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第3話 父の冷たい言葉
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白い息が窓にうっすらと霜を描いた朝、アイリスは目を覚ました。
屋敷の外は静まり返り、雪が深々と降り積もっている。
公爵領に来てから二日。ようやく少しだけ心が落ち着いてきたが、それでも夢の中では、あの夜会の光景が何度も蘇っていた。
枕元の小机に置かれた銀の懐中時計は、王都を出る時に唯一持ち出したものだった。父から贈られた記念の品。
かつてはそれを見るたびに、誇りを感じた。
だが今は、その冷たい光が胸に痛みを残すばかりだった。
「お嬢様、お目覚めですか?」
扉の向こうから、リーナの明るい声がした。
アイリスははい、と返事をして身を起こした。
「ご朝食の用意ができております。今日は文官補助のお仕事も少し始めていただきますね。」
「はい。公爵様のお役に立てるように努めます。」
彼女は手早く身支度を整えた。鏡に映る自分は少しやつれて見える。
けれど、王都にいた頃よりも、どこか穏やかな表情をしていた。
***
午前中、アイリスは屋敷の書斎で文書の整理を任された。
領地の税収報告、商人との取引記録、軍に関する備品の発注書――。
一見無機質な紙束の中に、人々の生活と息づかいが詰まっていることに気づく。
丁寧に記し、欠落部分を補い、タグを整える。そうしている間だけは、心が静かだった。
昼を過ぎたころ、扉がノックされた。
「失礼します、アイリス様。お手紙が届いております。」
リーナが差し出した封筒には、見慣れた家紋の刻印が押されていた。
アルベール家の紋章。
それだけで、指先が小刻みに震えた。
開封するのが怖かった。
だが逃げても仕方がない。ゆっくりと封を切って、手紙を広げた。
“――アイリスへ。”
その一行目を見ただけで、胸の奥が締めつけられる。
穏やかだった父が、どんな言葉を並べるのか。
微かな希望がわずかに残っていた。
だが次の瞬間、その望みは無惨に砕かれた。
“お前が王太子に婚約破棄を言い渡されたことで、我がアルベール家は多大な恥を被った。
もはや王家との繋がりは失われ、領内での信用も揺らいでいる。
今後、お前がアルベール家の名を再び名乗ることは許さない。
一切の援助も打ち切る。
以後は自らの力で生きるように。”
震える手で紙を握る。
父の筆跡は変わらない。いつもの精密な文字。
ただ、そこに温もりだけがなかった。
“これが最後の通信とする。健康には気をつけろ。
アルベール伯爵家当主として。”
署名の横に押された印章が、突き放すように赤く滲んでいた。
目の前がかすむ。
喉の奥から、声にならない息が漏れた。
それでも泣くことだけは、もうしたくなかった。
紙を丁寧に折りたたみ、机の引き出しにそっと仕舞う。
それが“家族の終わり”の証のように思えた。
リーナが心配そうに覗き込む。
「お嬢様……大丈夫ですか?」
「ええ。もう……大丈夫。大したことではありませんわ。」
笑おうとしたが、唇がうまく動かなかった。
声が震えているのを、きっと隠せなかっただろう。
***
午後。
少し休むように言われ、アイリスは屋敷の庭に出た。
雪がやんだばかりで、枝に氷のような雫が光っている。
庭の隅には小さな温室があり、そこでは領の子どもたちが花を育てる手伝いをしていた。
「お嬢様、見てください!」
小さな男の子が、植えたばかりの球根を誇らしげに見せる。
「ほら、もう芽が出るんですよ!」
その笑顔に、アイリスは少し救われた気がした。
この土地ではきっと、ほんの少しの努力が誰かの希望になる。
自分も、そうなりたい――心のどこかでそう思った。
「素敵ね。きっと春には綺麗な花が咲くわ。」
「お嬢様も一緒に育てましょうよ!」
「ふふ、ええ、そうね。」
子どもの純粋な声が、静かな庭に響いた。
いつのまにか冷たい風がやわらぎ、頬の痛みも消えていた。
***
その夜。
夕食の席で、公爵は珍しくアイリスに声をかけた。
「今日、何かあったな。」
鋭い一言に、思わず姿勢を正す。
「どうしてそう思われますか?」
「お前の目を見るだけでわかる。強がってはいるが、心に刺さったままの棘がある顔だ。」
アイリスは驚き、うつむいた。
「……父から、手紙が届きました。」
「内容は。」
「もう、アルベール家の名を捨てろと。縁を絶つ、と……」
言葉にした途端、胸が痛んだ。
レオンは黙っていたが、しばらくして小さく息を吐いた。
「人には二通りいる。過去に縋る者と、過去を燃やす者だ。」
「燃やす、とは……?」
「失った名を惜しむな。捨てた者に価値はない。
お前は今ここで生きている。それが全てだ。」
その言葉は厳しく響いたが、不思議と心の奥に温度を残した。
誰からも見捨てられたと思っていたのに、彼だけは責めることなく、“生きる”ことを肯定してくれた。
「……ありがとうございます、公爵様。」
「礼はいらん。俺も似たようなものだからな。」
「え?」
それ以上、彼は何も言わなかった。
ただ、遠くを見るようにしてワインを傾けた。
その横顔には、どこか同じ痛みを知る者の影があった。
***
夜更け。
部屋に戻ったアイリスは、暖炉の火が消えかけているのを見て膝をついた。
そっと薪を二本くべ、火を見つめる。
赤く燃える炎が、心の奥に残る手紙の残滓を照らしているようだった。
「……燃やす者、か。」
小さく呟くと、机から手紙を取り出した。
父の筆跡、冷たい言葉、押された印章。
かつての自分を全て縛っていたもの。
炎の中にそっと差し入れる。
紙は静かに燃え始め、やがて光の粉のように崩れていった。
涙は出なかった。ただ、胸の奥で何かが軽くなる音を感じた。
「さようなら、お父様。」
火が消えた時、彼女の瞳には新しい光が宿っていた。
弱さではなく、確かな決意の色。
過去を手放した令嬢は、ようやく“自分の人生”を歩き始めたのだ。
その夜、外では雪が止み、月が静かに輝いていた。
(第3話 父の冷たい言葉 了)
屋敷の外は静まり返り、雪が深々と降り積もっている。
公爵領に来てから二日。ようやく少しだけ心が落ち着いてきたが、それでも夢の中では、あの夜会の光景が何度も蘇っていた。
枕元の小机に置かれた銀の懐中時計は、王都を出る時に唯一持ち出したものだった。父から贈られた記念の品。
かつてはそれを見るたびに、誇りを感じた。
だが今は、その冷たい光が胸に痛みを残すばかりだった。
「お嬢様、お目覚めですか?」
扉の向こうから、リーナの明るい声がした。
アイリスははい、と返事をして身を起こした。
「ご朝食の用意ができております。今日は文官補助のお仕事も少し始めていただきますね。」
「はい。公爵様のお役に立てるように努めます。」
彼女は手早く身支度を整えた。鏡に映る自分は少しやつれて見える。
けれど、王都にいた頃よりも、どこか穏やかな表情をしていた。
***
午前中、アイリスは屋敷の書斎で文書の整理を任された。
領地の税収報告、商人との取引記録、軍に関する備品の発注書――。
一見無機質な紙束の中に、人々の生活と息づかいが詰まっていることに気づく。
丁寧に記し、欠落部分を補い、タグを整える。そうしている間だけは、心が静かだった。
昼を過ぎたころ、扉がノックされた。
「失礼します、アイリス様。お手紙が届いております。」
リーナが差し出した封筒には、見慣れた家紋の刻印が押されていた。
アルベール家の紋章。
それだけで、指先が小刻みに震えた。
開封するのが怖かった。
だが逃げても仕方がない。ゆっくりと封を切って、手紙を広げた。
“――アイリスへ。”
その一行目を見ただけで、胸の奥が締めつけられる。
穏やかだった父が、どんな言葉を並べるのか。
微かな希望がわずかに残っていた。
だが次の瞬間、その望みは無惨に砕かれた。
“お前が王太子に婚約破棄を言い渡されたことで、我がアルベール家は多大な恥を被った。
もはや王家との繋がりは失われ、領内での信用も揺らいでいる。
今後、お前がアルベール家の名を再び名乗ることは許さない。
一切の援助も打ち切る。
以後は自らの力で生きるように。”
震える手で紙を握る。
父の筆跡は変わらない。いつもの精密な文字。
ただ、そこに温もりだけがなかった。
“これが最後の通信とする。健康には気をつけろ。
アルベール伯爵家当主として。”
署名の横に押された印章が、突き放すように赤く滲んでいた。
目の前がかすむ。
喉の奥から、声にならない息が漏れた。
それでも泣くことだけは、もうしたくなかった。
紙を丁寧に折りたたみ、机の引き出しにそっと仕舞う。
それが“家族の終わり”の証のように思えた。
リーナが心配そうに覗き込む。
「お嬢様……大丈夫ですか?」
「ええ。もう……大丈夫。大したことではありませんわ。」
笑おうとしたが、唇がうまく動かなかった。
声が震えているのを、きっと隠せなかっただろう。
***
午後。
少し休むように言われ、アイリスは屋敷の庭に出た。
雪がやんだばかりで、枝に氷のような雫が光っている。
庭の隅には小さな温室があり、そこでは領の子どもたちが花を育てる手伝いをしていた。
「お嬢様、見てください!」
小さな男の子が、植えたばかりの球根を誇らしげに見せる。
「ほら、もう芽が出るんですよ!」
その笑顔に、アイリスは少し救われた気がした。
この土地ではきっと、ほんの少しの努力が誰かの希望になる。
自分も、そうなりたい――心のどこかでそう思った。
「素敵ね。きっと春には綺麗な花が咲くわ。」
「お嬢様も一緒に育てましょうよ!」
「ふふ、ええ、そうね。」
子どもの純粋な声が、静かな庭に響いた。
いつのまにか冷たい風がやわらぎ、頬の痛みも消えていた。
***
その夜。
夕食の席で、公爵は珍しくアイリスに声をかけた。
「今日、何かあったな。」
鋭い一言に、思わず姿勢を正す。
「どうしてそう思われますか?」
「お前の目を見るだけでわかる。強がってはいるが、心に刺さったままの棘がある顔だ。」
アイリスは驚き、うつむいた。
「……父から、手紙が届きました。」
「内容は。」
「もう、アルベール家の名を捨てろと。縁を絶つ、と……」
言葉にした途端、胸が痛んだ。
レオンは黙っていたが、しばらくして小さく息を吐いた。
「人には二通りいる。過去に縋る者と、過去を燃やす者だ。」
「燃やす、とは……?」
「失った名を惜しむな。捨てた者に価値はない。
お前は今ここで生きている。それが全てだ。」
その言葉は厳しく響いたが、不思議と心の奥に温度を残した。
誰からも見捨てられたと思っていたのに、彼だけは責めることなく、“生きる”ことを肯定してくれた。
「……ありがとうございます、公爵様。」
「礼はいらん。俺も似たようなものだからな。」
「え?」
それ以上、彼は何も言わなかった。
ただ、遠くを見るようにしてワインを傾けた。
その横顔には、どこか同じ痛みを知る者の影があった。
***
夜更け。
部屋に戻ったアイリスは、暖炉の火が消えかけているのを見て膝をついた。
そっと薪を二本くべ、火を見つめる。
赤く燃える炎が、心の奥に残る手紙の残滓を照らしているようだった。
「……燃やす者、か。」
小さく呟くと、机から手紙を取り出した。
父の筆跡、冷たい言葉、押された印章。
かつての自分を全て縛っていたもの。
炎の中にそっと差し入れる。
紙は静かに燃え始め、やがて光の粉のように崩れていった。
涙は出なかった。ただ、胸の奥で何かが軽くなる音を感じた。
「さようなら、お父様。」
火が消えた時、彼女の瞳には新しい光が宿っていた。
弱さではなく、確かな決意の色。
過去を手放した令嬢は、ようやく“自分の人生”を歩き始めたのだ。
その夜、外では雪が止み、月が静かに輝いていた。
(第3話 父の冷たい言葉 了)
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