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9.ムーンライトブックの日常
しおりを挟む机の近くに来た赤毛のおかっぱ頭の小さい女の子は、
「なにしてるの?ほん?」
と言い、僕の答えを待たずに机上を覗いてきた。
まずい!閉じないと、と思いバッとオメテオトルを見る。
(あれ?)
しかし、さっきまでオメテオトルが置いてあった場所には、星座図鑑が置かれていた。
オメテオトルが見当たらない。持っていた羽ペンもない。
……「オメテオトル」って長いな、後で名前変えようかな。
「あ、これ『ほし』!よるに見たことあるよ!」
「……ああ、そうなんだ。そう、これは星」
「絵みたいになってるね」
「うん、『星座』っていって、星を線でつないで絵みたいにすること」
「へー!このほしなんていうの?よめない」
「スピカ。おとめ座の星」
「すごい!わたしもスピカ!これは?」
こんな感じで、ポラリス姉さんが「おーい、ご飯だよー?」と覗きに来るまでずっと小さい子に星を教えていた。
声に「はーい!」と反応して走っていったスピカちゃんの後をついて、僕も朝ご飯へと向かった。
額には少し冷や汗があった。
うわあああ、あっぶねえ……!!マジで速攻でバレるとこだった。
ステータスはバレない、と書いた後、すぐ表紙の裏に「この本と神の存在は絶対バレない」とまた走り書きをしておいたのだ。それがなかったら……最悪世界滅亡?とやらかもしれないし。
スピカちゃんが図書室から出た後、ちらっと見たら星座図鑑はオメテオトルに変わっていた。横に羽ペンもあった。誰かがオメテオトル……うーん、「メテオ」でいいか、メテオの近くに来るときは別の本に変わるみたいだ。
席につき、いつものようにみんなの談笑を聞きながらパンとスープを食べる。
「スープおいしい!」
「カストくんの好きな丸野菜、いっぱいいれたからね!」
「……でも、いつもパンとスープ」
「ああ、ごめんね、ポルクくん……」
「おいしいからいいけど……」
「たしかにいつもいっしょだよなー!おいしいからいいけど!」
少し離れた席に座っていた双子と思しき男の子達が、ポラリス姉さんと話している。二人は見た目はそっくりだが、性格は正反対のように見えた。ポルク君が「おいしいからいいけど」と言った後、すぐに後からもう一度カスト君が同じことを言ったのには少し吹きそうになってしまった。
「……『りょうりぼん』は?」
双子の隣に座っていた子が、おもむろにおばあさんへ呟いた。僕が呪いの箱を見つけた日、まだ朝食を食べ終えていなくて一緒に食べたあの子だ。
「ああ、いいわね。今日そうしようかしら?」
おばあさんの言葉で、子どもたちはうおー!と大いに盛り上がった。ポラリス姉さんもわくわくしだしたように見えた。
料理本の事、前の夕飯の時にシャラがみんなに話した時も大盛り上がりだったな、そういえば。
というわけで、今夜は料理本に載っているものに決定。
いつも料理をしているポラリス姉さんとおばあさん、おじいさん、そして本(というか異世界語)を読める僕とやる気マックスのシャラの五人で作ることに。
まだ作るものは決めていないが何故かとても楽しみだ。
朝食後、すぐ作り始めるのかと思いおばあさん達について行くと、まだ時間があるから遊んでて大丈夫よ、と言われた。なので図書室に戻ろうとした……のだが。
廊下への道をスピカちゃんとシャラに塞がれ、怯んだ隙に両腕を掴まれ、外へ連れ出された。
「おにーちゃんもおそとであそぼ!」
「本もいいけど、たまには、ね!」
「え、ええーっ?!」
そうして僕は何故か外遊びをするはめに。
先にいた子ども達はどこからかボールとカゴを持ってきて、カゴの設置をしていた。
ゴールは小さいが、これは多分サッカーだろう。
(うわー……本読みたい。戻りたい。運動神経全く無い……ん?)
僕はステータスのことをふと思いだした。
(『HP∞』……)
全く、疲れない。今、アクトル君がゴールへ蹴っているボールを皆で追いかけ続けているが、全く息切れしない。現世ではもうとっくに疲労で倒れているはずだ。
というか、もう少し本気を出せばボールなんて余裕で奪えそうだ。
「おら!」
アクトル君がゴールのカゴへシュートする。ゴールキーパーはいない。
僕は少し外側から円を描きながら、飛んでいるボールに近づき、飛び上がり、お腹でボールを受け止めてみた。
ゴスッとすごい音がなったような気がしたが痛みはさほどなかった。
「な、何ー!?」
ボールと一緒に地面へ落ちた僕の方へ皆が近づいてきた。
「お前……」
「あ……」
「すごいな!俺のボール止めたやつ初めてだぞ!」
「あ、あはは、ちょっと張り切りすぎたかも」
その後も僕は、「運動ができる」という、現世では一切感じられなかった感覚を存分に楽しんだ。
しばらくすると、日が沈み始めているのに気づいた。
「そろそろ料理だね!ヨム!」
「うん、行こうか」
「みんな、楽しみにしててねー!!」
「「「はーい!!!」」」
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