52 / 88
第4章
手料理2
しおりを挟む
一方、夕達はあまり人が寄り付かない部屋の中でアップルパイを作っていた。昨日、シンジュが料理を作れるようになりたいと言ったのが切っ掛けとなり、3人はアップルパイを作る準備をしていた。
必要な調理道具と食材を用意し、シンジュに包丁の使い方を教えながら、夕はパイ生地を作る。包丁を使うのが初めてだと言うシンジュの包丁の使い方は少し危なっかしく、怪我をしそうになると夕が声をかけ、使い方を教えていく。
夕に教えてもらいながら切り分けた林檎は大きさも形もバラバラで、綺麗とは言い難い。一生懸命切り分けたつもりでも、不恰好な林檎を見て、シンジュは酷く落ち込んだ。しかし、夕はシンジュに「大丈夫だ。煮詰めたら形は崩れるから、気にしなくていい」と言って、林檎を煮詰めるようにシンジュに頼んだ。シンジュは落ち込みながらも、林檎を鍋に入れ、必要な調味料を夕の指示通り順番に入れ、火にかける。
林檎を煮詰めていると、シャチがシンジュの周囲を泳ぐように移動し、時折シンジュの頬や頭を小突く。鍋の中を確認しながら、シンジュはシャチに「今はダメ」、「後で遊ぼうね」と声を掛けてた。するとシャチはシュンとするが、シンジュが「お願い」と言うと、大人しくなった。
夕がパイ生地を作り終わると、鈴がパイ生地の形を整えたり、生地を切り分けていると、バサリと鳥の羽ばたく音が聞こえ、三人は音のする方を見た。
其処には、白い鷲がいた。白い鷲は籠の中に首を突っ込み、残った林檎を啄ばんでいた。その姿を確認した瞬間、鈴は手にしていたフォークを白い鷲目掛けて投げた。
「ギャッ!」
フォークが飛んで来た事に驚き、白い鷲は籠から一歩遠のき、鈴を睨みつけた。
「悪い。俺はこの馬鹿鳥を監視する。其処にある林檎を狙ってるみてぇだからな」
そう言って鈴は白い鷲の前に立ち、一人と一羽の攻防が始まった。少し離れた場所で繰り広げられる激しい攻防を眺めつつ、夕とシンジュはアップルパイを作る為、手を動かした。
数十分ほど林檎を煮詰めると、ふわりと甘酸っぱい香りが漂う。煮詰まった林檎をパイ生地の上に乗せ、その上から細長い長方形のパイ生地を編み目のように乗せていく。形を整えた後、オーブンに入れ、夕とシンジュはアップルパイが出来上がるのを待ちながら、片付けを始めた。
片付けも終わり、オーブンの中を確認しつつ、夕はシンジュに声をかけた。
「出来上がるのが楽しみだな」
「はい。う、上手く、出来てたらいいけど……」
「シンジュは心配性だな」
クスリと笑い、夕はシンジュの頭を撫でる。ポンポンと優しく手を置く夕に、シンジュは「ユウさんには敵いません」と呟きながら俯いた。シンジュの言葉に夕は驚き、撫でていた手がピタリと止まる。
「ユウさんは、とても優しくて、料理も上手で、強くて、明るくて……リベルさまが言ってました。ユウさんとスズさんには感謝してもしきれないって。だから、その……」
「俺や鈴が羨ましいのか?」
「それは……」
シンジュは言葉を失った。考えないようにしていた思いを指摘され、シンジュは視線を彷徨わせる。夕の言っている事は正しい。シンジュは羨ましかった。リベルテに必要とされている二人が。二人の事を話す時のリベルテはとても嬉しそうで、シンジュは不安だった。
リベルテが夕を選ぶのではないか、鈴を選ぶのではないか。不安は日を追う毎に増していき、何時しか何でも出来る夕と鈴が羨ましいと思うようになった。
二人と楽しそうに話している時、作った料理の味見を夕が頼んだ時、リベルテは照れくさそうに、けれど幸せそうな表情を見せるのだ。その様子を見て、シンジュは更に不安になった。
けれど、夕と鈴なら仕方ないとシンジュは思っていた。優しく接してくれる二人。リベルテが居ない時、シンジュの傍には何時も夕と鈴が居た。
「友達だから」と「一人じゃないから」と、優しい言葉をかけられ、シンジュは嬉しかった。海の中で生きていた時は、友達と言える者は居なかった。優しくて頼りになる姉は居たが、姉以外の者達はシンジュの事を嫌っていた。
その為、初めて友達だと言ってくれた夕と鈴は、シンジュに取ってとても大切な存在だった。リベルテに抱いた恋心とは異なるが、二人の傍に居ると毎日が楽しく、心が温かくなり、満たされるような感じがした。
そんな二人に対して羨ましいと思ってしまった事を、シンジュは認めたくなかった。
夕と鈴は大切な友達なのに、リベルテが二人と楽しそうに話している姿を見るだけで、シンジュはモヤモヤとした感情を抱くようになった。考えないように努力したり、そんな事を思ってはいけないと自分に言い聞かせたりしたが、羨ましいと思う心を完全に捨て去る事は出来なかった。
「かわいい」
「確かに可愛いな」
「え?」
シンジュは二人の呟いに目をパチクリさせた。きっと軽蔑される。折角友達になれたのに、とても大切にしてくれているのに、優しい二人に対して、自分はとても醜い感情を抱いてしまった。
見捨てられるかもしれない。仲良くしてくれないかもしれない。最悪の結末を考え、シンジュは顔を真っ青にしたが、夕と鈴はそんなシンジュを見て「かわいい」と言った。
二人が何を考えているのか分からず、シンジュは更に不安になった。
必要な調理道具と食材を用意し、シンジュに包丁の使い方を教えながら、夕はパイ生地を作る。包丁を使うのが初めてだと言うシンジュの包丁の使い方は少し危なっかしく、怪我をしそうになると夕が声をかけ、使い方を教えていく。
夕に教えてもらいながら切り分けた林檎は大きさも形もバラバラで、綺麗とは言い難い。一生懸命切り分けたつもりでも、不恰好な林檎を見て、シンジュは酷く落ち込んだ。しかし、夕はシンジュに「大丈夫だ。煮詰めたら形は崩れるから、気にしなくていい」と言って、林檎を煮詰めるようにシンジュに頼んだ。シンジュは落ち込みながらも、林檎を鍋に入れ、必要な調味料を夕の指示通り順番に入れ、火にかける。
林檎を煮詰めていると、シャチがシンジュの周囲を泳ぐように移動し、時折シンジュの頬や頭を小突く。鍋の中を確認しながら、シンジュはシャチに「今はダメ」、「後で遊ぼうね」と声を掛けてた。するとシャチはシュンとするが、シンジュが「お願い」と言うと、大人しくなった。
夕がパイ生地を作り終わると、鈴がパイ生地の形を整えたり、生地を切り分けていると、バサリと鳥の羽ばたく音が聞こえ、三人は音のする方を見た。
其処には、白い鷲がいた。白い鷲は籠の中に首を突っ込み、残った林檎を啄ばんでいた。その姿を確認した瞬間、鈴は手にしていたフォークを白い鷲目掛けて投げた。
「ギャッ!」
フォークが飛んで来た事に驚き、白い鷲は籠から一歩遠のき、鈴を睨みつけた。
「悪い。俺はこの馬鹿鳥を監視する。其処にある林檎を狙ってるみてぇだからな」
そう言って鈴は白い鷲の前に立ち、一人と一羽の攻防が始まった。少し離れた場所で繰り広げられる激しい攻防を眺めつつ、夕とシンジュはアップルパイを作る為、手を動かした。
数十分ほど林檎を煮詰めると、ふわりと甘酸っぱい香りが漂う。煮詰まった林檎をパイ生地の上に乗せ、その上から細長い長方形のパイ生地を編み目のように乗せていく。形を整えた後、オーブンに入れ、夕とシンジュはアップルパイが出来上がるのを待ちながら、片付けを始めた。
片付けも終わり、オーブンの中を確認しつつ、夕はシンジュに声をかけた。
「出来上がるのが楽しみだな」
「はい。う、上手く、出来てたらいいけど……」
「シンジュは心配性だな」
クスリと笑い、夕はシンジュの頭を撫でる。ポンポンと優しく手を置く夕に、シンジュは「ユウさんには敵いません」と呟きながら俯いた。シンジュの言葉に夕は驚き、撫でていた手がピタリと止まる。
「ユウさんは、とても優しくて、料理も上手で、強くて、明るくて……リベルさまが言ってました。ユウさんとスズさんには感謝してもしきれないって。だから、その……」
「俺や鈴が羨ましいのか?」
「それは……」
シンジュは言葉を失った。考えないようにしていた思いを指摘され、シンジュは視線を彷徨わせる。夕の言っている事は正しい。シンジュは羨ましかった。リベルテに必要とされている二人が。二人の事を話す時のリベルテはとても嬉しそうで、シンジュは不安だった。
リベルテが夕を選ぶのではないか、鈴を選ぶのではないか。不安は日を追う毎に増していき、何時しか何でも出来る夕と鈴が羨ましいと思うようになった。
二人と楽しそうに話している時、作った料理の味見を夕が頼んだ時、リベルテは照れくさそうに、けれど幸せそうな表情を見せるのだ。その様子を見て、シンジュは更に不安になった。
けれど、夕と鈴なら仕方ないとシンジュは思っていた。優しく接してくれる二人。リベルテが居ない時、シンジュの傍には何時も夕と鈴が居た。
「友達だから」と「一人じゃないから」と、優しい言葉をかけられ、シンジュは嬉しかった。海の中で生きていた時は、友達と言える者は居なかった。優しくて頼りになる姉は居たが、姉以外の者達はシンジュの事を嫌っていた。
その為、初めて友達だと言ってくれた夕と鈴は、シンジュに取ってとても大切な存在だった。リベルテに抱いた恋心とは異なるが、二人の傍に居ると毎日が楽しく、心が温かくなり、満たされるような感じがした。
そんな二人に対して羨ましいと思ってしまった事を、シンジュは認めたくなかった。
夕と鈴は大切な友達なのに、リベルテが二人と楽しそうに話している姿を見るだけで、シンジュはモヤモヤとした感情を抱くようになった。考えないように努力したり、そんな事を思ってはいけないと自分に言い聞かせたりしたが、羨ましいと思う心を完全に捨て去る事は出来なかった。
「かわいい」
「確かに可愛いな」
「え?」
シンジュは二人の呟いに目をパチクリさせた。きっと軽蔑される。折角友達になれたのに、とても大切にしてくれているのに、優しい二人に対して、自分はとても醜い感情を抱いてしまった。
見捨てられるかもしれない。仲良くしてくれないかもしれない。最悪の結末を考え、シンジュは顔を真っ青にしたが、夕と鈴はそんなシンジュを見て「かわいい」と言った。
二人が何を考えているのか分からず、シンジュは更に不安になった。
113
あなたにおすすめの小説
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
呪われた辺境伯は、異世界転生者を手放さない
波崎 亨璃
BL
ーーー呪われた辺境伯に捕まったのは、俺の方だった。
異世界に迷い込んだ駆真は「呪われた辺境伯」と呼ばれるレオニスの領地に落ちてしまう。
強すぎる魔力のせいで、人を近づけることができないレオニス。
彼に触れれば衰弱し、最悪の場合、命を落とす。
しかしカルマだけはなぜかその影響を一切受けなかった。その事実に気づいたレオニスは次第にカルマを手放さなくなっていく。
「俺に触れられるのは、お前だけだ」
呪いよりも重い執着と孤独から始まる、救済BL。
となります。
【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。
カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。
異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。
ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。
そして、コスプレと思っていた男性は……。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件
表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。
病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。
この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。
しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。
ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。
強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。
これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。
甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。
本編完結しました。
続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください
異世界オークションで売られた俺、落札したのは昔助けた狼でした
うんとこどっこいしょ
BL
異世界の闇オークションで商品として目覚めた青年・アキラ。
獣人族たちに値踏みされ、競りにかけられる恐怖の中、彼を千枚の金貨で落札したのは、銀灰色の髪を持つ狼の獣人・ロウだった。
怯えるアキラに、ロウは思いがけない言葉を告げる。
「やっと会えた。お前は俺の命の恩人だ」
戸惑うアキラの脳裏に蘇るのは、かつて雨の日に助けた一匹の子狼との記憶。
獣人世界を舞台に、命の恩人であるアキラと、一途に想い続けた狼獣人が紡ぐ、執着と溺愛の異世界BLロマンス。
第一章 完結
第二章 完結
第三章 完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる