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本編2
両親
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化身の伴侶が異世界人だった場合、一度だけ元の世界へ帰れるチャンスが与えられる。それは神達が定めた掟であり、迎えに来る者が誰であれ実行しなければならない。それは、ヒサメが心から愛する伴侶、アスマも元の世界へ帰れるチャンスが与えられるということを意味する。愛しい伴侶と二度と会えなくなるのは悲しいし、叶うならずっと傍にいてほしい。けれど、アスマが元の世界を望むなら、ヒサメは彼の意思を尊重し別れなければならない。やっと出会えた自分だけの愛しい伴侶。大切に大切に慈しんで守ってきた宝物。彼が幸せになれるなら、ヒサメは自分の気持ちを押し殺して彼が元の世界へ帰る姿を笑顔で見送っただろう。しかし……
「シグレ。どう思う?」
「それを私に聞くんですか?」
「…………」
「アスマ様を心配しているようには見えません。アスマ様ではなく、彼の身体だけを心配しているのが気持ち悪いですね」
「『価値が下がる』と、騒いでいたな。我が子が大怪我をして生死を彷徨っていたというのに」
「悪趣味な変態にでも売るつもりなんでしょう。命知らずですね。ヒサメ隊長の伴侶だと知りながら『商品としての価値が』なんて言えるのですから……」
先ほどの会話を思い出して、ヒサメは顔を歪めた。神々が定めた掟により、アスマの両親が彼を連れ戻す為、この世界へやって来た。異世界からの来訪者ということで、軍は二人を保護し、今は本部に滞在してもらっている。この世界にいる間の衣食住は軍で用意している為、アスマの両親と名乗る男と女は王様気分で部下達を扱き使っていると聞く。態度も悪く、何時も傲慢で、アスマのことも「アレを連れ戻したら大金が手に入る」とゲラゲラ笑いながら語っていたらしい。
雨を司る龍は最も位の高い神様としても有名で、天候を操れるほどの力を持つ龍の寵愛を受けているヒサメは絶対に怒らせてはならない人物として知れ渡っている。ヒサメが激怒することは滅多にないが、絶対に手を出してはならないものがある。伴侶だ。この世界の住人にとって、伴侶は最も優先すべき存在であり、己の一生をかけて大切に慈しむ魂の半身。一般人ですら伴侶に手を出されたら激怒して報復するのに、それが化身の伴侶となればどうなるか。
「巫山戯ているな」
「貴方の恐ろしさを知らないから言えるのでしょう。無知は罪、とはよく言ったものです」
アスマの両親と名乗る男女は悉くヒサメの地雷を踏み抜いていった。命知らずにも程がある。本部内にある応接室でヒサメは二人の話を聞いたが、内容は自分の保身と欲塗れでアスマを心配する素振りは一切なかった。言葉や表情で「心配してるんですよぉ」という雰囲気は作っていたが、ヒサメとシグレが「実は、彼はこの世界に迷い込んだ時に大怪我をして」と説明した瞬間、鬼の形相をして騒ぎ始めた。
「怪我ってどういうことだ!? ちゃんと治っているんだろうな!?」
「毒って何よ! 健康じゃないと困るわ! 価値が下がっちゃうじゃない!」
「アレの商品としての価値が下がったら責任を取ってもらうからな!」
二人が心配するのはアスマ自身ではなく、彼の身体が綺麗かどうか。健康かどうか。それに加え、価値がどうのと言われたらバカでも分かる。この二人は、アスマを誰かに売って大金を手に入れようとしているのだと。それを、アスマを溺愛しているヒサメの前で言ってしまったのだ。化身の伴侶をただの金儲けの道具として何処かへ売り飛ばそうと企んでいる。それが分かった時点で二人は罪人として処刑されていた。しかし、この世界の住人ではない為、ヒサメ達が二人を断罪することはできない。選ぶのはアスマだ。彼がどちらを選んでも、文句は言えない。神々が定めた掟は絶対だからだ。
「アスマは、あんな最低な人間の元で育ったんだな」
「確か『毒親』でしたか? こんなにも的確な言葉を思い付くなんて、向こうの世界の人達は天才ですね」
「『暴力を受けたことはない』とあの子は言っていたが、言葉だって暴力になる。あんなロクでもない人間達に、アスマを渡す訳にはいかない」
「アスマ様はヒサメ隊長を選ぶと思いますけどね」
「分からないだろう? どんなに最低な人間でも、あの二人がアスマの親であることに変わりはない。あの子は、今でも両親から『愛されたい』と思っているかもしれない」
「……アスマ様に聞いてみてはどうですか?」
「そうだな」
本当は、両親が迎えに来たことをアスマに話したくない。その理由も可能なら彼の耳に入れたくない。二人に愛されるかもしれないと期待して、実は自分を売って大金を手に入れる為に迎えに来たんだと知ったら、きっとあの子は深く傷付いて泣いてしまう。最近になってやっと笑顔を見せてくれるようになったのに。まだまだ心の傷が癒えておらず、ヒサメが彼を優しく包み込んで愛情を注いでいる途中なのに。ほんの少しだけ心の傷が癒えて、幸せになりたいと思い始めていたというのに。
あの二人は、アスマからまた笑顔を奪うのか。漸く手に入れた幸せさえも壊すというのか。そんなこと、許される筈がない。アスマの両親だからといって、彼の未来を奪っていい理由にはならない。一度捨てたにも関わらず、自分達の都合でアスマに「家族でしょう?」と嘘を吐いてヒサメから引き離すのなら、その時は覚悟してもらわなければならない。
「ヒサメ隊長が断罪しなくても、既に神罰を受けているのでは?」
「会わせたくない」
アスマが両親と会えば、きっと彼の心は深く傷付く。泣いて、謝って、全て自分が悪いと責め立てて、自分で自分を追い詰める。「産まれてきてごめんなさい、生きててごめんなさい」と繰り返して涙を流す姿に、どれだけ心が苦しくなったことか。そんな顔をさせたかった訳じゃない。そんな悲しい言葉を言わせたかった訳じゃない。ヒサメはただ、アスマを守りたかっただけなのに。怒りに支配され、ヒサメはその感情をアスマにぶつけてしまった。正気に戻った時にはもう手遅れで、アスマはポロポロと大粒の涙を流しながらただただ謝り続けていた。アスマのあんな顔は、もう二度と見たくない。そう思ったヒサメは、絶対にアスマを傷付けないと心に誓った。
「シグレ。どう思う?」
「それを私に聞くんですか?」
「…………」
「アスマ様を心配しているようには見えません。アスマ様ではなく、彼の身体だけを心配しているのが気持ち悪いですね」
「『価値が下がる』と、騒いでいたな。我が子が大怪我をして生死を彷徨っていたというのに」
「悪趣味な変態にでも売るつもりなんでしょう。命知らずですね。ヒサメ隊長の伴侶だと知りながら『商品としての価値が』なんて言えるのですから……」
先ほどの会話を思い出して、ヒサメは顔を歪めた。神々が定めた掟により、アスマの両親が彼を連れ戻す為、この世界へやって来た。異世界からの来訪者ということで、軍は二人を保護し、今は本部に滞在してもらっている。この世界にいる間の衣食住は軍で用意している為、アスマの両親と名乗る男と女は王様気分で部下達を扱き使っていると聞く。態度も悪く、何時も傲慢で、アスマのことも「アレを連れ戻したら大金が手に入る」とゲラゲラ笑いながら語っていたらしい。
雨を司る龍は最も位の高い神様としても有名で、天候を操れるほどの力を持つ龍の寵愛を受けているヒサメは絶対に怒らせてはならない人物として知れ渡っている。ヒサメが激怒することは滅多にないが、絶対に手を出してはならないものがある。伴侶だ。この世界の住人にとって、伴侶は最も優先すべき存在であり、己の一生をかけて大切に慈しむ魂の半身。一般人ですら伴侶に手を出されたら激怒して報復するのに、それが化身の伴侶となればどうなるか。
「巫山戯ているな」
「貴方の恐ろしさを知らないから言えるのでしょう。無知は罪、とはよく言ったものです」
アスマの両親と名乗る男女は悉くヒサメの地雷を踏み抜いていった。命知らずにも程がある。本部内にある応接室でヒサメは二人の話を聞いたが、内容は自分の保身と欲塗れでアスマを心配する素振りは一切なかった。言葉や表情で「心配してるんですよぉ」という雰囲気は作っていたが、ヒサメとシグレが「実は、彼はこの世界に迷い込んだ時に大怪我をして」と説明した瞬間、鬼の形相をして騒ぎ始めた。
「怪我ってどういうことだ!? ちゃんと治っているんだろうな!?」
「毒って何よ! 健康じゃないと困るわ! 価値が下がっちゃうじゃない!」
「アレの商品としての価値が下がったら責任を取ってもらうからな!」
二人が心配するのはアスマ自身ではなく、彼の身体が綺麗かどうか。健康かどうか。それに加え、価値がどうのと言われたらバカでも分かる。この二人は、アスマを誰かに売って大金を手に入れようとしているのだと。それを、アスマを溺愛しているヒサメの前で言ってしまったのだ。化身の伴侶をただの金儲けの道具として何処かへ売り飛ばそうと企んでいる。それが分かった時点で二人は罪人として処刑されていた。しかし、この世界の住人ではない為、ヒサメ達が二人を断罪することはできない。選ぶのはアスマだ。彼がどちらを選んでも、文句は言えない。神々が定めた掟は絶対だからだ。
「アスマは、あんな最低な人間の元で育ったんだな」
「確か『毒親』でしたか? こんなにも的確な言葉を思い付くなんて、向こうの世界の人達は天才ですね」
「『暴力を受けたことはない』とあの子は言っていたが、言葉だって暴力になる。あんなロクでもない人間達に、アスマを渡す訳にはいかない」
「アスマ様はヒサメ隊長を選ぶと思いますけどね」
「分からないだろう? どんなに最低な人間でも、あの二人がアスマの親であることに変わりはない。あの子は、今でも両親から『愛されたい』と思っているかもしれない」
「……アスマ様に聞いてみてはどうですか?」
「そうだな」
本当は、両親が迎えに来たことをアスマに話したくない。その理由も可能なら彼の耳に入れたくない。二人に愛されるかもしれないと期待して、実は自分を売って大金を手に入れる為に迎えに来たんだと知ったら、きっとあの子は深く傷付いて泣いてしまう。最近になってやっと笑顔を見せてくれるようになったのに。まだまだ心の傷が癒えておらず、ヒサメが彼を優しく包み込んで愛情を注いでいる途中なのに。ほんの少しだけ心の傷が癒えて、幸せになりたいと思い始めていたというのに。
あの二人は、アスマからまた笑顔を奪うのか。漸く手に入れた幸せさえも壊すというのか。そんなこと、許される筈がない。アスマの両親だからといって、彼の未来を奪っていい理由にはならない。一度捨てたにも関わらず、自分達の都合でアスマに「家族でしょう?」と嘘を吐いてヒサメから引き離すのなら、その時は覚悟してもらわなければならない。
「ヒサメ隊長が断罪しなくても、既に神罰を受けているのでは?」
「会わせたくない」
アスマが両親と会えば、きっと彼の心は深く傷付く。泣いて、謝って、全て自分が悪いと責め立てて、自分で自分を追い詰める。「産まれてきてごめんなさい、生きててごめんなさい」と繰り返して涙を流す姿に、どれだけ心が苦しくなったことか。そんな顔をさせたかった訳じゃない。そんな悲しい言葉を言わせたかった訳じゃない。ヒサメはただ、アスマを守りたかっただけなのに。怒りに支配され、ヒサメはその感情をアスマにぶつけてしまった。正気に戻った時にはもう手遅れで、アスマはポロポロと大粒の涙を流しながらただただ謝り続けていた。アスマのあんな顔は、もう二度と見たくない。そう思ったヒサメは、絶対にアスマを傷付けないと心に誓った。
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