108本の赤い薔薇は・・・

香月よう子

文字の大きさ
1 / 4

プロポーズ大作戦!

しおりを挟む
 私は花束を手に指定された建物の前で、ごくりと唾を飲み込んだ。初めての場所はやはり緊張する。
 しかも、ここは大手『三友みつとも貿易商社』。
「よし!」
 しかし、 やっと私は気合を入れ、あのお客様から頂いた名刺と依頼された花束を持って、入り口から受付へと赴いた。

「いらっしゃいませ。どちらへ御用でしょうか」 
 1階の受付で、受付嬢に声をかけられた。
「この方のいらっしゃる部署に行きたいのですが……」
 私は一昨日もらった名刺を提示した。
「花屋『Bouquetierブーケティエ』の新井あらい様ですね。高浜たかはまから聞いております。7階Bフロアまでいらしてください。これが入室パスになっております」
 そう言われ、パスを渡された私は、エレベーターで7階へと上がった。

(えーと、7階。ここでいいのよね。Bフロアてどこだろう)

 私は、廊下をうろうろしながら、お客様のいらっしゃる部屋を探した。

 その時。

「君!」
 背後から射るような声がした。

 振り向くと、私と同世代と思われる若い男性が、厳しい顔をして私を見据えている。

「君、当社の人間ではないだろう。何をしに来たのかね」
「ご覧の通り、花束をお届けに参りました」
 私は、ちょっとむっとして、強気に応えた。
「何で観葉植物ならともかく、花束なんだ」
 彼は、威圧的に語気を荒げる。
「最近、不審者を見つけた者がいてね。君、とりあえず警備室まで来なさい」
 そう言って彼は、警備室へと電話をかけ始めた。
「ちょ、ちょっと待ってください! これを見て下さい。ちゃんと入室パスだって……」

(ああ、もう約束の4時45分過ぎるのに……!!)

 私は、約束通りに花束を送り届けなければと、必死だった。

 その時。

「あ、花屋さん! ここです!」
 廊下の右側の部屋から、あの男性が顔を出した。
「す、すみません。時間に遅れてしまいまして……」
 私は、平身低頭で、頭を下げる。 
「ああ、素晴らしい花束ですね!」
 しかし、彼は満足げに花束を受け取った。

「あら。素敵な花束」

 その時だった。
 また部屋から一人女性が出てきて、そう声をかけてくれた。

 それは、年の頃はアラサー少し前の26、7歳。
 ダークブラウンのロングの巻き髪を後ろにすっきりと一つにくくり、背筋もピンと張った綺麗な女性だった。

「では、お先に失礼します」
 そう、彼女が言ってその場を去ろうとした時、
「か、鹿野かのさん……!」
 彼がとっさに彼女の名を呼んだ。

「あ、あの……。今日、お誕生日ですよね」
 その鹿野という女性は足を止め、怪訝そうに小首を傾げた。
「私ですか? そうですが、何か?」
「あ、あ、あの……」
 わなわなと体を震わせながら、彼は叫んだ。

「け、結婚してください!!」

 その場が、シン…と静まり返った。

「あ、じゃなくて…誕生日、おめでとう…ござい…」
 それはそれは小さな声で彼は呟き、最後は言葉になっていなかった。

(あー、間違ったんだ…… 順番を)

 どうやら、彼は極度の緊張で、「誕生祝」を贈るつもりが、本音の「結婚」を口にしてしまったのだろう。
 見るも無残に彼は縮こまり、真っ赤になって俯いている。

 どうなるんだろうと私は、固唾を飲んで行方を見守っていた。

「……私でよろしいんですか? 高浜さん」

 果たして彼女は、頬を染め、彼を見上げた。

「え、今、なんて……?」
「私でよろしいの?と申し上げたんです」
「貴女でなければダメなんです!!」
「嬉しいです……」
「じゃ、じゃあ。このプロポーズ……」
「はい。お受けします」
「鹿野さん!」

 もうすっかり世界は、それこそ薔薇色の二人きりのものだった。

「はあー」
 私は一気に脱力し、視線を横に逸らした。
 すると今度は、私を不審者扱いした彼とばっちり目を合わせてしまったのだ。

「その……。すまない」
 一言、彼は呟いた。
「わかって下さったらいいんです」
 そう言いつつ、語気には含みを持たせて言った。

「では、私はこれで失礼します」
 そう言って、私はその場を離れた。

 彼がずっと私の後姿を見つめていることには、当然私は気づかなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

そう言うと思ってた

mios
恋愛
公爵令息のアランは馬鹿ではない。ちゃんとわかっていた。自分が夢中になっているアナスタシアが自分をそれほど好きでないことも、自分の婚約者であるカリナが自分を愛していることも。 ※いつものように視点がバラバラします。

初恋にケリをつけたい

志熊みゅう
恋愛
「初恋にケリをつけたかっただけなんだ」  そう言って、夫・クライブは、初恋だという未亡人と不倫した。そして彼女はクライブの子を身ごもったという。私グレースとクライブの結婚は確かに政略結婚だった。そこに燃えるような恋や愛はなくとも、20年の信頼と情はあると信じていた。だがそれは一瞬で崩れ去った。 「分かりました。私たち離婚しましょう、クライブ」  初恋とケリをつけたい男女の話。 ☆小説家になろうの日間異世界(恋愛)ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18) ☆小説家になろうの日間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18) ☆小説家になろうの週間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/22)

私の願いは貴方の幸せです

mahiro
恋愛
「君、すごくいいね」 滅多に私のことを褒めることがないその人が初めて会った女の子を褒めている姿に、彼の興味が私から彼女に移ったのだと感じた。 私は2人の邪魔にならないよう出来るだけ早く去ることにしたのだが。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

私と彼の恋愛攻防戦

真麻一花
恋愛
大好きな彼に告白し続けて一ヶ月。 「好きです」「だが断る」相変わらず彼は素っ気ない。 でもめげない。嫌われてはいないと思っていたから。 だから鬱陶しいと邪険にされても気にせずアタックし続けた。 彼がほんとに私の事が嫌いだったと知るまでは……。嫌われていないなんて言うのは私の思い込みでしかなかった。

貴方なんて大嫌い

ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

処理中です...