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第4章
欲には勝てない
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しかし、夕はユリウスを拒絶しなかった。優しく微笑み「一人じゃない」と言ってくれた。
「本当に、感謝してもしきれない。ユウが居なければ、俺は……」
生きたいと思う事も、なかったかもしれない。そう思える程、ユリウスは夕に救われていた。
「ユウの事、本当に好きなんだな」
リベルテが呟くと、ユリウスは「あぁ」と言葉を返した。穏やかに微笑み「約束も果たせそうだ」と続けた。
「約束?」
「昔、お前としただろう? あの方を紹介する、と」
「あ、あぁ、そう言えば、そんな話もしてたような……」
「覚えていないのか?」
「いや、覚えてはいる。けど、その……」
「俺は確かに言った。『シンジュと結婚する時は俺に報告しろ』と」
「な!?」
「それで、何時するんだ? 結婚し……」
楽しそうにユリウスが言うと、リベルテは慌ててユリウスの口を手で塞いだ。
「な、ななな、何言ってんだよ!? お、俺は、ま、まだ、そんなつもりは……そ、それに、シンジュに、け、結婚はまだ早過ぎるだろ!? ま、まだ地上に慣れてねえし、ひ、人に対しても、ユウ達にしか慣れてねえし、い、色々としたい事もあると思うし……そ、それなのに、け、けけけ、結婚は……」
「奪われても知らんぞ?」
「な!」
不敵な笑みを浮かべて発したユリウスの言葉に、リベルテは酷く落ち込んだ。
「シンジュは海の神子だと話しただろう。海の神子と言うだけでも周囲は放ってはおかない。シンジュも決して弱くはないが、俺達に比べるとかなり弱々しく見える。神子の証があるとは言え、守りたくなる気持ちは良く分かる」
「あ、兄上……も、若しかして、シンジュの事……」
「安心しろ。俺が好きなのはユウだ」
「そ、そうか……良かった」
「実は、シンジュが蘇る前まで、俺はお前に嫉妬していた」
「え!?」
「昔、お前が言っていただろう? シンジュが俺の事を好きになるのではないか、と」
「あ、あぁ」
「お前に言われた時は理解出来なかったが、お前とユウが楽しそうに笑い合っている姿を見た時、お前の気持ちが初めて分かった気がした」
「…………」
「外見や性格は全く違うが、心優しいところは二人とも似ているだろう?」
「そうだな」
「だから俺は不安だったんだ。ユウがお前の事を好きになるのではないか、お前がユウの事を好きになるのではないか、と……」
結局、杞憂に終わってしまったがな。
そう話を続けるユリウスは、とても和やかな表情をしていた。
ユリウスは相手が誰であろうとも、表情を崩す事はなかった。クラウスにも、リベルテにも、ユリウスは感情を見せなかった。子どもの頃は多少見せていた時もあったが、何時しか無表情がユリウスの当たり前の表情になっていた。
「兄上、少し変わったな」
だからこそ、リベルテは少しだけ驚いた。誰にも感情を見せようとしなかったユリウスが、表情豊かになっている事に。決して本心を話そうとしなかったユリウスが、少しだけ話してくれるようになった事に。
「本来なら、表情を崩してはいけないのだが……」
「別に良いんじゃねえの? 兄上がそうなるのはユウ達の前だけだし。他の連中の前だと何時も通りの無表情だぜ」
「…………」
「俺は、今の兄上の方が好きだな」
爽やかに笑いながら言うリベルテに、ユリウスは呆然とした後、クスリと笑う。
「お前からそんな言葉を言われるとは思わなかったな」
「そうだな。俺も、兄上の事をどう思ってるか話したのは初めてかもしれねえ。俺、昔から兄上に憧れてた。何でも出来て、民達の事も考えて、一人で沢山の事をこなして……自慢の兄だって、今なら胸を張って言える」
「嬉しい限りだ。しかし、お前も変わったな。いや、昔に戻ったと言った方が正しいか」
「あ、あぁ、そうだな。シンジュの事があってから、色々と拗れちまったからな」
申し訳なさそうな声でリベルテが言うと、ユリウスは「気にするな」と言った。
「ユウ達のお陰で、シンジュは蘇った。お前との関係も元に戻った」
「兄上……」
「今度こそ、ちゃんと護ってやれ」
「わ、分かってるよ! あ、兄上こそ、ユウの事、絶対に護れよ。夜空の神子がどんな存在かは知らねえけど、兄上はユウじゃねえと駄目なんだろ?」
「無論だ。俺はまだ、恩を返せていない。むしろ、あの二人に助けられてばかりだ。だからこそ、護らなければならない」
「そうだな」
「お互い、強くなろうぜ」と笑いながら言うリベルテに、ユリウスはコクリと頷き「昔のように鍛錬をサボるなよ」と言葉を返す。「あ、あぁ」と返事はするものの、リベルテの表情は少しだけひきつっていた。
リベルテとの手合わせも終わり鍛錬場から出て直ぐ名前を呼ばれ、ユリウスは突然夕に抱きつかれた。
「ユリウス様! た、助けてください!」
「な!」
誰かから必死に逃げているのか頬が赤く染まり、涙目になっている。
「お願いです! 俺と一緒に逃げてください! 今直ぐに! 街でも海でも森でも、此処以外なら何処でも良いので!」
「ユ、ユウ……」
何を言われているのか分からず、夕の唐突な行動にユリウスは酷く動揺した。二人の距離は非常に近く、身長差もあり、必然的に夕はユリウスを見上げる形になってしまう。今の夕は涙目で頬も赤く染まっている。不謹慎だと分かっていても、好きな人の上目遣いは非常に可愛い。夕の方からユリウスに抱きつくのは初めてで、ユリウスは咄嗟に夕から視線を逸らした。
「おい。逃げんじゃねえよ」
「ひ!」
夕を追っていたのは鈴だった。鈴が現れたと同時に、夕はユリウスに身を寄せた。
「何があったんだ?」
唐突に起きた事に付いていけずに固まっていたリベルテが夕に聞くが、夕は怯えるだけで何も答えてくれない。
「何って、着替えに決まってんだろ?」
ニヤリ、と不敵な笑みを浮かべて鈴が答えた。リベルテとユリウスが同時に「着替え?」と口にすると、鈴は「あぁ、着替えだ」ともう一度言った。
「これからシンジュに街を案内するんだろ? だったら、お前も着替えねえとなぁ?」
「断る!」
「…………」
「…………」
ユリウスに強く抱きついて夕は拒絶した。
着替えくらいでそんなに拒絶しなくても……
二人がそう思っていた時、夕が話し始めた。
「お前の着替えは唯の着替えじゃねえだろ! 平凡な俺に女装させて何が楽しいんだよ!」
女装。その言葉を聞いた瞬間、ユリウスは夕のドレス姿を思い出した。鈴に似せられていたとは言え、とても美しく、可愛いかった。
あの姿をもう一度見れる。
そう思うと、このまま鈴に夕を任せたくなるが、泣きながら自分に助けを求めてきた夕を裏切るような事はしたくない。でも、ドレス姿は見たい。
「安心しろ。今回のは前のように動きにくい奴じゃねえよ。ワンピース寄りだから動きやすいぜ」
「だから何で女装なんだよ! 安心できねえよ!」
「つべこべ言わずさっさとしろ。時間がねえんだよ」
「今のままでも良いじゃねえか!」
「却下」
「ユリウス様! 助けてください!」
「あ、あぁ……」
突然話を振られ、ユリウスは戸惑った。必死に助けを求める夕を助けたいと思う反面、ドレス姿も見たいと言う欲求。ユリウスがどうすべきか思い悩んでいると、鈴が小さく呟いた。
「お揃いの色のドレスを用意したんだがな……」
その言葉で、プツンと何かが切れた。強く抱きついている夕の両肩に手を置き、そっと離す。「ユリウス様?」と不安そうに見上げてくる夕に申し訳なく思いながらも、ユリウスは黙って夕を鈴に渡した。
「え?」
「ユウを頼む」
「え? え!? ゆ、ユリウス様!?」
夕を鈴に託すと、鈴はにっこりと天使のように無邪気に笑い「任されました! 可愛くしてくるので少し待っててください!」と高らかに宣言すると、夕の襟元を引っ掴んでズルズルと引き摺って行った。
悲痛な夕の叫び声は聞こえないフリをして、ユリウスはリベルテに向き直る。
「兄上……」
「済まない。欲には勝てなかった」
「…………」
もしこれが夕ではなくシンジュだったら、自分も同じ事をしている。そう簡単に予想出来る為、リベルテは呆れながらもユリウスを責める事は出来なかった。
「本当に、感謝してもしきれない。ユウが居なければ、俺は……」
生きたいと思う事も、なかったかもしれない。そう思える程、ユリウスは夕に救われていた。
「ユウの事、本当に好きなんだな」
リベルテが呟くと、ユリウスは「あぁ」と言葉を返した。穏やかに微笑み「約束も果たせそうだ」と続けた。
「約束?」
「昔、お前としただろう? あの方を紹介する、と」
「あ、あぁ、そう言えば、そんな話もしてたような……」
「覚えていないのか?」
「いや、覚えてはいる。けど、その……」
「俺は確かに言った。『シンジュと結婚する時は俺に報告しろ』と」
「な!?」
「それで、何時するんだ? 結婚し……」
楽しそうにユリウスが言うと、リベルテは慌ててユリウスの口を手で塞いだ。
「な、ななな、何言ってんだよ!? お、俺は、ま、まだ、そんなつもりは……そ、それに、シンジュに、け、結婚はまだ早過ぎるだろ!? ま、まだ地上に慣れてねえし、ひ、人に対しても、ユウ達にしか慣れてねえし、い、色々としたい事もあると思うし……そ、それなのに、け、けけけ、結婚は……」
「奪われても知らんぞ?」
「な!」
不敵な笑みを浮かべて発したユリウスの言葉に、リベルテは酷く落ち込んだ。
「シンジュは海の神子だと話しただろう。海の神子と言うだけでも周囲は放ってはおかない。シンジュも決して弱くはないが、俺達に比べるとかなり弱々しく見える。神子の証があるとは言え、守りたくなる気持ちは良く分かる」
「あ、兄上……も、若しかして、シンジュの事……」
「安心しろ。俺が好きなのはユウだ」
「そ、そうか……良かった」
「実は、シンジュが蘇る前まで、俺はお前に嫉妬していた」
「え!?」
「昔、お前が言っていただろう? シンジュが俺の事を好きになるのではないか、と」
「あ、あぁ」
「お前に言われた時は理解出来なかったが、お前とユウが楽しそうに笑い合っている姿を見た時、お前の気持ちが初めて分かった気がした」
「…………」
「外見や性格は全く違うが、心優しいところは二人とも似ているだろう?」
「そうだな」
「だから俺は不安だったんだ。ユウがお前の事を好きになるのではないか、お前がユウの事を好きになるのではないか、と……」
結局、杞憂に終わってしまったがな。
そう話を続けるユリウスは、とても和やかな表情をしていた。
ユリウスは相手が誰であろうとも、表情を崩す事はなかった。クラウスにも、リベルテにも、ユリウスは感情を見せなかった。子どもの頃は多少見せていた時もあったが、何時しか無表情がユリウスの当たり前の表情になっていた。
「兄上、少し変わったな」
だからこそ、リベルテは少しだけ驚いた。誰にも感情を見せようとしなかったユリウスが、表情豊かになっている事に。決して本心を話そうとしなかったユリウスが、少しだけ話してくれるようになった事に。
「本来なら、表情を崩してはいけないのだが……」
「別に良いんじゃねえの? 兄上がそうなるのはユウ達の前だけだし。他の連中の前だと何時も通りの無表情だぜ」
「…………」
「俺は、今の兄上の方が好きだな」
爽やかに笑いながら言うリベルテに、ユリウスは呆然とした後、クスリと笑う。
「お前からそんな言葉を言われるとは思わなかったな」
「そうだな。俺も、兄上の事をどう思ってるか話したのは初めてかもしれねえ。俺、昔から兄上に憧れてた。何でも出来て、民達の事も考えて、一人で沢山の事をこなして……自慢の兄だって、今なら胸を張って言える」
「嬉しい限りだ。しかし、お前も変わったな。いや、昔に戻ったと言った方が正しいか」
「あ、あぁ、そうだな。シンジュの事があってから、色々と拗れちまったからな」
申し訳なさそうな声でリベルテが言うと、ユリウスは「気にするな」と言った。
「ユウ達のお陰で、シンジュは蘇った。お前との関係も元に戻った」
「兄上……」
「今度こそ、ちゃんと護ってやれ」
「わ、分かってるよ! あ、兄上こそ、ユウの事、絶対に護れよ。夜空の神子がどんな存在かは知らねえけど、兄上はユウじゃねえと駄目なんだろ?」
「無論だ。俺はまだ、恩を返せていない。むしろ、あの二人に助けられてばかりだ。だからこそ、護らなければならない」
「そうだな」
「お互い、強くなろうぜ」と笑いながら言うリベルテに、ユリウスはコクリと頷き「昔のように鍛錬をサボるなよ」と言葉を返す。「あ、あぁ」と返事はするものの、リベルテの表情は少しだけひきつっていた。
リベルテとの手合わせも終わり鍛錬場から出て直ぐ名前を呼ばれ、ユリウスは突然夕に抱きつかれた。
「ユリウス様! た、助けてください!」
「な!」
誰かから必死に逃げているのか頬が赤く染まり、涙目になっている。
「お願いです! 俺と一緒に逃げてください! 今直ぐに! 街でも海でも森でも、此処以外なら何処でも良いので!」
「ユ、ユウ……」
何を言われているのか分からず、夕の唐突な行動にユリウスは酷く動揺した。二人の距離は非常に近く、身長差もあり、必然的に夕はユリウスを見上げる形になってしまう。今の夕は涙目で頬も赤く染まっている。不謹慎だと分かっていても、好きな人の上目遣いは非常に可愛い。夕の方からユリウスに抱きつくのは初めてで、ユリウスは咄嗟に夕から視線を逸らした。
「おい。逃げんじゃねえよ」
「ひ!」
夕を追っていたのは鈴だった。鈴が現れたと同時に、夕はユリウスに身を寄せた。
「何があったんだ?」
唐突に起きた事に付いていけずに固まっていたリベルテが夕に聞くが、夕は怯えるだけで何も答えてくれない。
「何って、着替えに決まってんだろ?」
ニヤリ、と不敵な笑みを浮かべて鈴が答えた。リベルテとユリウスが同時に「着替え?」と口にすると、鈴は「あぁ、着替えだ」ともう一度言った。
「これからシンジュに街を案内するんだろ? だったら、お前も着替えねえとなぁ?」
「断る!」
「…………」
「…………」
ユリウスに強く抱きついて夕は拒絶した。
着替えくらいでそんなに拒絶しなくても……
二人がそう思っていた時、夕が話し始めた。
「お前の着替えは唯の着替えじゃねえだろ! 平凡な俺に女装させて何が楽しいんだよ!」
女装。その言葉を聞いた瞬間、ユリウスは夕のドレス姿を思い出した。鈴に似せられていたとは言え、とても美しく、可愛いかった。
あの姿をもう一度見れる。
そう思うと、このまま鈴に夕を任せたくなるが、泣きながら自分に助けを求めてきた夕を裏切るような事はしたくない。でも、ドレス姿は見たい。
「安心しろ。今回のは前のように動きにくい奴じゃねえよ。ワンピース寄りだから動きやすいぜ」
「だから何で女装なんだよ! 安心できねえよ!」
「つべこべ言わずさっさとしろ。時間がねえんだよ」
「今のままでも良いじゃねえか!」
「却下」
「ユリウス様! 助けてください!」
「あ、あぁ……」
突然話を振られ、ユリウスは戸惑った。必死に助けを求める夕を助けたいと思う反面、ドレス姿も見たいと言う欲求。ユリウスがどうすべきか思い悩んでいると、鈴が小さく呟いた。
「お揃いの色のドレスを用意したんだがな……」
その言葉で、プツンと何かが切れた。強く抱きついている夕の両肩に手を置き、そっと離す。「ユリウス様?」と不安そうに見上げてくる夕に申し訳なく思いながらも、ユリウスは黙って夕を鈴に渡した。
「え?」
「ユウを頼む」
「え? え!? ゆ、ユリウス様!?」
夕を鈴に託すと、鈴はにっこりと天使のように無邪気に笑い「任されました! 可愛くしてくるので少し待っててください!」と高らかに宣言すると、夕の襟元を引っ掴んでズルズルと引き摺って行った。
悲痛な夕の叫び声は聞こえないフリをして、ユリウスはリベルテに向き直る。
「兄上……」
「済まない。欲には勝てなかった」
「…………」
もしこれが夕ではなくシンジュだったら、自分も同じ事をしている。そう簡単に予想出来る為、リベルテは呆れながらもユリウスを責める事は出来なかった。
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