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連載
正体発覚?
しおりを挟む「後妻ぃ? うちの親、普通に仲良いよ? そんな話、全然知らないよ」
シンから話を聞いたジーニーが、ナニソレと言わんばかりに首を傾げる。
その様子は演技に見えない。どうしてそんな話題が出たのか分からず、怪訝そうにしている。
「うちの両親、顔面力の高い婚約者を婿入りさせたがっているから、後継者を選び直すとかもないはず」
うんうん唸っていたジーニー。彼女の癖の強いアホ毛が、頭を振るたびに揺れている。この世界にハードワックスがあるかは知らないけれど、アホ毛の束が乱れる様子はない。
「そもそも後妻……後妻欲しがっているのいた? 従兄弟は奥さんにぞっこんだし……あの馬鹿叔父か!?」
誰か思い当たる節がいたのか、唐突に顔を上げるジーニー。
急に大きな声を出したので、シンだけでなく他の部員もびっくりしていた。
「ゴメン、うちの永年の生き恥がまたやらかしたかも。勝手にマラミュートの名前を出して、何しているんだか……」
永遠の生き恥と称されるなんて、過去に何をやらかしていたのだろうか。そうでなければ、こんな酷い呼び方をされないはずだ。
例の人物が本当にジーニーの叔父なら、マラミュート公爵家の関係者ではあっても当主ではない。
「女癖悪くてさ。貴族と結婚したんだけど、入り婿の分際でメイドや街の酌婦に手を出して出戻りしたのがいるのよ。今は小さい関所で働かせているんだけどねー。父のスペアとしても使えないから家にいられても困るし、監視役つけて家から出したの」
シンに説明するジーニーの表情は虚無だ。その永遠の生き恥の叔父にあまり良い感情がないのは明白である。そもそも好意的に見ていれば、そんな呼び方出てこない。
入り婿なのに、浮気をしまくるあたりおつむもよろしくなさそうだ。貴族は政略結婚もあるし、愛人を黙認する夫婦もいるだろう。今回は適用されていないみたいだが。
「何度もしたんですね。そりゃ追い出されますね」
「一番アウトだったのは、奥さんを追い出して愛人とその子供を屋敷に住まわせようと画策していたところだね。メイドに手を出したって言ったでしょう? そいつに奥さんの食事に余計なモノを入れるように唆したらしいから」
しかし、奥方は愚かではなかった。夫の不審な動きを察知し、それを逆手にとって離縁&追放コンボを食らわせたのだ。
「せめてもの救いは、あの生き恥の息子は奥さん似の器量よしだってことだったね。うちとしても首の皮一枚つながったし」
下手すれば、それをきっかけに二つの家に亀裂が入っていただろうと、ジーニーは肩をすくめて、ため息交じりに説明を終える。
「あの馬鹿、他所のお嬢さんに手を出そうなんて。親子ほど年齢が違うのに……任せて、ボッコボコのぎったんぎったんにシバいて叩いて伸ばしてとっちめてやるわ」
宣言するジーニーの瞳に光がない。深淵を覗いたような暗い瞳に、シンは頷くことしかできない。クケケケと怪鳥のように笑う姿は異様である。
ドン引きするシンが逃げないように、肩を掴むジーニー。
「あ、マルチーズ辺境伯家にはお詫びをするけれど、とりあえず今は騙された振りをしていてもらえるかな? 変に逃げられると困るし、今度は戸籍からもマラミュートの名前を抜いて、出家させるから。北の寒くて戒律の厳しい修道院でも探そうかな。去勢すれば、なにもできなくなるもん。修道士として受け入れてもらえるだろうし」
貴族の制裁がえげつない。シンは頷きつつも、身内にすら容赦ないジーニーに安心もしてしまう。
心底いらない麗しき家族愛を発揮して庇われたら大変だった。話の通じる先輩で、心底良かったと思うシンである。
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