は黙っていろ! と。でも、顔だけはいいから愛人としてなら傍に置いてあげてもいいと、恋鞠が宣う。時雨に対して失礼な発言を繰り返す三人に、幸平は我慢の限界に達して言い返そうとした。
「知っていますか? 伴侶は化身に愛されれば愛されるほど美しくなるんですよ」
「は?」
「神の寵愛を受けているのは化身だけではありません。伴侶も神から加護を受けていて、幸運を呼ぶと言われています」
化身の伴侶は例えるなら座敷童のような存在らしい。伴侶を大切にしていた人達には幸運が訪れ、逆に虐げていた者達には不幸が訪れる。もし、恋鞠が化身の伴侶なら自ずと周囲が助けてくれる筈だが、彼女の側にいるのは華恋と友美だけ。
「居るんですよねえ。少し容姿が整っているだけで『私は伴侶だ』と信じてしまう残念な人が……」
言葉は濁しているが、恋鞠に「お前は伴侶ではない」と断言したも同然だった。彼女は時雨に何か言おうとしたが、懐中電灯の明かりがこちらに向けられる。時雨は「こっちです! 私の伴侶を襲おうとした不届き者を早く逮捕してください!」と叫び、近付いてきた男性達が警察だと知ると慌ててその場から逃げ出した。
「お前の伴侶を狙うなんて命知らずだな」
「逃げた奴らは捕まえなくていいのか?」
「えぇ。神罰からは逃げられませんから」
彼らは倒れていた男達を次々と起こしてパトカーに乗せる。時雨と知り合いのようで冗談交じりに何度か言葉を交わした後、彼らはパトカーに乗って去って行った。
「もう大丈夫です。私達も帰りましょう。幸平さん」
「は、はい」
そっと背中に手を添えられ、幸平は力なく頷くことしかできない。時雨に聞きたいことは沢山あるが、頭が混乱して何から聞けばいいのか分からない。時雨が傍にいると心が落ち着いて、幸平は安堵の息を零した。
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