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第二章
第五話 怪異の因子②
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僕達はそんな訳で、恵子さんの家を後にする。
今夜の買い出しを頼まれていたので、田舎によくある地域密着型の小さなスーパーに寄った。若林先生に頼まれたカレーの食材と僕達のお菓子等を買う。ほとんど研究合宿と言うより、連休を利用した旅行だな。
そして、公衆電話から貸別荘に電話を掛けた。若林先生に車で拾って貰い、ひとまず貸別荘で食料をおろして、旧二子山トンネルに向かうつもりだ。
「雨宮さん、結構買い込んだねぇ。クリームソーダの時も思ったんだけど、甘い物が好きなんだ」
「その……意外そうな反応はなに?」
「いや、普段のイメージから想像出来ないから、可愛いなぁと。辛い物は苦手なのかい?」
「別に」
僕が指摘すると、雨宮さんは頬を染めてツンと明後日の方向を見る。あれ、なんか彼女を怒らせるような事を、言ってしまったかなぁ?
予算ギリギリまで和菓子から洋菓子まで、全員の好きな物をラインナップし、スナックやらジュースまで買い込んだので、今夜は先生に怒られるまで、夜更かしして楽しむぞ!
いかん、いかん。浮かれすぎて本来の目的を忘れてしまいそうだ。
浩司さんは、タバコを吸いながら僕らから少し離れたところで待っている。見るからに警察に職質されそうな不良だが、気長に待っていてくれたのはありがたいな。
「海野くん、若林先生には彼の事は話したのか?」
斎藤先輩が、こそこそと僕に耳打ちする。
「ええ、話しましたよ。一応僕達より年上の退学処分になった不良だって事も。先生はお化け相手なんだから、仲間は多い方が良いからって大賛成でした」
「全く、幽霊にカチコミしに行く訳じゃないんだぞ」
さすがの若林先生でも、教育に悪い不良が合宿に加わるなんていけません、と注意されるかと思ったが、やっぱりちょっとあの人は変わってるんだよな。
幽霊相手に、物理的に喧嘩出来る訳がないんだけど、心強い仲間が出来たと思っているんだから。
しばらくすると、先生の運転する車が見えたので、遠くでタバコを吸っていた浩司さんを呼ぶ。
「ほんともう、オイルショックのせいでガソリンが高くて嫌になるわ~~。貴方が米倉くん? うちの生徒がごめんなさいね。とりあえず乗ってちょうだい」
「ちぃーす」
浩司さんは、来たのが意外にも美人で若い先生だったので、気を良くしたみたいだった。助手席に浩司さんが乗り、また僕を真ん中にして、三人が後部座席に乗る。どうやら今井先輩は別荘で、留守番しているようだ。
「とりあえず、食材を冷蔵庫に入れたら向かいましょう。懐中電灯は三本持ってきたけど、日が暮れるまでに、トンネルを調査しなくちゃね」
「うむ。若林先生。このレンタカーで行くんですよね。今井くんはどうするんですか」
そうか、車で行くなら定員オーバーだな。そう思っていると、浩司さんは肩越しに振り返る。
「恵子のおやっさん達が管理している貸別荘から、廃トンネルまでは近いぜ。つーか、お前が噂の情報源なのに正確な場所を知らなかったのかよ? 廃道を通って、旧二子山トンネルまでは、三十分あれば着く」
「いやぁ、まさか叔母さん達の貸別荘が、そんなに近いとは思わなくて」
浩司さんに突っ込まれ、斎藤先輩は頭を掻いて笑った。
僕は若林先生から地図を受け取って広げてみる。確かに、貸別荘がある高原から、二子山トンネルまでの距離が近い。ただ、これは最近発行された、新しい地図のようで、廃道の場所までは記されていないようだ。
僕が指で地図をなぞっていると、若林先生がバックミラーで様子を見ながら言う。
「海野くん、どう?」
「確かに二子山トンネル自体は貸別荘の上の方にありますね。でも廃道が分からないなぁ」
「廃道なら俺が案内してやる。廃トンネルの中まで入らないぜ。気持ち悪ぃからよ」
浩司さんはやはり、トンネル内部に入るのは嫌がっているようだった。まぁ、不良とはいえ、この世ならざる者に遭遇し、恐ろしい体験をしたのだから、無理はないか。
❖❖❖
僕達は、懐中電灯とテープレコーダー、それにカメラと家庭用のビデオカメラを用意した。防寒着も雨具も忘れずに、リュックに詰める。雨宮さんは御札やお守り、人型の紙を用意していた。まるで、陰陽師のようだな。
出発は午後十五時。
日が暮れる頃には、撤収するという流れになっていた。
「いやぁ、本格的にこんな大人数でオカルト研究部の活動が出来て嬉しい。辰子島のお化けトンネルじゃ、機材も十分ではなかったし、何も撮れなかったからね。本当に若林先生と海野君には感謝だ」
「辰子島のトンネル? あそこには霊は居ないからね。根も葉もない噂だけが一人歩きしている場所さ」
雨宮さんが気持ちいいまでにぴしゃりと斎藤先輩の見立てを否定するので、僕は思わず笑ってしまう。
先輩二人に睨まれ、僕は取り繕うように咳払いをした。
「と、ところで若林先生。廃トンネルという事は立ち入り禁止ですよね。その辺りは大丈夫なんですか?」
「一応、許可は貰ったから大丈夫よ。廃トンネルの研究という事でね。危ないから気を付けるようにとは、言われたけど」
そう言う事なら安心か。警察に通報されたらかなわないからな。
僕達は、浩司さんを先頭にして貸別荘からまず、二子山トンネルを目指す事にした。
恵子さんのご両親は、午後七時には帰るという事で、彼らからそれとなく、旧二子山廃トンネルの噂を聞いてみた。
『あぁ……時々地元の子が、あのトンネルに肝試しに行くのは知ってるよ。私達は他県から引っ越して来たから、そういう噂は知らないなぁ。あの先の廃屋には、危ないから近付くなと聞いた事があるけどね。まぁ、倒壊の危険があるんだろう。その先は山で何もないし、行く用事もないから詳しい事は分からないよ』
恵子さんのご両親は、気さくな感じだった。昔はロックでイケイケだったんだろうな、と思わせる風貌で、子供に関しても放任主義のようだ。
流浪人だったんだろうか。
心霊より瞑想、ラブ&ピース。
大自然を感じる自然学習の方がいいですよ、なんて若林先生に言っていた。
「米倉さん、その先の屋敷については何か知っていますか」
「知らねぇ。恵子もその先に屋敷があるっていう噂は、言ってたけどな。そこまで俺らは見てねぇし」
浩司さんは、興味がない様子で僕の質問に答える。せっかく来たんだったらトンネルを抜けて、件の怪しい屋敷の外観だけでも撮りたいものだ。
「海野先輩も気になるの?」
「うん、せっかく来たんだったら、噂の怪しい屋敷の外観だけでも、撮れたらなって思ってさ」
雨宮さんに問われ、僕は意気揚々と答えた。彼女は恐らく、僕とは違う意味でその屋敷の事が気になっているようだが。
「いいな。海野くん! そこも研究対象に入れよう」
雨宮さんの問い掛けに、僕がそう答えると斎藤先輩と今井先輩も乗ってきた。
若林先生から、中に入らなければ大丈夫でしょう、と言う許可が降りたので、僕達は軽くガッツポーズをする。
今夜の買い出しを頼まれていたので、田舎によくある地域密着型の小さなスーパーに寄った。若林先生に頼まれたカレーの食材と僕達のお菓子等を買う。ほとんど研究合宿と言うより、連休を利用した旅行だな。
そして、公衆電話から貸別荘に電話を掛けた。若林先生に車で拾って貰い、ひとまず貸別荘で食料をおろして、旧二子山トンネルに向かうつもりだ。
「雨宮さん、結構買い込んだねぇ。クリームソーダの時も思ったんだけど、甘い物が好きなんだ」
「その……意外そうな反応はなに?」
「いや、普段のイメージから想像出来ないから、可愛いなぁと。辛い物は苦手なのかい?」
「別に」
僕が指摘すると、雨宮さんは頬を染めてツンと明後日の方向を見る。あれ、なんか彼女を怒らせるような事を、言ってしまったかなぁ?
予算ギリギリまで和菓子から洋菓子まで、全員の好きな物をラインナップし、スナックやらジュースまで買い込んだので、今夜は先生に怒られるまで、夜更かしして楽しむぞ!
いかん、いかん。浮かれすぎて本来の目的を忘れてしまいそうだ。
浩司さんは、タバコを吸いながら僕らから少し離れたところで待っている。見るからに警察に職質されそうな不良だが、気長に待っていてくれたのはありがたいな。
「海野くん、若林先生には彼の事は話したのか?」
斎藤先輩が、こそこそと僕に耳打ちする。
「ええ、話しましたよ。一応僕達より年上の退学処分になった不良だって事も。先生はお化け相手なんだから、仲間は多い方が良いからって大賛成でした」
「全く、幽霊にカチコミしに行く訳じゃないんだぞ」
さすがの若林先生でも、教育に悪い不良が合宿に加わるなんていけません、と注意されるかと思ったが、やっぱりちょっとあの人は変わってるんだよな。
幽霊相手に、物理的に喧嘩出来る訳がないんだけど、心強い仲間が出来たと思っているんだから。
しばらくすると、先生の運転する車が見えたので、遠くでタバコを吸っていた浩司さんを呼ぶ。
「ほんともう、オイルショックのせいでガソリンが高くて嫌になるわ~~。貴方が米倉くん? うちの生徒がごめんなさいね。とりあえず乗ってちょうだい」
「ちぃーす」
浩司さんは、来たのが意外にも美人で若い先生だったので、気を良くしたみたいだった。助手席に浩司さんが乗り、また僕を真ん中にして、三人が後部座席に乗る。どうやら今井先輩は別荘で、留守番しているようだ。
「とりあえず、食材を冷蔵庫に入れたら向かいましょう。懐中電灯は三本持ってきたけど、日が暮れるまでに、トンネルを調査しなくちゃね」
「うむ。若林先生。このレンタカーで行くんですよね。今井くんはどうするんですか」
そうか、車で行くなら定員オーバーだな。そう思っていると、浩司さんは肩越しに振り返る。
「恵子のおやっさん達が管理している貸別荘から、廃トンネルまでは近いぜ。つーか、お前が噂の情報源なのに正確な場所を知らなかったのかよ? 廃道を通って、旧二子山トンネルまでは、三十分あれば着く」
「いやぁ、まさか叔母さん達の貸別荘が、そんなに近いとは思わなくて」
浩司さんに突っ込まれ、斎藤先輩は頭を掻いて笑った。
僕は若林先生から地図を受け取って広げてみる。確かに、貸別荘がある高原から、二子山トンネルまでの距離が近い。ただ、これは最近発行された、新しい地図のようで、廃道の場所までは記されていないようだ。
僕が指で地図をなぞっていると、若林先生がバックミラーで様子を見ながら言う。
「海野くん、どう?」
「確かに二子山トンネル自体は貸別荘の上の方にありますね。でも廃道が分からないなぁ」
「廃道なら俺が案内してやる。廃トンネルの中まで入らないぜ。気持ち悪ぃからよ」
浩司さんはやはり、トンネル内部に入るのは嫌がっているようだった。まぁ、不良とはいえ、この世ならざる者に遭遇し、恐ろしい体験をしたのだから、無理はないか。
❖❖❖
僕達は、懐中電灯とテープレコーダー、それにカメラと家庭用のビデオカメラを用意した。防寒着も雨具も忘れずに、リュックに詰める。雨宮さんは御札やお守り、人型の紙を用意していた。まるで、陰陽師のようだな。
出発は午後十五時。
日が暮れる頃には、撤収するという流れになっていた。
「いやぁ、本格的にこんな大人数でオカルト研究部の活動が出来て嬉しい。辰子島のお化けトンネルじゃ、機材も十分ではなかったし、何も撮れなかったからね。本当に若林先生と海野君には感謝だ」
「辰子島のトンネル? あそこには霊は居ないからね。根も葉もない噂だけが一人歩きしている場所さ」
雨宮さんが気持ちいいまでにぴしゃりと斎藤先輩の見立てを否定するので、僕は思わず笑ってしまう。
先輩二人に睨まれ、僕は取り繕うように咳払いをした。
「と、ところで若林先生。廃トンネルという事は立ち入り禁止ですよね。その辺りは大丈夫なんですか?」
「一応、許可は貰ったから大丈夫よ。廃トンネルの研究という事でね。危ないから気を付けるようにとは、言われたけど」
そう言う事なら安心か。警察に通報されたらかなわないからな。
僕達は、浩司さんを先頭にして貸別荘からまず、二子山トンネルを目指す事にした。
恵子さんのご両親は、午後七時には帰るという事で、彼らからそれとなく、旧二子山廃トンネルの噂を聞いてみた。
『あぁ……時々地元の子が、あのトンネルに肝試しに行くのは知ってるよ。私達は他県から引っ越して来たから、そういう噂は知らないなぁ。あの先の廃屋には、危ないから近付くなと聞いた事があるけどね。まぁ、倒壊の危険があるんだろう。その先は山で何もないし、行く用事もないから詳しい事は分からないよ』
恵子さんのご両親は、気さくな感じだった。昔はロックでイケイケだったんだろうな、と思わせる風貌で、子供に関しても放任主義のようだ。
流浪人だったんだろうか。
心霊より瞑想、ラブ&ピース。
大自然を感じる自然学習の方がいいですよ、なんて若林先生に言っていた。
「米倉さん、その先の屋敷については何か知っていますか」
「知らねぇ。恵子もその先に屋敷があるっていう噂は、言ってたけどな。そこまで俺らは見てねぇし」
浩司さんは、興味がない様子で僕の質問に答える。せっかく来たんだったらトンネルを抜けて、件の怪しい屋敷の外観だけでも撮りたいものだ。
「海野先輩も気になるの?」
「うん、せっかく来たんだったら、噂の怪しい屋敷の外観だけでも、撮れたらなって思ってさ」
雨宮さんに問われ、僕は意気揚々と答えた。彼女は恐らく、僕とは違う意味でその屋敷の事が気になっているようだが。
「いいな。海野くん! そこも研究対象に入れよう」
雨宮さんの問い掛けに、僕がそう答えると斎藤先輩と今井先輩も乗ってきた。
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