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第6章
真実の愛
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ザブン。
何時も和やかな海が荒れ、空には分厚い雲が覆っている。良くない事が起こっているのは明らかで、自分を取り囲む神官と騎士達を鈴は冷めた目で見た。青い燕と白い鷲は彼らを鋭い目をして睨み付けている。突然鈴の部屋に入ってきた神官は不敵な笑みを浮かべて口を開いた。
「茶番劇は終わりにしましょう。スズ様。本物の神子様はシェルス様なのです。偽物であるにも関わらず、神子だと偽り人々を騙した罪は重い。なので、貴方には消えてもらいましょう」
「神官殿。本当に宜しいんですか? 彼の側に居る鳥達は間違いなく神子の証。証を所持できるのは本物の神子のみの筈」
「特殊な術でも使ってシェルス様から強奪したのでしょう。忌々しい。さっさと殺しなさい。彼は大罪人なのですから」
「ですが……」
「シェルス様がそれを望んでいるのです。さっさと殺せ!」
醜い、と鈴は思った。彼はシェルス専属の神官で、彼が本物の神子だと証明されれば自分の地位や名誉も確保される。自分の欲の事しか考えていない目だ。こんな奴がよく神官に選ばれたなと呆れつつ、鈴は気付かれないように窓の方へ移動した。他の神官と騎士達はまだ戸惑っているようだ。彼らが必死になっているのを見ると、白い鷲が神子の証なのは確定だろう。
「何をしているのです? シェルス様を悲しませたいのですか? 貴方達はシェルス様をお守りするのが仕事でしょう? こんな見た目だけしか取り柄のないガキに絆されましたか? シェルス様からユリウス様を奪い、神子の証も奪い、自らを神子だと偽った最低な人間ですよ? 躊躇う必要はありません。殺しなさい!」
躊躇いながらも彼らは次々と剣を抜き鈴に近付いた。一人が鈴に斬りかかると他の者達も一斉に剣を振り下ろした。彼らの動きを予測していた鈴は勢いよく窓を開けた。そのまま飛び降りようとした時、突然彼らが悲鳴を上げる。
「なんだ? 一体何が……」
戸惑う神官の横を黒い何かが通り過ぎる。神官がその存在に気付いのは、それが鈴を抱いて窓から飛び降りた後だった。
「何故だ。術が効いている筈なのに、何故シェルス様ではなくあんなガキを!」
神官は動ける騎士達に慌てて「追え!」と命令した。彼らは戸惑いながらも神官に言われた通り鈴達を追った。バタバタと去っていく彼らの足音を聞きながら、神官は近くの壁に強く握りしめた拳を叩きつけた。
「苦労して漸く手に入れたと言うのに、術が弱まっているとは……これが、空の神子の力とでも言うのか。忌々しい!」
鬼の形相をして憎々しげに呟いた後、神官は鈴の部屋を後にした。
鈴を助けたのは黒い布を纏った男だった。鈴を抱いて飛び降りると振り返る事なく走り出した。背後からは騎士達の慌てたような声とバタバタと走る音が聞こえる。
「なん、で……」
男は答えない。奪われまいと鈴を強く抱いて只管走る。前は見えなかった男の顔を鈴は呆然と見上げた。燻んだ赤茶色の髪。沈んだ鉛のような濁った瞳。何を考えているのか分からない能面のような顔。野性的で生命力に溢れていた姿は何処にもない。
誰かに操られているのか、意識を奪われているのか。自分の思うように動けないにも関わらず、何故鈴を助けようとするのか。どうして、彼の側を白い鷲が飛んでいるのか。その理由を、鈴は知っていた。ザアッと大雨が降っているのに、男が居る場所だけは晴れている。そんな不思議な光景を見てしまえば、もう認めるしかない。
「本当に、神子だったんだな」
走る男の頬にそっと手を添える。しかし、男の表情は変わらない。黙って走るだけだ。鈴はそんな男を見て顔を歪めた。自分を見てくれない事が悲しいのか、この男をこんな風にした奴が許せないのか、何もできない自分に腹を立てているのか、鈴は分からなくなった。
追っ手の足音が近付いて来る。騎士の誰かがナイフを投げ、男は鈴を庇いながらそれを躱した。しかし、それが原因で足がもつれ鈴と共に地面に転がってしまう。慌てて起き上がると、既に囲まれた後だった。鈴と男を囲む騎士達は剣を構え、じりじりと近付いて来る。
「逃げても無駄ですよ。大人しく殺されてください」
ゆっくりと鈴に近付き、神官が静かに告げる。鈴は何も答えず、黒い布を纏った男を見た。先程転んだ時にフードが外れ、男の顔がはっきりと分かるようになった。燻んだ赤茶色の髪も、鉛のような濁った瞳も鈴の見間違いではなかった。男は地面に膝をついたまま人形のように動かない。
男を見た神官は醜く笑って「何をしても無駄ですよ」と告げる。もう終わりだと思っているのか、神官はぺらぺらと話した。この男が太陽の神子である事。シェルスが彼を欲しているから強力な洗脳の術を使って操っている事。その術を解く方法はないと言う事。
神子の力は絶大だと、クラウスが言っていた。その力を悪用する輩も存在すると。神官は己の欲の為に太陽の神子を洗脳して操り、シェルスに媚を売った。全ては神子の力を独占する為。そんな事の為に太陽の神子から意思を奪ったのかと思うと、鈴は沸々と怒りが込み上げてきた。
神官の言葉も騎士達の敵意も今はどうでも良かった。鈴は一刻も早く目の前の男を元に戻したかった。神官が無駄だと嘲笑おうとも、騎士達が鈴を偽物だと断言しようとも、鈴は全く気にしなかった。洗脳を解く方法なんて分からない。しかし、こう言った類の術を解く方法は知っている。それが有効なのかは分からないが、やってみる価値はある。そう自分に言い聞かせ、鈴は全く動かない男の頬に手を添え、不敵に笑った。
「そう言えば、お前は童話が好きだって言ってたよな? お姫様が王子様の真実の愛のキスで呪いが解けて、二人は末永く幸せに暮らしたって言う結末が……なら、悪い奴に魔法をかけられたオウジサマの呪いも、オヒメサマの真実の愛のキスとやらで解けるのか?」
そう言って、鈴は太陽の神子にそっと口付けた。
何時も和やかな海が荒れ、空には分厚い雲が覆っている。良くない事が起こっているのは明らかで、自分を取り囲む神官と騎士達を鈴は冷めた目で見た。青い燕と白い鷲は彼らを鋭い目をして睨み付けている。突然鈴の部屋に入ってきた神官は不敵な笑みを浮かべて口を開いた。
「茶番劇は終わりにしましょう。スズ様。本物の神子様はシェルス様なのです。偽物であるにも関わらず、神子だと偽り人々を騙した罪は重い。なので、貴方には消えてもらいましょう」
「神官殿。本当に宜しいんですか? 彼の側に居る鳥達は間違いなく神子の証。証を所持できるのは本物の神子のみの筈」
「特殊な術でも使ってシェルス様から強奪したのでしょう。忌々しい。さっさと殺しなさい。彼は大罪人なのですから」
「ですが……」
「シェルス様がそれを望んでいるのです。さっさと殺せ!」
醜い、と鈴は思った。彼はシェルス専属の神官で、彼が本物の神子だと証明されれば自分の地位や名誉も確保される。自分の欲の事しか考えていない目だ。こんな奴がよく神官に選ばれたなと呆れつつ、鈴は気付かれないように窓の方へ移動した。他の神官と騎士達はまだ戸惑っているようだ。彼らが必死になっているのを見ると、白い鷲が神子の証なのは確定だろう。
「何をしているのです? シェルス様を悲しませたいのですか? 貴方達はシェルス様をお守りするのが仕事でしょう? こんな見た目だけしか取り柄のないガキに絆されましたか? シェルス様からユリウス様を奪い、神子の証も奪い、自らを神子だと偽った最低な人間ですよ? 躊躇う必要はありません。殺しなさい!」
躊躇いながらも彼らは次々と剣を抜き鈴に近付いた。一人が鈴に斬りかかると他の者達も一斉に剣を振り下ろした。彼らの動きを予測していた鈴は勢いよく窓を開けた。そのまま飛び降りようとした時、突然彼らが悲鳴を上げる。
「なんだ? 一体何が……」
戸惑う神官の横を黒い何かが通り過ぎる。神官がその存在に気付いのは、それが鈴を抱いて窓から飛び降りた後だった。
「何故だ。術が効いている筈なのに、何故シェルス様ではなくあんなガキを!」
神官は動ける騎士達に慌てて「追え!」と命令した。彼らは戸惑いながらも神官に言われた通り鈴達を追った。バタバタと去っていく彼らの足音を聞きながら、神官は近くの壁に強く握りしめた拳を叩きつけた。
「苦労して漸く手に入れたと言うのに、術が弱まっているとは……これが、空の神子の力とでも言うのか。忌々しい!」
鬼の形相をして憎々しげに呟いた後、神官は鈴の部屋を後にした。
鈴を助けたのは黒い布を纏った男だった。鈴を抱いて飛び降りると振り返る事なく走り出した。背後からは騎士達の慌てたような声とバタバタと走る音が聞こえる。
「なん、で……」
男は答えない。奪われまいと鈴を強く抱いて只管走る。前は見えなかった男の顔を鈴は呆然と見上げた。燻んだ赤茶色の髪。沈んだ鉛のような濁った瞳。何を考えているのか分からない能面のような顔。野性的で生命力に溢れていた姿は何処にもない。
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「本当に、神子だったんだな」
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追っ手の足音が近付いて来る。騎士の誰かがナイフを投げ、男は鈴を庇いながらそれを躱した。しかし、それが原因で足がもつれ鈴と共に地面に転がってしまう。慌てて起き上がると、既に囲まれた後だった。鈴と男を囲む騎士達は剣を構え、じりじりと近付いて来る。
「逃げても無駄ですよ。大人しく殺されてください」
ゆっくりと鈴に近付き、神官が静かに告げる。鈴は何も答えず、黒い布を纏った男を見た。先程転んだ時にフードが外れ、男の顔がはっきりと分かるようになった。燻んだ赤茶色の髪も、鉛のような濁った瞳も鈴の見間違いではなかった。男は地面に膝をついたまま人形のように動かない。
男を見た神官は醜く笑って「何をしても無駄ですよ」と告げる。もう終わりだと思っているのか、神官はぺらぺらと話した。この男が太陽の神子である事。シェルスが彼を欲しているから強力な洗脳の術を使って操っている事。その術を解く方法はないと言う事。
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