記憶をなくした子守歌

胡花宝 愛芽

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第2章「籠の中の子供達」

五話「かくれんぼ」

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 琉詩が『倉庫』に来て、三日目ーーー。
 
「も~う、い~いか~い?」
「まーあだーだよー」

 琉詩が階段そばの壁に、おでこを引っ付けて「ギュッ」と両眼を瞑っている。
 隣には少女が琉詩と手を繋いで、佇む。同じく壁に顔を向けているが、両瞼は開いて静かに瞬きをするだけ。
 
「い~ち、に~い、さん、しっご、ろ~く、しちっ、はぁち」

 皆が隠れる猶予を与える琉詩。しかし一度目の長いカウントとは違い、数え方に長短を付けて工夫している。これは隠れる側を焦らせる、琉詩なりの作戦だ。

「きゅ~うぅ~…、じゅ~う」

 琉詩は大きく息を吸う。

「も~ぉう、い~い、かぁ~い?」
「…もーう、いーよっ」

 四階の所々から、子供達の応答が聞こえてきた。
 琉詩が壁から頭を離して、「キョロキョロ」と周囲を見渡す。

「う~んと…どっから、さがそっかなぁ?ね?ドールおねえちゃん?」

 自分よりも少し背の高い少女を、琉詩が僅かに首を上げて見つめる。 

「……」

 少女は何も答えない。

「あっち、いってみよっかぁ?」

 そんな少女に、琉詩は「ニッコリ」と笑いかける。

「いこっ、おねえちゃん」
 
 繋いでいる手を引くと、少女は歩き始めた。

 『お仕事』を知らず、『蕾初めの儀式』も通過していない子供は、『倉庫』周辺の森で遊ばせることも可能だが生憎、今日は雨。
 だから琉詩のリクエストで、「かくれんぼ」中だ。
 何も知らない琉詩が居る間も、他の子供達は『お仕事』を続けている。
 その為、「かくれんぼ」する範囲は四階だけと決めてある。三階で休んでいる子供達の邪魔をしないために。

 一番大きく聞こえた声を頼りに、琉詩は少女を連れて廊下を進む。まずはクローゼット部屋のドア前で立ち止まった。

「ぜったい、ここだよ」

 琉詩はドアを指差しながら、内緒話をするように少女の耳許に話しかける。
 「ソーッ」とドアを開け、二人はクローゼット部屋の中へ入ってゆく。

 ここは琉詩の荷物を置くため、最初に案内された鍵付きの収納部屋とは別の場所だ。こちらのクローゼットは共用で鍵が無いので、誰でも自由に開けられる。

 母親と生活していた住居よりも広い空間に、「ズラリ」と左右両側に並んだ壁面クローゼット。
 沢山の扉を見て、ワクワク顔の琉詩。

 まずは右側に進んで止まり、繋いでいた少女の手を離す。それから一番端の両扉の取っ手を掴んで、「ガチャッ」と開ける。が、誰も居ない。ハズレだ。
 上部のハンガーパイプには、琉詩と同い年位の女の子が着る、カラフルなドレスが「ビッシリ」と掛けられている。サイズが小さいドレスの下縁かえん部分から、クローゼット内の下部に設置された三段チェストの間は、かなりの空間がある。

 琉詩は両扉を閉めて、再び少女と手を繋ぐ。「キョロキョロ」と首を振り、少し迷ってから今度は左側の一番端まで歩いて行く。そちらのクローゼットは、琉詩に丁度良いサイズの男の子用だ。

「ここ、あけてみるね」

 ヒソヒソ声で言ってから、少女と手を離し、「ガチャッ」と両扉を開ける。

「キャッ!」
「ルーシーちゃん、見~つけたぁー」
「ヤダッ、も~ぅ見つかっちゃたあ~ん」

 筋肉質の顔と体を寄せ、窮屈そうにうずくまっていたルーシーが、顔を上げて中から出て来る。

「いっちばん、さいしょに見~いっけ♪」

 ルーシーを指差しながら、琉詩は小躍りしている。

「え~、またアタシが一番なの~?今度はイケると思ったのにぃ。悔しいっ」
「あはははっ」

 琉詩は笑いながら両手を伸ばして、少女とルーシー片方ずつ手を繋ぐ。

「ルーシーちゃん。いっしょに、さがそー」
「もお~、しょうがないわねっ。こうなったら、どんっどん見つけちゃうわよお~」
「あははっ、見つけちゃおー」

 少女やルーシーと繋ぐ手を「ブンブン」と振って進み、琉詩は男の子用クローゼットの扉を順番に開けてゆく。

「あっ!かずまおにいちゃん、見~つけたぁー」
「あ~あ」

 真ん中辺りの扉から、ぽっちゃり体型の一馬かずまが出て来た。
 クローゼットの扉を全て開けて見つかったのは、ルーシーと一馬の二人。
 四人はクローゼット部屋を出て、四階のあらゆる場所を探してゆく。
 各部屋の押し入れに隠れた子、カーテンにくるまる子、風呂場で空の浴槽に蓋をして入ってる子。リビングルームのベッド下で平らになって寝そべってる子。
 琉詩と少女が先頭になって、次々と見つけて行き、全員を探し当てた。

 この日、琉詩と『お仕事』がお休みの子供達は、鬼を交替しながら「かくれんぼ」したり、色んなゲームをして遊んだ。


     *   *   *


「見て見て、ドールおねえちゃん。あの〈くも〉、おっきい〈わたアメ〉みたい」
 
 琉詩が空を指差す。
 前日の雨はすっかり上がって、今日は青空だ。
 朝食を済ませて、琉詩は少女を連れて屋上に上がって来た。
 と言っても、母親と生活していた時は夏休み中も早起きしていた琉詩には、ちょっと遅めではある。
 真夏だが此処は避暑地でもあり、外は心地良い風が吹いて過ごしやすい。

「おいしそーだよねー。さわって、たべれたらイイのに」 
 
 琉詩は両手を高く上げて、空を流れる大きな雲を掴もうと「ピョンピョン、ピョンピョン」飛び跳ね続ける。 

 『倉庫』の屋上は四方全面に、落下防止用の柵が設置されており、特に目隠しする塀も無いので見晴らしは良いが、周囲は柵をも覆うほどの高い樹木ばかり。
 ただ正面玄関側の一方だけ、車道分程度に樹木同士の間隔が空いている。その反対側は山々に囲まれた建物だ。

「ねぇ、ドールおねえちゃん」

 琉詩は飛び跳ねるのを止め、空から少女の方へ顔を向ける。

「わたアメ、すきぃ?」
「……」
「わたアメ、たべたことある?」

 少女に顔を近付け、「ジーッ」と見つめる琉詩。

「…おねえちゃんの目…青くってぇ、キレイ…」

 少女の瞳から、また空を見上げる。

「あのお空の〈いろ〉と、いっしょだねぇ」
 
 琉詩が右手を真っ直ぐ伸ばして、青空を指差す。

「……」

 少女は何も答えない。
 しかし琉詩は視線を少女に戻してから暫くの間、その青い瞳に見入っていた。

     *   *   *

 それからもメンバーは違っていたが、琉詩はお兄ちゃんやお姉ちゃん達に、遊んでもらってばかりの毎日。ちょうど夏休みの時期だったこともあり、「皆が学校へ行かない」ということも疑問に思わない。
 両親がいないにも拘らず、いつも琉詩は明るい様子だ。

「ぼく、一人っ子だから、おにいちゃんや、おねえちゃんが、いっぱいできて、うれしいっ」

 そう言って、「ニコニコ」と無邪気な笑顔で皆と会話し、寂しげな態度を見せることは無かった。




(続)
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