余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ

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連載

思いがけない繋がり

「本当に!?」

「ちょっと待って! 公爵家よ!? そんな伝手どこに……」

 セブランは前のめりに乗り気だが、シンを巻き込むことを察したエリシアは慌てる。

「多分だけど、エリシアも知っている人だよ。ほら、ジーニー先輩」

「……あの頭頂部がくせ毛の?」

「そう、あのジーニー先輩。ジーニー・マラミュート公爵令嬢だから」

 ジーニーは貴族科ではなく、本人の強い希望で商業科だ。淑女の学びをするエリシアとは学科も違えば、共通する授業が少ないのでほぼ接点がない。顔を知っていたのは、シンやレニたちを探しに、錬金術部に顔を出すことがあるからである。
 エリシアは田舎貴族で、転校してきて間もない。同じ貴族でも、王都の顔触れを知らなかった。

「平民かと思っていたわ! なんて失礼なことを……!」

 なんとなく顔を合わすことはあっても、直接的な会話はほぼなかった。錬金術部は緩い部活なので、名前のみで呼び合っていて、家名は滅多に出てこないのだ。

「ジーニー先輩、きっとわかっていてやっていたと思うから大丈夫だよ」

 あの先輩ならむしろ、畏まった挨拶をされても困ると思う。貴族として接するならともかく、生徒同士なら身分で壁を作りたくないだろう。シンの知るジーニーはそういうタイプだ。

(あとは……ミリア様に相談しよう。僕は平民ってことで通しているし、貴族のルールはあの人のほうがずっと詳しい。権力で脅し取るやり方は、どう考えても普通じゃないよな)

 偶然が、はたまた意図的かは不明である。
 こういうのは初動が大事だ。何というか、今回はそんな気がする。狩人の勘というべきか、動かなきゃいけない気がしたのだ。




 マルチーズ兄妹たちと別れた後、寮に帰ると速攻で筆を執ったシン。もちろん、宛先はドーベルマン伯爵家だ。
 宰相のチェスターと、その妻であり社交界の華でもあるミリアは多忙だろうけれど、きっと見てくれるはずだ。それだけ目を掛けられている自覚はあった。
 あの二人の情報網や伝手は、シンと比べ物にならないくらいすごい。高位貴族の名も絡んでいるとなれば、彼らの得意分野だろう。
 次はジーニーとの接触。
 シンは普通科であり、商業科の授業がいつどこでやっているかは把握していない。
 その上学年の違うジーニーがどんな単位を専攻しているかも分からないので、放課後の部活時間を狙うのがベストだという結論に至った。
 ちなみに、レニたちには先に打ち明けた。学食や教室で話したら、他所に伝わってしまう可能性があるので、昼休みを温室で過ごすことにして、そこで話したのだ。
 レニたちも当たり屋もどきに憤慨しており、理不尽なマラミュート公爵家(仮)に怒りを燃やしている。

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