雨宮楓の心霊事件簿

蒼琉璃

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第二章

第十一話 貸別荘にて

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 あの後、僕達は無事に何事もなくトンネルを抜けると、浩司さんと別れて貸別荘へと戻った。
 暴走族のヘッドをしている浩司さんは、社会的に褒められたような生き方をしていないが、僕達を助けに来てくれたところを見ると、警官だった父親譲りの正義感はあるんじゃないかと思う。余計なお世話かもしれないが、更生して欲しいものだ。
 それはさておき、オカルト研究部としては、若林先生が持っていたビデオカメラはあの部屋の床に、無造作に置かれていたが、録音はされていた。雨宮さんの浄霊の様子が写っているかと思うと、楽しみで仕方がない。
 生憎あいにく、学校に戻らなければ映像も見れないのは残念だが。
 それに、旧二子山トンネルを撮影した、今井先輩の写真の現像も楽しみである。
 来年の文化祭では、本格的な映像を取り込んだ、お化け屋敷に挑戦するのもいいな。

「先生、久し振りに大人数のカレーを作ったわぁ。隠し味を入れたから、お店に負けないわよ」

 若林先生は、悪霊に憑かれていた事もすっかり忘れて……というか、本人は全く記憶がないせいか、驚くべき切り替えの早さで、張り切ってカレーを作っている。
 僕達もお皿を並べたり、じゃがいもの皮を剥くなど、下ごしらえの手伝いをしていたのだが、若林先生が入れた隠し味に少し不安を覚えてしまう。
 いや、流石に先生に作って頂いて不満を言うほど、僕は失礼な奴じゃあないが、うちの家はオーソドックスな、何も手を加えていない昔ながらの『ボンボンカレー』の甘口である。

「先生秘伝の隠し味ですか。その……庶民なので、僕の馬鹿舌が先生のカレーを美味しく感じられるか、少し不安です」
「もう、海野くんってばそんな警戒しなくても大丈夫よ。蜂蜜と林檎を入れただけよ?」

 蜂蜜と林檎……なんとお洒落な。全然どんな味になるのか、想像出来ないぞ。

「カレーに蜂蜜と林檎を入れたら美味しくなるよ。我が家でも隠し味に使うからね。私が作る時も、入れてるよ」

 僕の失礼な不安を見抜き、フォローをするように雨宮さんはそう言うと、先生の作ってくれたカレーのルーをご飯にかけた。

「へぇ、そうなんだ。雨宮さんって料理も上手そうだな」
「まぁね」

 どうやら雨宮さんは、料理を作る事は嫌いじゃないみたいだな。善哉ぜんざいだって、小豆を煮るところから自分でするって言ってたし。
 僕の気のせいかもしれないけど、なんとなく、彼女が恥ずかしそうにしているのは、何故だろう?
 雨宮さんの言う通り、若林先生のカレーは、僕の常識の概念がいねんを覆すほど美味かった。

「しかし、俺達も海野くん達の方について行けば良かったなぁ。目の前で、そんな恐ろしい事が繰り広げられていたなんて。悪霊との対決だぞ!」
「僕達がその場をいれば、貴重な証拠を撮れていただろうね。やはりこの手で幽霊が存在するという証拠を掴みたいな。いつか僕達の映像や写真が、後世に役立つかもしれない。多ければ多い方がいいぞ、海野くん」

 僕も雨宮さんに出会うまで、この目で幽霊を見たいと思っていたが、実際に遭遇してからは『やはり、あんな物は見ないに限る』に変わってしまった。先輩達が、悪霊を視られるようになったら、一体どう感じるだろうか。
 それでも、先輩達が言いたい事は分かるし、僕にもオカルト探求者として、追求したい気持ちはある。

「まぁ、検証するには、映像や音声の数が多い方が良いですからね。そう言えば、皆知ってるかな? 最近辰子島で、不気味な怪談が囁かれているんですよ」
「もう、次の幽霊話を見付けてきたのかい? 海野先輩の、情報網には驚くねぇ」

 雨宮さんは、買ってきたオレンジジュースを飲みながら、呆れたように言った。これは褒められたと考えていいかな。

「海野くんも、新たな部長として自覚が出てきたみたいね」

 若林先生にも褒められたので、僕は照れ臭くなって、咳払いをすると言う。 

「辰子島にある、尾長おなが岬にスーツ姿の、男性の霊が出るらしいのですよ。なんでも、その霊を生きている人間と勘違いして話し掛けた人が、その後、数日以内に海へ飛び込み自殺をするっていうんです」
「ありがちな怪談話って感じだけどねぇ」
「僕もそう思ったけど、新聞で調べて見ると、飛び込んだのが一人や二人じゃあないんだ。今まで、尾長岬なんてそりゃあ自殺はあったかもしれないが、地元で有名な幽霊の出る自殺の名所じゃないてすよ。だけどここ最近、頻繁に飛び込んでいる。話によると直前に、そのサラリーマンと話してからおかしくなっているらしい」

 僕の話に、先輩や雨宮さんが興味深く耳を傾けていた。最近、檀家さんの葬式で親父が耳にした。どうやら飛び降り自殺した人が直前に話をしていたらしい。だけどまだ島中の噂になるほど広がっていない。

「その噂が本当なら、気になるねぇ。他人を死に導くなんて悪霊の類じゃあないか」
「よし、雨宮さん次は尾長岬について心霊研究しよう。そんな訳で、オカルト話はこの辺にして……。じゃーん! 折角の泊まりなので、皆で人生ゲームをしましょう!」

 意気揚々いきようようとして僕は、人生ゲームを取り出した。寺も初詣などでお正月は忙しいのだが、親戚一同が集まると子供も大人もやはりこれで大盛り上がりする。
 全員が待ってましたと言わんばかりに、拍手を始めた。
 
「私が一番の億万長者になるからね。本気で行くよ!」

 雨宮さんは、いつもより陽気な表情で前のめりになっている。この後、有言実行した雨宮さんと、尾長岬に現れた男の怪異については、また別の機会に話そうと思う。
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感想 13

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みんなの感想(13件)

ドゴイエちまき

わー!めちゃくちゃ面白かった!!!
海野先輩と楓さんのコンビが好きすぎる〜!
強気な女の子と穏やかな少年の組み合わせ大好きです。
やる時はやる海野先輩かっこよすぎか…。
最初から最後まで鮮明に映像が浮かんで怖かったけどそれ以上に面白かった(*^ω^*)
ラストも可愛くて♡
是非また続編が読みたいです!

2024.04.06 蒼琉璃

ちまきさん、ありがとうございます(*´ω`*)
強気な女の子と穏やかな少年コンビいいですよね!海野先輩は、心得があるのでやる時はやる男(寺生まれ!)ラストは爽やかに終わるライトホラー目指していたので嬉しいです。ありがとうございます!(*´ェ`*)

解除
lavie800
2024.03.28 lavie800
ネタバレ含む
2024.03.28 蒼琉璃

lavie800さん、感想ありがとうございます!霊感美少女が魅力的!とっても嬉しいです、ありがとうございます(*´ω`*)

解除
ドゴイエちまき

一章読みました〜
ホラー苦手でなかなか踏み切れなかったのですが、めっちゃ面白いー!
雨宮ちゃんの可愛さは言うまでもなく、海野先輩めっちゃいい!!
この普通っぽい感じというかあまり目立たない好青年感というか、よく見るとお顔整ってたりするんじゃないですかね?!?!みたいな(*゚∀゚)=3
ハイスペヒロインと補助するヒーローすごく好きです☺️

2024.03.25 蒼琉璃

ドゴイエちまきさん、感想ありがとうございます!ホラー苦手なのに読んで下さって嬉しいです(*´ω`*)そうなんです、普通っぽい感じなんだけど、お顔は整ってるんですよ…(男前だったりします)気に入って貰えて嬉しいです!

解除

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