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第一章 幼少期編
第六十四話 関心と無関心(1)
しおりを挟む父上も母上も兄上も皇族として完璧に民の期待に応えている。
そんな人達が自分の家族であることが誇らしかった。
父上の執務室に忍び込んだら仕事の手を止めて抱っこしてくれた。
時々母上が甘いお菓子を手作りしてくれた。
絵を描いたりかけっこしたり、兄上はどんな遊びにも付き合ってくれた。
血腥い皇家の歴史を打ち消せるほどに仲の良い家族。それを疑ったことはない。
でも、いつからだろう。
自分がそこへ混ざるのに相応しい人間なのか疑うようになったのは。
『私がエイデン殿下に厳しく申し付けるのは、殿下に期待しているからです。きっと民に慕われる立派な皇族になると信じています。
両陛下も、殿下をお叱りになることがあるでしょう?』
兄上の教師として全ての科目を一人で教えた帝国で随一の教師はある日そんなことを俺に問うた。
叱られたことなんてない。
父上も母上も俺に対してはいつだって優しくて穏やかだ。
ああでも兄上が母上に怒られているのは何回か見たことあるな。
扉の隙間からこっそり覗いただけだが、あんなに優秀な兄上でも怒られることがあるのだと驚いた。
『父上にも母上にも叱られたことはない』
『まあ、皇太子殿下の時とは随分違うのですね…。
ですが、ご安心ください。殿下には私が付いておりますから』
焦ったような早口と同情するような笑顔は何故か酷く気分を害した。
その次の日、授業が嫌………というより夫人に会うのが嫌で兄上の宮殿へ逃げ出した。
「エイデン!よく来たね。少し遊ぼうか」
兄上は俺が午後から授業だと知っているはずなのに何も言わずに匿ってくれる。
俺の好きな絵本を広げて兄上は笑う。
「勉強が嫌ならもう少し後から始めてもいいんだよ。母上には僕から話しておこう」
「でも、皇族は皆同じ時期から先生を付けるんですよね?」
「大丈夫だよ。遊ぶことだって大事だ」
優しい言葉だ。
それなのに昨日夫人に言われたことが頭を過って素直に頷けない。
叱るのは期待しているから。
それなら際限なく優しいのはどうしてだ?
俺は第二皇子。いずれは兄上を補佐する役割を担うだろう。
勉強をしなくていいはずがないんだ。
なのにどうしてそんなことを言うんだろう。
どう発散すべきかも分からないモヤモヤを吐露できたのは血の繋がった家族ではなく俺に期待していると言ってくれた夫人だった。
夫人はドレスが汚れることを気にも留めずに床に膝を付く。俺の手を握って優しく微笑んだ。
「皇太子殿下は優秀なお方です。両陛下の期待が皇太子殿下一人に向いていてしまうのも分かります。
しかし何も心配はいりませんよ。私が必ずエイデン殿下を皇太子殿下に負けないくらい立派な皇族にして差し上げます。そうなれば皆が殿下を頼りにするはずです」
頼りにされたい。
俺にだって第二皇子として為せることがあるのだと認めて欲しい。
その一心で必死に勉強した。兄上までとはいかなくてもそれなりの成績は残せたはずだ。
しかし家族の反応は思っていたものとはまるで違って。
「エイデン、勉強の時間をもう少し減らしてもらおうか」
ある日のお茶の時間。
母上からの提案に一瞬時が止まったような感覚に陥った。
「何故ですか?俺はちゃんとやれてます!」
「うん。分かってるよ。だから少し休んで………」
「必要ありません!第二皇子として学ぶべきことはまだたくさんありますから」
結局授業時間は変わらなかったが、その代わり父上が遊び相手とやらを探し始めた。
兄上の時はそんなことはしていなかったという夫人の言葉にまた一つ焦りが積もる。
勉強するようになってからずっと息がしづらい。誰かに首を絞められいるような圧迫感が日に日に増していく。
そんな中皇家との交流を得る為に親に言い付けられてやって来た『友達候補』達の態度はこの上なく俺を苛つかせた。
「で、殿下!こっちで人形遊びしませんか?
あ、それか外でかけっことか………あの、殿下?」
初めはしつこいくらいに話しかけてきた奴等も無視を貫けば簡単に心が折れて帰って行った。
所詮は皇帝にもなり得ない第二皇子だ。下手に粘って皇家との間に摩擦が生じるより良いということだろう。
何回もそれが続くと誰も来なくなり、漸く父上も諦めてくれたんだと安心した頃。
「おじゃまちます」
小鳥の鳴き声に掻き消されてしまいそうな気力のない挨拶とともに新たな友達候補がやって来た。
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