178 / 222
連載
ホウ・レン・ソウ
しおりを挟む「さて……と、これはすぐに当主に相談したほうがいい。父に会いにいかないとね。場合によっては、しばらく部活を休むことになる。なるべく早く復帰するから!」
言い終わるのが早いか、ジーニーは走り出してしまった。善は急げという考え方なのだろう。
適当に濁されるより全然いいけれどトントン拍子に話が進み、残されたシンはぽかんとしてしまう。
(これは……思ったより早く解決するかも?)
事件が起きてからの解決が超スピードすぎて、シンが状況についていけない。まだ完全には解決には至っていないが、突破口は間違いなく開けたはずだ。
頬を掻いて、微妙に肩透かしした気持ちを落ち着ける。
「あの、シン君。エリシアに何かあったんですか?」
「んー、エリシア自身じゃなくてそのお兄さんがトラブルに巻き込まれちゃったみたい」
声高に言うことではないので、声量を落として経緯を説明する。
レニは同年代ということもあり、ジーニーの叔父(勘当寸前)の蛮行に心底軽蔑の眼差しをしていた。
「それにしてもシン君……エリシアとお米を引き取りに行くだけで、なんでそんなトラブルに巻き込まれているんですか」
予想外のトラブルにレニが頭を抱えている。自覚があったシンも反論できない。
ごもっともである。信用できる相手で、シンが熱望している品を貰いに行くだけだから、レニも同行しなかった。同行者も信用していたし、行く場所も安全だと思っていたのである。
(隠密行動の得意な護衛は、別でつけさせてもらいましたが)
レニは護衛として、そこだけは譲れない。
学園外でノーガードだけはダメだ。護衛ゼロ、ダメ絶対の精神である。シンの様子だと護衛が出て行く事態ではなかったのだろう。
「あー……でも、ミリア様たちに相談しちゃった」
行動の順番を間違えたかもしれない。シンが頭を抱えているけれど、レニとしてはそちらに連絡がいっているなら安心である。
こちらより何枚も上手で、先を読んで行動してくれるはずだ。
「ミリア様に黙って動いていたほうが、後で大変ですよ。拗ねられちゃいます」
「そう? 迷惑はかけたくないけれど、手に余る気がしたからさ」
シンは申し訳なさそうだが、ミリアは大のお気に入りであるシンが頼ってこないほうが気にするだろう。レニの目から見ても、ミリアはシンを溺愛している。
ドーベルマン夫妻は、気遣いができる賢い子供が好きなのだ。原因は多分、実子が脳筋ノンデリだから。そこで普段メンタルがゴリゴリ削られる分、シンの心配りがクリティカルヒットしている。
「あ、そうだ。ミリア様に新しい化粧水を渡しに行かなきゃな。寒くなれば、乾燥対策や冷え性対策……クリームや入浴剤とかもこれから必須だろうし」
そういうところだ。ミリアがシンを気に入るのは。レニはアルカイックスマイルを浮かべながら、シンがいつ気づくのか見守るのであった。
6,058
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で
重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。
魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。
案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
ありふれた聖女のざまぁ
雨野千潤
ファンタジー
突然勇者パーティを追い出された聖女アイリス。
異世界から送られた特別な愛し子聖女の方がふさわしいとのことですが…
「…あの、もう魔王は討伐し終わったんですが」
「何を言う。王都に帰還して陛下に報告するまでが魔王討伐だ」
※設定はゆるめです。細かいことは気にしないでください。
お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?
水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」
「はぁ?」
静かな食堂の間。
主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。
同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。
いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。
「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」
「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」
父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。
「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」
アリスは家から一度出る決心をする。
それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。
アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。
彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。
「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」
アリスはため息をつく。
「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」
後悔したところでもう遅い。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。