記憶をなくした子守歌

胡花宝 愛芽

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第2章「籠の中の子供達」

十七話「琉詩の『蕾初め』①」

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 照明を全て消した暗い室内。そこにスクリーンの光が、琉詩と木己島を明るく照らす。

 アニメーションの動物達が踊るユニークなダンスが、軽快な音楽やエンドロールと共に、賑やかに流れてゆく。
 エル字型に連結されたソファに、ゆったりと背を凭れて座る木己島の隣で、琉詩は目を輝かせながら「パン、パン、パン、パン…」と、音楽のリズムに合わせて手拍子している。
 エンドロールの終わる頃合いで、木己島はリモコンを手に取り、「ピッ」と部屋の灯りを点ける。部屋全体が昼白色で眩しく照らされるが、「ピピピ…」と調節ボタンを押し続け電球色の、ほんのりとした明かりに和らげた。

「どう?琉詩君、面白かった?」
「うんっ!」

 琉詩が木己島に、満面の笑みを向ける。

「やっぱり!気に入ってくれると思ったよ。…琉詩君、ほらこれ」

 木己島は、ソファの端に重なったクッションを持ち上げる。
 琉詩が見ると、そこにはゲームソフトのパッケージが立て掛けてあった。

「あっ」
「そう、この映画のゲームだよ」
  
 木己島はそれを取って、琉詩に渡す。パッケージには、映画に出てきた動物達が表情豊かに描かれていた。
 琉詩はパッケージのイラストを、嬉しそうに見つめる。
 木己島が別のリモコンで、スクリーンの斜向かいに設置されたテレビを点ける。画面からは、夜のニュースが流れている。木己島は画面を切り替えてから立ち上がり、テレビに繋がれているゲーム機の電源を入れた。

「これ、ハルおにいちゃんの〈へや〉にもあったぁ」

 琉詩がソファから下りて、ゲーム機を指差しながら駆け寄る。

「はる?…ああ、あの眼鏡かけた…プラモデルとか好きだって言う男の子か」

 木己島は指名したことは無いが、裏HPで子供達のプロフィールを閲覧して何となく、陽のことを覚えていた。

「そうっ。ハルおにいちゃんの〈へや〉ぁ、プラモデルとゲームがい~っぱい、あるんだよ。ハルおにいちゃん、プラモデルのロボット、ぼくにぃくれたんだっ。あとね、いっしょにゲームしてぇ、あそんでくれるんだぁ」
「じゃあ、コントローラーの使い方は大体、解るね?」
「うん。ハルおにいちゃんがぁ、おしえてくれたから、だいじょーぶっ」

 琉詩と木己島は、テレビの真向かいに設置されたソファへ移った。
 やがてテレビ画面に、つい今しがた観ていた映画の動物達が現れた。琉詩は食い入るように画面を見つめる。

「まず、ジミーがやってみるからね。よく見てなさい」
「うんっ」
「まず…コレを、こうだろ?そこから、コイツをこうして…こうだ!」

 コントローラーを操作して、木己島はゲームの進め方を琉詩に教える。
 画面では、主人公の子猿がコミカルに動きながら、障害物や敵からの攻撃をかわして、どんどん先へと進んで行く。琉詩はコントローラーと画面を交互に見ながら、操作を覚えようと集中している。
 ある程度ステージを進ませると、わざと途中でゲームオーバーにして終わらせ、コントローラーを琉詩に手渡した。

「どう?やり方、解った?」
「わかったぁ」
「よし。じゃあ…ジミーは、ちょっと風呂に入ってくるけど…琉詩君は、これを練習して待っててくれるかな?また後で、一緒にゲームしよう」

 そう言って木己島は、立ち上がる。

「うんっ」
「眠くなったら、あそこの階段を上がってごらん」

 木己島はソファの端を周って、歩いて行く。琉詩は木己島の動きを追って、身体を背凭れの方に向けて膝立ちになる。
 この客室は一階と二階のメゾネットタイプになっており、ソファの背後から少し離れた位置に、階段がある。木己島は、階段を指差す。

「二階にベッドがあるよ。今夜は琉詩君とお泊まりだからね、一緒に寝ようと思って、大きいベッドにしてもらったんだ。琉詩君とジミー、二人で寝ても、まだまだこんなだ」

 木己島が真横に両手を広げながら、説明する。

「へぇ~」
「眠くなったら、先に寝ても良いからね」
「はぁい」

 背凭れに両手を掛けて、琉詩は元気良く返事した。
 木己島は階段から離れ、クローゼットから浴衣と帯を出した後、一階の玄関近くのドアを開けて、露天の個室風呂へ入って行った。
 

     *   *   *


 琉詩は暫くゲームに熱中していたが、少し難易度が高くなってきたステージで、ゲームオーバーを繰り返したので諦めて、コントローラーを置いた。
 木己島は、まだ風呂から帰って来ない。
 後ろを振り返り、階段を見る。ソファから下りて、琉詩は小走りで階段まで行き、仰ぎ見る。

「……」

 一階から最上段まで階段の灯りは続いて、二階の扉も開いている。
 階段の手摺りを掴んで、一段一段上がって行く。
 二階は一部屋のみ。中からは仄かな灯りが漏れており、最上段に到着して解放された出入り口へ、琉詩は足を踏み入れる。

「わぁ…」

 思わず、琉詩が声を上げた。
 シェードランプに淡く照らされた部屋の中には、木己島が言った通り、キングサイズのベッドが「ドッシリ」と、存在感を示していた。
 だが部屋自体も広さがあるので然程、圧迫感は感じられない。

「とおっ」

 琉詩は駆け込んで、「ボフン」とベッドに飛び込む。
 琉詩のパジャマと同じ、清潔な白色のカバーが「キッチリ」と掛けられたベッド。
 両腕を頭の上に伸ばして、琉詩は身体を一直線にする。そこから「ゴロゴロゴロゴロゴロ…」と、ベッドの左端から右端まで転がってみる。
 右端ギリギリで「ピタッ」と止まり、「ゴロゴロゴロ…」と次は左端まで転がって行くと、また戻ってベッドの中央で止まる。

「あははっ」

 改めてベッドの広さを体感し、仰向けになった琉詩が笑う。

「…うんしょ」
 
 琉詩は「ヒョイ」と上半身を起こして、大きな掛け布団を足元側に捲った。枕や掛け布団と同じ白色の、皺一つ無いシーツが露になる。マットレスの固さを確かめるように「ポン、ポン、ポン…」と両手で叩く。
 それから立ち上がって「ボフン、ボフン、ボフン、ボフン…」と、トランポリンのように跳ね始めた。

「あははははっ」

 しっかりとしたマットレスの土台と、どこを思い切り跳んでも落ちない安心感で、琉詩のジャンプは止まらない。
 
 ボフン、ボフン、ボフン、ボフン、ボフン、ボフン、ボフン…




(続)
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