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「基本的に寝る時は人を近づけないからか、すごく新鮮な気分だ」
「そうですかぁ……」
俺の目の前には、王都で憧れの的になっている美貌の騎士様がベッドで横になりながら照れたように微笑んでいる。寝転んでいるだけなのに艶めかしく見えてしまうのは、俺が隠した恋心のせいだろうか。いや、少しはだけているパジャマの胸元から覗く綺麗な肌も悪いと思います。
ほんのちょっとだけ邪な思いを抱いたことが気まずくて、そっと目線を逸らした。そんな俺をクレディア様が面白そうに見つめていたことに気が付かないまま、俺はぎこちなくベッドの縁に浅く座った。
「えっと、なにかご希望とはありますか?」
寝かしつけといっても、色んなタイプがある。
手を握る。ポンポンと撫でるように軽く叩く。頭を撫でる。子守歌。抱き枕。などなど。
何を選ばれても俺が恥ずかしいのを我慢しなければならないのは一緒なのだが、と考えていると、クレディア様は驚いたような目を向けてきた。
「頭を軽く撫でてもらうくらいだと思っていたのだが……」
少し戸惑ったように言葉が切れると同時に、俺は顔がかあっと熱くなるのを感じた。
そうですよね! 寝落ちした時に頭を撫でられていたんだから普通はそれしかないですよね!!
「えっ、あ、っ、そ……」
「しかし、ユウヒのせっかくの好意は受け取らなければ悪いな。何をしてもらえるんだ?」
真っ赤になって口をぱくぱくと開いて意味の無い音しか出せない俺を揶揄うクレディア様を前に、俺はしばらくの間羞恥で呻き声を上げることしかできなかった。
あぁ~……恥ずかしすぎる……今すぐ溶けて消えてしまいたい…………
「うぅ……お手を握るのと、頭をちょっとなでなでするくらいでお願いします……」
というか、それしか無理だよ。好きな人ってことを除いてもクレディア様相手に抱き枕とか子守歌とか……心臓に悪すぎてそんなことできないや……
「二つもやってくれるのか? それは嬉しいな」
そんなに凄いことでもないのに、クレディア様は本当に嬉しそうに微笑んでいる。その姿が、親に読んでもらう寝物語に期待する子供に見えて、その無防備すぎる姿にキュッと心臓が甘く痛んだ。
いやいやいや……ここで彼のペースに流されてはいけない。無防備で可愛いなとか思ってはいけない……!
そう自分を律していて、ふと気づいた。
余裕そうな態度を見せていたが、本当はかなり眠気が酷いのでは?
たしか、眠気が限界を超えるとかなり無防備になると言っていた。ということは、恥ずかしがっている場合ではないぞ。
「あの、クレディア様」
「ん?」
「ウッ!」
ぽやぽやとした雰囲気と甘く掠れた声に、危うくノックアウトされるところだった。これは危なすぎる……色気がやばい。早くなんとかしなければ。
「失礼します……!」
照れはいったん意識の遠くに置いてきて、俺はえいやっとクレディア様の手を握り、もう片方の手で頭に触れた。
そっと握りしめた手は、思っていたより硬くて大きい。剣を振る人の手だった。
優しく包み込むように握り返されて、俺の心臓はもうバクバクだ。この速すぎる鼓動が手首の脈から伝わってしまわないか心配だったが、ぽやぽやのクレディア様は気が付かなかったようで、納まりがいい手だとかなんとか言って機嫌よく笑っている。
普段の凛として冷静な頼れる隊長のクレディア様はカッコいいが、今のほんわかとして無防備なクレディア様は外に出してはいけない危うさがあふれ出ている。一言で言えば、妖艶。
俺は無心でクレディア様の頭を撫で続けた。
よしよし……とは流石に言わないけれど、いつもお疲れ様ですという労わりを籠めて撫でていると、本当に面白いくらいにクレディア様はあっという間に眠りについた。
目を閉じて息をスッと吸ったかと思ったら、すとんと意識が落ちていたのだが……これはもう、気絶と言ってもいいのでは?
体質かもしれないけれど、ストレスも原因の一つではないかと思えてしまう。
常に気を張っていてゆっくり落ち着くことができない生活をしているのではあれば、精神的に疲労していて眠りが慢性的に浅くなり、魔力をたくさん使って疲れが頂点に達した時に限界が訪れたとしてもおかしくはない。
とりあえず、せめて休むということを覚えてほしいな。
目の下の浮き出ている薄いクマをそっと指先で撫でながら、健康は大事ですよと呟いた。
「そうですかぁ……」
俺の目の前には、王都で憧れの的になっている美貌の騎士様がベッドで横になりながら照れたように微笑んでいる。寝転んでいるだけなのに艶めかしく見えてしまうのは、俺が隠した恋心のせいだろうか。いや、少しはだけているパジャマの胸元から覗く綺麗な肌も悪いと思います。
ほんのちょっとだけ邪な思いを抱いたことが気まずくて、そっと目線を逸らした。そんな俺をクレディア様が面白そうに見つめていたことに気が付かないまま、俺はぎこちなくベッドの縁に浅く座った。
「えっと、なにかご希望とはありますか?」
寝かしつけといっても、色んなタイプがある。
手を握る。ポンポンと撫でるように軽く叩く。頭を撫でる。子守歌。抱き枕。などなど。
何を選ばれても俺が恥ずかしいのを我慢しなければならないのは一緒なのだが、と考えていると、クレディア様は驚いたような目を向けてきた。
「頭を軽く撫でてもらうくらいだと思っていたのだが……」
少し戸惑ったように言葉が切れると同時に、俺は顔がかあっと熱くなるのを感じた。
そうですよね! 寝落ちした時に頭を撫でられていたんだから普通はそれしかないですよね!!
「えっ、あ、っ、そ……」
「しかし、ユウヒのせっかくの好意は受け取らなければ悪いな。何をしてもらえるんだ?」
真っ赤になって口をぱくぱくと開いて意味の無い音しか出せない俺を揶揄うクレディア様を前に、俺はしばらくの間羞恥で呻き声を上げることしかできなかった。
あぁ~……恥ずかしすぎる……今すぐ溶けて消えてしまいたい…………
「うぅ……お手を握るのと、頭をちょっとなでなでするくらいでお願いします……」
というか、それしか無理だよ。好きな人ってことを除いてもクレディア様相手に抱き枕とか子守歌とか……心臓に悪すぎてそんなことできないや……
「二つもやってくれるのか? それは嬉しいな」
そんなに凄いことでもないのに、クレディア様は本当に嬉しそうに微笑んでいる。その姿が、親に読んでもらう寝物語に期待する子供に見えて、その無防備すぎる姿にキュッと心臓が甘く痛んだ。
いやいやいや……ここで彼のペースに流されてはいけない。無防備で可愛いなとか思ってはいけない……!
そう自分を律していて、ふと気づいた。
余裕そうな態度を見せていたが、本当はかなり眠気が酷いのでは?
たしか、眠気が限界を超えるとかなり無防備になると言っていた。ということは、恥ずかしがっている場合ではないぞ。
「あの、クレディア様」
「ん?」
「ウッ!」
ぽやぽやとした雰囲気と甘く掠れた声に、危うくノックアウトされるところだった。これは危なすぎる……色気がやばい。早くなんとかしなければ。
「失礼します……!」
照れはいったん意識の遠くに置いてきて、俺はえいやっとクレディア様の手を握り、もう片方の手で頭に触れた。
そっと握りしめた手は、思っていたより硬くて大きい。剣を振る人の手だった。
優しく包み込むように握り返されて、俺の心臓はもうバクバクだ。この速すぎる鼓動が手首の脈から伝わってしまわないか心配だったが、ぽやぽやのクレディア様は気が付かなかったようで、納まりがいい手だとかなんとか言って機嫌よく笑っている。
普段の凛として冷静な頼れる隊長のクレディア様はカッコいいが、今のほんわかとして無防備なクレディア様は外に出してはいけない危うさがあふれ出ている。一言で言えば、妖艶。
俺は無心でクレディア様の頭を撫で続けた。
よしよし……とは流石に言わないけれど、いつもお疲れ様ですという労わりを籠めて撫でていると、本当に面白いくらいにクレディア様はあっという間に眠りについた。
目を閉じて息をスッと吸ったかと思ったら、すとんと意識が落ちていたのだが……これはもう、気絶と言ってもいいのでは?
体質かもしれないけれど、ストレスも原因の一つではないかと思えてしまう。
常に気を張っていてゆっくり落ち着くことができない生活をしているのではあれば、精神的に疲労していて眠りが慢性的に浅くなり、魔力をたくさん使って疲れが頂点に達した時に限界が訪れたとしてもおかしくはない。
とりあえず、せめて休むということを覚えてほしいな。
目の下の浮き出ている薄いクマをそっと指先で撫でながら、健康は大事ですよと呟いた。
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お返事遅くなってしまってごめんなさい!
感想ありがとうございます(о´∀`о)
読みやすいと言っていただけて嬉しいです!
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