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第2章「籠の中の子供達」
三話「小森 琉詩①」
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『倉庫』に、新たな子供が連れられて来た。
「はじめまして。小森 琉詩でぇす。6さいでぇす。小学校一年生でぇす」
ダイニングルームで遅めのランチを食べ終えた子供達が、大きな二卓のテーブルに疎らに座り、「ハキハキ」と大きな声で自己紹介する幼い少年を注目している。早瀬も給仕の手を止め、琉詩を見つめる。
「えっとぉ…」
他に何か言おうか少し考えた後、「ニコッ」と皆に向かって笑顔を見せる。
「よろしくおねがいしまぁす」
明るく言いながら、琉詩はお辞儀した。小さな体に背負った、大きなランドセルが「ガコン」と上下に揺れる。
ランドセルの上には、象や麒麟のアップリケが入った母親手作りの巾着型ナップサックが被せられている。
「ようこそ、琉詩君」
「パンパンパンパン…!」と、琉詩の隣に立つ大柄な男性が率先して大きく拍手し、子供達や早瀬も「パチパチパチ…」と両手を叩く。
「まぁ~っ!小さいのに、ちゃ~んと自分でご挨拶できるのねぇ~!お利口さんねっ」
ルーシーが内股の両膝を床に突き、琉詩に目線を合わせて頭を「ナデナデ」する。
「あらん、逃げないのね?ウフッ、琉詩ちゃん。アタシね、ルーシーっていうの。ルーシーちゃんって、呼んでねぇ~」
「うん、ルーシーちゃん」
ルーシーの目を真っ直ぐ見つめて、琉詩が呼びかける。
「んまっ、素直。琉詩ちゃ~ん。アタシねぇ、オニーサンに見えるかもだけどおー、実はぁ…オネーサンなのっ。ね~え?アタシのこと、コワくな~い?」
「ううん。こわくないよ」
琉詩は首を左右に振る。
「ぼく、ルーシーちゃんみたいなオネーサン、テレビでいっぱい見たよ。みんな、おもしろいコトいってて、たのしかった。ず~っとまえにぃ、ママと『びじゅつかん』にいったんだけどぉ、はじめてだったからぁ、どっちにいくのか、わかんなくなっちゃったんだぁ。でもぉ、ルーシーちゃんみたいなオネーサンにきいたら、とってもやさしく、おしえてくれたよ。ママもね、『人を、ガイケンだけでぇ、うんと…ハ、ハン…?」
「判断か?」
テーブルに頬杖をつきながら聞いていたユキが、当て嵌まりそうな言葉を言う。
「あっ、そう!そうでぇす。ママがぁ、『人を、ガイケンだけでぇ、ハンダンしちゃ、ダメ』って、いってましたぁ」
「キャ~ン♪琉詩チャンのママは、と~っても素敵な女性なのねぇ~」
「うんっ!」
無邪気な笑顔で、琉詩は大きく頷いた。
「さぁさ。ずぅっと、ランドセル背負って重たかったでしょう?下ろして、休みましょうね~」
「はぁい」
琉詩が肩からランドセルを外すのを、ルーシーが手伝う。
「琉詩ちゃんは此処に来たばっかりだしぃ、まだ小っちゃいから、皆と一緒のベッドに寝た方が良いと思うのねん。こっちこっち~」
ルーシーがランドセルを抱えて、優しく手招きする。琉詩は後を付いて行く。
その様子を男性が、にこやかに眺めている。
この男性は『伊勢谷』。年齢は三十代前半。背が高く体格も良いので、紺色の背広を着ていても体育会系なのが見てとれる。そして下がり気味の太い眉が、穏和な印象を強調している。
此処にいる子供達のほとんどが、尾津と伊勢谷の二人に誘導され、『倉庫』へ連れられて来た。
「え~っと…今ぁ、空いてるベッドは幾つかあるんだけどぉ、そうねぇ、とりあえずぅ、このベッドにしましょっか~?」
隣の広いリビングルームへと移動すると、ルーシーは窓側に並んだベッドの一台を指差し、そのサイドチェストにランドセルを置いた。
上半分は等間隔に窓があり、下半分は一面が造り付けの棚になっている。
「ここのチェストと棚は空いてるからぁ、琉詩ちゃんの物、自由に置いていいわよぉ~。でも他のお部屋に、一人一人の荷物を入れられるクローゼットもあってね、ちゃ~んと鍵も掛けられるのよぉ。そこにぃ、琉詩ちゃんだけの大事な物を仕舞っておくの。どうするぅ?案内したげるから、他の鞄とかも今すぐ、鍵付きのに仕舞っといちゃう~?」
「う~んと…」
琉詩は棚を見ながら、少し考える。
「カギつきのに、しまいたいです。ルーシーちゃん、カギつきのばしょ、おしえてください」
「ハキハキ」と、琉詩が答えた。
「オッケー♪」
琉詩が荷物に手を伸ばすのを、ルーシーが制する。
「ああ、良いわよぉ。アタシが全部、持ったげるからっ」
ランドセルに、子供用のリュックサックと女性物の大きな鞄。それらを鍛え上げた太い両腕でルーシーが抱え、最後にキャリーバッグのハンドルを片手で持ち上げる。
「わぁ…。ルーシーちゃん、力もちだね」
「ウフッ、そ~よぅ。それじゃあ、琉詩ちゃん。行きましょ、行きましょ」
「はぁい」
ルーシーと琉詩は、リビングルームを出て行った。
伊勢谷はリビングルームの方へ向けていた体を、ダイニングルームに戻す。
「それじゃあ、皆。琉詩君が『儀式の日』を迎えるまでは、皆の『お仕事』も少し減らしてあるから。その分、琉詩君に優しくして、いっぱい遊んであげて、此処に早く慣れてもらおうね。勿論、皆も解ってると思うけど、くれぐれも余計な事は言わないように気を付けよう。でないと、そんな子には、いつもより『ベッドの日』を増やさないといけなくなっちゃうからね?」
穏やかな笑みを浮かべ、子供達一人一人を見渡しながら、伊勢谷は優しく語りかける。
伊勢谷とは逆に、子供達の表情に笑顔は無い。
「ああ…。でも、その方が借金は早く返せるから…得なのかな?」
伊勢谷が下を向き、自分の顎を抓みながら言う。
子供達と話す時、会員と深い行為をしなければならない日のことを、『ベッドの日』と大人達は言う。
『ベッドの日』は、通常の『お仕事』の時よりも会員の支払う料金が数倍、高い。子供達が稼いだお金は、倶楽部運営側の取り分を引いた金額が借金返済に充てられる。
「…ん?」
伊勢谷が顔を上げる。
「何だ…、どうしたんだい?皆、元気無いなあ。お返事が聞こえないけど…大丈夫かな?」
伊勢谷が下がり眉を更に下げ、困った表情で耳元に手を翳す。あくまで口調は優しげだ。
「心配無ぇよ。俺達いつも、ちゃんとやってるだろ?」
ユキが落ち着いた態度で答える。
「うん?…そうだね。ユキの言う通りだ。皆、いつもの調子でね。昴も」
伊勢谷は、昴に目を合わせる。昴は隣に座るユキの右手を引き寄せ、両手で握っている。
「君より年下の男の子が初めて来たねえ。弟だと思って、仲良くしてあげるんだよ?」
「……」
昴は視線を落として、「コクリ」と頷いた。
「うん…。それじゃあ、早瀬君。後、頼むね」
「はい。お疲れ様でした」
早瀬は会釈し、リビングルームを通って廊下へ出て行く伊勢谷を見送る。
リビングルームの扉が閉まる音が聞こえると、子供達の緊張は解け、それぞれ『お仕事』が始まるまでの貴重な自由時間を過ごすため、席を立った。
(続)
「はじめまして。小森 琉詩でぇす。6さいでぇす。小学校一年生でぇす」
ダイニングルームで遅めのランチを食べ終えた子供達が、大きな二卓のテーブルに疎らに座り、「ハキハキ」と大きな声で自己紹介する幼い少年を注目している。早瀬も給仕の手を止め、琉詩を見つめる。
「えっとぉ…」
他に何か言おうか少し考えた後、「ニコッ」と皆に向かって笑顔を見せる。
「よろしくおねがいしまぁす」
明るく言いながら、琉詩はお辞儀した。小さな体に背負った、大きなランドセルが「ガコン」と上下に揺れる。
ランドセルの上には、象や麒麟のアップリケが入った母親手作りの巾着型ナップサックが被せられている。
「ようこそ、琉詩君」
「パンパンパンパン…!」と、琉詩の隣に立つ大柄な男性が率先して大きく拍手し、子供達や早瀬も「パチパチパチ…」と両手を叩く。
「まぁ~っ!小さいのに、ちゃ~んと自分でご挨拶できるのねぇ~!お利口さんねっ」
ルーシーが内股の両膝を床に突き、琉詩に目線を合わせて頭を「ナデナデ」する。
「あらん、逃げないのね?ウフッ、琉詩ちゃん。アタシね、ルーシーっていうの。ルーシーちゃんって、呼んでねぇ~」
「うん、ルーシーちゃん」
ルーシーの目を真っ直ぐ見つめて、琉詩が呼びかける。
「んまっ、素直。琉詩ちゃ~ん。アタシねぇ、オニーサンに見えるかもだけどおー、実はぁ…オネーサンなのっ。ね~え?アタシのこと、コワくな~い?」
「ううん。こわくないよ」
琉詩は首を左右に振る。
「ぼく、ルーシーちゃんみたいなオネーサン、テレビでいっぱい見たよ。みんな、おもしろいコトいってて、たのしかった。ず~っとまえにぃ、ママと『びじゅつかん』にいったんだけどぉ、はじめてだったからぁ、どっちにいくのか、わかんなくなっちゃったんだぁ。でもぉ、ルーシーちゃんみたいなオネーサンにきいたら、とってもやさしく、おしえてくれたよ。ママもね、『人を、ガイケンだけでぇ、うんと…ハ、ハン…?」
「判断か?」
テーブルに頬杖をつきながら聞いていたユキが、当て嵌まりそうな言葉を言う。
「あっ、そう!そうでぇす。ママがぁ、『人を、ガイケンだけでぇ、ハンダンしちゃ、ダメ』って、いってましたぁ」
「キャ~ン♪琉詩チャンのママは、と~っても素敵な女性なのねぇ~」
「うんっ!」
無邪気な笑顔で、琉詩は大きく頷いた。
「さぁさ。ずぅっと、ランドセル背負って重たかったでしょう?下ろして、休みましょうね~」
「はぁい」
琉詩が肩からランドセルを外すのを、ルーシーが手伝う。
「琉詩ちゃんは此処に来たばっかりだしぃ、まだ小っちゃいから、皆と一緒のベッドに寝た方が良いと思うのねん。こっちこっち~」
ルーシーがランドセルを抱えて、優しく手招きする。琉詩は後を付いて行く。
その様子を男性が、にこやかに眺めている。
この男性は『伊勢谷』。年齢は三十代前半。背が高く体格も良いので、紺色の背広を着ていても体育会系なのが見てとれる。そして下がり気味の太い眉が、穏和な印象を強調している。
此処にいる子供達のほとんどが、尾津と伊勢谷の二人に誘導され、『倉庫』へ連れられて来た。
「え~っと…今ぁ、空いてるベッドは幾つかあるんだけどぉ、そうねぇ、とりあえずぅ、このベッドにしましょっか~?」
隣の広いリビングルームへと移動すると、ルーシーは窓側に並んだベッドの一台を指差し、そのサイドチェストにランドセルを置いた。
上半分は等間隔に窓があり、下半分は一面が造り付けの棚になっている。
「ここのチェストと棚は空いてるからぁ、琉詩ちゃんの物、自由に置いていいわよぉ~。でも他のお部屋に、一人一人の荷物を入れられるクローゼットもあってね、ちゃ~んと鍵も掛けられるのよぉ。そこにぃ、琉詩ちゃんだけの大事な物を仕舞っておくの。どうするぅ?案内したげるから、他の鞄とかも今すぐ、鍵付きのに仕舞っといちゃう~?」
「う~んと…」
琉詩は棚を見ながら、少し考える。
「カギつきのに、しまいたいです。ルーシーちゃん、カギつきのばしょ、おしえてください」
「ハキハキ」と、琉詩が答えた。
「オッケー♪」
琉詩が荷物に手を伸ばすのを、ルーシーが制する。
「ああ、良いわよぉ。アタシが全部、持ったげるからっ」
ランドセルに、子供用のリュックサックと女性物の大きな鞄。それらを鍛え上げた太い両腕でルーシーが抱え、最後にキャリーバッグのハンドルを片手で持ち上げる。
「わぁ…。ルーシーちゃん、力もちだね」
「ウフッ、そ~よぅ。それじゃあ、琉詩ちゃん。行きましょ、行きましょ」
「はぁい」
ルーシーと琉詩は、リビングルームを出て行った。
伊勢谷はリビングルームの方へ向けていた体を、ダイニングルームに戻す。
「それじゃあ、皆。琉詩君が『儀式の日』を迎えるまでは、皆の『お仕事』も少し減らしてあるから。その分、琉詩君に優しくして、いっぱい遊んであげて、此処に早く慣れてもらおうね。勿論、皆も解ってると思うけど、くれぐれも余計な事は言わないように気を付けよう。でないと、そんな子には、いつもより『ベッドの日』を増やさないといけなくなっちゃうからね?」
穏やかな笑みを浮かべ、子供達一人一人を見渡しながら、伊勢谷は優しく語りかける。
伊勢谷とは逆に、子供達の表情に笑顔は無い。
「ああ…。でも、その方が借金は早く返せるから…得なのかな?」
伊勢谷が下を向き、自分の顎を抓みながら言う。
子供達と話す時、会員と深い行為をしなければならない日のことを、『ベッドの日』と大人達は言う。
『ベッドの日』は、通常の『お仕事』の時よりも会員の支払う料金が数倍、高い。子供達が稼いだお金は、倶楽部運営側の取り分を引いた金額が借金返済に充てられる。
「…ん?」
伊勢谷が顔を上げる。
「何だ…、どうしたんだい?皆、元気無いなあ。お返事が聞こえないけど…大丈夫かな?」
伊勢谷が下がり眉を更に下げ、困った表情で耳元に手を翳す。あくまで口調は優しげだ。
「心配無ぇよ。俺達いつも、ちゃんとやってるだろ?」
ユキが落ち着いた態度で答える。
「うん?…そうだね。ユキの言う通りだ。皆、いつもの調子でね。昴も」
伊勢谷は、昴に目を合わせる。昴は隣に座るユキの右手を引き寄せ、両手で握っている。
「君より年下の男の子が初めて来たねえ。弟だと思って、仲良くしてあげるんだよ?」
「……」
昴は視線を落として、「コクリ」と頷いた。
「うん…。それじゃあ、早瀬君。後、頼むね」
「はい。お疲れ様でした」
早瀬は会釈し、リビングルームを通って廊下へ出て行く伊勢谷を見送る。
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