そっと推しを見守りたい

藤森フクロウ

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ストーカー、同類を生む③

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 奴は恋愛シュミレーション系のゲームが苦手っぽい。
 なので、次はクソゲーじゃないけれど恋愛シュミレーションゲーム攻めにすることした。
 唸れ、私の前世のゲーム攻略記録!
 ちなみに私の前世の名前は綾瀬寧々子。
 つまりは女。
 必然的にやっていた恋愛ゲームは乙女ゲームが多い。
 推しの関わるゲームは出せないけれど、奴はもくもくと乙女ゲームをやっていた。
 悪役令嬢のいるとあるゲームは貴族社会とファンタジーミックスの世界は、こっちの世界に似ている。
 ずっと一人のせいか、フェリドの独り言はだんだん多く、大きくなっていく。
 最近の奴は、せんべい布団に肘をついてだらだらスタイルだ。グレーのだぼついたスウェットの上下にすら抵抗をしない有様だ。幼女なら許せるぴよちゃんボンボンで金髪をちょんまげにしても最近無反応である。
 割り切りすぎだろう。順応力高すぎだろ。
 時折ヒントメモを部屋に投げ入れるときに、そりゃあもう俊敏に反応するのがめっちゃキモイ。
 あと攻略に行き詰まると、クッションに擬態中の私をぎゅうぎゅうだきしめてゴロゴロしだしてうざい。大変うざい。お殴りしてよろしいだろうか。
 私の愛想と献身は推しとその弟妹に極振りして完売している。

「……リヴサーラ嬢の意見はもっともなんじゃないか?」

 リヴサーラ嬢は王子の婚約者の侯爵令嬢。
 王子に近づくヒロインに牽制を掛ける。身分の低いヒロインが、気安く近づくなというのだ。
 まあ乙女ゲームをやる庶民からすればうっせーけれど、リアル問題であればごく普通の忠告だろう。不敬罪的なものもあり。
 フェリドはロイヤルな視線から釈然としないまま進めていく。
 そして王子を攻略においての盛り上がり最高潮、婚約破棄のシーンで呆然としていた。

「なんだ、この腐れ××は。国を壊す気か、この〇〇野郎」

 フェリド殿下、ノーブレスなんちゃらを持つ者として受け付けなかったみたい。
 ここ一番の不愉快顔。
 うえーい、思いがけないところで奴のストレスとヘイトが最高値。
 クソゲーをはじめ、色々なゲームをやらせたからか庶民の悪い言葉も覚えた模様。

「リヴサーラが可哀想だ! あんなにお前のような糞〇〇野郎のために、何度も忠告をして、自ら手を煩わせてまでこのイカレ頭女を排除しようとしてくれたんだぞ!」

 イカレ頭女とはアンタの操作しているヒロインなんだが。まあ選択肢選んでいるだけだが。
 内心ケツポリしながら様子を観察。
 その後、フェリドは何度も何度もそのゲームをやり始めた。全ルートクリアしてるし、スチル解放もしたのに。

「なんでリヴサーラルートがないんだ!」

 ごめん、そのルートはスピンオフのノベルゲーにちょっとだけある。
 でもアヤネコ出さない。精々、公式からの推しの供給の少なさに悶えろ。

「リヴサーラ、なんて可哀そうに。美しく可憐で気高い貴女が、こんな木偶の坊に振られるなんておかしい……っ」

 おや? フェリドのようすがおかしいぞ?

「さっき、男が女を攻略するゲームもあった。
 男女の視点が逆だった。このゲームにはそれがないのか? リヴサーラたんがこんな惨めな目に遭うなんておかしい……そんなの間違っている」

 フェリドがぶつくさいいながら、なにかをさがしているよ。

 つーか、テメーがそんなんいえるのかよ。
 婚約者のメルローズちゃんとやら上っ面だけの付き合いで、まさに政略結婚同士って感じでかなりドライじゃん。お前まさにさっき言ってたクソ野郎の立場よりだぞ。

 ……そういえば、メルローズちゃんとリヴサーラの中の人って同じなんだよな。
 声優的な意味で。

 なんだか見知らぬご令嬢に迷惑が掛かりまくる気配察知。
 良い子のアヤネコは黙秘します。
 最近では出口を探すより、畳をひっくり返して攻略本や新しいゲームを探すようになったロイヤルゲームオタ殿下。
 どこで覚えてきたのか、リヴサーラたんという愛称でライバルの悪役令嬢を呼びまくっている。
 夢でのヤツの口癖は「リヴサーラたんに呆れられたい」「リヴサーラたんに叱られたい」「リヴサーラたんの椅子になりたい」である。とんだソフトドエム野郎だ。現実世界では一切の揺ぎ無くロイヤル殿下を突き通している。
 だが、夢の世界ではサーラたんを愛で信奉するサーラたん教徒である。
 おい、どこでどう間違えた残念王子。
 でも、現実世界でメルローズが髪をドリッとした鋭角太巻きロールに変えたら褒めちぎっていた。
 そういや、リヴサーラたんもTHE悪役令嬢っぽい縦ロールだよな。


 ………

 よーし☆お掃除がんばるぞぉ!
 手始めにムカつく他所の妃たちを螺髪になるおまじないをプレゼントしよう!
 相変わらず懲りずに足の引っ張り合いしてんだよな。
 悟りの一つでも開いて、少しは大人しく清廉潔白に生きる努力しろよ。

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