41 / 57
第2章「籠の中の子供達」
十七話「琉詩の『蕾初め』①」
しおりを挟む
照明を全て消した暗い室内。そこにスクリーンの光が、琉詩と木己島を明るく照らす。
アニメーションの動物達が踊るユニークなダンスが、軽快な音楽やエンドロールと共に、賑やかに流れてゆく。
L字型に連結されたソファに、ゆったりと背を凭れて座る木己島の隣で、琉詩は目を輝かせながら「パン、パン、パン、パン…」と、音楽のリズムに合わせて手拍子している。
エンドロールの終わる頃合いで、木己島はリモコンを手に取り、「ピッ」と部屋の灯りを点ける。部屋全体が昼白色で眩しく照らされるが、「ピピピ…」と調節ボタンを押し続け電球色の、ほんのりとした明かりに和らげた。
「どう?琉詩君、面白かった?」
「うんっ!」
琉詩が木己島に、満面の笑みを向ける。
「やっぱり!気に入ってくれると思ったよ。…琉詩君、ほらこれ」
木己島は、ソファの端に重なったクッションを持ち上げる。
琉詩が見ると、そこにはゲームソフトのパッケージが立て掛けてあった。
「あっ」
「そう、この映画のゲームだよ」
木己島はそれを取って、琉詩に渡す。パッケージには、映画に出てきた動物達が表情豊かに描かれていた。
琉詩はパッケージのイラストを、嬉しそうに見つめる。
木己島が別のリモコンで、スクリーンの斜向かいに設置されたテレビを点ける。画面からは、夜のニュースが流れている。木己島は画面を切り替えてから立ち上がり、テレビに繋がれているゲーム機の電源を入れた。
「これ、ハルおにいちゃんの〈へや〉にもあったぁ」
琉詩がソファから下りて、ゲーム機を指差しながら駆け寄る。
「はる?…ああ、あの眼鏡かけた…プラモデルとか好きだって言う男の子か」
木己島は指名したことは無いが、裏HPで子供達のプロフィールを閲覧して何となく、陽のことを覚えていた。
「そうっ。ハルおにいちゃんの〈へや〉ぁ、プラモデルとゲームがい~っぱい、あるんだよ。ハルおにいちゃん、プラモデルのロボット、ぼくにぃくれたんだっ。あとね、いっしょにゲームしてぇ、あそんでくれるんだぁ」
「じゃあ、コントローラーの使い方は大体、解るね?」
「うん。ハルおにいちゃんがぁ、おしえてくれたから、だいじょーぶっ」
琉詩と木己島は、テレビの真向かいに設置されたソファへ移った。
やがてテレビ画面に、つい今しがた観ていた映画の動物達が現れた。琉詩は食い入るように画面を見つめる。
「まず、ジミーがやってみるからね。よく見てなさい」
「うんっ」
「まず…コレを、こうだろ?そこから、コイツをこうして…こうだ!」
コントローラーを操作して、木己島はゲームの進め方を琉詩に教える。
画面では、主人公の子猿がコミカルに動きながら、障害物や敵からの攻撃を躱して、どんどん先へと進んで行く。琉詩はコントローラーと画面を交互に見ながら、操作を覚えようと集中している。
ある程度ステージを進ませると、わざと途中でゲームオーバーにして終わらせ、コントローラーを琉詩に手渡した。
「どう?やり方、解った?」
「わかったぁ」
「よし。じゃあ…ジミーは、ちょっと風呂に入ってくるけど…琉詩君は、これを練習して待っててくれるかな?また後で、一緒にゲームしよう」
そう言って木己島は、立ち上がる。
「うんっ」
「眠くなったら、あそこの階段を上がってごらん」
木己島はソファの端を周って、歩いて行く。琉詩は木己島の動きを追って、身体を背凭れの方に向けて膝立ちになる。
この客室は一階と二階のメゾネットタイプになっており、ソファの背後から少し離れた位置に、階段がある。木己島は、階段を指差す。
「二階にベッドがあるよ。今夜は琉詩君とお泊まりだからね、一緒に寝ようと思って、大きいベッドにしてもらったんだ。琉詩君とジミー、二人で寝ても、まだまだこんなだ」
木己島が真横に両手を広げながら、説明する。
「へぇ~」
「眠くなったら、先に寝ても良いからね」
「はぁい」
背凭れに両手を掛けて、琉詩は元気良く返事した。
木己島は階段から離れ、クローゼットから浴衣と帯を出した後、一階の玄関近くのドアを開けて、露天の個室風呂へ入って行った。
* * *
琉詩は暫くゲームに熱中していたが、少し難易度が高くなってきたステージで、ゲームオーバーを繰り返したので諦めて、コントローラーを置いた。
木己島は、まだ風呂から帰って来ない。
後ろを振り返り、階段を見る。ソファから下りて、琉詩は小走りで階段まで行き、仰ぎ見る。
「……」
一階から最上段まで階段の灯りは続いて、二階の扉も開いている。
階段の手摺りを掴んで、一段一段上がって行く。
二階は一部屋のみ。中からは仄かな灯りが漏れており、最上段に到着して解放された出入り口へ、琉詩は足を踏み入れる。
「わぁ…」
思わず、琉詩が声を上げた。
シェードランプに淡く照らされた部屋の中には、木己島が言った通り、キングサイズのベッドが「ドッシリ」と、存在感を示していた。
だが部屋自体も広さがあるので然程、圧迫感は感じられない。
「とおっ」
琉詩は駆け込んで、「ボフン」とベッドに飛び込む。
琉詩のパジャマと同じ、清潔な白色のカバーが「キッチリ」と掛けられたベッド。
両腕を頭の上に伸ばして、琉詩は身体を一直線にする。そこから「ゴロゴロゴロゴロゴロ…」と、ベッドの左端から右端まで転がってみる。
右端ギリギリで「ピタッ」と止まり、「ゴロゴロゴロ…」と次は左端まで転がって行くと、また戻ってベッドの中央で止まる。
「あははっ」
改めてベッドの広さを体感し、仰向けになった琉詩が笑う。
「…うんしょ」
琉詩は「ヒョイ」と上半身を起こして、大きな掛け布団を足元側に捲った。枕や掛け布団と同じ白色の、皺一つ無いシーツが露になる。マットレスの固さを確かめるように「ポン、ポン、ポン…」と両手で叩く。
それから立ち上がって「ボフン、ボフン、ボフン、ボフン…」と、トランポリンのように跳ね始めた。
「あははははっ」
しっかりとしたマットレスの土台と、どこを思い切り跳んでも落ちない安心感で、琉詩のジャンプは止まらない。
ボフン、ボフン、ボフン、ボフン、ボフン、ボフン、ボフン…
(続)
アニメーションの動物達が踊るユニークなダンスが、軽快な音楽やエンドロールと共に、賑やかに流れてゆく。
L字型に連結されたソファに、ゆったりと背を凭れて座る木己島の隣で、琉詩は目を輝かせながら「パン、パン、パン、パン…」と、音楽のリズムに合わせて手拍子している。
エンドロールの終わる頃合いで、木己島はリモコンを手に取り、「ピッ」と部屋の灯りを点ける。部屋全体が昼白色で眩しく照らされるが、「ピピピ…」と調節ボタンを押し続け電球色の、ほんのりとした明かりに和らげた。
「どう?琉詩君、面白かった?」
「うんっ!」
琉詩が木己島に、満面の笑みを向ける。
「やっぱり!気に入ってくれると思ったよ。…琉詩君、ほらこれ」
木己島は、ソファの端に重なったクッションを持ち上げる。
琉詩が見ると、そこにはゲームソフトのパッケージが立て掛けてあった。
「あっ」
「そう、この映画のゲームだよ」
木己島はそれを取って、琉詩に渡す。パッケージには、映画に出てきた動物達が表情豊かに描かれていた。
琉詩はパッケージのイラストを、嬉しそうに見つめる。
木己島が別のリモコンで、スクリーンの斜向かいに設置されたテレビを点ける。画面からは、夜のニュースが流れている。木己島は画面を切り替えてから立ち上がり、テレビに繋がれているゲーム機の電源を入れた。
「これ、ハルおにいちゃんの〈へや〉にもあったぁ」
琉詩がソファから下りて、ゲーム機を指差しながら駆け寄る。
「はる?…ああ、あの眼鏡かけた…プラモデルとか好きだって言う男の子か」
木己島は指名したことは無いが、裏HPで子供達のプロフィールを閲覧して何となく、陽のことを覚えていた。
「そうっ。ハルおにいちゃんの〈へや〉ぁ、プラモデルとゲームがい~っぱい、あるんだよ。ハルおにいちゃん、プラモデルのロボット、ぼくにぃくれたんだっ。あとね、いっしょにゲームしてぇ、あそんでくれるんだぁ」
「じゃあ、コントローラーの使い方は大体、解るね?」
「うん。ハルおにいちゃんがぁ、おしえてくれたから、だいじょーぶっ」
琉詩と木己島は、テレビの真向かいに設置されたソファへ移った。
やがてテレビ画面に、つい今しがた観ていた映画の動物達が現れた。琉詩は食い入るように画面を見つめる。
「まず、ジミーがやってみるからね。よく見てなさい」
「うんっ」
「まず…コレを、こうだろ?そこから、コイツをこうして…こうだ!」
コントローラーを操作して、木己島はゲームの進め方を琉詩に教える。
画面では、主人公の子猿がコミカルに動きながら、障害物や敵からの攻撃を躱して、どんどん先へと進んで行く。琉詩はコントローラーと画面を交互に見ながら、操作を覚えようと集中している。
ある程度ステージを進ませると、わざと途中でゲームオーバーにして終わらせ、コントローラーを琉詩に手渡した。
「どう?やり方、解った?」
「わかったぁ」
「よし。じゃあ…ジミーは、ちょっと風呂に入ってくるけど…琉詩君は、これを練習して待っててくれるかな?また後で、一緒にゲームしよう」
そう言って木己島は、立ち上がる。
「うんっ」
「眠くなったら、あそこの階段を上がってごらん」
木己島はソファの端を周って、歩いて行く。琉詩は木己島の動きを追って、身体を背凭れの方に向けて膝立ちになる。
この客室は一階と二階のメゾネットタイプになっており、ソファの背後から少し離れた位置に、階段がある。木己島は、階段を指差す。
「二階にベッドがあるよ。今夜は琉詩君とお泊まりだからね、一緒に寝ようと思って、大きいベッドにしてもらったんだ。琉詩君とジミー、二人で寝ても、まだまだこんなだ」
木己島が真横に両手を広げながら、説明する。
「へぇ~」
「眠くなったら、先に寝ても良いからね」
「はぁい」
背凭れに両手を掛けて、琉詩は元気良く返事した。
木己島は階段から離れ、クローゼットから浴衣と帯を出した後、一階の玄関近くのドアを開けて、露天の個室風呂へ入って行った。
* * *
琉詩は暫くゲームに熱中していたが、少し難易度が高くなってきたステージで、ゲームオーバーを繰り返したので諦めて、コントローラーを置いた。
木己島は、まだ風呂から帰って来ない。
後ろを振り返り、階段を見る。ソファから下りて、琉詩は小走りで階段まで行き、仰ぎ見る。
「……」
一階から最上段まで階段の灯りは続いて、二階の扉も開いている。
階段の手摺りを掴んで、一段一段上がって行く。
二階は一部屋のみ。中からは仄かな灯りが漏れており、最上段に到着して解放された出入り口へ、琉詩は足を踏み入れる。
「わぁ…」
思わず、琉詩が声を上げた。
シェードランプに淡く照らされた部屋の中には、木己島が言った通り、キングサイズのベッドが「ドッシリ」と、存在感を示していた。
だが部屋自体も広さがあるので然程、圧迫感は感じられない。
「とおっ」
琉詩は駆け込んで、「ボフン」とベッドに飛び込む。
琉詩のパジャマと同じ、清潔な白色のカバーが「キッチリ」と掛けられたベッド。
両腕を頭の上に伸ばして、琉詩は身体を一直線にする。そこから「ゴロゴロゴロゴロゴロ…」と、ベッドの左端から右端まで転がってみる。
右端ギリギリで「ピタッ」と止まり、「ゴロゴロゴロ…」と次は左端まで転がって行くと、また戻ってベッドの中央で止まる。
「あははっ」
改めてベッドの広さを体感し、仰向けになった琉詩が笑う。
「…うんしょ」
琉詩は「ヒョイ」と上半身を起こして、大きな掛け布団を足元側に捲った。枕や掛け布団と同じ白色の、皺一つ無いシーツが露になる。マットレスの固さを確かめるように「ポン、ポン、ポン…」と両手で叩く。
それから立ち上がって「ボフン、ボフン、ボフン、ボフン…」と、トランポリンのように跳ね始めた。
「あははははっ」
しっかりとしたマットレスの土台と、どこを思い切り跳んでも落ちない安心感で、琉詩のジャンプは止まらない。
ボフン、ボフン、ボフン、ボフン、ボフン、ボフン、ボフン…
(続)
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる