改造空母機動艦隊

蒼 飛雲

文字の大きさ
24 / 67
ミッドウェー海戦

第24話 二度目の洋上航空戦

しおりを挟む
 太平洋艦隊は連合艦隊の側背を突くことができる海域に潜んでいた。
 さらに、ミッドウェー島を盾にでき、そのうえ戦況が不利な場合にはハワイへ避退することが容易なポジションでもあった。

 「奇襲を仕掛けるには絶好の位置にも思えるが、しかしその分だけこちらもまたこれを予想することが容易だった。そういった意味では、米軍は我々に対して本気で伏撃ができると思い込んでいたのだろうな」

 太平洋艦隊発見という索敵機からの第一報に、第一航空艦隊を指揮する南雲長官が苦笑する。
 一大情報に慌てることもなく、悠然とした態度で続報を待っている。
 一方で、南雲長官は「利根」それに「筑摩」に対して接触維持のための機体を速やかに準備するよう指示している。
 初陣だったマーシャル沖海戦に比べると、その態度には余裕のようなものが感じられた。

 「太平洋艦隊が発見された場所から考えて、米軍はかなり正確に我々の配置を知っていたものと考えられます。何の事前情報も無しに、このような位置取りはまず不可能です」

 もともと、米軍は連合艦隊がミッドウェー島を狙っていることは承知していた。
 日本側が事前予告をしていたのだから、それは当然のことだ。
 しかし、いかほどの戦力で、さらにどのコースで同島に接近するかといった細かいことまでは知らなかったはずだ。
 しかし、実際には米軍はMI作戦における攻撃発起点を、しかも極めて高い精度でこれを掴んでいた。
 このことを指摘する吉岡航空乙参謀の見解を否定する者は、「赤城」艦橋には誰一人として居なかった。

 「考えたくはありませんが、帝国海軍あるいは日本政府の上層部に間諜が紛れ込んでいるか、あるいは暗号が解読されているのでしょう。これからは、こちらの手の内がある程度相手に漏れているという前提で事に当たらないと、それこそ足元を救われかねません」

 草鹿参謀長の指摘に、南雲長官がその表情に苦いものを浮かべながら首肯する。
 インド洋海戦のときもそうだったが、今回もまた敵に待ち伏せされた。
 しかも、ただの待ち伏せではなく、こちらの所在をあらかじめ知ったうえでのピンポイントによるそれだ。
 帝国海軍の情報管理がいかに甘かったのかを自分たちは理解していなかった。
 もっと言えば、情報や通信に対してあまりにも無頓着だった。
 一航艦司令部員らがそのような反省を胸中に抱いた時、索敵機から続報が入ってくる。

 「発見した敵は空母二隻を伴う。他に十数隻の巡洋艦それに駆逐艦。戦艦は見当たらず」

 まごうことなき敵機動部隊だ。
 南雲長官は航海参謀の雀部中佐に彼我の距離を尋ねる。

 「約二〇〇浬です」

 零戦はもちろん、九九艦爆や九七艦攻も十分に航続距離内だ。
 当然のこととして、南雲長官は出撃命令を下そうとする。
 機動部隊同士の戦いは、その展開が速い。
 一分一秒が貴重だ。
 だが、そこへ別の索敵機からの緊急電が飛び込んでくる。

 「敵艦隊発見。二隻の空母のほか護衛艦艇多数」

 これで発見された敵艦隊は二群、そして空母の数は四隻となった。
 現在、米海軍が保有している正規空母は二隻の「ヨークタウン」級と「サラトガ」それに「ワスプ」と「レンジャー」の五隻だ。
 このうち、「レンジャー」は大西洋にあることが分かっている。
 つまり、米海軍は太平洋艦隊に配備されている空母をすべてこの戦域に投入、その全力をもって伏撃を狙っていたのだ。

 それと、南雲長官は米海軍は正規空母以外にも複数の特設空母を擁している可能性があるとの事前情報を得ている。
 しかし、機動部隊同士の戦いに脚が遅くて防御が脆弱な特設空母を投入してくるとはとても考えられなかった。
 実際、帝国海軍の「春日丸」は艦隊戦に使われることはなく、もっぱら航空機輸送に従事していた。
 同艦は今回の作戦では攻略部隊に随伴し、第六航空隊の零戦を輸送する任務にあたっている。
 だから、南雲長官は発見された空母は正規空母で間違いないと判断していた。

 「先に発見された機動部隊を甲一、後に発見されたそれを甲二と呼称する。一航艦は甲一、二航艦は甲二をその目標とする。攻撃隊は準備が完了次第、ただちに発進せよ」

 南雲長官の命令に異を唱える者はいなかった。
 誰もが納得の表情でそれぞれの役割を全うすべく動きはじめる。
 その命令からほどなく、旗艦「赤城」が風上にその艦首を向ける。
 そして、必要な合成風力を得るべく加速を開始する。
 後続する「加賀」と「瑞鳳」それに「祥鳳」と「龍鳳」もまた「赤城」に続く。

 真っ先に零戦が飛行甲板を蹴ってミッドウェーの空へと舞い上がっていく。
 第一次攻撃隊は「赤城」と「加賀」からそれぞれ零戦が九機に九九艦爆が一八機、それに九七艦攻が九機。
 「瑞鳳」と「祥鳳」それに「龍鳳」からそれぞれ零戦九機に九七艦攻が六機。
 九九艦爆は二五番通常爆弾を、九七艦攻のほうは九一式航空魚雷をその腹に抱いている。

 同じ頃、二航艦もまた五隻の空母から艦上機を次々に発進させていた。
 旗艦「飛龍」それに「蒼龍」からそれぞれ零戦九機に九九艦爆が一八機、それに九七艦攻が九機。
 「千歳」と「千代田」それに「瑞穂」からそれぞれ零戦九機に九七艦攻が六機。
 こちらもまた、一航艦と同様に九九艦爆は二五番通常爆弾を、九七艦攻のほうは九一式航空魚雷を搭載していた。

 一航艦と二航艦から発艦したそれぞれ一一七機からなる攻撃隊は短時間で空中集合を終え、そして米機動部隊を目指すべくその機首を東へと向ける。
 昨年のマーシャル沖海戦に続く、日米の機動部隊同士の戦い。
 その第二ラウンドが始まったのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

対ソ戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。 前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。 未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!? 小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

電子の帝国

Flight_kj
歴史・時代
少しだけ電子技術が早く技術が進歩した帝国はどのように戦うか 明治期の工業化が少し早く進展したおかげで、日本の電子技術や精密機械工業は順調に進歩した。世界規模の戦争に巻き込まれた日本は、そんな技術をもとにしてどんな戦いを繰り広げるのか? わずかに早くレーダーやコンピューターなどの電子機器が登場することにより、戦場の様相は大きく変わってゆく。

If太平洋戦争        日本が懸命な判断をしていたら

みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら? 国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。 真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…分水嶺で下された「if」の決断。 破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦を描く架空戦記。 現在1945年夏まで執筆

暁のミッドウェー

三笠 陣
歴史・時代
 一九四二年七月五日、日本海軍はその空母戦力の総力を挙げて中部太平洋ミッドウェー島へと進撃していた。  真珠湾以来の歴戦の六空母、赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴が目指すのは、アメリカ海軍空母部隊の撃滅。  一方のアメリカ海軍は、暗号解読によって日本海軍の作戦を察知していた。  そしてアメリカ海軍もまた、太平洋にある空母部隊の総力を結集して日本艦隊の迎撃に向かう。  ミッドウェー沖で、レキシントン、サラトガ、ヨークタウン、エンタープライズ、ホーネットが、日本艦隊を待ち構えていた。  日米数百機の航空機が入り乱れる激戦となった、日米初の空母決戦たるミッドウェー海戦。  その幕が、今まさに切って落とされようとしていた。 (※本作は、「小説家になろう」様にて連載中の同名の作品を転載したものです。)

日英同盟不滅なり

竹本田重朗
歴史・時代
世界は二度目の世界大戦に突入した。ヒトラー率いるナチス・ドイツがフランス侵攻を開始する。同時にスターリン率いるコミンテルン・ソビエトは満州に侵入した。ヨーロッパから極東まで世界を炎に包まれる。悪逆非道のファシストと共産主義者に正義の鉄槌を下せ。今こそ日英同盟が島国の底力を見せつける時だ。 ※超注意書き※ 1.政治的な主張をする目的は一切ありません 2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります 3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です 4.そこら中に無茶苦茶が含まれています 5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません 以上をご理解の上でお読みください

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

処理中です...