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俺が転生したのは、聖女様でした?!
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何も変わらない放課後。高校から出て俺はいつもの帰りの電車で開き慣れた小説サイトで流行りの聖女やら、悪役令嬢やらの小説を読み漁っていた。
昔はラノベ作家になりたいとか思ったものだけど、流行りと自分の世界観を融合させる作家には頭が上がらなくていつからか諦めるようになっていた。
適当にランキングをスクロールしているとまあまあ面白そうな小説を見つけて、開いてみる。
「○○○、お前との婚約を破棄する!」
またこういう系かよ…アクセス数とポイント見れば人気なのは分かる。でもどうして人気なんやら。そう思いながらもついつい読み進めてしまうので面白いことは否定できない。流行りを嫌う、そんな顔でカッコつけて結局家ではどっぷりハマっている一番ダサいアレに俺は分類されるんだろう。
あと一駅でいつもの駅に着く。読んでいたページにブクマを挟んでスマホを通学用のカバンにしまう。ここから駅から十分ほど歩けば家に着く。ここは乗り換えにも利用される駅なので降りる人も多く、混みやすい。
最近確か混雑を解消するために新しく階段を作っていた気がする。エスカレーターの方が楽だからか人はエスカレーターにたかっていた。並ぶ列に横入りすれば猛烈な否定を視線から伺える。仕方ないじゃないか。俺だって申し訳ないと思ってはいる。でもそれは口に出して言うものでは無いと約十七年の歳月を経て知った。
それにこんなくだらないことは今となっては意味が無い。
何故かって?
聞くこともないだろうさ。
俺の目の前にいるのはいつもの帰宅路にいるあの睨みつけてくるおっさんじゃない。ブロンズヘアを丁寧に整えた、さっきまで画面の中に散りばめられた、その文章の中にいたはずの王子だ。ああ、確かに本物だ。それにお決まりとも言えるあのセリフを発した、と思った。
「マリネ・メルリル!お前との婚約を破棄する!」
だがこれは俺の幻聴に過ぎなかった。俺の名前はマリネ・メルリルなんて可愛いものでは無い。竹川碧は可愛くないが名前自体は女の子にいてもおかしくないとよく言われる。
いや、問題はそれでは無いのだ。
それでは可愛らしい、だけど報われないはずの聖女様になってしまった俺が言われたセリフ正しくをご紹介しよう。
「マリネ・メルリル、私とその長い人生のページを彩りませんか?」
さあ、どうする俺。お前が読んだあのネット小説と全く反対な展開が訪れたぞ。色んな聖女様の名前を覚えられてはいないがきっとあっている。この物語の正しい展開は婚約破棄を言い渡された聖女が旅でできた仲間と手を組んで王国を乗っ取る、多分それだ。
でもどうだろう。まずまず俺の置かれたこの状況が理解不可能に等しいが、旅をせずに楽に終われるならそれが一番なハズ、それが俺が素晴らしい作家たちの空想の異世界で得た知識だ。実際には赴いたこともないが。
「……はい。ぜひ」
自分でも気味が悪くなるほどに美しい声がこの俺から出てくる。でも残念なことに見た目は俺ではない。聖女、マリネ・メルリル様だ。可愛いの権化、それ以外のなんでもない。
逆を言えば周りからすればそれは一番良い転生の回避策かもしれない。でも俺はもうおかしくなってきていて今の俺の容姿が転生する前の男子高校生だったら良かったのに、なんて思った。
❋❋❋
「さあ、私の手を取って」
「ええ、シファールド王子」
こうして俺の、いや違うな。私の幸せな生活は続く。それがきっと正しいシナリオだ。
悪い気はしてなかった。今まで読んできたネット小説はどれも救われない聖女が多かったせいか俺一人でそのうちの可憐な一人を救えたと思えば傲慢なことにも目を背けられた。
今日は王子との久しぶりのお出かけだ。王子、シファールドは執務に忙しくあの日以来はあまり二人きりで何かをできることは数える程も無かった。
今となっては着慣れたドレスと高いヒールに身を包む。王子は軽い衣装を纏って現れる。そして俺をエスコートするのだ。中身は同じ男なのに、おかしな話だ。俺もいつかこいつをエスコートしてやろうか。そんなイタズラを思いつくが俺は城から追放されればどうなるか分かったものではないので無茶はしないと心に刻む。
ここに来てからはもう歩き方も変わった。優雅になって元のだらしない俺はもはや失われつつあった。
それに口もどんどん聖女の話し方に寄ってきた。汚い言葉遣いを出来ない状況下にあるせいか、それとも聖女に転生したせいか。そんなのはどうでもいいだろう。
「ねぇ、シファールド王子」
「どうされましたか?」
綺麗な瞳が俺を見つめる。何度こうされても胸がドキドキしてくる。王子と聖女にはかなりの身長差があって彼は俺のためにしゃがんで目線を合わせてくれることが多い。
「あの、」
「ええ、もちろん存じ上げておりますよ」
「……!」
何も言ってない。俺はまだ何も言ってない。どこかで誰かがシナリオゲーム、所謂乙女ゲームのように▼のついたセリフをタップしたのか?本当にそう思うくらいにシファールドのセリフは続く。
「貴方が“異世界から転生した男”だってことくらいね」
背筋が凍る。一生で一度もかいたことのないくらいに冷や汗をかく。バレていたか。当たり前かもしれない。それでもマズイ。どうしようか。残念だがここで王子と断ち切られれば俺も私も生きていけない。こんな異世界で。
「――それがわかった上で好きなんです。貴方のことが」
抱きしめられて体が一気に暖かくなる。そして今度はマリネ・メルリルではなくて俺の物語が幕を上げた。
昔はラノベ作家になりたいとか思ったものだけど、流行りと自分の世界観を融合させる作家には頭が上がらなくていつからか諦めるようになっていた。
適当にランキングをスクロールしているとまあまあ面白そうな小説を見つけて、開いてみる。
「○○○、お前との婚約を破棄する!」
またこういう系かよ…アクセス数とポイント見れば人気なのは分かる。でもどうして人気なんやら。そう思いながらもついつい読み進めてしまうので面白いことは否定できない。流行りを嫌う、そんな顔でカッコつけて結局家ではどっぷりハマっている一番ダサいアレに俺は分類されるんだろう。
あと一駅でいつもの駅に着く。読んでいたページにブクマを挟んでスマホを通学用のカバンにしまう。ここから駅から十分ほど歩けば家に着く。ここは乗り換えにも利用される駅なので降りる人も多く、混みやすい。
最近確か混雑を解消するために新しく階段を作っていた気がする。エスカレーターの方が楽だからか人はエスカレーターにたかっていた。並ぶ列に横入りすれば猛烈な否定を視線から伺える。仕方ないじゃないか。俺だって申し訳ないと思ってはいる。でもそれは口に出して言うものでは無いと約十七年の歳月を経て知った。
それにこんなくだらないことは今となっては意味が無い。
何故かって?
聞くこともないだろうさ。
俺の目の前にいるのはいつもの帰宅路にいるあの睨みつけてくるおっさんじゃない。ブロンズヘアを丁寧に整えた、さっきまで画面の中に散りばめられた、その文章の中にいたはずの王子だ。ああ、確かに本物だ。それにお決まりとも言えるあのセリフを発した、と思った。
「マリネ・メルリル!お前との婚約を破棄する!」
だがこれは俺の幻聴に過ぎなかった。俺の名前はマリネ・メルリルなんて可愛いものでは無い。竹川碧は可愛くないが名前自体は女の子にいてもおかしくないとよく言われる。
いや、問題はそれでは無いのだ。
それでは可愛らしい、だけど報われないはずの聖女様になってしまった俺が言われたセリフ正しくをご紹介しよう。
「マリネ・メルリル、私とその長い人生のページを彩りませんか?」
さあ、どうする俺。お前が読んだあのネット小説と全く反対な展開が訪れたぞ。色んな聖女様の名前を覚えられてはいないがきっとあっている。この物語の正しい展開は婚約破棄を言い渡された聖女が旅でできた仲間と手を組んで王国を乗っ取る、多分それだ。
でもどうだろう。まずまず俺の置かれたこの状況が理解不可能に等しいが、旅をせずに楽に終われるならそれが一番なハズ、それが俺が素晴らしい作家たちの空想の異世界で得た知識だ。実際には赴いたこともないが。
「……はい。ぜひ」
自分でも気味が悪くなるほどに美しい声がこの俺から出てくる。でも残念なことに見た目は俺ではない。聖女、マリネ・メルリル様だ。可愛いの権化、それ以外のなんでもない。
逆を言えば周りからすればそれは一番良い転生の回避策かもしれない。でも俺はもうおかしくなってきていて今の俺の容姿が転生する前の男子高校生だったら良かったのに、なんて思った。
❋❋❋
「さあ、私の手を取って」
「ええ、シファールド王子」
こうして俺の、いや違うな。私の幸せな生活は続く。それがきっと正しいシナリオだ。
悪い気はしてなかった。今まで読んできたネット小説はどれも救われない聖女が多かったせいか俺一人でそのうちの可憐な一人を救えたと思えば傲慢なことにも目を背けられた。
今日は王子との久しぶりのお出かけだ。王子、シファールドは執務に忙しくあの日以来はあまり二人きりで何かをできることは数える程も無かった。
今となっては着慣れたドレスと高いヒールに身を包む。王子は軽い衣装を纏って現れる。そして俺をエスコートするのだ。中身は同じ男なのに、おかしな話だ。俺もいつかこいつをエスコートしてやろうか。そんなイタズラを思いつくが俺は城から追放されればどうなるか分かったものではないので無茶はしないと心に刻む。
ここに来てからはもう歩き方も変わった。優雅になって元のだらしない俺はもはや失われつつあった。
それに口もどんどん聖女の話し方に寄ってきた。汚い言葉遣いを出来ない状況下にあるせいか、それとも聖女に転生したせいか。そんなのはどうでもいいだろう。
「ねぇ、シファールド王子」
「どうされましたか?」
綺麗な瞳が俺を見つめる。何度こうされても胸がドキドキしてくる。王子と聖女にはかなりの身長差があって彼は俺のためにしゃがんで目線を合わせてくれることが多い。
「あの、」
「ええ、もちろん存じ上げておりますよ」
「……!」
何も言ってない。俺はまだ何も言ってない。どこかで誰かがシナリオゲーム、所謂乙女ゲームのように▼のついたセリフをタップしたのか?本当にそう思うくらいにシファールドのセリフは続く。
「貴方が“異世界から転生した男”だってことくらいね」
背筋が凍る。一生で一度もかいたことのないくらいに冷や汗をかく。バレていたか。当たり前かもしれない。それでもマズイ。どうしようか。残念だがここで王子と断ち切られれば俺も私も生きていけない。こんな異世界で。
「――それがわかった上で好きなんです。貴方のことが」
抱きしめられて体が一気に暖かくなる。そして今度はマリネ・メルリルではなくて俺の物語が幕を上げた。
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